大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

20周年を迎えたレッツノートの生産・販売現場を見る

~Panasonic StoreではLTE標準搭載へ?

レッツノート20周年記念モデル「レッツノート RZ5シリーズ ジェットブラックモデル(CF-RZ5QFXQP)」

 パナソニックのレッツノートが発売から20周年を迎えた。6月には、レッツノート20周年記念モデルとして、「レッツノート RZ5シリーズ ジェットブラックモデル(CF-RZ5QFXQP)」を発売。8月には、兵庫県神戸市のパナソニック神戸工場において、同製品の購入者を対象に、レッツノートの組み立てが体験できる「Panasonic Store工房」を開催するなど、20周年企画が相次いでいる。

 このように、20年の節目に合わせて、レッツノートの製造現場や販売現場の取り組みにも力が入っているところだ。製造現場である神戸工場、そして、直販サイトを展開する販売現場のPanasonic Storeにおける取り組みを追った。

レッツノートは発売20周年を迎えた

顧客密着型の工場を目指す神戸工場

 パナソニックのレッツノートは、兵庫県神戸市の神戸工場で生産されている。神戸工場は、1990年6月に、ワープロ専用機の専門工場としてスタート。操業以来、26年の歴史を持つ。

 1996年には、レッツノートの第1号機となる「AL-N1」を発売。今年(2016年)20年目を迎えた。この製品の登場以来、レッツノートは神戸工場で生産され続けており、神戸工場はレッツノートにとっての生まれ故郷となる。

パナソニック神戸工場

 レッツノートの特徴は、発売当初から、「ビジネスモバイル」に特化してきた点だ。

 当時はまだ「モバイル」という言葉が一般化していなかった時期であったが、軽量化や長時間バッテリ駆動という相反する要件を高いレベルで実現。さらに、その後の進化においても、高性能化を追求する一方で、モバイル用途に求められる堅牢性を実現することによって、ビジネスモバイルという領域を確立。この市場においては、12年連続でナンバーワンシェアとなっている。

 こうしたレッツノートの機能的な進化を生産面からサポートするとともに、さまざまな顧客からの要求に応える形で成長を遂げてきたのが神戸工場だ。

 モバイル環境での厳しい使用にも耐えることができるように、加圧振動試験や防水試験、熱衝撃試験などを行なうことができる各種試験設備を導入。その一方で、独自の品質管理システム「KISS(Kobe Intranet Solution of Super-Production)」により、部品ごとの品質を管理したり、製造プロセス全体を管理したりといったことで、高い品質水準を維持。そのほかにも、2,000種類以上に及ぶカスタイズにも柔軟に対応。一品一様のモノづくりができるようにしている。

一品一様に対応した生産ができるようなっている
過酷な試験を行なっているのも神戸工場の特徴

 このように、厳しい品質への要求や、幅広い顧客ニーズにきめ細かく対応できる体制を整えているのが、神戸工場の特徴なのだ。

 パナソニック ITプロダクツ事業部プロダクトセンター・清水実所長は、これを、「お客様密着型のモノづくり」と表現する。そして、この姿勢は、AVCネットワークス社が中心となって推進しているパナソニックのBtoBソリューションの目指すべき1つの姿ともなっている。

パナソニック ITプロダクツ事業部プロダクトセンター・清水実所長

 顧客の声を聞いて、それを実現するためのパナソニックならではの付加価値を提供するというのが、同社が目指すBtoBソリューション。「神戸工場は、そのトップランナーの位置付けを担いたい」と語る。

神戸工場が目指す「ショップ工場」とは?

 レッツノート発売から20年目の節目を迎えて、パナソニック ITプロダクツ事業部プロダクトセンター・清水実所長が打ち出すのが、「ショップ工場」という考え方である。今年から、清水所長はこの言葉を使い始めた。

 「神戸工場が目指している『ショップ工場』とは、スーパーパナソニックショップのように、その存在があることによって、購入する人たちや、使う人たちに安心してもらえる、『街のでんきやさん』のようなもの。工場でありながらも、そうした役割を担いたい」とする。

 工場は、製品を作るのが役割。だが、神戸工場では、モノづくりそのものを製品の差別化策の1つに位置付け、それをもとに、レッツノートを選択してもらうことができる役割を担えると考えている。そこに、「ショップ工場」という考え方の意味がある。

