山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon.co.jp「Kindle Oasis(第10世代)」
~フロントライトの色調調整に対応、ページめくりボタン搭載の最上位モデル
2019年7月31日 11:00
「Kindle Oasis(第10世代)」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位にあたる7型モデルだ。ディスプレイ部が薄く、画面横にページめくりボタンを搭載した形状をそのまま踏襲しつつ、フロントライトの色調調整に対応したことが特徴だ。
従来の第9世代モデルは、Kindleシリーズ初となる防水機能を搭載したモデルとして登場したが、それから約1年9カ月、いまやミドルエンドのKindle Paperwhiteまで、防水機能を搭載している。またフロントライト機能にいたっては、ローエンドのKindleにまで搭載されるなど、かつては上位モデルのみだった機能が、下位のモデルにも続々と搭載されつつある。
そんななかで、最上位モデルである本製品のニューモデルは、フロントライトの色調調整という、Kindleシリーズとしては初の機能が追加された。同じE Ink端末ではKobo Formaなどですでに採用例があるが、Kindleファミリーとしては初であり、後発ゆえ使い勝手がどのように工夫されているか気になるところだ。
今回は発売されたばかりの本製品のWi-Fiモデル(8GB、広告なし)を用い、従来の第9世代モデルと比較しつつ検証していく。
見た目は第9世代モデルと同一
まずは従来の第9世代モデル、およびその前の第8世代モデルとのスペック比較から。
Kindle Oasis(第10世代) | Kindle Oasis(第9世代) | Kindle Oasis(第8世代) | |
---|---|---|---|
発売月 | 2019年7月 | 2017年10月 | 2016年4月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 159×141×3.4~8.3 mm | 159×141×3.4~8.3 mm | 143×122×3.4~8.5mm |
重量 | 約188g | 約194g | 約131g+カバー約107g |
画面サイズ/解像度 | 7型/1,264×1,680ドット(300ppi) | 7型/1,264×1,680ドット(300ppi) | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) |
ディスプレイ | 次世代電子ペーパー技術採用7インチAmazon Paperwhiteディスプレイ、解像度300ppi、フォント最適化技術、16階調グレースケール | Carta電子ペーパー技術採用7インチAmazon Paperwhiteディスプレイ、解像度300ppi、内蔵型ライト、フォント最適化技術、16階調グレースケール | Carta電子ペーパー技術採用6インチAmazon Paperwhiteディスプレイ、解像度300ppi、内蔵型ライト、フォント最適化技術、16階調グレースケール |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約8GB(ユーザー使用可能領域:約6GB) 約32GB(ユーザー使用可能領域:約27GB) | 約8GB(ユーザー使用可能領域:約6GB) 約32GB(ユーザー使用可能領域:約27GB) | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB) |
フロントライト | 内蔵(自動調整)、色調調節対応 | 内蔵(自動調整) | 内蔵(手動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ、ボタン |
防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | あり(IPX8規格準拠) | なし |
バッテリ持続時間の目安 | 最大6週間 明るさ設定13、ワイヤレス接続オフで1日30分使用した場合 | 数週間 明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時 | 数カ月 バッテリ内蔵カバー装着時、明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、1日30分使用時 |
発売時価格(税込) | 29,980円(8GB、広告つき) 31,980円(8GB、広告なし) 32,980円(32GB、広告つき) 34,980円(32GB、広告なし) | 33,980円(8GB、キャンペーン情報つき) 35,980円(8GB、キャンペーン情報なし) 36,980円(32GB、キャンペーン情報つき) 38,980円(32GB、キャンペーン情報なし) | 35,980円(キャンペーン情報つき) 37,980円(キャンペーン情報なし) |
