山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ペン対応の電子ペーパー端末「QUADERNO」にカラーモデル登場。PDFビューアとしての使い心地は?

QUADERNOカラーモデル。正確な品名は「QUADERNO A4 (Gen. 3C)」、型番は「FMVDP43CA4」。実売価格は7万9,800円

 富士通クライアントコンピューティングの電子ペーパー端末「QUADERNO(クアデルノ)」に新たにカラーモデルが登場した。従来と同じくA4とA5の2サイズ展開で、カラーのE Ink電子ペーパーを搭載していることが大きな特徴だ。

 手書きでノートを取るのが主用途となる本製品だが、PDFが扱えることから、自炊データを始めとしたPDFフォーマットの電子書籍の閲覧にも対応する。今回はメーカーから借用したA4モデルについて、電子書籍ユースを中心とした使い勝手を、13インチiPad Pro(M4)と比較しつつチェックする。

カラー対応以外は従来モデルほぼそのまま

 まずは従来のモノクロモデル(QUADERNO A4(Gen. 2)/FMVDP41)と比べてどこが変わったのかを見ていこう。

【表】新旧QUADERNOのスペック
QUADERNO A4 (Gen. 3C)QUADERNO A4(Gen. 2)
型名FMVDP43CA4FMVDP41
ディスプレイ13.3型フレキシブル電子ペーパー 4,096色カラー
1,650×2,200ドット
16階調グレースケール : 207dpi
4,096色カラー : 103dpi
13.3型フレキシブル電子ペーパー
1,650×2,200ドット
16階調グレースケール : 207dpi
内蔵メモリ容量32GB/使用可能領域 約22GB以上32GB/使用可能領域 約22GB以上
インターフェイスUSB 2.0 Type-C コネクタUSB 2.0 Type-C コネクタ
外部ストレージ接続不可接続不可
サポートファイルフォーマット(拡張子)PDF(.pdf)PDF(.pdf)
充電時間約7時間(USB充電)
約2.5時間(USB PD充電器接続時または電源オフUSB充電機能使用時)
約7時間(USB充電)
約2.5時間(USB PD充電器接続時または電源オフUSB充電機能使用時)
充電池持続時間Wi-Fiオフ時 : 最長2週間/Wi-Fiオン時 : 最長5日Wi-Fiオフ時 : 最長2週間/Wi-Fiオン時 : 最長5日
通信方式/使用周波数帯Wi-Fi 5Wi-Fi 5
Bluetooth通信方式Bluetooth 5.1Bluetooth 5.0
外形寸法(幅×高さ×奥行)約222.8×301.1×5.7mm約222.8×301.1×5.7mm
質量約368g約368g

 これを見る限り、E Ink電子ペーパーがモノクロからカラーになったことを除けば、違いはほぼ皆無と言っていい。

縦向き利用を前提としたデザインだが横向きでも利用可能
背面。特になにもない。カメラはもちろんスピーカーも搭載しない

 細かいところでは、BLE対応でBluetoothフットペダルの対応機種が増えていたり、お気に入り機能が追加されて特定のノートを呼び出しやすくなったという違いはあるが、見た目のデザインも同一で、本製品の売りである薄さと軽さについてもそれぞれ5.7mm、368gと同一だ。

本体上部にはUSB Type-Cポートと電源ボタンが並ぶ。画面の直上にある横長の棒はホームメニューを表示するためのホームボタン
正面右上にあるNFCアイコン。スマホとデータをやり取りする場合にここにスマホをかざす

 対応フォーマットも従来と同じくPDFのみ。独自OSで動作し、アプリの新規インストールが行なえないといった製品の性格にも違いはない。タブレットではなくあくまでも手書きに対応した電子ノートという位置づけだ。ホームに相当する画面がなく、本体上部のホームボタンを押して表示されるメニューが、ホームという扱いになる。これも従来モデルと同じだ。

重量は実測で約365g。ほぼ同等サイズの13インチiPad Pro(579g)よりも200g以上軽い

 付属のスタイラスについても長さと直径、重量が同じなので、同一のものと見られる。ケーブルなど付属品も共通している。ちなみに同時発売のA5モデルについても、画面サイズの関係で解像度が相対的に高いことを除けば、機能面の違いはない。

従来のモノクロモデルと同じくスタイラスペンと替え芯、芯抜き、USB A-Cケーブルが付属する
スタイラスペンは従来モデルに添付されていたものと同一と見られる。サイドボタンとテールスイッチには機能を割り当て可能

