大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」
コンシューマ市場でシェアを急拡大させたデル
~宮崎カスタマーセンターでのサポートを強化へ
2016年9月14日 12:12
デルは、2016年に入ってから、コンシューマ市場におけるシェアを急拡大している。IDCジャパンの調べによると、2016年第2四半期(2016年4~6月)は、国内家庭市場において、前年同期比74.9%増という高い伸びを見せ、国内シェアは3位に浮上した。
こうした高い成長をサポート面から下支えするのが、宮崎県宮崎市のデル宮崎カスマターセンターだ。デルの国内パートナー戦略の拡大とともに、宮崎カスタマーセンターとパートナー連携も強化。さらに、デルが、2016年7月15日から、国内で新たに取り扱いを開始した日本マイクロソフトのSurface Pro 4のサポートもここで行なうことになる。デル宮崎カスタマーセンターを訪れ、その取り組みを見た。
国内コンシューマ市場で急成長するデル
デルが、コンシューマ市場において、急激な伸びを見せている。IDCジャパンの調べによると、2016年第1四半期(2016年1~3月)の国内家庭市場において、デルは前年同期比56.2%増と大幅に成長。ビジネス市場では前年同期比5.6%減となったが、全体では6.0%増とプラス成長を達成している。
また、2016年第2四半期(2016年4~6月)も、家庭市場では前年同期比74.9%増と、引き続き高い成長を遂げた。家庭市場全体が前年同期比14.1%減とマイナス成長が続くなか、デルの成長ぶりが異例であることが分かるだろう。
さらに、第2四半期は、ビジネス市場においても、前年同期比13.8%増となり、全体でも29.5%増となった。この結果、国内PC市場におけるシェアは、第1四半期には5位だったものが、3位に浮上。シェアは13.8%と、2位の富士通の14.8%に肉薄している。この勢いはその後も続いており、今や、国内PC市場の台風の目となっている。
この背景には、国内最大手量販店であるヤマダ電機が、デルの製品を本格的に取り扱い始めたことが見逃せない。デルテクノロジーズのマイケル・デルCEOが、ヤマダ電機本社を訪れ、同社幹部と直接面談。そこから両社の強力な関係がスタートしたという。
東芝がPC事業を縮小するなど、競争環境に変化が見られる中で、デルが一気に国内コンシューマ市場に攻め込んだ成果が、この数字に繋がっている。
第2四半期実績では、東芝が家庭市場において、前年同期比18.3%減と大きく減少。また、ヤマダ電機での販売を重点施策の1つにおいていたNECレノボ・ジャパングループも家庭市場で前年同期比20.7%減と大幅に減少。ビジネス市場では前年同期比15.6%増と高い成長を遂げているのに比べて対照的な結果となっている。
デルは、ここ数年、パートナー戦略の拡大に乗り出していたが、これまでは法人向けルートの開拓が中心であった。ヤマダ電機での取り扱い開始は、いよいよコンシューマ市場に対しても、本腰を入れてパートナー戦略を強化したものと言え、この取り組みが、今後のデルの国内コンシューマ市場におけるシェアの行方を左右することになりそうだ。
パートナールートの拡大で変化するサポート
宮崎県宮崎市のデル宮崎カスタマーセンターは、電話やメールを活用したデルの国内ユーザーサポート拠点であるとともに、同じく電話やメールを活用した営業拠点である。現在、約500人の正社員が勤務。地域に根ざした企業としても定着してきた。
デルのパートナー戦略の拡大に伴って、デル宮崎カスタマーセンターの役割も変化してきた。パートナーによる販売比率が拡大するのに伴って、パートナールートによるサポート比率が増加しているからだ。
デルでは、企業向けPCの「プロサポート」と、個人向けPCの「プレミアムサポート」を提供している。パートナーを通じて販売されたPCでも提供されているこれらのサポートは、デル宮崎カスタマーセンターを通じて行なわれることになる。
