■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
日本のPCユーザーは、世界的に見てもやや偏ったところがあるようだ。というのも、マイクロソフトの全世界を対象にした調査で、興味深い結果が出ているからだ。
同調査は、PCユーザーのスキルを、パワーユーザーなどで構成される「Super」、ゲームや音楽ダウンロードなど自らが興味を持つ最新の技術に対しては積極的に取り組む「Special」、メールやウェブなどの一般的な利用に留まるユーザー層を「Basic」として分類し、それぞれの構成比を国ごとに集計したものだ。
これによると、Superの構成比は全世界が33%であるのに対して、日本は13%。Specialは全世界が52%に対して、日本は32%。そして、Basicは全世界が26%に対して、日本は53%となっているのだ。つまり、他の国に比べて、圧倒的に「一般ユーザー」が多いのである。
謙虚な国民性を反映した結果として捉えたり、見方によっては、広く普及層でも利用されている証ともいえるが、広く普及しているというには、日本が年間1,400万台規模の出荷であるのに対して、人口が2倍の米国では年間4,000万台の出荷規模に達しており、普及率では米国の方が遥かに高く、その分析は適切ではない。
日本のPCユーザーは、普及台数が米国ほど高くはないにも関わらず、一般的な利用をしているユーザーが最も多いということになる。韓国や中国では、「Basic」に分類されるユーザーがわずか10%程度であることと比較しても、その差は歴然だ。
言い換えれば、新たな技術やサービスが出ても、興味を持たないユーザーが多く、それに飛びつくユーザーが少ないということを意味する可能性がある。
●新たな製品が出ても飛びつかない日本のPCユーザー実際、日本で新たな技術に飛びつくパワーユーザー層が少なくなっていることを裏付けるような別の調査結果がある。
内閣府のデータを基にしたPCとレコーダの購入動機の違い。PCは上位機種の登場ではなく、故障が最多となっている |
内閣府が、エアコンや冷蔵庫といった白物家電製品、PCやレコーダといったAV/IT製品などを対象に毎年行なっている購入者調査では、PCの買い換え理由として、「壊れたから購入する」という回答が2008年以降、最も多くなっており、「新たなものが出たから」という購入理由を抜いているのだ。
これに対して、DVDレコーダでは、「新たなものが出たら購入する」という回答が最も多く、新技術に対する期待が高いことを示している。
DVDレコーダでこうした結果が出ている以上、景気低迷の影響を受けて、PCでは新たな製品に飛びつかなくなったという言い訳は通用しない。「壊れたから買い換える」という回答が多いのは、それこそ、冷蔵庫やエアコンと一緒である。
この結果は、Windows 7が登場しても、2世代前のWindows XPを利用している個人ユーザーが多いという現状にもつながっていそうだ。
マイクロソフトのコンシューマー&オンラインマーケティング統括本部マーケティングコミュニケーション本部・新保将部長 |
「日本のユーザーに対して、新たな技術や製品によるベネフィットを訴求しきれていないのではないか」--。マイクロソフトのコンシューマー&オンラインマーケティング統括本部マーケティングコミュニケーション本部・新保将部長はそう反省する。
確かに、マイクロソフトをはじめとするPC業界における訴求方法の多くは、機能訴求型の提案に走る傾向がある。
PC本体では、CPUやメモリ、GPUといったスペックを中心にした訴求が多いばかりか、ソフトウェアやサービスでもやはり機能訴求が中心だ。
例えばWindows Liveでは、「SkyDriveで25GBの無料オンラインストレージ」、「オンラインカレンダーで一括スケジュール管理」、「Hotmailにおける複数メール一括管理」という言葉が先行。機能そのものを訴求したプロモーションを行なっている。
残念ながらこの言葉を聞いただけで、利用者が自分にとってどんな使い方をすればメリットがあるのか、ということにピンとくる人は、PC Watchの読者ならいざ知らず、多くの人にとってはわかりにくいものだ。
調査データの結果のように、一般ユーザーが多いとされる日本ならばなおさらである。機能提案型の訴求方法には限界がある。つまり、日本のユーザーの特性を捉えて、これまでの手法を変えるべきというのが、マイクロソフトの考え方だ。
例えば、これを次のように説明したらどうだろうか。
●就職活動中の学生へのシナリオ提案とは就職活動を行っている学生にとって、いまやPCやメールの利用は必要不可欠となっている。だが、自分が普段使っているアドレス名が、友人とやり取りするにはいいが、企業に提出する書類にそのアドレスを書き込むのはちょっと恥ずかしいという場合もあるだろう。そこで、マイクロソフトのHotmailで、就職活動用のアドレスを無料で取得し、これを就職活動に利用する。
