大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
レノボ、トップシェア獲得で加速するパソコン事業戦略
~GIGAスクール、テレワーク、ゲーミングで存在感
2020年12月14日 09:55
コロナ禍において、国内パソコン市場の勢力図が目まぐるしく変化している。IDC Japanによると、2020年7~9月の国内シェアは、レノボ/NEC/富士通グループが44.7%のシェアを獲得。2020年4~6月の40.9%から3.8ポイント上昇。トップの座を揺るぎないものとしている。
そして、業界関係者に取材を進めると、ブランド別シェアでもレノボ・ジャパンがトップシェアを獲得した模様だ。レノボ・ジャパン設立以来、同社単独では初のトップという「偉業」だ。レノボ・ジャパンの好調ぶりを追ってみた。
国内市場の半分近くを占めるレノボグループ
IDC Japanでは、四半期ごとに国内パソコン市場の出荷実績をまとめているが、最新データとなる2020年7~9月において、レノボ/NEC/富士通グループが引き続き高いシェアを獲得したことがわかった。
レノボ/NEC/富士通グループは44.7%のシェアを獲得。2020年4~6月の40.9%から3.8ポイント上昇。国内パソコン市場のシェア過半数獲得に向けた歩みを着実に進めている。
一方、MM総研が発表した2020年度上期(2020年4~9月)の調査によると、NECレノボは、34.3%でトップシェアを獲得。前年同期から8.0ポイントもシェアを伸ばしている。
IDC Japanでは、レノボ傘下のNECパーソナルコンピュータと、富士通クライアントコンピューティングを加えた集計だが、MM総研では経営が一体化されているレノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータをあわせて集計。開発、販売、生産などで自律性を持たせている富士通クライアントコンピューティングを別集計としている。ちなみに、MM総研の調査でこの3社をあわせると46.2%のシェアを持ち、やはり同様に、国内市場の約半分に手がかかりそうなところまできている。
MM総研によると、NECレノボの2020年度上期の出荷台数は前年同期比30.7%増と大幅に伸長。国内パソコン市場全体が0.1%減の786万8,000台と微減になっていることに比べると、成長率の高さがわかる。
2位の日本HPは、シェアが16.2%で、前年同期比2.5%減の127万4,000台、3位のデルは、0.4%減の116万9,000台となっている。NECレノボの成長が際立っている。
注目しておきたいのは、法人市場でのNECレノボの成長だ。
個人向けパソコン市場におけるNECレノボのシェアは、前年同期から1.3ポイント増の29.1%であったが、法人市場においては、前年同期に比べて11.0ポイントも増加し、36.7%のシェアを獲得している。
じつは、法人市場のなかには、GIGAスクール構想による教育分野向けパソコンが含まれている。MM総研でも、GIGAスクール構想向けの出荷が大きく影響していることを指摘。「とくに、Chromebookの出荷が好調で、NECレノボが大きくシェアを伸ばした。『クラウド活用優先』、『キーボードつき』を実現し、GIGAスクール予算基準である1台4万5千円に収まる点が、教育現場から評価されたとみられる」と分析している。
レノボ・ジャパンも、NECパーソナルコンピュータも、GIGAスクール構想の仕様に準拠したChromebookとWindowsをラインアップし、それが教育現場から評価されているが、とくにレノボ・ジャパンのChromebookの伸びが大きかった模様だ。
レノボがはじめて単独首位に?
