大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

ロボットやIoTの最新技術で生産革新を続ける島根富士通

島根県出雲市にある島根富士通

 ノートPCおよびタブレットなどの生産を行なっている島根富士通は、基板製造ラインにおける自動化の促進とともに、組み立て製造ラインを含めたサプライチェーン全体の見直しを図ることで、生産の効率化およびコスト削減に繋げる考えだ。

 さらに、タブレットの需要拡大にも対応できるように、現在17本の生産ラインのうち、6本の生産ラインでPCとタブレットを生産できる混流ラインとしており、生産量全体の約2割をタブレットが占める生産体制へと拡大を図っている。

 アームロボットやゲンコツロボット、あるいはIoTといった最新技術を活用しているのも島根富士通の特徴であり、その進化は毎年取材に訪れていても強く感じる。島根富士通の取り組みを追った。

仕様の異なるPCを柔軟に生産する体制を構築

 島根富士通は、年間約200万台のPCの生産能力を持つノートPCおよびタブレットの生産拠点で、同社では「日本一のPC出荷台数を誇る生産拠点」と胸を張る。

 基板の生産では、検査工程までを含めて、全自動の一貫生産ラインを構築。PCの組み立てにおいては、人と機械が協調した生産ラインを構築。小ロット混流製造ラインにより、多品種生産への対応のほか、納品時点で即時使用が可能な1台ごとのカスタマイズ対応も実現。顧客ニーズにフレキシブルな対応が可能である点も特徴だ。

島根富士通のPC生産ライン

 2015年10月には、内閣総理大臣表彰「第6回ものづくり日本大賞」において「経済産業大臣賞」を受賞。1台ごとに仕様の異なるノートPC、タブレットを効率的に生産。生産工程のシミュレーションによる効率的な生産手順や、最適な機器および人の配置などを仮想検証することが可能であること、量産工程における汎用ロボットの活用を通じ、人と機械の協調生産を行なうことで、低コストかつ小ロットの混流生産可能な生産ラインを実現していることが評価されたという。

 同社は、1990年に、富士通製PCの生産拠点として操業。当初は、FM TOWNSを始めとするデスクトップPCの生産も行なっていたが、1995年にノートPCの生産に特化。2013年には、累計生産3,000万台を達成している。

 島根富士通が立地していた斐川町が、2011年に出雲市に編入したことで、同年から、島根富士通で生産されたPCを「出雲モデル」の名称で展開。出雲市のふるさと納税の返礼品にも、島根富士通で生産されたノートPCがラインナップされている。

人の手が動くような動作を見せる自動化装置

 島根富士通の特徴は、自動化に先進的に取り組んでいる点だ。

 特に、基板製造ラインでは、部品実装の自動化はもとより、基板分割や最終検査まで自動化を図っているのが特徴だ。

基板製造ラインの様子
従来はCPUなどの装着、検査、基板分割作業を人が操作して行なっていた

 従来は、機械と目視による検査を行ない、人の操作によって基板を分割。トレイにセットして、組み立て工程へと供給していたが、これを2015年度から自動化。さらに、2016年度には、この装置を第2世代へと進化させ、自動化装置の設置スペースをほぼ半減することに成功した。これによって、従来、人が作業をしていたスペースとほぼ変わらない環境を実現している。

 ここではアームロボット(垂直多関節ロボット)とゲンコツロボット(パラレルリンクロボット)を活用。それぞれの動作を組み合わせて、作業を進めることになる。

こちらが最新の第2世代の装置。手前がアームロボット、奥にある黄色い2台のロボットがゲンコツロボット

 現在、島根富士通における基板製造は、1枚の生基板から、2つのマザーボードを作る工程となっており、さらに、サブボードなども同じ生基板の中で生産する。

1つの生基板から、2つのマザーボードやサブボードを生産することができる

 はんだ印刷機や高速マウンター、リフロー炉などを経て、部品実装が終わった基板は、アームロボットやゲンコツロボットを使ったこの自動化装置で、CPUが装着され、ボタン電池なども搭載される。その様子を見ていると、まさに、人の手で装着するような動きを見せる。例えば、ボタン電池の搭載では、アームがボタン電池を部品トレイから取り出して、丁寧に基板に装着。最後に上から2回、トントンと叩いて装着を確認する。その仕草もかわいく見える。基板の反転や移し替えなども、まさに人の手で行なっているような動きだ。

CPUの搭載もロボットが行なう。間違いがなく適切に行なうことができる

 「ゲンコツロボットは6軸で動作し、柔軟で複雑な動きが可能。精密な組み立てに最適。それに対して、アームロボットは、同じく6軸であり、可搬重量が大きく、広い範囲を動くことができる。製品運搬などにも適している。この2つのロボットを組み合わせることで、人が行なっていた作業を置き換えることができる」というわけだ。

