山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

マイナーチェンジした「Kindle」、2024年モデルの進化ポイントをチェックしてみた

「Kindle」(第11世代、2024年モデル)。価格は1万9,980円

 「Kindle」(第11世代、2024年モデル)は、Amazonが販売する6型E Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末だ。従来と同じ「第11世代」という位置づけながら、フロントライトの明るさ向上、速度の向上、5GHz帯への対応といった改良が施されている。

 こうした進化の一方で、同時発売の「Kindle Paperwhite」と同様に価格は大幅に引き上げられており、ユーザーとしては気になるところだ。今回は筆者が購入した実機をもとに、電子書籍ユースでの使い勝手を従来モデルおよび同時発売の「Kindle Paperwhite」と比較しつつチェックする。

新たに5GHz帯に対応。価格は大幅に引き上げ

 まずは従来モデルとの比較から。

Kindle (第11世代)
2024年発売
Kindle (第11世代)
2022年発売
Kindle(第10世代)
発売月2024年10月2022年10月2019年4月
サイズ157.8×108.6×8mm157.8×108.6×8mm160×113×8.7mm
重量158g158g174g
画面サイズ/解像度6型/1,448×1,072ドット(300ppi)6型/1,448×1,072ドット(300ppi)6型/800×600ドット(167ppi)
ディスプレイAmazonディスプレイ
16階調グレースケール
反射抑制スクリーンモノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta)
通信方式2.4GHz/5.0GHzをサポートWi-Fi 4Wi-Fi 4
内蔵ストレージ16GB16GB約8GB
フロントライトあり(LED4個)あり(LED4個)あり(LED4個)
ページめくりタップ、スワイプタップ、スワイプタップ、スワイプ
防水・防塵機能---
端子USB Type-CUSB Type-CmicroB
バッテリ持続時間の目安最大6週間
(明るさ設定13、ワイヤレス接続オフで1日30分使用時)
数週間
(明るさ設定13、ワイヤレス接続オフで1日30分使用時)
数週間
発売時価格1万9,980円1万980円(広告あり)
1万2,980円(広告なし)
8,980円(広告あり)
1万980円(広告なし)

 この表からも分かるように、画面サイズや解像度など、表示まわりのスペックは変わっていない。ボディサイズや重量も従来と変わらず、外見ベースではまったく同一といって差し支えない。判別しやすさという観点ではあまりよくないのだが、従来と同じ「第11世代」を名乗りたくなるのも理解できる。

 興味深い違いとしては、Wi-Fiが従来の2.4GHz帯に加えて、5GHz帯をサポートするようになったことが挙げられる。いったんダウンロードして読む電子書籍端末の場合、こうした通信方式の違いが使い勝手に大きな影響を与えることは考えにくいが、家庭内のWi-Fiを5GHz帯で統一している場合などはメリットもあるだろう。

 また、従来は「数週間」とやや曖昧だったバッテリ持続時間は、「最大6週間」と明確化されている。ちなみに同時発売のKindle Paperwhiteは「最大12週間」なので、両者の差別化ポイントの1つということになる。

 なお、従来存在した広告ありモデルは今回はラインナップから省かれ、広告なしモデルに一本化されている。同時発売のKindle Paperwhiteも広告ありモデルは廃止されており、Kindleシリーズ全体で方針が変更になったと見られる。

 一方で気になるのは価格で、従来の1万2,980円から1万9,980円へと価格が大幅に上昇している。世代がもう1つ前、第10世代のKindleは広告ありモデルが8,980円と1万円台の大台を割っていたので、解像度の向上や内蔵ストレージの増量はあるにせよ、価格は2倍以上に膨れ上がったことになる。

製品外観は従来モデルとまったく同じ。2022年発売の従来モデルも同じ「第11世代」のため、両者を判別するためには発売年(2024年)を併記しなくてはならない
背面。樹脂の質感が強く、手の脂はもちろんキズもつきやすい
底面にはUSB Type-Cポートのほか電源ボタンも搭載する。上面および側面にはボタンやポート類はない
重量は実測154g。従来モデルの実測値よりも2g軽いが、誤差と見なして問題ないだろう

従来モデルとの差はわずか。フロントライトの違いも軽微

 セットアップの手順は従来通りで、本体上で行なう手順に加えて、スマホのKindleアプリを使ったセットアップ手順も用意されている。こちらだとAmazonアカウントやパスワードなど本製品のソフトウェアキーボードを用いての文字入力を省略できるので、セットアップがぐんと楽になる。スマホにKindleアプリをインストール済みであれば、積極的に使うことをおすすめする。

