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パナソニック CNS社 樋口社長が初の事業方針説明

~レッツノートとタフブックは「個客」対応を強化

パナソニック コネクティッドソリューションズ社 樋口泰行社長

 パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長は5月30日、東京・汐留で開催されたアナリスト向け説明会「Panasonic IR Day 2017」にて、2017年度の事業方針などについて説明を行なった。

 樋口社長は、同カンパニーが目指す基本姿勢を「現場お役立ちのトータルインテグレータを目指す」としたほか、「ソリューションビジネスの約9割が首都圏に集中している。ここでの運動量を上げなくてはいけない。もはや『門真発想』では限界がある」とし、2017年10月を目標に、同カンパニーの本社機能を、現在の大阪府門真市から東京・汐留に移転、集約する考えを示した。樋口社長も東京を中心に活動することになる。

カンパニー本社機能を東京に集約

 日本マイクロソフトの会長から、2017年4月1日付けでパナソニック入りした樋口氏が、自らが担当するコネクティッドソリューションズ社のカンパニー社長として事業方針を説明したのは、今回が初めてのことになる。

 大阪大学を卒業後、パナソニックに入社。12年間勤めた後に、日本ヒューレット・パッカードやダイエー、日本マイクロソフトの社長などを歴任。パナソニックには25年ぶりの復帰となるが、「25年ぶりに戻って馴染めるかなと心配していたが、出社初日の印象は、ずっと前から在籍していた感じであり、違和感はなかった。改革を進める立場としては、本当は、違和感があったほうがよかったのかもしれないが」としながら、「東京に本社機能を移すのは、お客様の近くにいることを優先するため」と発言。

 「コンシューマユーザーは、なにがほしいのかを言ってくれないので、スティーブ・ジョブズのような人が考えて、当たれば当たる。しかし、BtoBのユーザーは、自分たちが困っていることを言ってくれる。テクノロジアウトではなく、顧客起点で要望を聞き、そこから我々はなにをすればよいのかを教えてもらうつもりだ。これは原始的なやり方だが、全員が顧客の近くに行くことで、指導してもらい、それによって変わっていくことができる。パナソニックには、多くの製品、多くの技術があるが、どれをやるのか、どれをやめるのかといったことも顧客の声からわかる」などとした。

 また、「大阪の製造事業部の発想では、マインドチェンジや戦略転換を行なうには重たい感じがする。大阪の会社よりも、東京の会社のほうが自らの立場をベンチマーキングしやすく、フレームワークも近代化しやすい環境にある」とし、東京を起点にして、同カンパニーの構造改革を進める姿勢も示した。

 だがその一方で、「大阪の柔らかいカルチャーは特徴。とにかくやってみるという気質がある。そして、やる気になったときの馬力はある。今、世間で話題になっている会社はどうも好きになれないが、パナソニックのことは好きだという声を多く聞いた。創業者の存在もあり、さらに経営哲学もしっかりしている」などと述べた。

3~4年後に、新たな成長の柱を創出

 コネクティッドソリューションズ社には、「レッツノート」や「タフブック」を担当するモバイルソリューションズ事業部のほか、航空機向け機内エンターテインメントシステムを担当するアビオニクスビジネスユニット、高輝度プロジェクタなどを活用し、スタジアムやテーマパークでの空間演出ソリューションを提供するメディアエンターテインメント事業部、生産ラインの管理システムや小売店での店舗業務を自動化するプロセスオートメーション事業部などがある。

 樋口社長は、「B2Bビジネスにおける、しっかりしたビジョン、変革の方向性を作ることが、私に課せられた役割である。この方向に向けて、一歩ずつ組織力を構築し、変革を力強く推進したい」とする一方、「戦略策定や組織変更の繰り返し、いつまで経っても変わらないということは避けたい。3~4年後に、新たな成長の柱が出てきたと言われるようにしたい」と抱負を述べた。

