大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

インテルは50年先の未来を見据えて「信頼に足るアドバイス」を提供する

~鈴木新社長インタビュー、CPU供給不足は2019年内に確実に解決

インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木国正氏

 2018年11月1日付で、インテル株式会社の代表取締役社長に就任した鈴木国正氏が、就任後、初の単独インタビューに応じた。

 34年間にわたり、ソニー一筋ながら、さまざまな事業に携わってきた鈴木社長は、インテル社長就任1カ月半を経過したいま、「インテルは、モノづくり企業として、ソニーと重なる部分が多い」とも語る。そして、「ソニーでの経験は、インテルだけでなく、インテルのお客様、パートナーといった日本の企業にとってもプラスに働くことになる」と語る。

 インテルが目指すのは、「トラステッド・アドバイザー・ベースド・カンパニー」だ。その姿はどういったものなのか。就任1カ月半のインテル・鈴木新社長に話を聞いた。

VAIOにもいい影響を残したインテル

――1984年にソニーに入社以来、ソニー一筋だった鈴木社長は、これまでに、インテルにはどんな印象を持っていましたか。

鈴木氏:私がソニーで、最初にIT領域の仕事をしたのは、1990年のことです。Appleが設立した携帯端末メーカーのGeneral Magicに、ソニーが出資したさい、米国でプロジェクトーリーダーとして、この仕事に携わりました。そのときにはインテルとの接点はありませんでした。

 最初にインテルと接点を持ったのは、1999年に、VAIO事業本部GVD(Global VAIO Direct)のプレジデントに就任したときでしたね。

 1997年の「VAIO NOTE 505」を発売してから、バイオレットカラーのVAIOが、国内PC市場を席巻していた時期です。当時、VAIO事業を統括していた安藤さん(のちにソニー社長となる安藤国威氏)が、Global VAIO Directという事業部内カンパニーを設置したのです。

 それを統括する役割として、私がプレジデントに就任しました。ここでは、中国、アジアパシフィックへの進出が主要なテーマで、サンタクララのIntel本社の方々とマーケティング戦略などについて話し合う機会が増えていきました。

 また、より密接にインテルと仕事をしたのは、2006年のVAIO事業本部副本部長や、2009年に本部長に就任してからです。石田さん(現シャープ副社長兼東芝クライアントソリューション会長の石田佳久氏)や、赤羽さん(現VAIOフェローの赤羽良介氏)とともに、インテルと共同でプロジェクトを進めており、日本法人だけでなく、米Intelの事業部門トップとのミーティングも増えました。

 VAIOの出荷台数は、世界のプレーヤーから見れば、わずかな数でしたが、それでも、ほかのPCメーカーとは異なるPCを作るVAIO事業本部に対して、インテルの事業部門トップ自らが話を聞いてくれて、しかも、提案もしてくれる。

 当時のインテルの印象は、小さなPCメーカーであるソニーにも、本気になって、密接に付き合ってくれたというイメージが強く残っています。

 インテルには、多くの情報が集まりますし、自ら技術を持っていますから、今後の技術トレンドが、どの方向に行くかを判断できますし、VAIO事業本部にできないような大局的な見方をすることができる立場にありました。

 インテルの技術を使うことで、これだけ性能が高まるといったことはもちろん、起動が速くなる、バッテリ駆動時間が長くなる、もっと薄型のPCを作ることができるようになる、コストはこう変化していく――。そうした方向性についても、情報をもらうことができ、これが、VAIOのモノづくりにも大きな影響を与えました。

 VAIOは、早い段階からODMを活用してきた経緯があるのですが、この活用についても、インテルとの緊密な関係をもとに決断したものでしたし、薄型、軽量化という方向に踏み出し、その分野でVAIOらしさを発揮できたのも、やはりインテルとの関係を抜きには考えられません。CPUで圧倒的なシェアを持つ企業が、小さいPCメーカーに対しても、上下関係がないパートナーという立場で、緊密な関係を構築してくれたことが、私には強い印象として残っています。

 こうした姿勢が、インテルの企業文化だと感じました。業界全体が伸びるためには、どうしたらいいのかという考え方が、会社全体に根づいているからではないでしょうか。そこにインテルならではの文化といえるものがあります。

鈴木氏がVAIO事業本部 副本部長時代に発売されたVAIO type G

――インテルに入ってみて、イメージは変わりましたか。

鈴木氏:その点では、思ったとおりの企業でした。私は、ソニー時代に、VAIOのほかにプレイステーションやソニーモバイル、ソニー・エンタテインメントで、トップかナンバー2を経験し、最後はソニー生命まで担当しました。また、ソニーアルゼンチンの社長時代には、さまざまな商材を扱っていましたから、ソニーのなかでも、さまざまな事業を経験しているほうです。