レッツノート20周年記念モデルを持つ清水所長

 「神戸工場でレッツノートを作る場を直接見ていただくことで、レッツノートの品質の高さや、ビジネスモバイルPCとしてのこだわりを知っていただくことができる。それによって、レッツノートを選んでもらい、安心して利用していただくことができる」とする。

 直営の自社工場を擁し、しかも、国内で生産するという立地も、この「ショップ工場」の実現には欠かせない要素と言えるだろう。

 神戸工場では、2015年度実績で、約1,800人もの見学者が訪れたという。さらに、2016年度上期(2016年4~9月)は、前年比1.5倍で推移。今年度は年間3,000人近い見学者が訪れることになるという。

直販サイト「Panasonic Store」で20周年モデルを発売

 一方、販売現場となる直販サイトのPanasonic Storeでも、レッツノート発売20周年の節目に合わせて、各種施策に力が入る。

 Panasonic Storeでは、レッツノート20周年記念モデル「RZ5シリーズ ジェットブラックモデル(CF-RZ5QFXQP)」を用意。6月から発売した。

 さらに同モデルを購入した人を対象にしたPanasonic Store工房を、神戸工場で8月に開催。購入者が自ら購入したPCを組み立てるという、これまでにないイベントを企画した。

 夏休み期間に、親子を対象にした組み立て教室を実施したことはあったが、同サイトでの購入者を対象にした組み立て教室は初めてのことであり、このイベントは、Panasonic Storeを運営するパナソニック コンシューマーマーケティングが主催した。

 同工房には、レッツノート20周年記念モデル「RZ5シリーズ ジェットブラックモデル(CF-RZ5QFXQP)」を購入した19人が参加。約2時間30分をかけて、自らが購入したPCを組み上げた。

 パナソニックコンシューマーマーケティング eコマースビジネスユニット商品部PC企画課・東郷隆則課長は、「この企画は昨年(2015年)から検討を進めてきたもの。直販サイトという性格上、これまではダイレクトに顧客に繋がることができていなかったという反省があった。20周年というきっかけに、こうしたリアルなイベントを開催することで、お客様から直接意見を聞いたり、商品に対する我々の思いを直接伝えたり、神戸工場による品質への徹底ぶりを知ってもらえる場が実現できたと考えた」とする。

パナソニックコンシューマーマーケティング eコマースビジネスユニット商品部PC企画課・東郷隆則課長

 Panasonic Storeを長年利用してもらったことに対する感謝の気持ちを直接伝える機会として、さらに、品質へのこだわりを、神戸の地で実感してもらう場として、今回のイベントを企画したというわけだ。

 清水所長も、「これも、ショップ工場に通じる取り組みの1つ。神戸工場を見ていただき、レッツノートのこだわりを知っていただくことができる」と異口同音に語る。

 工場を公開することで、「見る工場」を実現したが、今後は、「体験・体感する工場」へと進化。そうしたショールーム的な役割を持った工場が、これからの神戸工場ということになる。今回のPanasonic Store工房の開催は、その考えを具現化するものになったと言える。

 Panasonic Store工房への参加者の反応も良かったようだ。パナソニックコンシューマーマーケティングの東郷課長は、今回のイベントの実績をもとに、「今後も、なんらかの形で、購入者と直接繋がるイベントを企画していきたい」と語る。

 今後、Panasonic Storeと、購入者の接点を増やす企画が相次ぎそうだ。

神戸工場の中にあるPanasonic Storeの生産エリア

ソリューション提案の強化と生産効率化を目指す

 操業から26年目に入った神戸工場では、2016年度において、いくつかの取り組みを強化している。

 1つは、モバイルPOSの生産強化である。パナソニックは、決済端末では国内ナンバーワンのシェアを持つ。その実績で培ったPOSの開発、生産技術に加えて、タフブックで培った防水性、堅牢性を実現するための技術を活用。今後、モバイルPOSの生産を加速させる考えだ。神戸工場では、1.5mの水没検査などを行なえる環境を実現。これもモバイルPOSの開発、生産に活用することになる。

 2つ目は、ソリューション対応の強化である。

 神戸工場の特徴の1つに一品一様のモノづくりがある。顧客が要求する仕様に合わせて、柔軟なカスタマイズ対応を行なうことが可能であり、カラーキーボードの選択やメモリの増設、ストレージの容量拡大のほか、指紋認証センサーの組み込みや、バーコードリーダ、ICカードリーダなどの組み込みも行なっている。さらに、個別企業の仕様に合わせた単体ごとのネットワーク設定なども可能だ。同社によると、レッツノートのコンフィグレーション比率は全てに3割にまで上昇。また、タフブックでは50%にまで高まっているという。