備考 | 4Gモデルも存在 | 3Gモデルも存在 | 3Gモデルも存在 |
この表からもわかるように、従来の第9世代モデルとの違いはごくわずかだ。寸法はまったく同じで、画面サイズも解像度も同じ、Wi-Fiまわりの仕様や容量についても変わっていない。画面横に搭載されたページめくりボタン、IPX8準拠の防水防塵機能も同様だ。
重量はわずかに6g減っているが、見た目のデザインが変わっていないため、外見だけで本製品と第9世代モデルを判別するのは不可能だ。むしろ価格が4千円安くなっているのが目立つくらいで、第8世代→第9世代へのモデルチェンジ(画面が大型化&バッテリ搭載カバーの廃止)とは、同じモデルチェンジでも、まったく意味合いが異なることがわかる。
では実際になにが違うのかというと、フロントライトの仕様だ。本製品はフロントライトの色調調節に対応しており、通常の白色光から暖かい色(アンバー)へと切り替えられるほか、時間帯などの条件をもとに自動調節を行なえるなど、詳細な設定が可能になっている。またLEDの個数も12個から25個へと倍増している。
また従来の無料3G対応モデルが、本製品では4G対応へと改められている。先日フルモデルチェンジしたKindle Paperwhiteも同様のリニューアルが図られており、つまりKindleシリーズ全体で、3Gから4Gへと切り替えが行なわれたことになる。
1つ興味深いのはバッテリの持続時間で、従来は「数週間」という表現だったのが、本製品では「最大6週間」という具体的な値に改められた。数週間という表現は幅がありすぎて、都合の悪い値をごまかしているかのような印象を与えかねなかっただけに、より具体的になったのは喜ばしいことだ。
セットアップ手順が大幅に省力化
パッケージは従来の、黒い化粧箱をスリーブで巻く仕様ではなく、最近のKindleシリーズと同じ縦長薄型のパッケージが採用されている。同梱物は本体のほかにUSBケーブルとセットアップガイドで、AC変換アダプタが付属しないのも従来と同じだ。
セットアップ手順も同一……と言いたいのだが、じつは本製品を試してまず驚いたのが、セットアップ手順の大幅な変化だ。
今回のモデルは(店頭ではなく)Amazon.co.jpで購入したため、アカウントが設定済みの状態で届いたのだが、セットアップの冒頭で、設定済みのアカウントが問題ないかを尋ねられて「はい」を選択したところ、そのまま自動的にセットアップが進行し、ほぼなにもしないまま使い方ガイドの画面が、ついでホーム画面が表示された。
通常であれば、言語設定で日本語を選択したあとにWi-Fiの設定があり、その後Amazonのアカウントの確認(および入力)、SNSの連携設定、Kindle Unlimitedの要不要……といった画面が矢継ぎ早に表示されるところ、今回はスマホ連携のリンク送信画面を除けば、なにもせずセットアップが完了した。あとから確認したところ、作業開始から終了までの所要時間は3分しかかかっていなかった。この短さは驚異的だ。
この背景には、過去にAmazon製デバイスをセットアップしたときに、Wi-Fiパスワードなどの情報をAmazonのサーバー上に保存していたこともありそうだが、それにしてもWi-FiのSSIDすら選択せずに、設定が完了してしまうのには恐れ入る(今回購入したのはWi-Fiモデルなので、予め設定されていたことになる)。
試しに、従来の第9世代モデルを初期化して再セットアップを行なってみたが、Amazonアカウントの入力は(手動で初期化したため)必要となるものの、こちらもどうやら同様のフローになるらしいことが確認できた。おそらく今後のシリーズには同じ仕組みが導入されていくことになるだろう。新機種への移行が容易になるという意味で、これは大きなメリットだ。
フロントライトは色調調整対応。日の入や日の出に合わせた自動調整も
さて本製品の最大の売りは、フロントライトの色調調節が可能になったことだ。この機能自体は目新しいものではなく、同じE Ink端末ではKobo Formaなどですでに採用例があるが、Kindleファミリーとしては初となる機能だ。
設定はとくに面倒なものではなく、ホーム画面上部から呼び出すメニューバーのなかに、明るさを調節するスライダーのほかにもう1つ、色を調節するスライダーが表示される。これを指で動かすことで、フロントライトの色を調整できる。
またこの色を、時間帯によって自動的に切り替える機能も用意されている。時間帯は任意に設定することもできるほか、位置情報から取得した日の入、日の出時刻をもとに自動的に切り替えることもできる。明るさの自動調節と合わせて使えば、かなり重宝する機能だ。
ページめくり関連の性能は従来モデルと同様?