直販の場合には、購入した製品の状況などを事前に把握した上でサポートすることができたが、パートナーを通じて販売されたPCは、ユーザー自らが登録をしないと、これまでデルが行なってきた、顧客情報に基づいた手厚いサービスを提供しにくい。この点では、ほかのPCメーカーと同じ土俵に立ったとも言え、直販ならではの特徴が活かせなくなってきた。その上で、サービス品質をいかに向上させるかが、デル宮崎サポートセンターにとっては課題と言える。
デルでは、これまで企業向けPCと、個人向けPCを、同じオペレータがサポートしてきたが、これを分離。それぞれのユーザーに最適化した形でサポートできるようにした。
デル宮崎カスタマーセンターの金子知生センター長は、「個人ユーザーの場合は、シニア層を中心にして、ゆっくりと時間をかけてサポートして欲しいというケースが多く、専門知識を持たない人も多い。それに対して、企業ユーザーの場合は、短時間に的確な回答を得たいというケースが多く、質問内容も専門的なものが多い。これまではサポート制度が同じ名称で展開されていたため、1人のオペレータが企業向けも、個人向けもサポートしていたが、これを見直し、それぞれのユーザーに最適化した形でサポートできる体制にした」という。
さらに、個人向けPCの大幅な販売増に合わせて、個人向けPCのサポート体制の強化も図った。
「2016年5月には、Windows 10の無償アップグレードに関して、通常時の2倍の問い合わせが殺到。それに合わせて、Windows 10専任者を配置するなど、個人向けサポート体制を強化した。この増員をベースにして、個人向けのサポート体制を強化した」という。
また、日本マイクロソフトとの提携により、7月15日から、国内で取り扱いを開始したSurface Pro 4も、デルを通じて購入した場合には、デルのサポート体系を適用するため、宮崎カスタマーセンターで対応。それに向けた体制も構築することになった。
現時点では、まだ大きな販売実績がないため、サポート部門への負担は大きくはないが、これまでハードウェアだけでなく、ソフトウェアにもサポートの範囲を広げてきた実績などをもとに、短期間で、他社製品であるSurface Pro 4のサポート体制を構築した点は評価できよう。
デルでもっとも働きやすい職場であると評価
デル宮崎カスタマーセンターは、2005年の運用開始以来、今年(2016年)で11年目を迎える。その評価は社内でも高く、デルのアジアパシフィック地域を対象に実施している「グレートプレイス・トゥ・ワークアワード」で、デル宮崎カスタマーセンターが表彰されたという。
表彰理由はいくつかある。
1つはビジネスそのものへの貢献だ。デル宮崎カスタマーセンターでは、パートナービジネスの強化に伴い、同センターのショールーム化に着手。大手企業をはじめとするエンドユーザーだけでなく、主要パートナーにも直接、宮崎カスタマーセンターを訪れてもらい、サポート品質の高さを確認してもらっているという。「500人以上のデルの正社員が直接サポートをする体制を見てもらうことで安心感を持ってもらえる。それによって、パートナーが安心してデルの製品を扱ってもらえる」というわけだ。
年間で約50社のパートナー企業や顧客企業が、宮崎カスマターセンターを見学に訪れているという。
2つ目には、宮崎県や宮崎市などの行政との連携だ。
昨年(2015年)12月に行なわれたデル宮崎カスタマーセンターの開設10周年式典には、宮崎県の河野俊嗣知事や宮崎市の戸敷正市長も訪れ、祝辞を述べたように密接な関係を裏付ける。
宮崎市では、ふるさと納税の返礼品として、デルの11.6型ノートPC「DELL Inspiron 11」を用意。宮崎カスタマーセンターのサポートを受けられるPCという位置付けで提供を開始した。さらに、デル宮崎カスタマーセンターでは、キャリアサポートセンターを設置。障碍者雇用および支援の観点から、ダイバーシティにも取り組んでおり、今年も2人の障碍者がこのプログラムに参加している。