 タフブックでは、車載用のアタッチメントの装着などが増えているほか、業界初となる1周波RTK-GNSSを搭載することで、衛星と結んで豪雪地帯での除排雪作業支援やスマート農業を支援するタフパッドを開発するといった特定用途提案の動きも始まっている。

 一方で、生産現場の改善にも意欲的に取り組む。今年の新たな取り組みとして挙げられるのが、面積あたりの効率化だ。神戸工場では、一品一様の生産を実現するために、ラインセル生産方式を採用。部品や工具を配置した屋台のような作業台を複数設置。それぞれのセルでは、1人の作業者が複数の工程を担当し、作業台ごとに部品および工具を交換するだけで別の製品を生産できるのが特徴だ。神戸工場は、この生産方式によって、多品種変量生産を可能としている。

 今年に入ってから神戸工場では、1人あたりの作業スペースを従来の3分の2程度となる肩幅サイズに縮小。隣の人とぶつからないように千鳥構造の配置で作業スペースを確保することで、面積当たりの生産効率性を高めるとともに、今年春から実施している増産体制にも対応できるようにしたという。

Wonder linkを活用した新たな提案も

 販売現場であるPanasonic Storeでも、新たな取り組みを開始する。

 Panasonic Storeでは、1人1人の要望に応える形で製品を提供できる体制を維持し続ける一方、Panasonic Storeならではの特徴を活かした販売施策に力を注ぐ考えだ。

 その1つに挙げられるのが、パナソニックのWonder linkを活用した新たな提案だ。Panasonic Storeでの販売に限定すれば、レットノートの総販売台数のうち、LTEモジュールの搭載比率は、実に約5割にまで達しているという。

 こうした実績とともに、Wonder linkの強みを活かし、来年(2017年)度以降は、LTE搭載を全モデル共通の標準仕様に位置付け、Panasonic Storeで購入すれば一定期間はWonder link を無償で利用できるようなサービスを付加した製品の販売を検討しているという。

 さらに、2017年は、2002年9月のPanasonic Storeによる販売開始から15年目の節目を迎える。これを記念した製品が用意されることも期待したいところだ。

女性の購入比率が向上するレッツノート

 パナソニックコンシューマーマーケティングによると、Panasonic Storeにおける2016年度の上期販売実績は、2桁成長を遂げているという。

 中でも注目したいのが、女性の購入比率が高まっている点だ。

 現在、Panasonic Store全体での女性比率は15%だという。だが、2014年9月から、全国5店舗(ヨドバシカメラマルチメディアAkiba、ヨドバシカメラ新宿西口本店、ヨドバシカメラマルチメディア梅田、ビックカメラ有楽町店、ビックカメラ新宿西口店、ビックカメラ池袋本店パソコン館)で展開しているショップインショップ形態の売り場では、実際にカラー天板などにも触れることができるということもあり、女性比率が高く、同売り場を通じたWeb注文では、女性の構成比が3割近くまで高まっているという。

 ちなみに、東京・有明のパナソニックセンター東京と、大阪・梅田のパナソニックセンター大阪でも、天板のカラーバリエーションを見ることが可能だ。

天板カラーを選択できるなど、さまざまなカスタマイズが可能

 女性比率の向上の背景には、レッツノートのコマーシャルに、女優の比嘉愛未さんを起用。働く女性がレッツノートをクールに使う姿を見せていることも影響していると言えよう。

 また、働く女性向けのプロジェクトを展開。Panasonic Storeのサイトでは、働く女性や女性起業家がレッツノートを選択する理由などを紹介。レッツノートのキーボードは、ネイルやハンドクリーム、乳液を塗った手で触れても大丈夫であることなど、女性視点からの提案を行なっていることも見逃せない。

 一方で、Panasonic Storeでは、今後、タフブックの販売にも力を注ぐ考えを示す。ヨドバシカメラやビックカメラなどの売り場のうち、4店舗で、タフブック「CF-20」の展示を開始。実際に触ることができる場を増やすことで、タフブックの販売にも弾みを付ける考えだ。

 レッツノート発売20周年という節目をきっかけに、製造現場、販売現場ともに、次の飛躍に向けた新たな取り組みが始まっている。