山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

「iPhone 11 Pro Max」で電子書籍を試す

~カメラ機能以外の進化は見られるか

Apple「iPhone 11 Pro Max」。今回紹介するゴールドのほか、スペースグレイとシルバー、さらに新色のミッドナイトグリーンをラインナップする

 「iPhone 11 Pro Max」は、Appleの6.5型スマートフォンだ。ベゼルレスのデザイン、Face IDなど、従来の「iPhone XS Max」の意匠を引き継ぎつつ、超広角・広角・望遠のトリプルレンズを搭載するなど、カメラ機能に注力していることが特徴だ。

 いまやどのメーカーもラインナップするようになった6型クラスの大画面スマートフォンだが、他社がアスペクト比18:9を大きく超える縦長モデルを続々とリリースする一方、Appleは画面サイズと比率は維持しつつ、ほかの機能強化に努めている。今回の「iPhone 11 Pro Max」の特徴であるカメラ機能は、その最たる例だ。

 カメラ機能の進化があまりにも劇的、かつわかりやすいため、そのほかの特徴がスルーされがちな本製品だが、従来の「iPhone XS Max」と比べて、どのような違いがあるのだろうか。今回は市販のSIMロックフリーモデルを用い、電子書籍端末としての使い勝手をチェックしていく。

 なお本稿執筆時点ではすでに「iOS 13.1」がリリースされているが、以下では初期に導入されていた「iOS 13」で検証を行なっている。

カメラ以外はひとまず「順当な進化」?

 まずは従来モデルの「iPhone XS Max」との比較から。

iPhone 11 Pro MaxiPhone XS Max
発売年月2019年9月2018年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ)77.8×158.0×8.1mm77.4×157.5×7.7mm
重量226g208g
OS(発売時)iOS 13iOS 12
CPUA13 BionicチップA12 Bionicチップ
RAM4GB4GB
ストレージ64/256/512GB64/256/512GB
Wi-FiMIMO対応802.11ax Wi‑Fi6MIMO対応802.11ac Wi‑Fi
画面サイズ/解像度6.5型/2,688×1,242ドット(458ppi)6.5型/2,688×1,242ドット(458ppi)
コネクタLightningLightning
備考IP68IP68

 今回の「iPhone 11 Pro Max」の最大の特徴は、外見上の特徴にもなっているトリプルカメラであることは言うまでもない。とくに超広角レンズの威力は絶大で、広い画角で撮れるカメラを待望していた筆者に言わせると、このためだけに買い換える価値も十分にある。

 もっともこの比較表のように、カメラ関連の機能を省略して電子書籍ユースまわりの仕様だけに絞ると、iPhone XS Maxとの差は少ない。画面サイズや解像度は同じ、ストレージ容量も同じ、また長らく採用の噂があったUSB-Cも搭載されておらず、従来のLightningのままだ。

 もちろんCPUやWi-Fiのように順当に進化している部分もあるが、メモリについても従来の4GBのままということで、パワーが一足飛びに増した印象はない。どちらかというと、全体的に少しずつ底上げされたイメージだ。

 唯一「一足飛び」の進化と言えるのは、バッテリ駆動時間だ。本製品はiPhone XS Maxより最大5時間長いバッテリー駆動時間」を実現しており、オーディオ再生は最大65時間から80時間へ、またビデオ再生は最大15時間から20時間へと伸びている。バッテリーの容量自体が増えたことに加え、CPUの進化で電力の管理効率が上がったのが理由のようだ。

 一方、コンマ数mmずつとは言え筐体が縦横高さともに大きくなり、また重量が18g増加しているのはマイナスだ。そもそも従来のiPhone XS Max自体、6型オーバーの大画面スマートフォンとしてはかなり重い部類だったので、軽量化どころか逆に重くなっているのは、一抹の不安を感じる。

左が本製品、右がiPhone XS Max。正面からでは違いはまったく分からない
外見上の最大の相違点はトリプルカメラ。「iPhone」ロゴが消滅しているのも興味深い
本製品の背面はマット加工で、iPhone XS Max(右)のような映り込みがない