 そうした経験を持つ私ですが、インテルに入ってみると、7割程度は自然に受け入れることができましたよ(笑)。IT業界の経験がある私にとっては、業界特有の共通言語も理解できますしね。その一方で、3割は新鮮に感じるところがありました。

――全体的に、ソニーに近いところがあるのでしょうか。

鈴木氏:製造を行なうマニュファクチュアラーであるという点で、インテルとソニーは一緒です。じつは、私がインテルという会社に魅かれたのは、その点にあります。

 この点は、サービス系企業とはかなり違う部分だと感じています。メーカーは、技術に裏付けされた製品があって、それを期日どおりに、品質が高く、正確なモノとして、市場に供給する役割をになっており、その姿勢がしっかりと根付いています。

 インテルは、世界最高峰の技術、高い設計能力と高い製造能力を持ち、それによって半導体を世のなかに送り出している企業であり、それを支える技術者がいる。そして、コスト意識も高い。そうした点にソニーとの共通的な文化を感じます。

――インテル入りを決めた理由はなんでしょうか。

鈴木氏:2018年3月にソニー本体から正式に退き、2018年4月から、ソニー生命の理事の立場で、アドバイザーの仕事をしていました。ソニー生命としても新たに海外展開を視野に入れるなかで、私の経験が役立つと考えていましたし、そうした仕事に魅力を感じていました。

 インテル社長のお話は、ソニー生命で仕事をしているときにいただきました。じつは私自身、この話にはかなり前のめりでした(笑)。それには理由があります。

 ソニー生命の仕事は、最初は2~3年やることになるかな、と思っていたのですが、進めていたプロジェクトも、半年間である程度目処がつきそうなところまできていましたし、私自身、直下に大きな組織を持っていたわけではないですから、1つの区切りとしてはいいタイミングだったと言えます。ソニー生命の社長からは、かなり驚かれましたが……(笑)。

 一方で、インテルに対しては、最高峰の技術を持つ会社であることに加えて、つねに中立的な立場を取れる企業であるという点に魅力を感じました。なんと言っても、「シリコンバレーの中心にいるシリコン企業」ですからね(笑)。

 半導体は、世の中のあらゆる企業とつながることができます。しかも、いまではPC業界にかぎらず、データを中心とした取り組みに枠を広げ、多くの企業や政府、自治体でも、インテルといえば、必ず「門」を開いてくれます。

 そこには、インテルは技術的に圧倒的に強いものを持っているという理由だけでなく、自らの知見やノウハウをもとにして、これからどうなるのかといったことをアドバイスしてもらえるという期待感や、一緒にビジネスに拡大できるという期待感があります。

 それは、私がソニー時代に感じていたことであり、そこにインテルの強さを感じています。インテルは、多くの企業の方々とお話をできる立場にあり、ほかに類がない立場を持った企業であると言えます。

 インテルでは、Amazon、Facebook、Google、Microsoft、Alibaba、Baidu、Tencentをスーパー7と呼んで、これらのプラットフォーマー企業と緊密な関係を持っていますが、世の中の主要な企業のすべては、これらの企業と協業しているか、競合しているかという立場にあります。

 一方で、デジタルトランスフォーメーションが不可欠となっているところで、こうしたプラットフォーマーの動きをどう捉えるかということが重要になっています。そうした世の中の大きな流れにおいて、中立的な立場にいることができるのが、インテルならではの特徴だといえます。

今後の目標と課題

――鈴木社長がこれまで培ってきたソニーでの経験は、インテルの社長としてどう活かすことができますか。

鈴木氏:インテルは、BtoBの会社です。私は外から見ると、コンシューマ製品のイメージが強いようですが、ソニーモバイルコミュニケーションズの社長兼CEOとしては、キャリア各社とのビジネスを行なってきましたし、ソニー・コンピュータエンタテインメントの副社長時代には、プレイステーション向けゲームを開発するデベロッパ各社との連携が重要な仕事でした。また、1994年から1999年まで務めたソニーアルゼンチンの社長時代には、放送局向けをはじめとしたBtoBも担当領域として経験してきました。

 振り返ってみると、取り扱っている最終製品は、BtoCが多くても、ソニー時代の半分以上の期間、BtoBに関わってきています。ただ、ソニーのBtoBとインテルのBtoBは性質が異なりますから、その点では、これから学ばなくてはならないことはたくさんあります。

