Hothotレビュー

ワコムの11万円液タブ「Cintiq 22」で漫画を描いてみたらすごくよかった

今回もCintiq 22を使って、おまかせでマンガを描き下ろしていただきました。先生、2ページも描いてる余裕あったんですか…… (アプリ:SAI Ver2、Photoshop CS5)

パワレポ季刊化で先生もヒマに……させない!

Cintiq 22(型番 : DTK2260K0D) 直販価格118,000円

 ご無沙汰しております(?)、僚誌DOS/V POWER REPORT編集部の編集Mです。昨年(2018年)の春にワコムの液晶ペンタブレット「Cintiq Pro 24」を、パワレポ(とAKIBA PC Hotline!)で「わがままDIY」を連載している“ざら先生”にレビューしていただきました(ワコムの4K液タブ「Cintiq Pro 24」をプロ漫画家のざら先生に使わせてみる参照)。

 今回はそちらに続いて、先月発売された新製品「Cintiq 22」のレビューをしてもらおう! というお話。よって、まず本稿を読んでいただく前に上記リンクの以前の記事を読んでいただけると、ざら先生が普段どんな環境で仕事をしている人かわかるかと思います。

 でも、1年以上前の話なら先生の環境も変わっているだろうし、もしかしたら古い板タブから前回レビューしたCintiq Pro 24に乗り換えたりしてるんじゃないの? と思ったあなた。ご安心下さい、ほとんど変わってないそうです!(ねえ、PC Watchの編集者さん、本当に今回もこの人でいいの?)

ざら
インプレス(DOS/V POWER REPORT「わがままDIY」)や、芳文社などで活躍中の漫画家。SEから脱サラして漫画家になったという経歴を持つ、デジタルガジェット好きの自作PCユーザー。細かなネタを盛り込む作風で、1つのコマに書き込み過ぎる傾向があるため、「これ単行本になったら小さ過ぎて読めないよ!」というやりとりをパワレポで続けて早10年以上になりました。現在の仕事用マシン(=今回のレビューにも使用)は昨年組み立てたRyzen 7 1700マシン。最近、システムドライブのSSDを256GBから1TBに換装したとのこと

21.5型で10万円台前半の高コスパモデル

 ざら先生のレビューに入る前に、今回のCintiq 22という液タブの概要をチェックしておきましょう。

 細かい仕様は製品リリース時の記事(ワコム、11万円台の大型液晶タブレット「Cintiq 22」)を参照していただくのがよいですが、本製品はCintiqシリーズのなかでは、名前に“Pro”がつかないエントリーモデルという位置づけです。15.6型の「Cintiq 16」に続く2製品目として、大型の21.5型IPS液晶を採用したものとなっています。

【表】Cintiq 22(DTK2260K0D)のおもなスペック
液晶パネル
表示サイズ/アスペクト比21.5型/16:9
最大表示解像度1,920×1,080ドット
液晶方式IPS方式
最大表示色8bit(1,677万色)
応答速度22ms
最大輝度210cd/平方m
視野角上下/左右178度°
色域NTSC 72%、sRGB 96%
ペン入力性能
読取方式電磁誘導方式
読取可能範囲476×268mm
読取分解能最高0.005mm
傾き検出レベル±60レベル
筆圧レベル8,192レベル
そのほか
本体サイズ(幅×奥行き×高さ)570×359×40mm
質量5.6kg(スタンドを除く)
消費電力最大60W

 解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)、色域はNTSCカバー率72%、sRGBカバー率96%と、上位モデルのCintiq Proシリーズに比べると抑えられたスペックになっているものの、ペン入力性能は上位モデルと同じ筆圧8,192レベルに対応。ペンも最新の「Wacom Pro Pen 2」が付属しています。

 タッチ操作に対応していないため、右手にペンを持ちながら、左手で画像の拡大縮小といった操作はできませんが、それは前回ざら先生にレビューしてもらったCintiq Pro 24のペンモデルも同様。もちろんPCも別途用意する必要があります。しかし、そのぶん価格はCintiq Pro 24の半分以下となっており、大画面液タブに憧れる人には注目の製品と言えるでしょう。今回のざら先生の評価はいかに?

付属のペンとペンホルダー。ペンは上位機種と同じWacom Pro Pen 2。替え芯3本が収納可能なホルダーが付属しており、そのホルダーを本体右側面に挿し込めるようになっている
インターフェイスは、PCとの接続にするHDMI端子とUSBポートにAC電源コネクタがあるのみ。ボタンも本体上部に電源ボタンがあるのみというシンプルな構成
傾き調節が可能なスタンドを装備。小さいながらしっかりとした剛性があり、レバーで角度調整(16~82度)も可能。スタンドを外すとVESAマウント(100×100mm)対応のアームなどに取りつけることもできる
付属のACアダプタ

Cintiq Pro 24よりも意外にコンパクト

――ということで、Cintiq 22をざら先生に送って1週間、ひさびさに先生宅に突撃! 今回も先生の仕事場で実際に使っていただいたのですが、そもそも現在メインで使っているタブレットは……Intuos Pro Medium!?(しかも先代モデルのPTH-651/K1) 前回の記事のとき使っていたIntuos4から、あのとき予備機として買ってあると言っていたIntuos Proに変えただけじゃないですか! Cintiq Pro 24はレビューでかなり気に入っていたようでしたが?

