大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

第3四半期連結決算から各社のPC事業を見る
~富士通、東芝が下方修正、ソニーが上方修正したPC出荷計画



 電機大手の2009年度第3四半期連結決算が出揃った。

 電機大手9社のうち、売上高では3社が減益、3社がほぼ前年並み。そして、明確な形で前年実績を上回った企業が3社といった「まだら模様」。営業損益では、NEC以外が黒字となったものの、減益となったのは6社と、やはり厳しい状況となっている。最終損益では、3社が赤字となり、ソニー以外のすべてが減益という状況だ。

 PCの出荷実績でも明暗が分かれている。第3四半期連結決算の中から、各社のPC事業の状況を見てみたい。

●各社の現状
富士通・加藤和彦執行役員上席常務

 富士通は、第3四半期の出荷実績は、国内外含めて、前年同期比28%減の149万台。第1四半期の30%減の114万台、第2四半期の35%減の133万台に比べると回復基調にあるものの、Windows 7発売の効果も限定的だったといっていい。

 富士通・加藤和彦執行役員上席常務は、「国内のPC事業は比較的順調であるが、海外のPC事業が厳しい状況。もともとPCは収益性が悪い状況にあるが、さらに採算性が悪い領域には入っていくつもりはない。そのため、欧州の富士通テクノロジー・ソリューションズにおいて、コンシューマPC事業の絞り込みを行なってきた」などとし、海外PC事業の低迷を理由にあげた。


 東芝は、台数ベースで実績は発表していないが、金額ベースの実績は、第3四半期までの9カ月累計で前年同期比14%減の6,442億円、営業利益は236億円減の6億円となった。

 東芝の村岡富美雄代表執行役副社長は、「販売台数は伸張したものの、売価ダウン、低価格化、ユーロ安などの影響により減収減益になった」と説明する。

 世界規模での価格競争の激しさがPC事業の収益性を悪化させている。

 これに対してソニーは、全地域でVAIOの販売台数が増加。これがPC事業の損益改善にもつながり、PCを含むネットワークプロダクツ&サービス部門全体の増収および黒字化にも寄与したという。

 VAIOの第3四半期の出荷台数は、前年同期比35%増の230万台と大幅に伸張。第1四半期の8%減の110万台、12%減の140万台のマイナス成長から一転して、プラスとなった。これにより、第3四半期までの9カ月累計での出荷台数は、前年同期比7%増の480万台と前年実績を上回る状況となっている。

 「VAIOが利益を拡大したのは、Windows 7を搭載した新製品の投入によって、出荷数量を拡大できたことが一番の要因。どのモデルも売れ行きがよかったが、中でも、高付加価値モデルが好調であったことが収益改善に結びついた」(ソニー広報センター・神戸司郎センター長)とする。

ソニーの代表執行役副社長の大根田伸行氏ソニーのマルチタッチ対応のWindows 7搭載一体型「VAIO L」シリーズ

NECの小野隆男取締役執行役員常務

 また、NECも、第3四半期のPCの出荷台数は、前年同期比11%増の69万台と、2桁の増加率を記録。第1四半期が19%減の50万台、第2四半期が10%減の58万台となっていたことに比べると回復基調にある。

 「PCについては、Windows 7によって市場は活況である。ネットブックによる低価格化が広がるものの、NECはこの分野で、一時、急激にシェアを引き上げた」(NECの小野隆男取締役執行役員常務)とした。

 PCおよび携帯電話のパーソナルソリューション事業の売上高は13.4%減の1,767億円。そのうち、PC事業単独では、「出荷台数の増加および製品ミックスが改善したことにより売上高が改善した」という。また、営業利益は81億円増の32億円と黒字化。「固定費をはじめとする費用削減や開発効率の改善、原価低減により黒字回復した。81億円の黒字のうち、PC事業の方が利益幅が大きい」と、PC事業単独でも黒字化していることを示した。

 NECは国内市場にPC事業を特化していることから、海外からの部品調達比率が高いPC事業においては、円高の為替が、追い風になっているともいえよう。

●2009年度の見通しは?

