Hothotレビュー
ワコムの40万円“4K液タブPC”でマンガを描いたら新世界が見えた!
2019年10月15日 11:00
15.6型液晶搭載のPC一体型液タブ
こんにちは、今回も漫画家の“ざら”先生によろしく!……とPC Watch編集部から頼まれてしまった僚誌DOS/V POWER REPORT編集部の編集Mです。今回はワコムから発表されたばかりのPC一体型液晶ペンタブレット「MobileStudio Pro 16(型番 : DTHW1621HK0)」を、ざら先生にレビューしていただきました。
ざら先生がどんなタブレットユーザーなのかは、前回、前々回の記事を読んでいただければ幸いですが、つい最近はAKIBA PC Hotline!の記事でもワコム以外のタブレットをさわってもらいました(前回の記事『ワコムの11万円液タブ「Cintiq 22」で漫画を描いてみたらすごくよかった』、前々回の記事『ワコムの4K液タブ「Cintiq Pro 24」をプロ漫画家のざら先生に使わせてみる』)。
これらの記事に目を通していただければ、液タブの最新事情通になれること間違いなしですので、興味のある方はぜひご覧下さい。まあなにかこの企画、いまだ“板タブ”愛用者のざら先生にどの液タブを買わせるのか? みたいな内容になってますけど……。
今回の「MobileStudio Pro 16」は、3年前に発売された同名製品(型番 : DTHW1620HK0)の第2世代モデルとなります。基本的な構成はほぼ同じですが、Windows 10搭載でイラスト、マンガ、CADなどのプロユーザーが求めるタブレット作業環境がオールインワンでどこにでも持ち運べるというコンセプトは、他社製品にはないオリジナリティと言えるでしょう。
PCとしての性能に妥協はなく、CPUには省電力版ながらCoffee Lake世代の最上位モデルであるCore i7-8559U(4コア/8スレッド、2.7~4.5GHz)を採用。メモリ16GB、512GB NVMe SSDを標準搭載しています。また、GPUにはNVIDIAのQuadro P1000を搭載し、液晶画面は15.6型で3,840×2,160ドットの4K解像度となっています。
肝心のタブレットインターフェイスとしても、付属ペンの「Wacom Pro Pen 2」を使用すれば、8,192レベルの筆圧検知に対応し、本体左側にはタッチホイールとエクスプレスキー8個を備える上に、マルチタッチ機能にも対応と、ほぼ全部入りの構成と言えるでしょう。
こうした基本スペックを見るだけで、Watch読者の諸兄ならある程度予想できると思われますが、本製品の価格は直販価格418,000円となかなかのお値段(ただし、従来は別売りであったスタンドも付属)。しかし、最近のハイエンドゲーミングノートPCや、ハイエンドミラーレス一眼カメラと同程度と考えれば、そこまで高くないような、高いような……。しかし、プロが使って納得のゆくPCスペックを持つ製品であれば、それくらいの価値はあるはずです。そんな本製品ですが、ざら先生の感想やいかに?
【表】MobileStudio Pro 16(DTHW1621HK0D)のおもなスペック | |
---|---|
CPU | Core i7-8559U(4コア/8スレッド、2.7~4.5GHz) |
メモリ | DDR4-2400 SO-DIMM 16GB(空スロット×1、最大32GB) |
ストレージ | NVMe M.2 SSD 512GB(換装時最大容量2TB) |
GPU | Quadro P1000(GDDR5 4GB) |
インターフェイス | Thunderbolt 3×2、USB 3.1×1、SDカードスロット、IEEE 802.11ac無線LAN、Bluetooth 4.1 |
OS | Windows 10 Professional |
デスクトップモード対応OS | Windows 7 SP1以降/8/8.1/10、macOS 10.12以降 |
本体サイズ(幅×奥行き×高さ) | 418×262×21mm |
質量 | 2.1kg |
液晶ディスプレイ | |
パネル | IPS |
表示サイズ/アスペクト比 | 15.6型/16:9 |
最大表示解像度 | 3,840×2,160ドット |
表示面積 | 345.6×194.4mm |
画素ピッチ | 0.09mm |
液晶方式 | IPS方式 |
最大表示色 | 8bit(1,677万色) |
最大輝度 | 310cd/平方m |
コントラスト比 | 850:1 |
視野角 | 上下/左右176度 |
色域 | Adobe RGB 85%カバー |
Wacom Pro Pen 2 | |
読取方式 | 電磁誘導方式 |
読取分解能 | 最高0.005mm |
読取可能高さ | 10mm以上(中央) |
傾き検出レベル | ±60レベル |
筆圧レベル | 8,192レベル |
「モバイルPC」や「タブレット」の枠を超えたツール!
