山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazonの画面つきスマートスピーカー「Echo Show」で電子書籍を試す
~音声読み上げ&ブラウザビューア利用でほかにない読書体験も?
2018年12月22日 06:00
「Echo Show」は、Amazonが販売するスマートスピーカー「Echo」シリーズの最新モデルで、10.1型のタッチ対応ディスプレイを搭載した製品だ。
音声アシスタント「Alexa」を搭載しており、音声での呼びかけによって、さまざまな調べ物を行なったり、家電製品の音声コントロールなどにも対応する。
本製品は、元来スマートスピーカーが得意とする音楽のストリーミング再生のほか、大画面を利用した動画(Amazon プライムビデオ)の再生にも対応するなど、マルチメディアデバイスとしての性格も持ち合わせている。
では電子書籍についてはどうだろうか。今回は、本製品で電子書籍を楽しむための3つの方法を中心に、本製品の特性について実際に使用した結果をお届けする。
なおとくに断りがない限り、テキスト本のサンプルは太宰治著「グッド・バイ」、コミックのサンプルはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いており、ほかのコンテンツでは挙動が異なる可能性があることをご了承いただきたい。
タブレットではない、あくまでも「画面付スマートスピーカー」
まず最初に、本製品の基本的な特徴について紹介しておこう。
本製品は、スマートスピーカーというカテゴリに属する製品ながら、タブレット顔負けの10.1型タッチ対応ディスプレイを備えることが特徴だ。通常のスマートスピーカーは音声での問いかけに対して音声で回答するが、本製品はそれに加えて画面にも情報を表示してくれる。
そのため、たとえば天気予報を尋ねた場合、音声だけならば当日の天気降水確率を読み上げるだけで精一杯だが、本製品ならば、週間天気予報や時間帯ごとの降水確率といった情報まで画面上に表示できる。
これらすべての情報を音声で読み上げられると、時間がかかってたまったものではないが、画面を使ってうまく補完しているというわけだ。
動画の再生にも対応しており、たとえばNHKニュースを呼び出した場合、音声の読み上げだけでなく、実際にTVのNHKニュースで流れた動画のダイジェストが全画面で再生される。
既存のスマートスピーカーがラジオ相当、本製品がTV相当だと考えれば、把握しやすいだろう。
ただし、タッチ対応ディスプレイを備えると言っても、メインのインターフェイスが音声であることに変わりはなく、あくまでも画面は音声の補助という位置づけだ。
そのため見た目はタブレット、とくに同社のFireシリーズとよく似ていながら、操作性はまったく異なる。
たとえば、タブレットで言うところのアプリは、このEchoシリーズでは「スキル」と呼ばれるが、それらは「アレクサ、○○を開いて」とコンテンツを呼び出すことで、初めてそれに応じたスキルが起動する。
最初に任意のスキルを起動し、そこからどのコンテンツを開くか探すという、タブレットでは一般的な操作フローには(一部例外はあるが)対応しない。
また本製品に関しては、スタンドと一体化した大柄かつ立体的な筐体ゆえ、手に持っての利用は現実的でなく、デスクやベッドサイドなどに設置して使うことが前提となる。Dolbyのスピーカーを内蔵していることもあり、重量も1,755gと、大型ノートPCと変わらない重さがある。
そのため、本製品をタブレットの亜種のように考えていると、購入してから戸惑うことになる。あくまでもスマートスピーカーに画面が追加されたものであり、それによって写真や動画の再生は可能になったものの、それらの用途が主ではないということは、理解しておいたほうが良いだろう。
なおセットアップ手順は、以下のスクリーンショットをご覧いただきたいが、この段階では音声は使わず、タッチディスプレイ上での操作になる。同社のFireタブレットとほぼ同一のフローだ。