リリースによると本製品は「最新のe-ink技術を採用し、より速いページめくりにも対応」と説明されている。この書き方では「より速い」が従来モデルを指しているのか、あるいはPaperwhiteなど下位モデルを指すのか、解釈が難しい。実際に従来の第9世代モデル、およびKindle Paperwhiteと比較してみよう。
なお最初に断っておくと、通常の読書におけるページめくりについては、従来の第9世代モデルの時点ですでに十分な水準にある。一般的に、ページをめくるスピードは、テキストだと20~30秒に1回、コミックで早くて数秒に1回程度だろうが、このレベルでページめくりが追いつかないことはない。これはKindle Paperwhiteなどでも同じだ。
むしろ重要なのは、タップやスワイプを実行したあと、画面が切り替えを完了するまでの時間の短さだ。とくにE Inkにおいては、この切り替わりの速さは、レスポンスがきびきびしていると感じるための大きなポイントで、実際、上位機種(Oasis)と下位機種(Paperwhite以下)とで明確な差がある。ただし新旧のOasisを比べたかぎりでは、正直なところ違いはわからなかった。
またパラパラとページをめくる操作(連続ページターン)についても、これも上位機種(Oasis)と下位機種(Paperwhite以下)との比較では違いが明白だが、新旧のOasisでは誤差レベルの差しかない。具体的には、コミック一冊の先頭から最後まで移動するのに、新Oasisが12秒、旧Oasisが13秒と、ほんの1秒程度の違いだ。
このほか、コンテンツのダウンロード速度なども比較してみたが、こちらも同程度の差しかない。今回は約1週間しか試用していないので、上記以外の操作ではなんらかの差が出る可能性はあるが、少なくともページめくり関連については差は見られず、それらの速度向上を理由に買い替えることは考えにくそうだ。
見開き表示ではページめくりボタンの使い勝手はいまいち
次に電子書籍ユースでの表示性能をチェックしていこう。サンプルとしてコミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、テキストは太宰治著「グッド・バイ」を使用している。
本製品は7型ということで、Kindle Paperwhiteなど6型のデバイスに比べると、コミックの表示にもサイズ的に余裕がある。アスペクト比は4:3ということで、Fireのようなワイドサイズのタブレットと違い、上下の無駄な余白もない。
解像度が300ppiあることから、コミックの見開き表示も対応できる。7型サイズで見開きだといかにも小さく思えるが、じつはiPhone XS Maxなど6型クラスのスマートフォンでコミックを表示した時よりもページのサイズは大きいので、これら大型スマートフォンでの読書でページを小さく感じないようならば、本製品での見開き読書も支障はないはずだ。
ちなみに、本製品と従来の第9世代モデルは、画面サイズや解像度などのスペックは同じ、パネルも同じくE InkのCarta(16階調)とされているが、見開きで比較すると、第9世代モデルはグラデーションで段差が見られるのに対して、本製品はよりなめらかだ。微妙な差ではあるものの、新旧モデルは完全に同一ではなく、なにかしら表示性能は向上していると見てよさそうだ。
ところで見開き表示においては、ページめくりボタンの実用性はかなり低下する。というのも、左側が「戻る」、右側が「進む」という、右綴じの本の進行方向とは逆の配置になるからだ。設定画面で両ボタンの役割を入れ替えることは可能だが、単ページ表示に切り替えるとまた元に戻さなくてはならず、手間を考えても現実的ではない。
また、たとえボタンの役割とページめくりの方向と一致させても、「進む」ボタンを押すためには(右綴じの本だと)必ず左手で持たなくてはいけないのも厄介だ(右手だと「進む」ボタンに指が届かない)。それならば最初からページめくりボタンの利用はあきらめ、タップやスワイプで操作したほうが楽、ということになってしまう。
これは本製品とボタン類のレイアウトがよく似たKobo Formaにも言えるが、ページめくりボタンがあるグリップ部に本体の重心があるため、見開き表示では持った時にバランスが悪くなるのも問題だ。総じて、画面サイズや解像度については見開き表示に十分耐え得るが、ページめくりボタンの実用性はいまいち、という評価になる。
性能および機能それぞれで順当な進化。ヘビーユーザーならば元が取れる
以上のように、見開き表示におけるページめくりボタンの実用性はやや微妙だが、通常利用においてはとくに問題点となる箇所はなく、性能および機能それぞれで順当な進化を遂げた製品だ。価格は第9世代モデルに比べると4千円引き下げられており、もっとも安価な「8GB×広告つき×Wi-Fi」モデルはついに3万円を切った。ヘビーユーザーならば元は取れるだろう。
ただし既存の第9世代モデルから無理に買い替える必要性は感じない。もちろんフロントライトの色調調整に魅力を感じるなら別だが、第9世代モデルもまだ発売から2年経っておらず、そのためだけに買い替えるかは微妙だろう。
一方、Kindle Paperwhite以下のモデルのユーザーで、より快適な読書を望む人にとっては、買い替える価値は高い。本製品をしばらく試したあとでKindle Paperwhiteを使うと、要所要所での操作のもっさり感が耐えられないほど、性能に差があるからだ。CPUなどからして異なるのは明らかで、価格の高さにはそれなりの理由があると痛感させられる。
最後に、個人的に希望するのは、ページめくりボタンが現在よりも多くの操作をカバーできるようになってほしいということだ。たとえば、ストアやライブラリでよく目にする本の一覧表示ページは、ページめくりボタンでは前後のページに移動できない。感覚的には移動できそうに思えるだけに、実際に操作してみてやや戸惑う。
またKindleストアのトップページのように、上下にスクロールする画面も、ページめくりボタンでの上下移動には非対応だ。こうしたページでは、ページめくりボタンを押して反応しないことを確かめてから、タップやスワイプを試すという二度手間が発生するので、非常に効率が良くない。別の機能とバッティングしている様子もないので、ぜひ実装してほしいものだ。