ゲンコツロボットがメモリを差し込んでいるところ。人の手のように動く

 この装置の中では、カメラを使った外観検査なども同時に行ない、最後には、基板を分割して、トレイの上に載せる仕組みだ。トレイには、PC 1台分のマザーボードとサブボードを2階層で収納。マザーボードとサブボードの間に敷かれるプチプチシートもロボットが自動的に敷くことができる。

トレイにマザーボードを自動的にセットする。これは第1世代の自動化装置
トレイの下にはサブボードをセット。その上にロボットがプチプチシートを敷く
島根富士通の宇佐美隆一社長

 島根富士通の宇佐美隆一社長は、「第2世代の自動化装置の導入によって、最終検査および基板分割の作業に関わる人手が不要になり、付加価値の高い作業へとシフトできるようになった」と、その成果を挙げる。

 だが、島根富士通では、さらにこれを進化させる考えだ。

 「第1世代および第2世代の自動化装置では、異なる基板を製造するための段替えに、数分間かかってしまうため、どうしてもボリュームが大きい基板の生産が中心になってしまう。実装においては、1分以内での段替えが可能になっており、これに合わせて、検査、基板分割の自動化装置も進化させなくてはならない。ここで1分以内の段替えができるようになれば、20~30ロットという少ない基板製造においても、最後まで自動化することができる。これは第3世代の自動化装置によって実現することになり、今後1年を目途に開発、導入していきたい」とする。

基板へのCPUなどの装着、検査、基板分割を行なう第1世代の装置

 PCの生産台数は全体的に縮小傾向にある一方、法人需要を中心にそれぞれの仕様に合わせたPCの生産が求められている。基板実装においてもそれに合わせた対応が求められており、段替え時間の短縮化とともに、自動化の促進によって、こうしたニーズにも柔軟に対応できるようになる。

 第1世代、第2世代ともに、島根富士通が独自に設計したものであり、第3世代も同社内で設計することになるという。

 現在、第1世代および第2世代の自動化装置は、それぞれ1台ずつ導入されており、今後、第3世代の自動化装置の開発などによって、自動化装置を導入するライン数を増やしていくことになる。

完成した基板。この状態で組み立てラインに供給される

2in1 PCの生産増加に自動化で対応

 自動化への取り組みは、組み立てラインでも積極的だ。

 既に、VST(Visual Sound Tester)と呼ぶ、カメラとマイクを用いて、画質やスピーカーの確認、ラベル貼付位置やキーボードのキートップの文字印刷が適正に行なわれていることを自動的に検査する装置を導入しているほか、生産ライン上を流れている状態で、キーボードが正しく動作することを確認するキーボード打鍵機、検査工程における自動化を推進。さらに、自動ネジ締め機の導入のほか、梱包工程においても、ダンボールによる緩衝材をロボットで組み立てる方式を採用している。

防水対応のタブレットの生産に用意された防水プレス加圧機
PCやタブレットに自動的にシールを貼付する自動ラベル貼り付け機
VST(Visual Sound Tester)。カメラとマイクを用いて各種試験を行なう
キーボードが正しく動作することを確認するキーボード打鍵機
組み立てラインに導入されている自動ネジ締め機

 そして、新たな取り組みが、アクセサリの自動組み立てである。

 具体的には、タブレット向けのポートリプリケータの組み立ての一部を自動化。「現在はまだ0.5世代と言えるものだが、設計部門との連携により、自動化装置で組み立てが行ないやすいように設計を改良。2016年度下期からは、自動化の範囲をさらに拡大することができる」という。

 一方で、2in1 PCの増加は、工数の増加に繋がるといった課題も発生している。

 「クラムシェル型のノートPCに比べて、2in1 PCは約2倍の作業工数がかかる。2in1 PCの構成比が高まるのに合わせて、自動化を含め、組み立て工程の効率化をさらに図っていく必要がある」と宇佐美社長は語る。

 現在、島根富士通では、ノートPCの組み立て用に、17本の生産ラインを持つが、そのうち6本がタブレットも生産が可能な生産ラインとしている。

 タブレットの生産比率は約2割だというが、混流ラインを設置することでタブレットの需要変動や、2in1 PCの構成比の変動にも柔軟に対応できるようになる。

 ただ、生産ラインの柔軟性を維持しながら、工数の効率化を目指した改善が求められているわけであり、島根富士通における今後の挑戦テーマの1つはここにありそうだ。

Windows 7対応PCの増産にも対応

 一方、Windows 7搭載PCの生産が終了する予定の2016年10月に向けた増産体制の確立にも余念がない。

 富士通 取締役執行役員専務兼CFOの塚野英博氏は、2016年度第1四半期決算において、「PCは、2016年10月にWindows 7を搭載したPCの生産が終了することになり、駆け込み需要が期待できる。法人向けには手堅く所用が立っている」と語り、PC需要に追い風となっていることを示す。

 島根富士通でも、既に7月から増産体制を敷き始めており、9月には前年比10%増の生産体制を敷く計画を明らかにする。さらに、10月には、前年比20~30%増という生産量に対応できる体制を既に確立しているという。