――今回のレビューは先日発売になった「DOS/V POWER REPORT 2019年秋号」用の原稿執筆と完全に重なったため、ざら先生にはそちらの原稿をこれでやれば一石二鳥ですよ! と、製品を送りつけ……送らせていただきました。で、どうでしたか?
ざら これ、このまま返さずにいたら、もらえたりしないですかね……。
――いや、自分で買ってくださいよ。いきなり結論みたいですが、かなり気に入ったってことですね?
ざら なじみのあるワコム製品なので、描き味に文句があるわけないのですが、持ち運べるお絵描き環境としてこれは最強ですよ! 画面の黒も引き締まってて色もいいです。USBポートがType-Cの3つだけというのには戸惑いましたけど、HDMI変換アダプタを使ってディスプレイとつないだら、簡単にマルチディスプレイ環境もできてしまって……あれ? ヤバい、これ、もしかしてデスクトップPCいらないんじゃない!? みたいな衝撃がありました。
――自作PC特化のパワレポ的に確かにそのコメントはヤバいですが(笑)、スペックはハイエンドノートPCクラスなので、そういうことにもなるでしょう。色に関してはAdobe RGB(CIE1931)カバー率85%で、オプションのカラーキャリブレーションツール(Color Manager Powered by X-Rite)にも対応しているので、そちらも抜かりのない製品です。
ざら タブレットを使う=PCにつないで使うのが当たり前という感覚があるので、これは新しいツールなんだなと。これってよく考えればWindows 10の豪華なタブレットPCでもあるんですけど、質感というか剛性感というか、その辺りがとてもしっかりしていて、単純にモバイルガジェットとしても欲しいなあと。
――要するに物欲が刺激されちゃったわけですね。モバイルと言っても本体だけで2.1kgありますが、そこは問題ないんでしょうか?
ざら さすがに歩きながら絵は描けないので、持ち運んで使うと考えれば大型ノートと変わらない重さですよね。キーボードは欲しいですけど、ホイールもエクスプレスキーもあるので、最低限これとペンがあれば描けます。ただ、ACアダプタは結構大きいですね……。
USB Type-Cポートだけで多彩な使用方法
――本製品の外部インターフェイスはUSB Type-Cポートが右側面に3つと、左側面にSDカードスロットが1つのみのシンプルな構成。従来モデルもUSB Type-Cポートが3つでしたが、本製品では3つのうち左右の2ポートがThunderbolt 3ポート、中央の1ポートがUSB 3.1 Gen.2ポートとなっています。この辺りの規格の違いはわかりにくいところですが、Thunderbolt 3ポートはUSB 3.1 Gen2にも対応しつつ、40Gbpsの高速転送に対応した規格となっています(USB 3.1 Gen2ポートの転送速度は10Gbps)。
ざら 私のレガシーな環境だと、Thunderbolt 3を活かすには外付けの高速SSDでも買ってこないと本領発揮できなさそうですけどね(笑)。
――Thunderbolt 3ポートであれば、DisplayPortに対応しており、変換アダプタを使うなどして外部ディスプレイに接続することが可能です。USB Type-Cケーブルのなかでも各機能の対応が謳われたケーブルを選ぶ必要がありますが、少なくともThunderbolt 3対応ケーブルとして販売されているものならば問題ないはずです。
なお、どのポートも付属のACアダプタでの本体への給電に対応していますが、バッテリ残量があまりない場合は中央のポートに接続することが推奨されているほか、ほかのPCの液タブとして使用する「デスクトップモード」の場合もこの中央のポートでのみ動作します(接続すると自動的にMobileStudio Pro 16のPC機能はオフになります)。
ざら USB Type-Cポートしかないので、手持ちのマウスやキーボード、USBメモリまで、すべてUSB Hubを介さないと接続できないのはめんどうだな~と思ったんですが、逆に今はUSB Type-Cだけでここまでできるんだ、って今回はじめて知りました(笑)。ただ、ポートが全部右側面に集中しているので、左側面にも1ポートくらいあれば、キーボードがつなぎやすかったと思います。
――その辺りはBluetooth対応キーボードなどを使えば解決しそうです。こういうマシンを使うなら、ほかの機器もUSB Type-C接続でそろえたくなりますね。
ざら 有線LANポートもないので、Wi-Fi環境が必須だと思いましたが、USB Type-C世代のモバイルPCは多機能Hubを使うのが当たり前なんですね。いろいろそろえていったら、そちらも結構お金使いそうですけど。
バッテリはモバイルのためだけにあらず
――普通にノートPCやタブレットとして考えると、バッテリの持ち時間も気になるところですが、その辺はどうでしたか?