もちろん日常的に利用しているアドレスのやりとりも見落としたくない。そこでHotmailが持つ機能を利用して、複数のメールアドレスを1つの画面で管理し、煩雑な操作を行なうことなく複数のメールを管理する。就職活動のためにリアルタイムで入ってくる情報と、友人との頻繁にコミュニケーションするメールを、どちらも見落とすことなく管理できるというわけだ。
さらに、企業面接や就職セミナーのスケジュール管理や、友達との合コンのスケジュールも、オンライン上で一括管理できる。外出先にいて、PCを持ち歩いていなくても、携帯しているスマートフォンで確認したり、ネットカフェや学校に設置しているPCを利用して、どこでも確認するといった使い方が可能になる。
また、必要な写真やデータなどを無料で提供されるオンラインストレージ上に格納しておけば、必要な時にここからデータを取り込んだり、友人とデータを共有するといった使い方も可能になる。
繰り返しになるが、これまでの機能訴求型の提案では、これらを「SkyDriveで25GBの無料オンラインストレージ」、「オンラインカレンダーで一括スケジュール管理」、「Hotmailにおける複数メール一括管理」と表現していた。
だが、就職活動をしている学生を中心とした、こうしたシナリオ型の提案にすれば、ユーザーはWindows Liveで提供される機能が、自らの生活において、どんなメリットを及ぼすのかを容易に理解することができるはずだ。
一般ユーザーが多い日本の市場においては、むしろ、こうした提案をしていかなくてはならない。
●マイクロソフトが展開する「Happy Win道ズ」マイクロソフトは、Windows 7の発売から1年を迎えた2010年10月22日を境に、新たなキャンペーンを開始した。それが「“ちょっと”が“もっと”、Happy Win道ズ」キャンペーンである。これは、これまで触れてきた市場調査を踏まえ、「モノ」軸から「コト」軸へと視点を移した同社初のトータルキャンペーンともいえる。
HAPPY WIN道ズのロゴマーク |
ここでは、先に触れた就職活動の際にPCなどを利用してもらうための利用提案を行なう「就活 WIN道ズ」のほか、ビジネスシーンでの利用提案を行なう「オシゴト WIN道ズ」、デジカメの写真の管理、活用などを通じて楽しむ「パパママ WIN 道ズ」の3つのシナリオが用意されている。
「オシゴト WIN道ズ」では、SkyDriveを使用し、データを共有することで、例えば、上司から緊急に資料作成を依頼されるといった、実にありがちなシーンの場合にも、いちいち会社に資料を取りに戻ることなく、外出先からでも処理できるといった提案を、「パパママ WIN 道ズ」では、デジカメで撮影した写真をそのままにしてしまうという、これもありがちなシーンを、SkyDriveや各種の編集機能などを活用してより効果的に管理および活用する方法を提案するものになっている。
一般ユーザーの利用を想定した提案ということでは、まさにわかりやすいものとなっている。
●初の組織横断型バーチャル組織を設置
そして、マイクロソフトは、このキャンペーンでもう1つの新たな取り組みを行なっている。それは、組織の枠を超えた横断型キャンペーンであるという点だ。
Windows、Office、MSNといった各製品ごとにコンシューマ関連のマーケティングを行なう部門や、OEM部門、学校などを担当する公共部門、カスタマーサポート部門、広報部門など11部門が参加した「コンシューマー・マーケティング・フォーラム」をバーチャル組織として設置。それぞれの部門が「モノ」軸での共通メッセージを展開しながら、そこから各製品のキャンペーンに結びつけようというものだ。
具体的には、メーカーが発売するOffice 2010プレインストールPCと連携して行なう年賀状キャンペーンや、Club Microsoftのユーザー登録キャンペーン、Windows 7発売1周年記念限定パッケージキャンペーンなどと連携。さらに、これまではWindows LiveとXbox Liveが同一のLive IDで利用できるのにも関わらず、それぞれが連動したキャンペーンを行なってこなかった反省などを踏まえて、これもユーザー視点で取り組むキャンペーンにも取り組む。
このリーダーを務めているのが、コンシューマー&オンラインマーケティング統括本部マーケティングコミュニケーション本部・新保将部長である。まずは、年内はこのスタイルで展開し、2011年1月以降も形を変えながら取り組む考えであり、マイクロソフトの期末である2011年6月まで成果を出したいとする。シナリオ提案型の訴求は、マイクロソフトを中心に、業界の枠を超えた企業が参加しているWDLC(ウィンドウズ・デジタルライフ・コンソーシアム)でも展開している。
こうしてみると、マイクロソフトのシナリオ訴求型提案は、実は、PC産業全体をあげて取り組んでいかなくてはならないテーマだとは言えまいか。