製品パッケージ。以前はほぼ全面が青くコートされていたのが今回は上部のみに改められている。なお、従来と同じ「第11世代」との記載がある
同梱品一覧。小冊子2つに加えてUSB Type-C - USB Standard A仕様のUSBケーブルが添付される。Fireタブレットと違いAC変換アダプタは同梱されない
まずは言語を選択。下段にあるスクリーンリーダによる読み上げ機能は従来モデルで追加されたもの
従来と同じくKindle上で設定するか、あるいはスマートフォンを使って設定するかを選ぶ。今回は前者を選択
Wi-Fi設定を行なう。今回のモデルからは新たに5GHz帯に対応した
続いてAmazonアカウントへのサインインを行なう
基本設定はこれで完了。問題なければ「次へ」をタップして進む
子ども用のプロフィールを作るか否かを尋ねられる。「次へ」をタップして進む
セットアップが完了するとホーム画面が表示される。従来とは特に違いはない
スマホによるセットアップを選択した場合は、本製品とスマホをBluetoothで接続して設定を続行する
スマホによるセットアップでは、スマホアプリに設定されているAmazonアカウントが自動的に入力されるので、本製品上でのキーボード入力が不要になる

 さて実機に触れてみての印象だが、ボディサイズや画面サイズはもちろん、表面の質感についてもそっくりだ。KindleやFireはモデルチェンジのたびに、背面の質感が変わったり、あるいは刻印されるロゴの光沢の加減が変わったりと、写真では分からない微妙な変更が行なわれることもしばしばだが、本製品はそうした違いも見当たらない。

 従来モデルとの違いとして挙げられているのがフロントライトの明るさで、従来よりも最大25%明るいとのことだが隣に並べてみてようやく分かる程度で、しかもほんの誤差レベルだ。本製品を2022年発売モデルと見分けるためには、設定画面を開いてモデル名を見るのが、実質的に唯一の方法となる。

2022年発売の従来モデル(右)との比較。フロントライトは従来より最大25%明るいとされているが、差はほんのわずかだ
背面。違いがあるのはせいぜい下部のシルク印字の内容くらいだ
底面の比較。ポートやボタン類の配置はもちろん本体幅、厚みなども同一だ
従来モデルとの違いを判別できるのは事実上この「端末情報」の「端末のタイプ」欄のみ。非情に紛らわしいのが困りものだ
同時発売の7型「Kindle Paperwhite」(第12世代、右)との比較。画面サイズの相違に加えて、本製品にはないフロントライトの暖色にも対応している
背面の比較。本製品(左)は滑り止め加工は施されていない
厚みの比較。数値上は「Kindle Paperwhite」(第12世代、右)のほうが薄いのだがわずか0.2mm差ゆえ目視では判別できない
ボディは樹脂製で、打痕跡はもちろん、ちょっとした摩擦でも跡が残りやすい。これは従来モデルだが、本製品でも同様と考えられる

 なお多少気になったのは、本体の空き容量が従来モデルに比べて2GB弱も少ないことだ。今回の試用時点では両者のファームウェアのバージョンが若干ずれており、これらを統一すれば差が縮まる可能性もあるが、2GB弱も違うとなると無視できない。従来モデルから本製品へと買い替えた場合、ライブラリの一部がはみ出す可能性があるので気をつけたい。

画面の切り替えが高速化。ハンドリングしやすさは健在

 では電子書籍ユースについて見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、テキストは夏目漱石著「坊っちゃん」を使用している。

 解像度は300ppiということで、表示性能は従来モデルと同様。上位のKindle Paperwhiteとも横並びだ。6型というコンパクトなサイズゆえ、雑誌など大判コンテンツの原寸表示は難しいが、表示のクオリティそのものは、どのようなコンテンツでも特に支障はない。

 ただし前回紹介したKindle Paperwhiteは、7型という画面サイズゆえ、本体を横向きにしてコミックを見開きで表示してもスマホ以上のページサイズを確保できたが、本製品ではスマホ以下のページサイズになってしまい、あまり実用的ではない。見開き表示を行なうのであれば、本製品ではなくKindle Paperwhite以上を選んだほうがよいだろう。

コミックを表示したところ。7型のKindle Paperwhiteに比べるとやや窮屈な印象
従来モデルとの比較。ページサイズや表示品質に差は感じられない
7型「Kindle Paperwhite」(第12世代、右)との比較。サイズ差はかなりある
画質の比較。左から、本製品、従来モデル、Kindle Paperwhite。いずれも同じ解像度(300ppi)ゆえクオリティの差は感じられない
テキストを表示したところ。文庫本サイズで、コミックよりは収まりはよいように感じられる
従来モデルとの比較。行数や1行あたりの文字数にも違いは見られない
7型「Kindle Paperwhite」(第12世代、右)との比較。情報量の差はかなりあるが、これについては多ければよいというわけではなく、持ちやすさ重視で選んでよいだろう

 動作速度はどうだろうか。従来モデルに比べてページめくりが高速化されたとのことだが、比較した限りでは違いは感じられない。そればかりか従来モデルに比べて、すばやいページめくりではタップが空振りするケースが稀にみられる。上位のKindle Paperwhiteよりも遅いのは致し方ないとして、空振りが起こるのはやや気になる。