パソコンメーカーの間では、ブランド別シェアを指標の1つとする見方もある。
つまり、レノボ、NEC、富士通を、それぞれに別のブランドとして捉えた集計である。
本誌では、IDC Japanの調査をもとに取材した結果、2020年4~6月の国内パソコン市場におけるブランド別シェアで、上位3位までを、日本HP、レノボ・ジャパン、デル・テクノロジーズの外資系パソコンメーカーの3ブランドが、はじめて独占したことをレポートしたが、このとき、1位~3位までの差は0.9ポイントで拮抗する状況だった。
また、ここでは、2011年にレノボが、NECのパソコン事業を買収して以降、はじめてNECのシェアをレノボが追い抜くという事態となり、その点でも市場構造に大きな変化が生まれたタイミングだったといえた。
コロナ禍におけるテレワークなどの新たな需要の創出、GIGAスクール構想の導入が本格化に伴って、これまでとは異なる動きも見られ始めており、それだけに、2020年7月~9月までのブランド別シェアの行方に、これまで以上に注目が集まっていた。
IDC Japanやレノボ・ジャパンでは、ブランド別の数字は公開していないが、業界関係者に取材を進めると、2020年7~9月は、レノボ・ジャパンが、ブランド別シェアでも、トップシェアを獲得した模様で、これまで首位だった日本HPは2位となり、16.6%のシェアとなった。レノボ・ジャパンは、それを1ポイントほど引き離しているとみられる。
これまでは、レノボ・ジャパンとNECパーソナルコンピュータとのグループでは国内トップシェアだったが、はじめて、レノボブランド単独でも、国内トップシェアを獲得したことになる。NECの手を借りなくても、レノボのパソコンが、国内パソコン市場のリーダーとなったというわけだ。
また、2020年4~6月には、5位となっていたNECパーソナルコンピュータが3位に浮上。デル・テクノロジーズの12.4%を上回ったようだ。
2020年7~9月は、GIGAスクール構想の需要などをしっかりとつかみ取ったNECレノボの躍進が見られた四半期だったといえそうだ。
GIGAスクール構想で躍進するレノボ
では、レノボ・ジャパンの躍進は、なにが原因なのだろうか。
最大の要因は、やはりGIGAスクール構想で大きな成果を得たことだ。
同社では、いち早くGIGAスクール構想に対応した製品ラインアップとして、教育分野で実績があるWindows搭載モデルとともに、GIGAスクール構想で一気に存在感を増したChromebookもラインアップ。「WindowsとChromebookのバランス感と、それぞれの分野における強みを発揮できた」(レノボ・ジャパン)と自己評価する。
「レノボは、高校生以下のK-12市場においては、世界トップシェアであり、教育に力を入れているパソコンメーカーである。その実績から、WindowsとChromebookのいずれにも対応できるデバイスを、豊富にラインアップすることができ、GIGAスクール構想の仕様にもいち早く対応するかたちで製品を用意できた」と同社では語る。
2020年3月には、NTTコミュニケーションズと協業し、GIGAスクール構想に対応した「GIGAスクールパック」の提供を開始すると発表。Windows 10を搭載した「Lenovo ideapad D330」、Chrome OSを搭載した「Lenovo 300e Chromebook 2nd Gen」に、NTTコミュニケーションズのクラウド型教育プラットフォーム「まなびポケット」と「端末管理ツール」、東京書籍とレノボが共同開発した学校用プログラミング教材「みんなでプログラミング」、アドビシステムズのクリエイティブツール「Adobe Spark」を組み合わせて、1台あたり4万4,990円で用意した。
「NTTコミュニケーションズやSkyなどと、1年以上前から教育クラウドの必要性を議論し、準備を進めてきた。GIGAスクール構想に向けたソリューションをいち早く提案し、これが多くの教育関係者に賛同してもらうことができた」とする。
テレワークに最適化したパソコンを投入
2020年7~9月の成長はそれだけではない。法人向けパソコン市場や、個人向けパソコン市場でも高い成長を遂げている。これらの分野でハ、テレワーク需要などをしっかりと獲得。とくにノートパソコンの販売が好調だという。
「レノボ・ジャパン自らが、東京オリンピックの開催時期に向けて、テレワークを率先して導入し、テレワーク先進企業として注目されたこともあり、多くの案件をいただいた」とする。
「2015年から、レノボ・ジャパン自らが本格的にテレワークを行ってきた経験や知見を活かして、テレワーク用途に必要な機能を数多く搭載している。たとえば、ThinkPadシリーズでは、薄さや重量にもこだわり、バッテリ駆動時間などをもとにした可搬性を維持しながら、豊富な接続ポートを持つコンセプトを継承し、在宅ワークで外付けディスプレイや周辺機器に接続しての利用に最適な仕様にしている」とする。
12月8日に発表した13.0型モバイルノート「ThinkPad X1 Nano」は、ThinkPadとしてはじめて1kgを切る約907gを実現。堅牢性を維持しながら軽量化を達成し、高いパフォーマンス、早い起動スピード、長時間のバッテリー持続時間により、テレワークにも最適なパソコンと位置づけている。
レノボが、2020年5月に全世界を対象に実施した調査によると、テレワークで重視するノートパソコンの機能では、バッテリ持続時間が33%、スピ―ド/プロセッシング性能が25%、重量が18%といった順になっている。こうした市場の声にも耳を傾けながら、モノづくりを進めている点も見逃せない。