 2009年度の通期見通しについても、各社ごとに状況が分かれている。

 年間出荷計画の下方修正を発表したのは、富士通と東芝だ。

 富士通は、10月公表値から50万台減の560万台。期初計画では、650万台としていたが、これを2009年10月に610万台に下方修正。それに続き、今回が2回目の下方修正となる。

 新たな修正値は、前年実績の736万台から24%減という、大幅な前年割れとする計画だ。

 富士通にとっては、完全子会社化した富士通テクノロジー・ソリューションズのPC事業の建て直しが早急の課題。2011年度以降に、年間1,000万台規模の出荷を目指す同社は、まずは成長に向けた地盤づくりに力を注いでいる。

 東芝は、PC事業の売上高を、期初見通しから100億円減の8,900億円、営業損益は250億円減のマイナス100億円の赤字へと下方修正した。当初は150億円の黒字を見込んでいただけに、PC事業の赤字予想は、それだけ価格競争の厳しさと、海外事業を主力とする同社にとって、為替がマイナスに響いていることを示している。

 「今後しばらくは部材価格が下落する見込みがない。赤字改善のためには、かつて、PC&ネットワーク社が行なったような抜本的な改革が、再度必要になるかもしれない。さらに、機種の絞り込みなどの思い切った施策が必要だろう」(村岡副社長)として、今後、PC事業における構造改革の必要性について言及した。

 だが、その一方で新興国におけるPC需要によって、同社の半導体事業が大きく改善するなどの効果も見られている。

パナソニック・上野山実取締役

 パナソニックでは、具体的な数字には言及していないが、年間出荷は、前年割れの60万台前後の見通しを明らかにしている。PC事業を担当するITプロダクツ事業部内では、年度初めの目標として前年比18%増の80万台をかげたものの、その後、70万台へと出荷計画を下方修正していたが、今回、改めて下方修正し、前年実績の68万台を下回ることになる。

 「企業におけるIT投資抑制の影響で、PCなどのBtoBビジネスの需要低迷が響いた。PCやTVを含むAVCネットワークス社の売上高は前年同期比17%減の1兆3,285億円になった」(パナソニック・上野山実取締役)という。

 一方、NECは、PCの年間出荷見通しを250万台とし、当初の出荷計画を据え置いた。

NECのノート最上位「LaVie LL870/WG」。無線地デジチューナやUSB 3.0を搭載する

 「Windows 7の効果もあり、250万台の出荷を達成できると考えている。上位モデルについては、価格下落が止まっている」(NECの小野隆男取締役執行役員常務)などとした。

 だが、この数値を達成するには、第4四半期には前年同期比19%増となる73万台の出荷が必要となる。第3四半期のPCの出荷実績は前年同期比11%増。スクールニューディール政策の効果による教育分野への導入促進で、出荷台数の上乗せも期待できるが、年間出荷計画の達成には高い成長率が必要となるのは間違いない。

 これに対して、ソニーは、唯一、年間出荷見通しを上方修正した。

 当初計画は、年間620万台としていたが、60万台増加の680万台へと修正。前年実績の580万台から17%増を見込む。これを達成するには、第4四半期には、前年同期比54%増となる200万台の出荷が必要で、かなり意欲的な数値を掲げることになる。

 ソニーが新興国をはじめとする海外PC事業で、どれだけ事業を拡大するかが、計画達成の鍵になる。


●各社共通の課題は

 このようにPC事業に関しては、各社ごとに明暗が分かれている。ソニーが好調に推移する一方、年間見通しを下方修正する企業が相次いでいる。企業のIT投資意欲の回復力に実感が伴わない状況だけに、慎重な見方をするのも当然といえば当然であろう。

 そうした中、ソニー、NECは、計画達成のためには第4四半期には、大幅なPC事業拡大に挑むことになる。

 一方で、各社に共通している課題は収益性だ。

 好調なソニーも、「今後のメモリ価格の上昇など、材料費の値上げが想定されるため、採算は厳しくなる可能性が高い」(ソニーの代表執行役副社長の大根田伸行氏)と指摘する。

 価格競争の激化、部材価格の上昇、そして、為替の影響によって、PC事業の収益確保は予断を許さない状況にある。

 依然として、PC事業の舵取りは、激しい荒波の中にある。