2021年度には営業利益10%超を目指す

 コネクティッドソリューションズ社の2017年度の業績見通しは、売上高が1兆1,030億円、営業利益は690億円、営業利益率6.3%を目指す。

 「プロセスオートメーション事業の移管や、ゼテスの新規連結効果のほか、ソリューション事業の増加により増収を目指す。また、前年度には熊本地震などの特殊要因の影響があったが、これがなくなり、増益を目指す」とした。

 また、2018年度の業績見通しは、売上高が1兆1,860億円、営業利益は880億円、営業利益率7.4%を目指すとした。

 「事業ポートフォリオの見直しは常に必要。また、コンサルティング、サービス、コアデバイスのインデクレーションによるレイヤーアップによる収益向上を目指す。レイヤーアップの余地が少ない事業もあるが、そこは製品、地域という観点から、立地のいい取り組みを行なう。2021年度に向けて、選択と集中の実践とともに、収益力を持続的に高めることに取り組む。

 事業改革としては、ハードウェアの継続的な差別化による収益確保、ソリューションレイヤーアップ・サービス体制の強化、顧客密着と新しい技術導入による次の柱の創出に挑み、利益率10%超の高収益事業体を目指す。ソリューションビジネスの基本は、よい顧客と一緒になってソリューションを考え、それを横展開していくこと。気がついたら、同じ業界では同じものを使っていた、といった環境を目指す」とした。

5つの事業で展開するCNS社

 レッツノートをはじめとするモバイルソリューションズでは、2018年度に、売上高で2,238億円を目指し、2016年度までの年平均成長率は10%増と高い成長を見込む。2017年から、ベルギーに本社を置く物流支援企業のゼテスを新規連結する効果が大きい。

 「ゼテスは、売上げの約40%がリカーリング事業。安定した成長が見込める」とした。ここでは、工場でのラベリング、倉庫での音声ピッキング、運送での配達確認、店舗での在庫管理などを、クラウドを活用して、現場の全工程を可視化し、サプライチェーンソリューションによって、事業拡大と顧客対応強化を図るという。

 また、レットノートなどについては、堅牢性とカスタマイズの組み合わせによる「個客」対応により業界への浸透を図る一方、堅牢デバイスとしては最軽量モデルとなる製品投入による販売の最大化や、OPEX型の新たなビジネスモデルの強化にも取り組むという。

 2016年度には、北米のPC事業の建て直しに取り組んだ成果も、2017年以降に反映されるとしている。

 航空機向けの機内インフォテインメントシステム、通信、リペアメンテの3本柱で展開するアビオニクスでは、2018年度に2,931億円の売上高を見込み、年平均成長率は2%増。

 「旅行者は増加し、航空機も増加しているが、生産には波があり、コモディティ化が進み、単価が減少しており、大きく伸びる事業ではない。だが、急激に減少するビジネスでもない。ビジネスクラス以上では、バックシートエンターテインメントシステムの需要は継続しており、エコノミークラスでも、BOYDの流れによって、バックシートに機器を取りつけるという流れもある。今後は、次世代機内システムとしてNEXTプラットフォームを開発。4KやナチュラルUI、スマホやタブレットとの連携、衛星と結んだコネクテッドエアクラフトの提案を行なう」という。

 2017年度のアビオニクスは、減益の見通しだが、「2018年度には増益に戻る」とした。

 プロセスオートメーションは、昨年(2016年)度までオートモーティブ&インダストリアルシステムズ社傘下にあった、ファクトリーシリューション事業を移管したもので、樋口社長がパナソニックで最初に配属された溶接機事業も含まれる。

 2018年度には1,854億円の売上高を目指し、年平均成長率は11%増となる。「ファクトリーだけでなく、現場でのフルプロセス、ライフサイクル全体に価値を提供することから、名称をプロセスオートメーションに変更した」とし、RFIDやレジロボを活用した店舗業務の自動化など、非製造業への展開も積極化するという。