画面を持たないEchoデバイスでは、スマートフォンアプリを使ってセットアップを行なうが、本製品はその必要もなく、タッチディスプレイ上での操作だけで完結する。
Kindle本の音声読み上げが可能。ただし画面表示は連動せず
本製品は、Amazon純正のデバイスということで、AmazonミュージックやAmazonプライムビデオ、Amazonフォトといった同社のサービスに対応しているが、それらの顔ぶれの中に、電子書籍サービスのKindleは含まれていない。Amazonの製品ページでも、Kindleへの言及は一切ない。
そんな本製品で、電子書籍を楽しむためには、大きく分けて3つの方法が考えられる。
1つは、従来からAlexaが対応している、音声によるテキストコンテンツと読み上げだ。「Alexa、○○(Kindle本のタイトル)を読んで」とリクエストすると、Kindleライブラリの中からそれを開き、音声で読み上げてくれる。
一部非対応のテキストコンテンツもあるほか、漢字や専門用語の読み間違いは皆無ではないが、合成音を用い、それなりの精度で読み上げてくれる。ベッドサイドで、就寝前にコンテンツを読み上げてもらう用途には最適だ。
Alexaを用いたKindle本読み上げのレビューは以前行なっているので、参考にしてほしい。
もっとも、従来からあった日本語読み上げにおける細かな問題点は、本製品でもあまり改善されていない。
具体的には、小説やラノベの会話文によくある、カギ括弧で区切られたセリフが連続する箇所で、各セリフごとに改行されているにもかかわらず、連続した一文のように読み上げられてしまう問題だ。
これはセリフを表すカギ括弧のうしろには「。」がつかないという、一般的な表記ルールを理解していないのが原因だ。行末がカギ括弧で終わった場合は、次の行に移る時点で、ワンテンポ呼吸を入れる指定すれば済む話だと思うのだが、同社はあまりこのあたりのチューニングには熱心ではないのかもしれない。
また本製品は、せっかくの画面付きモデルでありながら、この音声読み上げと画面表示とが連携していない。本来であれば、音声での読み上げと並行して本の該当箇所が表示され、音声に合わせてページが自動的にめくられれば便利だと思うのだが、実際には書影と本のタイトル、章タイトルが表示されるだけだ。
これがAmazon Musicでの音楽再生だと、楽曲の再生と歌詞表示が連動する(対応曲のみ)。電子書籍の読み上げでも同様のギミックがあれば、漢字の読みの間違いがあってもすぐに確認できて便利だと思うのだが、現状では本製品の特性があまり活かせておらず、もったいない印象だ。
もう1つ、この音声読み上げに似た方法として、今年10月にAlexaデバイスとの連携を発表した、オーディオブックサービス「Audible」を利用する方法もある。
Kindleとは別にAudibleの有料サービスに加入する必要はあるが、合成音とは異なる、プロのナレーターによる音声コンテンツが楽しめる。
今回は試用できていないが、このAudibleでは、章単位での前後移動も可能とのこと。ほかのEchoシリーズではAlexaアプリの「ミュージック&本」からの呼び出しにも対応するとされているが、Echo Showでどのような挙動になるかは不明だ。
ブラウザビューアを使えば各電子書籍ストアのコミックが読める
さて、本製品で電子書籍を楽しむ3つ目の方法は、ブラウザビューアでコミックなどを表示する方法だ。これであれば、Kindleストアだけに限らず、ブラウザビューアに対応したあらゆる電子書籍ストアが、本製品で楽しめる可能性がある。
利用にあたっては、本製品でFirefoxを起動したのち、電子書籍サービスのブラウザビューアのURLをタッチディスプレイ上で入力し、コンテンツを呼び出すという手順になる。
なぜAmazon純正の内蔵ブラウザ「Silk」でなくFirefoxかというと、「Alexa、(ブラウザ名)を開いて」という音声コマンドで直接起動できるブラウザが、現時点ではFirefoxだけだからだ。Amazonのサポートにも確認したが、Silkはなぜかこの方法での起動には対応していない。