軽さと薄さは健在。PDF転送は面倒さが否めず

 利用にあたってのセットアップは、実質的に付属のスタイラスのキャリブレーションのみ。Wi-Fiの設定すらなく、またPCとの接続もオプション扱いとあって、あっという間に完了する。E Inkのカラー化によって新たに追加されたフローもない。

セットアップ開始。まずは言語を選択。後からは変更できないので注意したい。このあと使用許諾契約書に同意する
付属のペンを使ってキャリブレーションを実行する
セットアップはこれだけ。続いてPCアプリのセットアップを行なうか尋ねられるが、これは後回しにしても構わない
クイックスタートガイドを挟んでホーム画面が表示される。これは背景にノートの罫を表示している状態
設定画面。と言っても設定できる項目はほとんどない。特にE Inkについては濃淡も含めて設定できる項目が何もない
本体設定の画面ではペンの機能設定やスリープ周りの設定が行なえる
ノートのテンプレートは豊富。追加ダウンロードにも対応している

 さて本製品の最大の特徴はなんと言ってもその軽さだ。13.3型で公称368gというのは、同等サイズのiPad Proよりも約200g軽い。同等サイズのiPadやBOOXと比べた時の強みの1つだ。

右は13インチiPad Pro(M4)。画面サイズはほぼ同一。アスペクト比も同じ4:3だ

 またボディの厚みも5.7mmしかなく、さらに端に行くにつれて薄くなるデザインを採用していることから、手で持った時はスペック以上に薄く感じられる。バッグの中に入れる時、書類の間に挟んでしまうと、どこに行なったか分からなくなってしまうほどだ。

厚みの比較。端に行くほど薄くなるデザインということもあり、本製品(左)のほうが明らかに薄い

 なお本製品はベゼルと画面の間に段差もなく、書類と積み重ねると画面にモロに触れ合うことになるので、持ち歩く時はスリーブケースを用意して画面を保護することが望ましい。パッケージには付属していないので、自前で調達する必要がある。

 PDFの転送は、PCに専用アプリをインストールした後、本製品とPCをUSBケーブルで接続し、専用アプリにドラッグ&ドロップして転送する。アプリのインストールが必須なのに加えて、有線接続が必要であるなど、00年代前半に先祖返りしたかのようだ。せめてケーブルをつなぐだけでストレージとして認識できてほしいところだ。

PC用ユーティリティ「QUADERNO PC App」。データは必ずユーティリティ経由での転送となる。有線ケーブルで接続しただけでPCからストレージと認識されることはない
本製品の階層がPCで表示されるので、PDFをドラッグ&ドロップして転送する

 一方でスマホからであれば、専用アプリこそ必要になるものの、NFCを使ってスムーズにPDFを転送できる。どちらかというとPCよりもこちらのほうが直感的で、スマートに使える印象だ。ただし大量のPDFを転送する場合は、やはりPC経由で有線で転送したほうがスムーズだろう。

スマホアプリ「QUADERNO Mobile App」。PDFの送信および受信が行なえる(左)転送したいPDFをほかのアプリで選択し、共有メニューから本アプリを選択するとこの画面が表示されるので「クアデルノと接続」をタップ(中央)実行するとPDFが本体に転送される(右)
PDFを外部に書き出す場合は本アプリを起動、NFCかWi-Fiかを選択する。今回はNFCを選択(左)本体のNFCを有効化した後、この画面を表示した状態で本体右上のNFCマークにスマホをかざす(中央)PDFがスマホに転送される。複数を指定することも可能だ(右)

基本操作は問題なし、彩度の低さとパフォーマンスがネック

 さて本題、電子書籍ユースでの使い勝手を見ていこう。サンプルには、コミックはうめ著「東京トイボクシーズ 1巻」、雑誌は「DOS/V POWER REPORT」の最終号の、それぞれPDFデータを使用している。

 本製品で表示可能なフォーマットはPDFに限定される。そのため電子書籍ストアで販売されている一般的な電子書籍は利用できず、自炊データを始めPDF形式の電子書籍のみが表示の対象となる。

 基本操作としては、ページめくりは左右のスワイプで行なえるほか、上から下へのスワイプでページリフレッシュが行なえるので、残像が気になればすばやくドラッグして消去でき、表示まわりのストレスは少ない。ちなみに本製品ではタップはオプション表示に割り当てられているので、タップによるページめくりには非対応だ。