さらに、「ThinkPad X1 Foldのような先端技術から、リモート会議用のThinkSmart Hubといった製品まで取り揃えており、これらの豊富な製品群で、テレワーク時代に対する先見性があるとの評価がある」とする。
日本で開発、生産、サポートするレノボ・ジャパン
また、国内体制を強化した点も、躍進を支える大きな要素になっている。
「2019年後半から、『Japan made & support』というメッセージにより、日本で設計から生産、サポートまでを行なう体制を訴求してきた。外資系でありながら、日本企業と同等の信頼を獲得できた点もシェア拡大につながっている」。
レノボ・ジャパンでは、神奈川県みなとみらいの大和研究所でThinkPadの設計、開発を行ない、山形県米沢市のNECパーソナルコンピュータ米沢事業場で、ThinkPadのCTO(注文生産)を実施。2019年11月からはデスクトップパソコンのThinkCentreの生産も開始している。そして、群馬県太田市のNECパーソナルコンピュータ群馬事業場において、レノボブランドのパソコンの100%国内修理を実施。95%の修理を24時間以内に完了させている。
2020年度上期には、「ThinkPadは日本生まれ」というTV CMを展開。「レノボが単なる外資系ではなく、日本にもグローバル機能がある国際企業であることが再認識されている。ブランドスコアもアップしている」という。
また、「Japan made & supportは、いまや、お客様がレノボを買う理由となっており、販売店からも、『買った後のことを考えたらレノボ』という勧め方も増えている。今年は、米沢生産を、ワークステーションにまで拡大している」とする。
一方、個人向けパソコンについては、「過去最高の伸びを記録している」と前置きし、「家庭内でのリモートワークやリモート学習のニーズが高まるのにあわせて、家庭内におけるパソコンの利用が促進されている。そこに、レノボのパソコンが最適な提案をすることができた」とする一方、「レノボのゲーミングパソコンも、後発でありながら、すでにシェア1位のポジションにある」と自信をみせる。
「レノボ・ジャパンは、この2~3年渡り、『働き方改革』、『教育』、『ゲーミング』という3つの領域に注力してきた。また、レノボが従来からこだわってきた堅牢性、セキュリティ、プライバシー、可搬性といった点が、コロナ禍では再認識された。2020年は、そうした準備や取り組みの積み重ねが実を結んだといえる。さらに、社内スローガンでは、『Service led transformation』を掲げており、パソコンを「箱売り」するのではなく、パートナーと協力したマネージドサービス、DaaS(Device as a Service)、デプロイメントなどとのセット提案に力を注ぎ、多くの案件を獲得できた。これには群馬などの国内拠点の存在が大きい」とする。
だが、その一方で、「新型コロナの影響で、想定以上に、世界的にパソコンの需要が高まった。このため業界全体で部品が逼迫し、納品にあたっては迷惑をかけた部分もあった。この点は反省し、今後改善を図っていきたい」とも語る。
今回、レノボ・ジャパンは、四半期集計とはいえ、ブランド別ではじめてトップシェアを獲得したわけだが、今後、供給状態に問題が発生しなければ、初の年間トップも視野に入るポジションにある。
一度、奪取したレノボによるトップシェアを維持については、どんな姿勢なのか。そして、NECレノボ・ジャパングループでは、今後、レノボブランドを軸にしたパソコン事業戦略へと舵を切ることになるのだろうか。
レノボ・ジャパンでは、「日本は、レノボ社内において、国別で最もシェアの高い市場であり、競合他社を含めても、1つの国で、これだけのシェアを獲得している例はない。これは、レノボ、NEC、富士通の3つのブランドのすみわけが成功している証拠であり、それぞれの製品哲学や、それぞれのユーザーを大切にし、健全な競争をグループ内で行なってきた結果である」とし、「NECブランドのパソコンもGIGAスクール構想では、同様に高い評価を得ており、今後も開発、マーケティング、サポートなどに投資を行っていく」とする。
そして、「われわれのゴールは顧客満足度1位の獲得、維持であり、パートナーから最も信頼されるメーカーになることである。シェアはその結果。まずは、これらの項目を追求することに力を注ぐ」とする。
2020年度下期の国内パソコン市場では、企業向けパソコンの需要は安定するとみられる一方で、個人向けパソコンの需要は引き続き堅調だと予想されている。また、教育分野においては、小中学校向けのGIGAスクール構想の需要はピークを迎えるものの、今後は高校への導入が控えており、旺盛な需要が継続すると想定される。
そうしたなかで、レノボ・ジャパンでは、「企業向けに、サービス主導型のハードウェアの導入提案を、さらに加速させたいと考えている。これについては、今後発表したい」とする。
ハードウェアとサービスを一体化して、サブスクリプション型で提供するDaaSが、今後のパソコン業界における注目点だが、その分野に対しても積極的に投資をしていく考えを示す。
トップシェアをはじめて獲得したレノボ・ジャパンが、今後、日本のパソコン市場におけるリーディングカンパニーとしての役割をどう果たすのか。加えて、レノボ・ジャパンを中心にして、NECパーソナルコンピュータや富士通クライアントコンピューティングのこれからの一手はどうなるのか。半数近いシェアを持つ国内最大グループの動きにますます注目が集まることになりそうだ。