Face ID解除の高速化、アプリ起動の高速化により快適さUP

 では実際に製品に触れてみよう。筐体が大きく、重量が増していると先に述べたが、iPhone XS Maxと両手に持ち比べて、すぐにわかるほどの違いはもちろんない。ただしこのクラスの製品の中では、かなりずっしりとしていることに変わりはない。

 iPhone XS Maxと見分けるには、背面のカメラ形状の違いを確認するのが手っ取り早く、正面からでは違いはまったく分からない。ちなみに側面のボタンやSIMカードスロットの配置はiPhone XS Maxと同じだが、並べてみると位置は微妙にずれていることが分かる。

背面のカメラを見ればiPhone XS Max(後ろ)とすぐ見分けがつく
右側面。ボタン類は同じだが、間隔などが微妙に異なっていることが分かる
左側面も同様で、ボタンおよびSIMカードスロットの位置が微妙にずれている
いっぽうの底面は、iPhone XS Max(上)との違いは見られない

 さて、使い始めてすぐに感じるのは、Face IDの解除が従来よりも速くなっていることだ。これは後述するiOS 13によるパフォーマンス改善の1つで、iOS 12を搭載したiPhone XS Maxと並べて顔を向けると、先にロックが解除されるのは決まって本製品だ。Appleは「最大30%の高速化」としている。

 電子書籍を長時間読んでいると、途中で休憩したり、トイレに行ったり、また外出先では電車の乗り換えにあたって一時的にポケットに入れたりと、ロックと解除をこまめに繰り返すことになる。Face IDの解除が高速になったことで、これら一連の操作がスピーディに行えるようになったのは利点だ。

 またiOS 13ではアプリの起動が最大2倍に高速化されたことが利点として挙げられており、主要な電子書籍アプリ6種類を試した限りでは、iPhone XS Max(iOS 12)に比べて、いずれも起動画面がホーム画面へと切り替わるタイミングが、ワンテンポ速くなっていることが確認できた。

 ただし前述のFace IDの高速化がノーヒントで気づくレベルなのに対して、こちらは横に2台並べて同時にアプリを起動して、ようやく分かる程度の違いだ。またiPhone XS MaxをiOS 13にアップデートして再度試したが、あまり差が縮まったとは感じなかった。どちらかというとハードの違いに起因するような気がしなくもない。

 ともあれ、全体的なパフォーマンスの底上げの一環と捉えておけば、とくに悪い話ではない。こうした細かい改善がストレスをなくし、快適さにつながっていくのはよくある話だからだ。

 一方でマイナスなのは重量だ。もともとiPhone XS Maxの時点で、6.5型にしてはかなりのヘビー級であり、本製品ではそこからさらに重量が増している。長時間手に持って読書を行うに当たっては、指を引っ掛けて持つためのスマホリングやバンドなどにより、なるべく疲れにくい工夫をするのは必須だろう。

筆者はStilGutの本革ゴムバンドを、極薄のTPUケースに貼り付けて使用している。薄型かつ金属パーツがないのでワイヤレス充電も支障なく行える
バンドがあれば片手操作はもちろん、寝転がった状態での読書にも対応できる。唯一の欠点は汚れやすいことで、iPhone XS Maxでの利用時は半年で買い替えを余儀なくされた

表示性能はiPhone XS Maxと同一、iOS 13でも違いはなし

 iPhone XS Maxと比べた場合の表示性能の差についても見ておこう。サンプルには、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を用いている。

 結論から書くと、画面サイズは同じ、解像度も同じということで、目に見える違いはまったくない。ディスプレイがSuper Retina HDからSuper Retina XDRへと進化し、コントラストや最大輝度が向上しているが、筆者は見た限り違いが分からなかった。さすがに白地に黒ベースという電子書籍の表示内容では、これらを実感するのは難しそうだ。

 ちなみに解像度は458ppiということで、単ページ表示におけるクオリティは文句のつけようがなく、見開き表示でも細かい文字は十分に読み取れる。ただし後者については、絶対的なページサイズが小さいため実用的ではない。あくまで単ページ表示が前提となるだろう。

Apple Booksでコミックを表示した状態。背景色が従来のグレーから黒へと差し替えられている。これは後述のダークモードとは関係なく、通常モードでもこの状態だ
Apple Booksでテキストを表示した状態。こちらはとくに違いは見られない
高精細ゆえ見開き表示でも細かい文字が十分に読み取れるが、いかんせんサイズが小さすぎて実用的ではない

 さて、本製品のもう1つの特徴として、本製品発売とほぼ時を同じくしてリリースされた「iOS 13」が、初期状態で導入されていることが挙げられる。これによる電子書籍ユースへの影響はないだろうか。