 なにより13.3型という大画面ゆえ、雑誌を原寸サイズで表示できるのは強みだ。さらに重量は約368gと、本製品とほぼ同じサイズの13インチiPad Proよりも200gほど軽いので、長時間保持しても手が疲れない。言い方を変えると、どんなに厚みのある雑誌でも、本製品を使えば368gに収まるので、バックナンバーを大量に持ち歩くのにも適している。

アスペクト比4:3ということで余白もほぼなく表示できる
E Inkゆえ残像は発生するが、画面を下にスワイプするとリフレッシュされる
リフレッシュした状態。操作が手軽なのでストレスフリーだ
左が本製品、右が13インチiPad Pro。サイズはほぼ同じだ
左が本製品、右が紙版の書籍。ほぼ原寸大で読むことができる

 そんな中でネックになるのは画面の発色だ。本製品はカラーで表示できるのが最大の売りだが、現行のカラーE Inkは彩度が低く、比較対象となる13インチiPad Proのような有機ELと比較すると、どうしても鮮やかさの面で不利だ。

 特に市販のカラーE Ink搭載デバイスでは、フロントライトを用いることで地の色を白く見せる工夫が一般的だが、本製品はフロントライトそのものが非搭載なので、全体的に暗く見えてしまう。

 カラーE Inkの世代自体はおそらく他社製品と変わらないはずだが、フロントライトがないせいでポテンシャルを生かしきれておらず、少々もったいなく感じる。

 また解像度については、モノクロとカラーで異なる解像度(モノクロ207ppi、カラー103ppi)という、昨今のカラーE Inkに共通する仕様で、カラーはベタ塗りはそれほど気にならないものの、細かいディティールを描写するのが苦手だ。図版ではなく写真が多いコンテンツは要注意ということになる。

 なお本製品はE Inkの濃淡などを調整する機能もないので、どれだけ見やすいかはPDF側のクオリティでほぼ決まってしまう。スキャンデータでも200ppiなどの低解像度だと、かなりぼやけたように表示されるほか、一定の品質を持つPDFでも、細い線の描写は苦手だ。

本製品(左)はフロントライトを搭載しないこともあり、13インチiPad Pro(右)と比べるとカラーE Inkならではの彩度の低さが目立つ
紙版(右)と比べた場合でもこれは同様。特に紙の地の色はかなりグレーがかって見えてしまう
画質の比較。上から本製品、13インチiPad Pro、紙版。カラーE Inkはどうしても彩度の部分で不利だ

 一方で本製品は、本体を横向きにしての見開き表示にも対応する。右綴じ左綴じの切り替えや、ページ送りの方向の切り替えも可能なので、PDFデータ側でそれらが適切に指定されていなくとも表示できる。コミックは見開きにするとおおむね単行本と同等サイズになるので、原寸表示にこだわる人にとっては魅力的だろう。

コミックを見開きで表示したところ。上下に若干の余白ができる
上が本製品、下が13インチiPad Pro。表示サイズはほぼ同じだ
右が本製品、左が紙版の書籍。ほぼ同等のサイズであることが分かる

 ほとんどのページがモノクロであるコミックを、カラーE Inkで表示する必然性はあまりないように思えるが、それでも表紙や口絵などで、カラーページがカラーであることがきちんと分かるのは、ストレスがなくてよい。もう少し発色がよければ……というのはもちろんあるが、少なくともカラーE Inkであることによるマイナスはない。

画質の比較。左から本製品(207ppi)、13インチiPad Pro(264ppi)、紙版。髪のナナメの線などに解像度の低さがあらわれている

 なお注意したいのは、見開き表示では、ページめくりの速度が著しく低下することだ。これは見開きでページをめくった場合、まず片方の1ページを表示し、続いてもう片方の1ページを表示するといった具合に、順番に処理が行なわれるためだ。CPUパワーに制限があり、こうした挙動にならざるを得ないのだろう。

ページを見開きで表示するには設定で「見開き表示」を選択。1ページずれる場合は「見開きの表紙設定」、左右を入れ替える時は「ページ方向設定」を有効にする

 そのため見開き表示をメインに考えているのであれば、本製品の利用には慎重になったほうがいい。むしろ見開きはあきらめ、本製品ではなくA5モデルを選んで単ページ表示で読書したほうが、処理速度の部分でストレスを感じずに済む。