さらに、宮崎市が音頭を取って2015年3月に設立した「Miyazaki ICT Plus(宮崎ICT企業連絡協議会)」の中核メンバーとしてデルが参加。宮崎市内のIT関連企業に活性化にも取り組んでいる。
「1つの企業だけでキャリアプランが形成できないのであれば、ほかの企業に移籍してもいい。そうした受け皿ができるような環境を宮崎に作りたい。それが、優秀な人材を確保し続けることになり、宮崎の発展にも繋がる」とする。
そして、「宮崎には、肉や魚だけでなく、ITもブランド化できる潜在力がある。ITの力で宮崎を元気にしたい」と述べる。
熊本地震の支援活動にも取り組む
3つ目が、積極的なボランティア活動である。
これまでにも地域貢献の取り組みとして、地元で開催される「えれこっちゃみやざき」や「まつり宮崎」に参加。さらに、青島太平洋マラソンやビーチクリーン活動にもボランティアとして参加してきた。
そして、4月に発生した熊本地震においても、デルは、積極的な支援活動を行なってきた。デルの日本法人では、東日本大震災以降、「Save Japan Team Dell」と呼ぶ災害ボランティア活動を開始している。
熊本地震における支援活動もこれに則ったもので、社員有志が、複数回にわけて災害ボランティア活動に参加。熊本県西原村のボランティア活動では、2日間で、2トントラック59台分にあたる118トンの瓦礫撤去を行なったという。
さらに、宮崎カスタマーセンターに備蓄していた740セットのサバイバルキットなどを救援物資として寄付。社内では募金活動も行ない、これを義援金として拠出した。
もともと地域へのボランティア活動に積極的に取り組んでいるデル宮崎カスタマーセンターだが、こうした被災地復興に向けた支援活動にも前向きに取り組んでいる。
そして、もう1つ見逃せないのが、働きやすい社内環境の整備だ。
ハロウィンは、社員が仮装をしたまま業務を行なっているというのは、デル宮崎カスタマーセンターならではの知られざるトリビアだ。カスタマーセンターの業務が、電話やメール、SNSで行なわれるため、社員が仮装していても、相手には分からない。もちろん、この仮装が許されるのは1日だけ。ハロウィンの日は、リオオリンピック閉会式で安倍晋三首相が見せたマリオのような格好をして、オペレータが対応していると思った方がいい。
また、宮崎カスタマーセンター内では、新たに「グッド・プログラム」を開始。eサーベイによる社外からの評価だけでなく、社内からの評価も重視するように仕組みを変更した。これは、サポート品質を向上させるとともに、働く環境の改善にも繋がると言える。
さらに、エンド・トゥ・エンド・プロセス・プルーブメントと呼ぶ仕組みを導入。オンサイトサポートまでを含む、サポートプロセス全体において改善を図る取り組みも開始している。
エンタープライズ分野での強化を図る
コンシューマ市場におけるシェア拡大に合わせて、デル宮崎カスタマーセンターの体制強化が進む一方、エンタープライズ分野におけるサポート強化も進めている。
既に、EqualLogicのサポートのほか、ソフトウェアに関するサポートも宮崎カスタマーセンターで開始しているが、EMCの買収によって、デルのエンタープライズ分野における取り扱い製品群がさらに広がることを考えれば、今後、ハイエンドサポートへの対応などを含めて、エンタープライズ分野における宮崎カスタマーセンターの役割が増える可能性も捨てきれない。
「スキル向上は、常に取り組んでいる課題。エンタープライズソリューションに関する複合的な問題に対応するためのレゾリューションマネージャーを配置しているほか、グローバル連携にも対応できる人材を配置しており、宮崎カスタマーセンターで対応できる範囲を広げている」と語る。
昨年、設立10周年を迎えたデル宮崎カスタマーセンターは、次代に向けた取り組みを開始している。
金子センター長は、宮崎で100年生き続けることができる拠点になりたいと、「100年プラン」を打ち出す。
その中で、デル宮崎カスタマーセンターはどう進化していくのか。今後、陣容拡大を含めて、新たなステップへと踏み出す可能性もありそうだ。