ざら 公称は5時間ということでしたが、普通に高パフォーマンスモードで使用した場合、フル充電で動作は2時間半くらいのようでした。バッテリ内蔵だと電源コンセントがうっかり抜けてもデータが消えないのはいいですね。
――UPS(無停電電源装置)を内蔵しているようなものですからね……というか、それなら普段のデスクトップPCにもUPS導入しましょうよ。ACアダプタもUSB Type-C接続みたいですが、モバイルバッテリとかは試してみました?
ざら それが使えたらこの大きいACアダプタがいらなくなるんじゃないかと思ってやってみましたが、手持ちのモバイルバッテリや、iPad Pro用のUSB充電器(18W)も反応なしで、充電できませんでした。
――付属ACアダプタを確認すると、出力は「5V/3Aあるいは20V/5A」とのこと。20V/5A(100W)は現行のUSB PD規格での最高出力です。いずれにせよ、本製品はこの付属ACアダプタで使用するものと考えるべきでしょう。
消費電力を計測してみると、充電中かつ通常使用中でおおむね50~80W程度となっており、負荷がかかると瞬間的に90W台も出ていました。PCとして見ると、CPUのCore i7-8559UはTDP 27W、Quadro P1000はTDP 47Wとなっているため、消費電力的にGPUの存在はかなり大きいと言えます。
ざら Quadroが搭載されているのは3D CADを使う人とか、漫画だと最近増えているらしいCLIP STUDIO PAINTの3D素材を使う人とかなら価値があると思うんですが、私は使っていないのでQuadroなしの安いバージョンとか出ないのかなと。いや、3Dは3Dで勉強したいとは思ってるんですけどね……。
重要ポイント! メモリ増設とSSD交換が可能!!
――旧モデルからの変更点として、もう1つ見逃せないのが、背面パネルを開けてメモリ増設とSSDの交換が可能となったこと。従来製品は交換不可であったため、スペック的には大きなポイントとなります。背面パネルを取り外すには精密ドライバーが必要になりますが、作業そのものは簡単です(ただし、メモリとSSDを取り外すとメーカー保証外となるので注意)。
ざら 最近はメモリ16GBでも動作が重くなることがあるので、最初から32GBほしいです。どちらかというと、同時に開いているWebブラウザが重くなる原因だったりしますけど……。そもそもこんなマシンを買う人なら、1万円くらいのお値段アップをケチりはしないですよね(※編注 2019年10月現在、DDR4-2400 SDRAM SO-DIMM 16GBは1枚1万円弱)。
――NVMe接続のM.2 SSDの換装や環境移行には、OSをクリーンインストールしたり、ディスククローンツールを使用したりと多少手間がかかりそうですが?
ざら 漫画の原稿データをここにため込むのは怖いので、私は基本的に外付けHDDに保管します。SDカードスロットもあるので、描きかけデータでもこまめにそちらへコピーしておくとよさそうですね。とにかくデータが消えるのは怖いので、512GBもあればまず十分ではないかと。
――先生、ときどき「データが消えてしまって描き直してるので原稿遅れます!」っていうアレ、そこまで慎重だったら起こらないですよね?
ざら ……。
あえて言うならココがネック!
――最初から高評価なわけですが、とくに不満点はないんですか?