 さらにソニー時代には、PCからスマートフォン、タブレットへの大きな流れの変化をリードしたり、コンシューマ分野におけるソニーの認知度が低くなっていることを打開するために、モバイルやコンテンツとの組み合わせなど、さまざまな仕組みの変革に取り組んだり、あるいはログを活用した新たな提案といった、数々のトランスフォーメーションを実行してきました。

 いまインテルは、PCセントリックから、データセントリックの企業へと生まれ変わる、デジタルトランスフォーメーションのなかにあります。こうしたトランスフォーメーションにおいても、私の経験を活かすことができると思っています。

 社長就任後、多くの企業の方々と話をして感じるのは、インテルと付き合ってきた立場を知っている私がインテルの社長に就いたことで、双方の立場を理解しながら、対話をしてくれるという期待感ですね。

MWC 2014にて「Xperia Z2 Tablet」を紹介するソニーモバイルコミュニケーションズ社長兼CEO時代の鈴木国正氏

――これまでの1カ月半は、どんなにことに力を注いでいましたか。

鈴木氏:社外6割、社内4割というような時間配分ですね。多くのお客様、パートナーを訪問しましたし、エンドユーザー向けのセミナーに出席して、データセントリック時代のデジタルトランスフォーメーションについても話をしました。

 社内向けには、3回のオープンフォーラムを開催したり、人事部門主催のグローバルイベントにビデオ会議でパネラーとして参加して、私のこれまでの経歴や経験をお話したりといったこともやっています。

 私はソニー時代から、米国の不動産業界で言われる「ロケーション、ロケーション、ロケーション」をもじって、「コミュニケーション、コミュニケーション、コミュニケーション」と言ってきましたが(笑)、インテルの社長としてもこの姿勢は崩しません。コミュニケーションは重視していきます。

――社長就任から約1カ月半を経過して、インテル日本法人の課題はどんなところにあると感じていますか。

鈴木氏:もっと情報を発信していく必要があると感じました。今後、インテルという会社がどんな会社になるのかということを示したいですね。

 多くの人が、「Intel Inside」という言葉を知っていて、PCのCPUを作っている企業であるという理解も進んでいます。しかし、PCセントリックの企業ではない、いまのインテルはどういう企業であるのかという理解はまだ進んでいません。

 インテルという会社は、あらゆるイノベーションにおいて、それを促進したり、支援したりすることができる、イノベーションの基礎をになう企業であるということをもっと知ってもらいたいですね。

 インテルは、50年の計で未来を見ていく企業です。これは、米本社自らがこれから発信していくメッセージとなります。

 インテルは、そうした視点で、世のなかを捉えている企業であることを、もっと示していく必要があります。

――今後、インテルの日本法人はどんな役割をはたすことになりますか。

鈴木氏:かつてのPC市場においては、日本のメーカーが強く、存在感がありました。しかし、いまでは、独立した日本のPCメーカーが少なくなりました。

 その結果、インテルの日本法人から直接取引するというPCメーカーが少なくなったのは確かです。そうしたなかで、日本においては、PCの市場をどう活性化するかという役割が重要になってきています。

 PCを売るためにはどうするかということだけでなく、どうしたらPCユーザーに満足度を提供できるか、PCの新たな使い方や価値をいかに提供することができるかといったことにも、これまで以上に取り組んでいく必要があります。

 また、データセントリック事業という点でも、いかに日本国内におけるクラウドのコンサンプション(消費)を高めるか、それを促進するにはどうするか、といった役割が求められることになります。

 どんな使い方があるが、それを利用することで、いかにデジタルトランスフォーメーションを進めるのか、といったことを提案していくことも重要ですし、5GやIoT、メモリといった組み合わせによって、どんな世界が訪れるのかといった点も、積極的に提案をしていきます。

 じつは、いまでも日本におけるインテル製品の消費は、米国、中国についで3番目です。日本の企業は、フォーチュン500社のうち50社を占めており、世界においてもそれだけ存在感がある市場です。

 日本においては、フィールドエンジニリングチームを設置し、お客様の声を拾い、技術や製品に反映できる体制を取っています。日本独特の品質に対する期待などを反映させることは、インテルの技術や製品の底上げにもつながります。

 先ほどお話したように、PCセントリックの時代において、VAIOのモノづくりに大きな影響を与えたように、インテルのアドバイザーとしての役割はきわめて重要なものでした。データセントリックの時代になり、アドバイザーとしての役割は、これまで以上に重要なものになってきています。