そのため、たとえばKindleで購入済みのコミックを読みたい場合は、上記の手順で音声でFirefoxを起動したのち、タッチパネルからAmazonのURLを入力してログインを行ない「マンガ本棚」を開く。
すると、購入済みのコミック一覧が表示されるので、そこから任意のコミックをタップすれば、ブラウザビューアでコミックの見開き表示が行なえるというわけだ。つまり操作としては、Firefoxの起動までは音声、その後はタッチディスプレイを使うという合わせ技になる。
本製品の画面はHD解像度で、Fire HD 10のようなフルHDでないとはいえ、画面サイズが10.1型と相応に大きいことから、コミックの見開き表示にも十分だ。ただしテキストコンテンツを表示する方法は、筆者は見つけることができなかった。
面白いのは、この見開き表示は、左右だけでなく上下にスワイプしてページをめくることも可能なことだ。
本製品の左右スワイプでのページめくりは動きがややぎこちなく、スワイプ中に少しでも下方向に引っ張ると全画面モードが解除されがちなので、むしろ上にスワイプしてページをめくるほうが、スムーズに読めるかもしれない。
ちなみにこれらの操作はすべてタッチで行なうかたちになり、スマートスピーカーならではの音声による操作には対応しない。つまり、電子書籍を読む時にどうしても本製品が望ましい理由が存在するわけではなく、同等サイズのタブレットを所有しているならば、そちらで読んだほうがストレスは少ないだろう。
もっとも、本製品でブラウザを使ってこのように電子書籍コンテンツを表示できるということは、たとえばキッチンで傍らに置いた本製品にレシピ本を表示し、それを参照しながら料理を作る、といった活用法が可能であることを意味する。
そもそも本製品は、レシピ集などのスキルを動画で見られることを1つの売りにしており、設置場所も、デスク脇やベッドサイドに加えて、キッチンなども想定されている。そうした場所で、電子書籍を参照しながら別の作業を行なう場合には、重宝することはあるだろう。
このほかにも、デスクサイドに本製品を設置し、作画用の資料本を参照しながら絵を描いたり、技術書を参照しながらプログラミングを行なうといった用途も考えられる。
本製品は画面が見やすい角度で固定されていることに加え、片手でタップやスワイプをした程度では容易に動かないほどの重量があるのも、メリットになりうるはずだ。
ちなみに参考までに記しておくと、ブラウザビューアを用意している著名な電子書籍ストアについて試したところ、コミックを表示できたのがBookLive!、BOOK☆WALKER、eBookJapanで、このうちBOOK☆WALKERとeBookJapanは、テキストコンテンツについても表示できた。
Kindleも含め、挙動が安定している順に並べると、BOOK☆WALKER>eBookJapan>Kindle=BookLive!といったところだろうか。ちなみに楽天Koboはログインは可能だが本を開こうとすると購入ページに飛ばされて開くことができず、hontoは「ブラウザで読む」ボタンは表示されるものの実際に開くことはできなかった。
工夫次第でタブレットにはない使い方が可能に?
以上のように、本製品を使っての電子書籍の表示(および読み上げ)は、メインの用途としてはあまりアピールされておらず、使い勝手も必ずしも良好というわけではないが、やり方によっては可能、というのが結論になる。
また機能に制限はあるものの、同社のKindleストアに限らず、他社の電子書籍ストアが使えてしまうのも面白いところ。前述のように相当な重量があり、片手でタップやスワイプを行なってもびくともしないだけに、工夫次第でタブレットにはない使い方ができそうだ。
こうしたことから、10型前後のタブレットを所有しておらず、また本製品をデスクサイドなど手の届く位置に常に置いているようであれば、本製品を入手した人は、一度試してみても面白いと思う。
個人的には今後、テキストコンテンツの読み上げと画面表示が連動する機能が実装されるのを期待したいところだ。