大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

富士通、PCと携帯電話の融合端末を2011年に投入へ
~ユビキタスプロダクト事業の取り組みを大谷執行役員常務に聞く



 「2011年における富士通のユビキタスプロダクト事業は、グローバル化を推進し、それに対して実績を求める1年になる」--。PCおよび携帯電話事業などで構成されるユビキタスプロダクツ事業を統括する富士通のユビキタスプロダクトビジネスグループ長・大谷信雄執行役員常務は、2011年の方向性をそう位置づける。

富士通 ユビキタスプロダクトビジネスグループ長・大谷信雄執行役員常務

 富士通は2010年に、PC事業においては全世界でのブランド統一などによるグローバル体制の強化、そして、携帯電話事業では10月1日付けで東芝の携帯電話事業を統合した。2011年度にはいよいよ海外への本格展開も開始し、さらにPCと携帯電話の融合端末の展開も視野に入れる。大谷信雄執行役員常務に、ユビキタスプロダクトビジネスへの取り組みを聞いた。

--富士通のユビキタスプロダクト事業にとって、2010年はどんな1年でしたか。

大谷 PC事業に関しては、2009年は非常に厳しい1年でしたが、2010年はWindows 7の発売の影響もあり、好調な1年だったと言えます。特に、PC事業、携帯電話事業においては、グローバルに展開する日本企業への支援体制を強化し、これが成果としてあがっています。欧州のFTS(富士通テクノロジーソリューションズ)、米国のFAI(富士通アメリカ)、アジアのFPCA(富士通PCアジアパシフィック)といった各地域拠点との連携体制も強化できました。一方で、グローバルにブランドを統一したことも大きな取り組みだったと言えます。日本ではデスクトップPCの「DESKPOWER」、ノートPCの「BIBLO」で展開していたものを、デスクトップPCでは「ESPRIMO」、ノートPCでは「LIFEBOOK」に一本化した。海外でもAMILO(アミーロ)といったブランドがあったがこれも統合した。大きな変化は、社内の意識が変わったということです。各地域ごとの発想から、グローバル発想で物事を考えることができるようになった。グローバルの社員が統一的な発想でビジネスを展開できる基盤が整ったと言えます。

 確かに、日本では新たなブランドが浸透していないという指摘はあるでしょう。とくにデスクトップPCのESPRIMOは、まだ認知度が低い。しかし、日本では依然としてFMVというブランドを残していますから、これによってブランド力は維持できていると考えています。ESPRIMOも、LIFEBOOKも、10年以上に渡って海外で使用しているブランドでから、これも長年の実績の上で一本化を図ったものだといえます。

グローバルで統一されたLIFEBOOKとESPRIMOのブランド

 PC事業の課題をあげるとすれば、PCの価格下落がグローバルで進展するなか、いかに利益を確保するのかという点でしょう。この2010年度上期は黒字化していますが、様々な影響を受けやすい事業ですから、常にコスト意識を徹底しておくことが重要です。

--一方で、携帯電話事業についてはどんな1年であったといえますか。

大谷 やはり東芝の携帯電話事業との統合が大きな成果だったといえます。今年前半は統合に向けた準備作業が中心となり、10月からはいよいよ統合した形で事業を推進できる体制とした。携帯電話の開発は1年先まで進んでいますから、すぐに製品そのものの統合を図るということはできません。しかし、すでに開発チームは富士通の川崎工場に統合しており、早い段階でシナジー効果が発揮できると考えています。

 もともと富士通はNTTドコモ向け、東芝はau向けで高い実績がありますし、それぞれにプラットフォームの開発にまで踏み込んだ体制を持っている。さらに、スマートフォンで先行した東芝に対して、らくらくフォンでの実績や、防水機能を搭載した薄型・軽量のフィーチャーフォンでの取り組みでは富士通が先行するなど、お互いに補完できる環境にある。シナジー効果を発揮しやすい関係にあったことも、今後の携帯電話事業の推進の上では大きな要素だといえます。

--富士通のユビキタスプロダクト事業を俯瞰してみると、3つの観点から「統合」の進捗が気になります。1つは、今話題に挙がった東芝の携帯電話事業における統合です。完全な統合を図るのではなく、富士通の携帯電話事業は富士通本体に残し、東芝の携帯電話事業は連結子会社として、富士通東芝モバイルコミュニケーションズを設立した。この狙いはなんでしょうか。そして統合の成果はどうなりますか。

大谷 東芝の携帯電話には、多くのファンがいます。しかも、先ほど触れたように、製品開発は1年先まで進んでいますから、すぐに東芝ブランドを富士通ブランドに切り替えるわけにはいかない。また、東芝に親しんだユーザーのことを考えた結果、まずは別会社としてスタートし、ソフトランディングさせる仕組みが最適だと判断した。ですから、このほど出荷する「REGZA Phone」も東芝ブランドのままで投入します。しばらくは、富士通から東芝ブランドの製品が登場するということになる。私も、東芝ブランドのREGZA Phoneを持つことになるわけです(笑)。

