大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

パナソニックがLet's noteの次の進化に掲げる「すぐ!」の意味



パナソニック AVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツビジネスユニット・奥田茂雄ビジネスユニット長

 パナソニックのLet's noteが次の進化に向かい始めている。それは、「すぐ」というキーワードだ。

 これまで、軽量、長時間、タフ(堅牢)という流れを辿り、2009年からは「高性能」というコンセプトによって、プロフェッショナルのモバイルツールとして大きな進化を遂げたLet'snoteは、新たに「すぐ=高速」というコンセプトを加えて、さらなる進化を遂げる。「次の進化は『高速』であること、つまり『すぐ』という言葉に集約されることになる」と、パナソニック AVCネットワークス社システム事業グループITプロダクツビジネスユニット・奥田茂雄ビジネスユニット長は語る。奥田ビジネスユニット長に、2010年度の上期のLet's note事業への取り組み、そして、2010年度下期以降のLet'snoteの進化について話を聞いた。

●軽量、長時間、堅牢の次の進化に

 Let'snoteは、2002年にモバイル領域に特化する方針を打ち出し、第1世代として「軽量化」、「長時間駆動」を徹底的に追求。他社との一線を画す製品コンセプトによって、ビジネスモバイルPCとしての地位を確固たるものにした。また、第2世代への進化では「堅牢性」の要素を加えることで、持ち運んで利用する安心感を提供してきた。

 そして、2009年に投入したSシリーズ、Nシリーズでは高性能という要素を実現。Core i5の標準電圧版のCPUを搭載するなど、モバイル環境での高性能化を実現させた。振り返れば、それらの進化は、すべてビジネスモバイルで要求される要素だといえる。

 そのLet'snoteが、ビジネスモバイルとして、もう一歩進化するためのキーワードが、「高速」ということになる。「高速」にはいくつかの見方がある。1つは、第3の進化で掲げた高性能に共通するCPUの高速化や、I/Oの高速化だろう。そして、起動が速いという「高速」なども考えられる。

 奥田ビジネスユニット長は、「ビジネスモバイルという観点では、『すぐ』という要素が極めて重要になる。ビジネスモバイルにおける『すぐ』とはなにか。それを実現するのが次の進化だ」とする。

 詳細はまだ未定だが、いずれにしろ、奥田ビジネスユニット長の言葉からわかることは、Let'snoteは、これまでと同様、ビジネスモバイルとして正常進化を遂げていくという姿勢である。

●正常進化を下支えする神戸工場の設計・生産技術

 この正常進化を支えているのが、神戸工場での国内生産にこだわるパナソニックの生産技術と、それに連動する設計技術である。

 実は、この1~2年に渡ってパナソニックが取り組んできたのは、基板製造の強化だった。「この1年で、Let'snoteで使用する基板の密度は、25%も高めることに成功した」と語るのは、パナソニックのITプロダクツビジネスユニットプロダクトセンター長の白土清氏。

パナソニックのITプロダクツビジネスユニットプロダクトセンター長の白土清氏国内生産にこだわるパナソニック神戸工場神戸工場のLet'snote組立ライン
進化を遂げた基板製造工程。密度の高い基板製造を可能とした。工程前半に検査工程を入れることで品質面でも強化している

 「筐体サイズを変えずに高性能化するには、基板の密度を高める必要がある。ところが、単に密度を高めればいいという問題ではない。デジカメや携帯電話で用いられる基板と比べると、まだ密度をあげることができるという指摘もあるが、Let'snoteに求められる堅牢性を実現するには、落下衝撃や安定して稼働する信頼性を維持する必要がある。実装信頼性やハンダの密着技術のほか、ピッチ間距離を縮めて部品同士が隣接しても熱対策が施されなくてはならず、単にデジカメと同じ実装密度を実現すればいいというわけではない。パナソニックの生産技術本部との連携による実装機の改良、材料の改善といったような取り組みを通じて、こうした課題を解決することができる技術的なブレイクスルーがあった。現行モデルで、通常電圧版のCPUを搭載することができたのも、基板製造技術の進化なしには実現しえない」とする。

 第3世代の進化である「高性能」と、次なる進化である「高速」も、こうした実装技術の進化が大きく影響しているのだ。

●3Dパソコン、そしてスレートPCの投入は?