 まず筆頭に挙げられるのは、画面を黒ベースで表示する、いわゆるダークモードだ。メニューの画面のほか、Twitterなど一部アプリでは、これらの表示がサポートされている。これらは目に優しいのはもちろん、OLEDディスプレイの焼き付き対策の一環だと考えられる。

 しかしながら、これと同じ白黒反転表示モードは、OS側ではなく電子書籍アプリ側ですでにサポートされていることも多く、わざわざiOS 13のダークモードを使う必要はない。また主要な電子書籍アプリをチェックした限りでは、現時点ではこのダークモード自体をサポートしているケースは、Apple純正の「Apple Books」以外に確認できなかった。

 そのApple Booksも、ホーム画面など一部のページが白黒反転表示に対応するようになっただけで、コンテンツの白黒反転は、従来の仕様をそのまま踏襲している。ダークモードは今後多くのサードパーティ製アプリでサポートされていくと見られるが、電子書籍アプリについてはこのApple Booksと同じ仕様にとどまるのではないだろうか。

iOS 13で新たに導入されたダークモード。白ベースの画面を黒ベースへと変更できる
Apple Booksではホーム画面がこのダークモードに対応している。左が無効、右が有効
ただしコンテンツには適用されず、アプリ側で持っている背景色切り替えをそのまま使うことで同じ効果が得られる。Apple Books以外の多くの電子書籍アプリも同様だ
Apple Booksは新たに「読書目標」が表示されるようになったほか、外部コントロールにも対応した

 このほかiOS 13では、写真や動画まわりの機能やマップ関連の機能、ミー文字のサポートなど、さまざまな機能が追加もしくは改善されているが、電子書籍ユースへの影響はほぼない。せいぜい前述の、Face IDの解除の高速化や、アプリ起動の高速化が恩恵として挙げられるくらいだ。

 なおバッテリの持ち時間の改善は、普通に使っているぶんには実感できないが、バッテリの減りが緩やかになれば、それだけスキマ時間を使った読書の機会も出てくるはずで、心強い改善ではある。このあたりは長期的に使っていて初めて感じられるようになるメリットだろう。

重量は気になるが十分に「電子書籍向け」

 以上のように、本製品はバッテリ駆動時間の延長などのプラスはあるが、重量増加というマイナスもあり、電子書籍ユースにおいては、トータルで差し引きゼロというのが筆者の結論だ。先に述べたFace IDのロック解除の高速化は、iOS 13の機能なので、本製品だけの特徴というわけではない。

 もっともこれはiPhone XS Maxと比較した場合であって、単純に6.5型の大画面で電子書籍が読めるというのは、iPhoneのその他のモデルに比べて大きなアドバンテージだ。かつてのiPhone Xの発売直後と異なり、現在はすでにノッチあり画面への最適化も進んでおり、アプリ側の表示がおかしいという話題もまず聞かなくなったことも、安心できる要因だ。

 その上で気になるのは、やはり重量だろう。電子書籍は動画鑑賞などと異なり、数秒~数十秒おきにページをめくる操作が発生するので、原則として本体を手で持ったまま使う必要がある。長時間手に持った場合の負担をどれだけ軽減できるかは、1つのポイントだろう。

 そうした意味では、前述のようにスマホリングなどを使う方法もあるが、本製品と同時に発売された「iPhone 11」を選ぶ選択肢もある。画面サイズは6.1型と本製品よりひとまわり小さいが、重量は194gと本製品より約32g軽く、また価格も割安だ。

 また必ずしもスマートフォンに限定しないのであれば、iPad mini(第5世代)という選択肢もある。こちらであれば、1ページのサイズを維持しつつ見開き表示が可能で、かつ重量はWi-Fiモデルであれば300.5gと、本製品(226g)との差は約74gしかない。スマートフォンとタブレットの違いもあり、価格もずっと安価だ。

iPad mini(第5世代)(左)との比較。見開き表示にしても、本製品よりページサイズは大きい

 と、やや話が脱線したが、本製品の場合、電子書籍ユースのためだけに購入されることはそもそも考えにくく、多くのユーザーはまず端末ありきで、その上で電子書籍の購読にも便利かどうかが、知りたいポイントだろう。そうした問いに対しては、重量の問題さえクリアできれば十分に「電子書籍向け」と言える、というのが結論になりそうだ。