ざら あります。さわれないほどじゃないんですが、長時間使っていると液晶表面が熱いんです。もしかすると冬になったら暖房いらずでちょうどいいのかもしれませんが……。PC内蔵だから仕方がないというのはわかっているんですが、熱くなる部分がちょうど右下側の手首を置く辺りなんですよ。
――で、その熱対策がソレなわけですか……。
ざら この熱対策でいろいろ試した結果、たどり着いたのが“靴下を右手の下に敷く”です。厚みのある布で、かつ滑りのよいものをといろいろ試した結果たどり着きました。コスパ抜群! 安心してください、新品ですよ!
――使い古しの靴下だったらお買い上げだよ! でも、確かに結構熱いですね。逆に左上側はまったく熱くなっていないので、内部の基板配置が180度逆だったらちょうどよさそうに見えます。
ざら あと、気になるのが付属のスタンドですね。折り畳み式で3段階に角度変更ができるのはいいですし、剛性はしっかりしていて使用中はまったく問題ないんですけど、本体にカチッとハマらないので、ちょっと本体ごと移動させようとすると簡単にパタンと外れてしまいます(※個体不良だった可能性があり、製品版では改善されているとのことです)。モバイル重視なのかもしれませんが、モバイル無視のガッチリしたスタンドもほしいです。ついでにクーラー機能もつけたらバッチリかも。
――もしかしたら、ノートPC用の冷却台にちょうど使いやすいのがあったりするかもしれませんね。
ざら じつは使いはじめた当初はUSB Type-Cポートだけというのは使いにくいと思ったのですが、今回Type-Cの現状がいろいろわかったら印象が変わりました。
ざら先生の今回のまとめ
ざら 正直言えば、私は仕事に使うならこれの20型クラスが欲しいです。以前使った「Cintiq 22」は解像度がフルHDだったので、同じサイズで4Kだとまた感覚が違うかもしれませんが、机で長時間作業するならあれくらいのサイズがいいなと。このMobileStudio Pro 16はマルチタッチが使えますが、4Kの画面で使うと、ソフトによっては指で操作できない小さなアイコンとかがありましたし……。
――そろそろPhotoshop CS5も限界なのでは……。
ざら それもそうですが(笑)、同じく長らく使っている「SAI Ver.2」もタッチには向いていないというか、マルチタッチにはそもそも対応していないことがわかりました。最近「CLIP STUDIO PAINT EX」を導入したのですが、さすがに最新ソフトだけあって、マルチタッチもバッチリ使えて、アイコンサイズもちゃんと考えられているのがわかりました。
――Windows 10世代のアプリケーションなら、スケーリングの対応とか、タブレット操作も考慮されたインターフェイスになっているわけですね。
ざら でも、旅行先でもこれ1台持っていけば家と変わらないPC環境で仕事ができる、というのはすごく魅力的です。そう考えるとやっぱり“16型”はベストなのかもしれません。
――端から見ているとどの液タブでも描けてるみたいだから、そろそろ観念して液タブ買いましょうよ。あと、世のなかには24型ディスプレイでモバイルしてる人がいますし(もうモバイルじゃないとは言わせない参照)、ワコムさんにお願いしたらそのうち「MobileStudio Pro 22」とか出るかもしれませんよ?
ざら 私はそこまでヘビーモバイラーにはなれないので……出たとしても重量もお値段もすごそうですよね(笑)。
おまけ
ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク
ゲームも遊べるスペックということで、試しに「ファイナルファンタジーXIV: 漆黒のヴィランズ ベンチマーク」を走らせてみたところ、1,920×1,080ドットで「とても快適」のスコア。ただし、ここではGPUのQuadro P1000は機能しておらず、Core i7-8559U内蔵機能が使われているようです。
これが四コマ漫画モードだ(!?)
もしかして縦にすると四コマ漫画を描くのにベストマッチなのでは!?……と思ったのですが、「四コマ漫画でも描くときは1コマを拡大して描くので使いにくいだけ!」だそうで。ちなみに、「CLIP STUDIO PAINT」は縦にしても問題なくタッチ操作が可能ですが、「SAI Ver.2」は縦にするとタッチ機能自体が使用不可になりました。