 もっとも、ページをめくる以外の操作、具体的にはホーム画面からライブラリやストアを開いたり、本を開いたり閉じたりするといった画面を切り替える操作では、従来モデルよりも明らかに高速化されている。ページめくりで空振りが起こるのはかなり極端な操作においてのみなので、トータルでは従来モデルに比べてプラスと見てよいだろう。

ページめくりの速度を従来モデル(右)と比較したところ。ほぼ違いはないように感じられる。むしろ本製品はすばやいページめくりで空振りが起こるのが気になるところだ
こちらはホーム画面を基点に、ライブラリやストアに移動したり、本を開いたり閉じたりしている様子。本製品のほうが圧倒的にレスポンスが向上していることが一目瞭然だ。ちなみにこれは同時発売のKindle Paperwhiteでも同様の傾向がある
ページめくりの速度をKindle Paperwhite(右)と比較したところ。すばやいページめくりでも取りこぼしのないKindle Paperwhiteに対して本製品はタップやスワイプの空振りが目立つなど、パワーの差は歴然だ

【訂正】初出時に間違った動画を掲載していたため差し替えました。お詫びして訂正させていただきます。

 さて本製品で特筆すべきなのは軽さだ。158gというのはKindleシリーズの過去の6型モデルの中でも最軽量で、かつ現行のほとんどのスマホよりも軽いときている。過去の6型モデルは200gを超える製品もあったので、この軽さはやはり目立つ。

 この軽さゆえ、バッグの中に放り込んだままにしておいてもほとんど気にならない。旅行に行く時などに、使うか使わないか分からないが一応荷物の中に入れておこう、という使い方ができるのはユーザーにとってありがたい仕様だ。

 また7型の「Kindle Paperwhite(第12世代)」は、そのサイズの大きさゆえボディを片手で握るのがかなり難しいのに対して、本製品であれば片手でも保持しやすく、不安定な姿勢でのページめくりも容易だ。特にテキストコンテンツの場合、画面サイズは必ずしも大きくなくて構わないので、ハンドリング重視で本製品を選ぶという手はありだろう。

7型の「Kindle Paperwhite(第12世代)」はボディが大柄で、鷲掴みにするのがやっとだ
本製品ならばそのコンパクトさゆえ比較的容易に握ることができ、そのままページめくりなどの操作も行ないやすい

 一方で、テキストではコミックを表示する場合は画面が小さいと感じることもしばしばなのだが、そこで知っておきたいのが設定画面にある「余白を狭める」という機能だ。

 これをオンにすると、コミックの上下の余白を検出し、それらをカットすることでページをぎりぎりまで拡大表示してくれる。ページの端、いわゆる「断ち切り線」ギリギリまで描かれているページについては効果はないが、たいていのページは拡大表示されるので、本製品でコミックを読む場合は試してみることをおすすめする。

コミックを表示中に設定画面を呼び出し、「レイアウト」にある「余白を狭める」をオンにすることで、上下の余白が切り詰められページを拡大表示できるようになる
「余白を狭める」の無効時(左)と有効時(右)の比較。下部を見比べると余白が切り詰められているのが分かる

大幅な値上がりがネック。従来モデルを選ぶのもひとつの手?

 以上のように、本製品は従来モデルと大きな違いはなく、実質的にはマイナーチェンジモデルということになる。本製品の上位にあたる7型のKindle Paperwhiteは、ワイヤレス充電対応の上位モデルや色違いなど選択肢が複数あるのに対し、本製品は派生モデルはなく容量も16GB一択なので、ある意味で選びやすい。片手で持つことにこだわる人にはおすすめだ。

 一方で気になるのは価格で、従来の約1.5倍以上と驚くほど値上げされている。セールでもう少し安くなることが期待できるものの、およそ1万円前後という従来の相場感が通用しなくなっており割高な印象は強い。機能自体の違いはないだけに量販店でもし2022年モデルの在庫が残っていれば、そちらを調達するのも1つの手だろう。

 ところで最後になったが、この無印のKindleの位置づけが従来とは変わりつつある点は留意しておく必要がある。従来はKindle Paperwhiteと比べて解像度も低く、ストレージ容量も少ないエントリーモデルという位置付けだったが、現在は解像度はKindle Paperwhiteと横並びでストレージ容量も同じ、さらにはフロントライトも追加され機能自体はKindle Paperwhiteに肩を並べつつある。防水機能など一部の機能がないだけだ。

 新たに投入されたカラーE Inkモデル「Kindle Colorsoft」(日本未発売)も含めて考えると、もはや差別化ポイントは画面のサイズ、およびカラーか白黒かであって、解像度によってモデルごとの差をつける必要はないということだろう。こうしたことから、この無印のKindleをエントリーモデルと呼ぶのには少々実態が伴わなくなりつつあることは、知っておいたほうがよさそうだ。