単ページ表示でページめくりを行なっているところ。画面サイズが大きいわりにはスムーズな書き換えが行なえる。CPUの処理能力に限界があるのか、すばやい操作には追いつけず、しばらく画面が固まったようになることもしばしばだが、スワイプした回数だけきちんとページはめくられる
見開きでページめくりを行なっているところ。1ページずつしか読み込まれないので書き換え完了までにはかなりの時間がかかる。単ページ表示でのページめくりに比べて、明らかにもっさりした印象だ

 どうしても見開きにこだわりたい場合は、先読みの設定も試してみたい。これは見開き表示のうち1ページずつを先読みして入れ替えていく機能で、便利と感じるか否かは人それぞれだろうが、もっさり感が我慢できない場合の1つの解ではある。このあたり、どんなPDFをどのように表示するかによって、本製品への評価は大きく変わってくるだろう。

見開きでのページめくりの遅さが気になるようならば「先読み」を選択
右に20ページ、左に21ページが表示されている。20ページを読み終えた時点でページをめくると……
左の21ページはそのままで、右のページだけが20ページから22ページに書き換わる
もう一度ページをめくると左のページも書き換わる。このように見開きで読み終えたページを先に切り替えることで負荷を軽減する仕組み

ベーシックなノート機能を搭載

 本連載の主旨からは外れるが、メイン機能であるノート機能もざっとチェックしておこう。本製品の画面上部のメニューにある「ノートを作成する」をタップすると、テンプレート選択の画面が表示される。そこから適切なテンプレートを選択すれば新規ノートが表示され、付属のスタイラスを使ってメモを取ることができる。

 ノート機能は、文字をテキスト化したり図形を挿入するなどの機能こそないが、ペン先の種類や太さは自由に選べ、また色分けもできるなど、手書きメモとしての初歩的な機能は一通り揃っている。

 従来のモノクロモデルでは、カラーのペンであっても画面上ではすべてグレー表示で、書き出して別デバイスで表示するまで色が分からなかったことを考えると、本製品は大きく進化している。

 ただしカラーは解像度が低いこともあり、モノクロに比べると線のギザギザさが目立つ。細かい文字を書く場合、ペンの色は基本的に「黒」を使い、カラーの利用はマーカーなどに留めるべきだろう。

 また本製品はそもそも細い線の表示はあまり得意ではないので、最終的に外部に書き出すにしても、ノートを取る場合はなるべく標準より1段階太めの線を使ったほうがベターだろう。

付属のスタイラスを使ってノートを取ることができる。紙に似たザラザラ感が特徴
ノートを表示した状態で画面上部をタップし、右端のアイコンをタップすることでパレットを表示できる
カラーのペンを選択して線を引いたところ。ほかに万年筆、筆ペン、マーカーがある
範囲選択およびドラッグしての移動も行なえる
利用できる色数は黒および白を入れると8色。解像度の関係で黒以外のカラーはギザギザなのが分かる
PDFとして書き出してPCで表示したところ。こちらは当然ながら低解像度ゆえのギザギザがない。色についても彩度が高いせいで別物に見える

価格的には大健闘。A5モデルも候補に入れたい

 以上のように、画面サイズの大きさとボディの薄さ軽さに加えて、カラー表示が可能になったのはやはり大きい。発色の問題などは今後の進化を待たなくてはいけないが、それでも画面に色がつくというだけで、表現力は格段に向上しており、一度使ってしまうとモノクロの従来モデルに戻るのは難しいだろう。

 ただし複数のカラーE Inkデバイスを見てきた筆者に言わせると、フロントライトが非搭載なのはやはりハンデだ。本製品はノート利用がメインであり、設計を変更してまで画面の白さにこだわる必要はないという判断だろうが、個人的にはバッテリ駆動時間を多少削ってでも搭載すべきだと感じる。後継モデルではそれらの見直しと、併せてパフォーマンスの向上も期待したい。

スタイラスをApple Pencil Pro(下)と比較したところ。かなり短いことが分かる

 実売価格について7万9,800円と、従来のモノクロモデルがここ2年ほど5~7万円のレンジで販売されていたことを考えると、かなりがんばっている印象だ。どうしても価格的に厳しい場合は、画面サイズがひとまわり小さいA5モデルが5万9,800円で販売されているので、そちらを狙うという手もある。

 iPadなどのタブレットはここのところ価格の上昇が著しいので、ノート機能に特化し、さらにPDFの表示も可能なデバイスとして、本製品の今後には注目していきたい。