 先にも触れたように、Let'snoteがあくまでもビジネスモバイルという領域を逸脱しない方針はこれからも変わらないのは明らかだ。

 そこで2つの質問を奥田ビジネスユニット長にぶつけてみた。

 1つは、3Dパソコンへの対応である。NECや富士通、東芝などから3Dパソコンが登場しているが、各社の基本姿勢はコンシューマ向けPCとしての投入である。この観点からみれば、Let'snoteの3D対応はないといっていい。だが、パナソニック自身も、PC事業と同じAVCネットワークス社のなかで、3Dテレビを製品化していること、さらには3Dのビジネス分野への応用という今後の流れも想定できないわけではない。

 これに対して、奥田ビジネスユニット長は次のように語る。

 「コンシューマでの3D利用という観点で捉えれば、当社における製品化の可能性は低い。だが、3D CADの領域などであれば、ビジネス利用を想定することもできる。そうなれば可能性はゼロではない。モバイル利用シーンにおいて、3Dのニーズがあるのかどうか。それを見極めていきたい。これを長期的なレンジで考えていきたい」とする。

 もう1つの質問は、スレートPCへの取り組みだ。

 iPadに代表されるようなタッチパネル方式を採用したスレートPCは、モバイル環境での操作には最適だ。ビジネスシーンでの利用も容易に想定できる。3Dパソコンに比べると、もう少し現実的なものになりそうだ。

 奥田ビジネスユニット長は、ネットブックを引き合いに出しながら次のように語る。

 「ネットブックは一時期には注目を集めたが、ここにきて売れ行きが鈍っているという声を聞く。サブセットの位置づけとして地位を確立した製品領域であるが、やはりここにも性能を求める声が高まっており、それが売れ行き鈍化の要因とみている。スレートPCも同じように考えることができる。同じ大きさであればより高性能を、同じ性能であればより小型、軽量化することがPCに求められる要素。そうしたなかでスレートPCに対してはどんな要求があるのか、またビジネス領域における需要が、どこまで高まるのかを見ておく必要がある」とする。

 さらにこうも語る。

 「スレート型という意味では、フィールドモバイルPCであるTOUGHBOOK CF-07およびCF-08ですでに製品化している。その点では、スレート型が欲しいという要求にはすでに対応しているともいえる。また、医療分野向けのCF-H1や、CF-C1もある意味でスレートPCの領域に含まれる。ITプロダクツ事業部が目指しているのは、お客様の生産性向上のITツールの提供。PCプラットフォームの環境で利用するための製品を開発していきたい。その点で、必要だと考えれば、積極的に展開していくことはいとわない」とする。

 だが気になるのは、Windows環境ではない「ノンPC」といわれる領域でのスレートPCの投入。「これに関しては、現時点で回答できるものはない」とする。

 パナソニックが、今後、スレートPCの分野において、どんな展開をするのかは注目しておきたい。

●年間68万台の出荷計画に向けて順調に推移

 一方で、6月に投入した12.1型で世界最軽量とするコンバーチブルタブレットPC「CF-C1」の出足は順調だという。

 「新たな利用領域を開拓しており、大手スーパーや食品業界における在庫管理用の端末として、まとまった台数での引き合いがある。今後も一括商談をベースとした営業活動を展開していく」と奥田ビジネスユニット長は語る。

出足が好調なコンバーチブルタブレットPC「CF-C1」

 2010年度に入ってから、IT投資意欲は回復基調にある。それは、Let'snoteの受注が上向いていることからも証明される。

 「ここ3~4年に渡ってIT投資を削減していた企業が、強い体質に転換するためにIT投資を積極化しはじめた。その中で、高性能と堅牢性、セキュアな環境を実現できるツールが求められており、プロフェッショナルモバイルのツールであるLet'snoteに対する注目が高まっている」という。

 パナソニックは、2010年度の出荷計画として68万台を計画している。これは、2008年度の実績と同じだ。2009年度の一時的な落ち込みからの回復を目指す。

 「第1四半期、第2四半期の実績は、年間68万台の計画に対して、ほぼ予定通り。この計画は必ず達成する」と意欲を見せる。

 計画達成には、次なる進化が切り札になる。それが「高速」ということになる。果たして、この進化はどんな形で具現化するのか。これからのLet'snoteの進化が楽しみだ。