ざら いや、やっぱり毎月仕事あるのに、なかなかあそこまで作業環境を劇的に変えるのは勇気が要りますよね……お値段も。

――最後のが本音ですね。それでどうですか今回のCintiq 22は?

ざら 解像度がフルHDというのがちょうどよくて、使いやすいですね。普段使っている液晶ディスプレイが24型のフルHDということもあって、前後に並べてマルチディスプレイで使うとちょうどいい感じです。Cintiq Pro 24のときのように4K解像度でPhotoshopの文字の小ささに悩むこともないですし(笑)。

――まだソフトも変わってないんですね……(Photoshop CS5 ※販売終了済み)。Cintiq 22もなかなかの大きさだと思いましたが、前回の記事で同じ位置にCintiq Pro 24を置いた写真と見比べると、今回は結構設置スペースに余裕があるのがわかりますね。

ざら なにより今回は手前にギリギリ小型キーボードが置けるのが大きいです。Cintiq Pro 24のときはキーボードを置く場所どころか、机からタブレットがはみ出してましたから。絵を描くだけならキーボードなしでもいいですけど、普段ショートカットキーとして使うCtrlキーとかAltキーはもちろん、文字を打つのに毎回体をひねる必要があるのは気が散ります。

作業場風景。この机の奥行きは細いところで約75cm。それをやや斜め向きに使用しているが、24型液晶(NEC MultiSync LCD-P242W)を奥に置いても、まだ手前に小型キーボードが置けるスペースあり。Cintiq 22は21.5型液晶採用だが、全体のサイズ感はほぼ24型液晶クラスと言える
先生が普段使っている板タブ(Intuos Pro Medium)と比較すると、ペンの読取可能範囲は4倍近い差がある。手を動かす範囲も違えば、目を向ける方向も違うので、一度慣れるともとの板タブ感覚を取り戻すのがたいへんとのこと
こちらはCintiq Pro 24レビューのときの風景。机からはみ出てしまっている(ワコムの4K液タブ「Cintiq Pro 24」をプロ漫画家のざら先生に使わせてみる参照)

エントリークラスでも筆圧8,192レベルに対応

――実際に描いてみてどうでした? 先生のIntuos Proって、世代が古いので筆圧検知が2,048レベルみたいなんですけど……。

ざら いやいや、あれはあれで十分なんですって(笑) でも、やっぱり8,192レベル対応なので、線を引くのが楽しいですね~。ペンの太さを大きくして、指先の微妙な加減で線を描くのが快感です。これって、これくらい大きな液タブだからそういう描き方をしてみよう、って気になれるのかもしれません。

――そもそも先生のマンガって細い線が多いですよね……でも、作業環境で描くもの、描きたいものが変わるって考えるとおもしろいですね。カメラでレンズを換えると撮りたいものが変わる、みたいな感じでしょうか。

ざら あと、Cintiq Pro 24もそうでしたけど、液晶の上に長時間手を置いていても、全然熱くならないどころか、冷たいくらいで超快適です。角度調整ができて、下に空間があるから、むしろ平置きの板タブより熱が逃げる感じなんでしょうか? 不思議なくらい熱くならないですね

 今回はCintiq Pro 24では付属していた「ExpressKey Remote」も別売になっているので、本当にシンプルな液タブになっていると思うんですが、その辺はどうですか?(※今回はレビュー用に別売のExpressKey Remoteも借用)。

ざら キーボードが手元に置けるなら、ExpressKey Remoteはなくても使えると思うんですが、個人的にはやっぱり左手用デバイスは欲しいと思いました。Intuos Proには8個のファンクションキーとタッチホイールがありますし! このCintiq 22って本当に割り切ってあって、Cintiq Pro 24にあった外部デバイス用のUSBポートもついていないから、ExpressKey Remoteを本体に繋いで充電しながら使うってのもできないんですよね。

――このあたりのインターフェイスは使う人それぞれにこだわりがあるでしょうから、板タブから離れられないというのも理解はしています。

ざら VESAアームに取りつけて、立って絵を描く人とかなら極力ワイヤレスのほうがいいのかもしれません。私にはそんなオシャレな使い方はできませんですけど! まあそれはそれとして、そろそろワコムさんはSmart Scrollを復刻してくれないんでしょうか?