--そのコメントから、1年後には両社の関係は再構築されるというようにも感じますが。

大谷 1年後以降を考えると、さらに深い関係を構築するということは考えられます。また、すでにスマートフォンの開発に関しては、両社のノウハウを組み合わせた形での開発が始まっていますから、成果は早い段階で出てくることになるのではないでしょうか。両社の融合については、決して焦っていません。時間をかけてじっくりと、いい形に持っていくつもりです。

--2つ目の「統合」という点では、PC事業における日本の富士通と、欧州のFTSとの統合です。海外でのPC事業はFTSの完全子会社化後は縮小傾向にありますし、統合の成果を導き出すのにかなり時間がかかっている印象があります。

大谷 FTSは、PCやサーバーの生産拠点というだけでなく、ソリューションビジネスといった側面を持った企業です。その観点からの事業転換や、グローバル戦略において両者のベクトルをあわせるということにかなりの時間を要したというのが正直なところです。

グローバルでの展開

 ただ、その作業はひとまず完了し、基本的にはデスクトップPCはFTSで生産し、ノートPCは島根富士通で生産することで決定しました。さらに、普及モデルについては必要に応じて海外のODMを活用するという役割分担も確立できました。2011年からは、グローバルモデルと呼ばれる共通プラットフォームをベースにした、「Think Global, Act Local」を具現化するような製品も投入しますし、それによって海外市場でも積極的な展開ができるようになります。

 製品のベースは同じですが、法人向けモデルを中心に、それぞれの地域に応じたカスタマイズを行なったPCを投入していきます。さらに、海外に事業を拡大する際に必要とされるコスト競争力も強化してきました。赤字にしてまで海外事業を展開し、数量を追うつもりはありません。利益とボリュームのバランスをしっかり見極めた上で、事業を展開していく考えです。

--年間1,000万台の出荷という目標についてはどうなっていますか。2010年度の出荷計画は580万台。1,000万台計画を打ち出した時に比べると、目標にはかなり差が開いてしまいましたが。

大谷 1,000万台という数字については、旗を降ろしたつもりはありません。これからも1,000万台という目標に向けて、事業の拡大を図ります。

--3つ目の統合は、PCと携帯電話の「融合」の成果です。ユビキタスプロダクト事業として、2つの事業を統合し、融合製品の開発に取り組むと標榜してから、かなりの歳月が経っています。しかし、まだその成果といえるものが見えていないのが実態です。

大谷 2009年10月にはユビキタスビジネス戦略室を設置し、PCと携帯電話の融合製品の開発を加速させています。2011年には何かしらの成果を出せると思います。大切なのは、いよいよモバイルブロードバンドネットワークとクラウドの時代が訪れたという点です。これがPCと携帯電話の融合端末の世界を現実のものにすることになります。

 例えば、3Gの環境ではモバイルネットワーク環境にはどうしても限界があった。だが、LTEによって、この環境が一変する。そしてクラウドを通じたさまざまなサービスが提供されるようになる。こうした時代がいよいよ訪れた。さらに富士通には、ネットワークインフラやクラウド・コンピューティング、サーバー、ストレージといったトータルソリューションを提案できる強みもある。その中で、富士通の融合端末の魅力が発揮できるようになる。情報を中心に取り扱う新たなインターネット情報端末の登場によって、PCの一部領域を明らかに浸食していくことになるでしょう。

 その中で、やはり気になるのは、マイクロソフトがこの領域に対してどんな動きをするかです。企業の基幹システムと連動するような端末は、Windowsの採用は不可避だといえますが、残念ながらいまのWindowsでは起動に時間がかかりすぎて、それがPCと携帯電話の融合端末を実現するには大きな課題となっています。それをどう解決するのか。マイクロソフトの手の打ち方には注目していく必要があります。

 もちろん、スマートフォンをさらに強化する意味でも、Androidにおける融合端末の展開にも取り組みます。ここでは東芝のスマートフォンのノウハウも活用していくことになります。富士通が目指している「ヒューマンセントリックなインテリジェントソサエティ」の実現のために、携帯電話、PC、そしてその融合端末は「ユビキタスフロント」としての位置づけを担う。単なる単体ビジネスだけで捉えるのではなく、そうした大きな視点で事業を捉える必要があります。

--2011年は富士通のユビキタスプロダクト事業にとってどんな1年になりますか。

大谷 新たな事象が多く起こる1年になるでしょう。フィーチャーフォンからスマートフォンへのシフト、LTEの立ち上がり、そして富士通のグローバル化の推進といったような、富士通を取り巻く社内外で、大きな変化がみられることになります。また、PCの価格競争はさらに激しくなり、ボリュームの追求と、コスト、利益のバランスの舵取りはより難しくなります。その中でしっかりと黒字を維持できる事業にしていかなくてはならなりません。

 グローバル展開についても、慎重な姿勢で取り組んでいくつもりです。富士通は、すでに台湾などで携帯電話事業をやっていますが、本格的な海外展開といえるのは2011年以降の取り組みとなります。長期間に渡ってビジネスを確立できるように、現地のオペレータともWin-Winの関係を構築しながら、着実に地歩を固めていきたいです。富士通はネットワークインフラ全体に強みを持つわけですから、オペレータへの課題解決という提案のなかで、グローバル化を推進していきたい。2011年は、グローバル化においては、具体的な実績が評価される1年になると考えています。慎重にかつ大胆にグローバル展開を進めていく考えです。