 メディアエンターテインメントでは、2018年度に1,429億円の売上高を目指し、年平均成長率は7%増を見込んでいる。「映像、音、光を軸としてソリューション提供へリソースをシフト。オリンピックでの演出ノウハウを生かした空間演出分野で、感動体験を提供し、順次、事業領域を拡大する」という。テーマパークやIR/MICE、スポーツスタジアムなどをターゲットに展開。高輝度プロジェクタでのシェアナンバーワンの堅持とともに、スタジアムに適したハイスピードカメラなどの業界特化型コア商材の強化に取り組む。

 また、パナソニックシステムソリューションズジャパン(PSSJ)では、2018年度に売上高3,200億円、年平均成長率5%増を見込む。ETCや防災無線などの「公共」、自動化、次世代店舗ソリューションの「物量・流通」、セキュリティ、広告サイネージなどの「社会(交通、エネルギー、通信、放送など)」の重点3業界の攻略とともに、オリンピックおよびパラリンピック関連需要の獲得に挑むという。

現場お役立ちのトータルインテグレータを目指す

 樋口社長は、「単品ハードは市場縮小とコモディティ化との戦いになり、それに伴って業績も縮小する。社会的課題や経営課題など、お客様が持つ本当の困りごとから逆算して、ソフトウェア、サービス、ソリューションの組み合わせにより、価値を提供することが必要である。パナソニックの総合力からすれば、パナソニックにしかできないことも多い。期待する声が大きいことを肌で感じている。そのためには、新たな要素技術とソリューションを組み合わせるだけでなく、社内に向けては、組織横断的に人がつながる大切さと、顧客につながる大切さを訴えている。顧客に寄り添わないと解決ができない。ぜひパナソニックに相談したいと思ってもらえる会社になることが、コネクティッドソリューションズ社が目指すところである」などと語った。

 さらに、「現場お役立ちのトータルインテグレータを目指す」とし、「これは一般的なシステムインテグレータとは違う。パナソニックが持つ広いデバイス、ソフトウェア、アプリケーション、サービスを活用して、新たな価値を生み出すことになる。カンパニーのなかに、ソフトウェアやIoTを突き詰める組織を設置し、組み込み型ソフトウェアや、ホリゾンタルなソフトウェアを一括で開発する体制も整える。画像認識精度では、NECが世界最高と思っている人が多いが、パナソニックの技術がNIST(アメリカ国立標準技術研究所)でもっとも高い評価を得ている。また、無線・アンテナ技術、光学技術、自動化技術、高性能集音・音声識別技術、IoT機器向けセキュリティ技術、測定可視化技術は、業界トップクラスである。聞けば聞くほど、パナソニックの総合力に対する期待が大きいことがわかる。もうパナソニックの総合力に頼るしかないという状況にしたい」とした。

マイクロソフトともパートナーシップ?

 一方で、パナソニックが展開するクラウドサービスにおいては、「マイクロソフトやアマゾン、アリババといったパブリッククラウドプロバイダーと戦っても勝ち目がない。そこで競争するつもりはない。AIエンジンへの取り組みも同じである。その点では、これらの企業とIT分野でパートナーシップをしていくことになる。ここでは、ガラパゴスの発想ではなく、世界の景色を見ながらやっていく」としながらも、「以前、在籍していたからわかるが、これらの企業が逆立ちしてもできないのが、ラストワンマイル、ラストツーマイルといったところ。デバイスの提供、ソリューション提案、そして日本における信頼感という点は、絶対に真似されない部分である。ここに取り組んでいく」と、パナソニックが目指す「現場お役立ちのトータルインテグレータ」の意味を説明した。

 また、課題としては、グローバル展開を挙げ、「海外では強くない、実績がない、仕組みがないという、ないない尽くしである。日本のサクセスを横展開する。初心に戻って、海外展開を真剣に考えたい」と述べた。

 樋口社長は、「外資系企業のように、簡単に人を辞めさせて、人を変えて、会社を変える企業ではない。まずは、トップがマインドチェンジしなくてはいけないが、それでも変えることは難しい。だが、パナソニックは、社員のスキルチェンジができる会社がある。スキルチェンジをして、エンパワーして、外部からも学ぶ。M&Aも1つの手段になる」と語った。