――好きですね~、Smart Scroll(笑)

作画風景1。「この線、全部フリーハンドなんですよ」とノリノリだったざら先生。これは今度こそ新作業環境に移行するのか!?
別売オプションのExpressKey Remote(直販価格 : 13,824円)はワイヤレス接続なので、充電以外でUSBにつなぐ必要はなし。でも、なんとなくとつぜん切れるのがイヤ、ということで横にUSB給電器を持ってきて使っていたざら先生
作画風景2。ExpressKey Remoteは机の上に置くのも、本体上に置くのも手首が疲れるので、この持ち方が一番しっくりくる、とのこと。Cintiq Pro 24とは大きさも額縁の太さも違うので、左手の使い方も変わるのかも
ペンの側面にあるボタンを押すことで「エクスプレスメニュー」や「ラジアルメニュー」といったショートカット機能も使用可能。ざら先生は過去にこれが逆に誤操作になったことがあるので、機能をオフにしているとのこと

ちょっと気になる表示色

――だいたい高評価のようですけど、ほかに気になる点はありますか?

ざら あえて言うなら色ですね。液晶の輝度はこれくらいで十分なんですけど、全体がやや黄色がかっている気がします。普段使ってるディスプレイと並べているので余計気になるのかもしれませんけど、同じ絵を表示させるとかなり違います。Cintiq Pro 24と一番違いを感じたのはここでした。

――普段ディスプレイのカラーマッチングとかはどうされてるんですか?

ざら 正直なところ、そこまで気にしているわけじゃないです。カラーよりもモノクロの仕事が多いですし、輝度が高いと目が疲れるのでやや暗くしていたりもします。どちらかというと温かみのある色が好きなのですが、Cintiq 22で描いた後、普段のディスプレイで見ると結構キツい色になっていたりします。

――ユーティリティのWacom Desktop Centerにディスプレイ設定があるみたいですけど、その辺は試されました?

ざら 簡単な色温度調整くらいしかできないみたいなので、今回はとくに触らなかったです。ワコムのキャリブレータ(Wacom Color Manager Powered by X-Rite)ってのもCintiq 22は対応機器に入っていないようですね。

――確かに色域なども含めた表示能力は、Cintiq Proシリーズと明確に差別化されている大きなポイントのようです。スペックで見ると、最大輝度はCintiq Pro 24の約半分(420cd/平方m→210cd/平方m)、応答速度も約2倍(12ms→22ms)になっていますが、そもそも色の関してはディスプレイ設定の機能も一部限定されているようですね。

ざら でも、それでも昔の液タブのくすんだような印象の画面ではないので、単体で見たら十分きれいだと思います。少なくとも私のPC環境だと、ペンの応答性も気にならなかったですし、そもそも今の私のディスプレイ(LCD-PA242W : 現在は販売終了)って、買ったとき11万円くらいだったので、こんな液タブが同じくらいで買えてしまうと考えるとうれしいやら悲しいやらです(笑)。

――最近は液晶ディスプレイも安いものが増えましたが、11万円台というのは通常のディスプレイ代わりとしても手を出せそうな金額とも言えそうですね。

このイラストは通常のディスプレイ(上の画面)が、ざら先生の意図する色だそうで、同じイラストをCintiq 22上で表示するとかなり違うため調整が必要。ちなみに、この使い方をするには、PC側にHDMIを含む2画面出力機能が必要
比較して見さえしなければ、デフォルト設定でも十分な画質。でも、2画面使えると、片方の画面で資料を表示したり、動画見たりできるので、使うならマルチディスプレイ環境以外考えられないという

Cintiq 22(左)では、Cintiq Pro 24(右)などの上位機種ではディスプレイ設定に存在するガンマの詳細設定などが省略されており、明るさとコントラスト、色温度の設定しかできなくなっている

ざら先生の仕事環境は今度こそ変わるのか!?

――結論として、ズバリ聞きます。先生的にこれは買いですか?

ざら 大画面タブレットが欲しかったら、絶対買いだと思います。もうマルチディスプレイじゃなくて、複製モードにして、板タブ代わりに使ってもいいかも。Cintiq Pro 24のときは、4Kだし、高級品だから……と思えたのですが、この値段になると逃げられないかも(笑) でも、ほら私はメインがモノクロ漫画ですし。

――早速逃げてる!(笑) というか、忘れてないでしょうね、「わがままDIY+」はカラー漫画ですよ! これ買って、どんどん描いて、もう今年中に単行本4巻出しましょうよ。

ざら マンパワー的にムリですから! でも本当にこれ、フォトレタッチなんかをする人にはCintiq Proのほうがいいんでしょうけど、デジタルメインの漫画家ならスゲエいいと思います。

――ワコムによると、「イラストやマンガ、アニメーションなどでの用途を目的とした製品」ってことのようなので、まさしく狙いどおりなんでしょうね。


 最後にこの場を借りて宣伝のようなものを! パワレポは前号で月刊誌から季刊誌となりまして、長年体に染みついた毎月の入稿サイクルから解放されたのですが、その分次号は増ページ予定になっていたり、毎週出張イベントがあったりと、ちっとも休みが増えません……。

 もちろん、ざら先生の仕事も減らすことはなく、次号(9月末売り号)はわがままDIYも増ページ予定です(これまでどおり書いてもらえば増ページになるだけなのですが)。さらにここしばらく更新が止まっているAKIBA PC Hotline!の「わがままDIY+」も近日中に復活しますので、引き続きよろしくお願いします!