 データは、いかに速く動かすか、いかに効率的に収集して蓄積するか、大量のものをいかに迅速に処理するかということが、これから大切な要素になります。ここに対して、インテルは、CPUやメモリの力などを使いながら、データのあらゆる領域で貢献できます。

 ただし、これまでは、CPUやメモリの性能向上によって、その結果、工場運営におけるコストダウンなどの成果につながるといったことが多かったかもしれません。しかし、データセントリックの時代においては、データを活用することで、課題解決やビジネスモデルの変化を提案し、その裏付けとしてCPUやメモリの性能向上があるということになります。

 つまり、もっと多くの課題解決に関する経験値を蓄積して、アドバイザーとしてカバレッジする幅を広げていく必要があります。これも、インテル日本法人として取り組まなくてはならない重要なポイントです。

インテル代表取締役社長就任会見時の鈴木国正氏(中央)。左は米Intelセールス&マーケティング統括本部 副社長兼グローバル・マーケッツ&パートナーズ本部長 シャノン・ポーリン氏、右は前任の代表取締役社長であったスコット・オーバーソン氏

全世界的なCPU不足の原因

――最近、インテルを取り巻く環境のなかで大きな課題は、CPUの供給不足が顕在化していることです。この理由はなんでしょうか。また供給不足が解消するのはいつ頃になりますか。

鈴木氏:先進国も新興国も含めて、世界的に、PCやデータセンターにおいて、CPUに対する需要が予想を上回っているのが原因です。とくにPC市場の回復が顕著で、そこに対する読みが甘かったという点は反省点です。

 日本のPC市場においても、前年実績を大きく上回る伸びを見せていることからも、その需要の強さは裏付けられます。日本では、働き方改革が追い風になり、性能が高いPCを、1人1台環境で利用するという動きが出てきています。こうした強い需要が、結果としてCPUの品不足につながっています。

 現行の14nmの生産キャパシティについては、先ごろ、10億ドル(約1,130億円)を、米国とアイルランド、イスラエルの工場に追加投資することを発表しました。インテル全体では、年間合計で150億ドル(約1兆6,900億円)を投資することになります。

 10nmの開発についても、量産に向けた準備が進んでいます。2019年の年末商戦までには確実に供給不足が解消することになります。

――日本では、2020年1月のWindows 7のサポート終了に加えて、2019年10月の消費増税前の駆け込み需要が見込まれます。そのタイミングですと、供給に不安が残りますが。

鈴木氏:年末商戦までに供給不足が解消するということは、秋口には、PCの生産にもある程度の目処が立っている必要があると言えます。

 日本では、その前から需要が期待されますから、そうした事情は、本社側には、しっかりと伝えていきます。

オレゴン州ヒルズボロのIntelのプラント。Intelは年内に14nm製造設備へ10億ドルを追加投資すると発表している

――インテルでは、今後、「トラステッド・アドバイザー・ベースド・カンパニー」になるという方針を打ち出しました。これは、なにを意味しますか。

鈴木氏:この言葉は、グローバルで使っている言葉ですが、インテルの日本法人に当てはめると、3つのポイントに集約されると思います。

 1つは、これまでにお話したように、インテルの立場だからこそ、持てる知識や、周りから信用されるというポジションがあります。これを日本の企業に対して活用し、アドバイザーとして、知見やノウハウを提供していきたいという点です。

 2つ目には、もともとインテルの企業文化が、産業振興や社会貢献のためにという意識が強いということです。標準化団体への取り組みも同様に積極化しています。これもトラステッド・アドバイザーになるための要素であり、こうした姿勢をもっと訴求したいですね。

 さらにインテルは、世界最高峰の技術を持った会社であり、テクノロジそのものが信頼できるものであり、しかも提供する技術の範囲が、コンピューティングからコミュニケーションまで幅広い。そして、これらの技術を継続的に提供することに力を注いでいます。

 こうした3つの強みを活かして、トラステッド・アドバイザーとしての役割をさらに高めていきたいですね。

 日本の企業がデジタトランスフォーメーションに取り組まざるを得ない環境にあること、グローバルで活躍するプラットフォーマーの活用が不可避になっている環境のなかで、インテルのトラステッド・アドバサイザーとしての役割は、これからもっと重視されることになるでしょう。

 日本の企業が強くなり、日本の産業が強くなるというなかで、結果として、インテルの製品が数多く使われているという環境を作り出せればいいと考えています。そこに、「トラステッド・アドバイザー・ベースド・カンパニー」で目指す姿があります。