■大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」■
富士通アイソテックの増田実夫社長 |
富士通のデスクトップPCの生産拠点である富士通アイソテックは、国内におけるデスクトップPCの増産に向けて体制づくりに余念がない。富士通では、2010年度の国内PC事業において、前年比でほぼ横ばいの出荷計画を掲げているが、デスクトップPCに関しては出荷構成比を引き上げる計画であり、前年よりも生産数量が拡大することになる。そうしたなか、国内向けデスクトップPCの生産を一手に担う富士通アイソテックでは、年間100万台規模の生産体制を確立。さらなる効率化への挑戦が続いている。富士通アイソテックにおけるPC生産体制改革への取り組みを、同社・増田実夫社長に聞いた。
富士通アイソテックは、1957年に、富士通信機製造(現・富士通)と黒沢商店が共同出資会社として設立した黒沢通信工業が始まりだ。
設立当初は、大田区蒲田に本社があり、印刷電信機、電子計算機用端末機の開発および製造を行なっていた。
デスクトップの生産を開始したのは1994年から。個人向けデスクトップPCの生産を開始し、1999年からは企業向けデスクトップPC、2001年からはPCサーバーの生産を開始している。
デスクトップPCの生産を行なっているのは、E棟の2階フロア。1階ではPCサーバーの生産を行なっている。
デスクトップPCの生産ラインは、現在8ラインを設置し、年間100万台規模の生産が可能な体制だ。
「PCの生産ラインは2009年12月に大幅な改革を行ない、従来の14ラインから8ラインに削減。それでも、生産数量はまったく変えていない」と、富士通アイソテックの増田実夫社長は語る。
従来は、企業向けPC、個人向けPCというように用途にあわせて生産ラインを構築していたが、これを分離型、一体型といった形状にあわせたラインへと再編する一方、どちらの製品も生産することができる混流ラインを設置。需要変動にあわせてラインを柔軟に変更できるようにした。
現在、8ラインのうち、分離型PCの専用ラインは3ライン、一体型PCの専用ラインは2ライン。そして、混流ラインは3ラインという構成だ。
企業向けPCの需要期や、個人向けPCの新製品発売時期など、製品によって生産のピークはそれぞれ異なるため、生産の平準化は極めて難しい。混流ラインを3ライン設けることで、ピーク時には、分離型でも、一体型でも、専用ラインとあわせて5~6ライン体制で生産できる柔軟性を持たせることで、需要変動に対応できる体制としたのだ。
●高温検査ラインを廃止しながら品質を維持もう1つ、見逃せないのがライン数を減らしながら、生産数量を維持している点だ。
生産ラインにおける1つずつの作業の見直しにより、組み立てに関わるタクトタイムを短時間化。さらに、試験時間の短縮化により、高信頼性を維持しながら大幅な生産時間の短縮を実現した。
とくに、従来行なっていた高温検査ラインを撤廃したという点では、大きな変更が施されている。
これまでの生産ラインでは、その途中でエージングを行なう際に、高温検査ラインが組み込まれていたことで、常温から高温、高温から常温といった環境変化が必要になること、さらに組み立てた製品を手作業で検査ラインに運び込む必要があったため、多くの工数と時間がかかっていた。
「高温試験を行なわなくても、常温で同等の試験ができる体制を新たに構築した。この検査ラインを除くことで大幅な時間短縮と工数短縮が実現できた。また、製品品質という点でも、着荷不良率、初期不良率にはまったく変化がない」とする。
富士通のすべての工場を見回しても、CPUを搭載したような製品で高温検査を除いたというのは極めて珍しい取り組みだ。だが、試行錯誤の繰り返しの結果、これを除きながら、品質を維持した生産ラインを構築できたというわけだ。
現在、一体型PCの生産ラインは部品の投入から梱包まで76mのライン長となっている。そのうち、組み立てラインでは12人体制としており、1人あたり約75秒でコンベアが動いている。従来はU字型となっていたのに比べると、ラインはかなり短くなっているのも特徴だ。