 島根富士通の宇佐美社長は、「Microsoft側の動きもあり、実際の需要がどうなるかは蓋を開けてみるまで分からない。需要の変化にも、柔軟に対応できるような体制を敷きたい」と、万全の姿勢で臨む考えだ。

多能工化を促進し、ラインあたりの人員を半減に

 島根富士通では、2016年度の取り組みとして、作業者の多能工化をさらに加速する姿勢を見せる。1人の作業者が複数の作業を行なうことで、物量への変動や組み立てる製品の種類にも柔軟に対応できる環境を構築する考えだ。

 その一例として挙げるのが、現在、10人で構成している組み立てラインの人員数を、5人へと半減。これによって、生産量の変化にも対応しやすくするというものだ。作業台が移動する速度を遅くし、1人の作業者が2人分の作業を行なう体制とすることで、需要変動にも対応しやすくするという。作業員は、より多くの作業を行なうことになるが、これは生産機種の細かい変動にも対応しやすい体制づくりにも繋がると言えるだろう。

 もう1つ、2016年度の取り組みテーマに掲げているのが、サプライチェーン全体の効率化である。

 これまでにもPCの組み立てライン側の生産量に基づいて、それに合わせた生産指示を基板生産へと反映。基板の完成品在庫は半減することにも成功しているが、2016年度は、組み立てが完成したPCが、トラックに積載されるまでの作業を内製化。積載が遅延することで発生していた無駄取りに取り組んできた。

 「これまではトラックの定期便が発車するまで、積載が遅れ、その分、余計な費用が発生するといった事態を招いていた。この部分を内製化することで、余計な費用を削減するための改善にも取り組むことができ、コスト削減に繋げることができる」とする。

インテルと共同でIoT活用の実証実験で輸送コストを3割削減

 一方、島根富士通は、インテルとの協業により、富士通のIoTデータ活用基盤「FUJITSU Cloud Service IoT Platform」と、「インテル IoTゲートウェイ」を連携。製造工程を見える化する実証実験を、2016年5月まで実施してきた成果も見逃せない。

 製造ライン上の機能試験工程やリペア工程の適正化を実現するとともに、出荷遅延による追加輸送コストを抑制することで、輸送コストを30%削減することができたという。

 これまで、製造ライン上の機能試験工程において不具合が検知された製品は、リペア工程に送り、徹底的に不具合の診断・解析・修理を行なった上で出荷することになるが、リペア工程ではその不具合が再現できない場合が発生していた。その際には、不具合が検知された機能試験工程に関わった作業者の作業内容や、使用した器具、試験対象製品の状況を総合的に分析し、不具合が検知された原因を解明する必要があった。しかし、従来りの仕組みでは、機能試験工程での作業状況の見える化が不十分であったため、原因の特定やそれに対する再発防止策を講じることができず、結果として修理対象製品が余分に発生していたという。

 一方、リペア工程では、修理対象製品のリペアライン上での位置や滞留状況、個々の製品の出荷期限情報のリアルタイムな見える化が行なわれていなかったため、優先的に作業を行なうべき製品の切り分けができず、予定していた出荷期限を超過。輸送トラックの追加手配費用が発生してしまうことがあったという。

 島根富士通では、機能試験工程において、作業者の作業状況の映像を撮影するとともに、修理対象製品の画面に表示されるエラーコードを撮影。インテル IoTゲートウェイに情報を集約し、画像解析処理することで見える化を実現。エラーコードの収集、集約作業を効率化するとともに、検知された不具合の傾向抽出や、検知した際の状況分析を効率的に行なうことが可能になったほか、不具合の誤検知を抑制することで、余分な修理対象製品の発生を削減できるという。

 さらに、リペア工程での見える化においては、修理対象製品をリペアラインに投入する際に、それぞれにビーコンセンサーを貼り付け、工程内での各製品の位置や滞留時間、出荷期限を作業者全員が瞬時に把握。作業者全員が工程全体の状況を素早く把握し、出荷期限の近い製品の優先的な修理や、滞留が生じている工程への補助といった効率的な作業が自律的に行なえるようになったという。

 「残念ながら100%良品という形で生産することはできない。必ず不具合が発生する。その際に、いかに効率的に対応できるかが重要であり、ここにIoTを活用した」(島根富士通の宇佐美社長)という。

 島根富士通では、こうしたインテルとの協業成果に加えて、独自の取り組みなどを通じて、今後も、サプライチェーン全体を捉えたコスト削減活動や効率化を進めていく考えだという。

 このように、島根富士通は、ロボットによる自動化やIoTといった最新技術を取り入れながら、生産革新を続けている。これからの1年で、工場内の仕組みは、また大きく変化することになりそうだ。

コンパクトブースでは、OSのインストールのほか、法人ユーザー向けの個別設定なども行なう
エージングを行なっている様子
段ボールの緩衝材は自動で組み立てられる