なお、一体型デスクトップPCの生産ラインでは、新たに3Dパソコンの生産も行なっているが、それにあわせたライン変更は特別には行なっていない。「左右のカメラのズレが起こらないように注意した組み立てが必要。検査用ソフトによって、その点をチェックしている」という程度で、組み立ては既存製品と同じものになっている。
一方で、分離型PCの生産は、約40mのラインとし、7人で組み立てる体制を構築。約40秒のタクトタイムで稼働している。
いずれのラインも、企業向けの個別仕様や個人向けのBTOにも対応できるように、1個流しが可能となっており、作業者の前方から投入された部品はデジタルピッキングシステムにより、必要な部品の位置が点灯。作業者は間違わずに必要な部品を取り付けることができる。
さらに、大型部品の投入単位を5個とすることで、工場内の部品在庫の圧縮などにもつなげている。
一方、ライン数を縮小したことで、PCの生産フロア全体における空きスペースが数年前に比べて4分の1ほど生まれている。これだけで約2,000平方メートルの空きスペースだ。このスペースを利用して、工場の外に契約していた部品倉庫を内部に取り込むという効率化を実現したほか、これまで1階部分に置いていた方面別の仕分け場所も2階の配置。これにより作業の効率化が実現されている。さらに、空きスペースは、今後の増産体制に備えてライン増設が可能なスペースとしても活用できる。
一方で、IAサーバーの生産ラインも、従来は1日75台のサーバーの生産が可能だったラインを、1日150台の生産が可能なラインへと改善。これを5ラインの体制とすることで、大幅な増産が可能になった。
2008年度実績で8万台だった生産能力が増強されたことで、2010年度で国内15万台、2012年度までに国内20万台の出荷計画に向けた体制が確立されることになる。
●PCの付加価値向上に対応したモノづくり富士通アイソテックの増田実夫社長は、「2009年度はスリム化すること、フレキシブルな生産体制を確立することに力を注いできた。そのために大がかりな変更を行ない、筋肉質な体質へと変えてきた。海外の生産拠点ではなく、福島で作る意義はどこにあるのか。それを社員が共通して認識できる地盤づくりに力を注いだ」と語る。
増田社長がいう「筋肉質な体質」とは、年間を通じて激しいPCの需要変動や、短い製品ライフサイクルへの対応を図りながら、新たな技術に対しても対応できる生産体制の確立を指す。
例えば、3Dパソコンの登場や、Windows 7以降のタッチパネル機能搭載製品の増加は、生産現場の柔軟な対応なしには生まれない。
「CPUやメモリ、ハードディスクを中心に生産を考えるのではなく、新たな部品に対してどう対応していくか、付加価値を生み出すためのテクノロジーオリエンテッドともいえる部品を、短期間に、品質を確保しながら、量産できる体制を生み出すことが必要になる。PCの技術進歩や付加価値の搭載という流れは、従来とは異なるモノづくりへの取り組みが求められる。そこに、富士通アイソテックの優位性を発揮したい」という。
開発部門出身の増田社長は、「今こそ、開発部門との連携が必要。開発部門から降りてきたものを生産するというのではなく、対等の立場で意見をぶつけ合うことが、お客様に喜んでいただける製品づくりにつながる」とする。
さらに、開発部門との連携だけでなく、物流面にもメスを入れようとしている。
「部品が工場に入るところまでと、製品出荷の部分は物流業者が担当しているが、ここについても富士通アイソテックが一部関与することで、さらに進んだ効率化とスピード向上が図れるのではないか」。
増田社長が、富士通アイソテックの社長に就任してから2年を経過。以前にも増して、スピード感が備わってきたというのが自己評価だ。
富士通のPC事業は、2011年度以降に大きな飛躍が想定されている。また、それはIAサーバー事業も同様だ。富士通アイソテックでは、PCおよびIAサーバーの増産に向けた向けた準備には余念がない。
写真を通じて、富士通アイソテックの最新のPC生産ラインの様子を見てみよう。