山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
Amazon「Kindle Oasis(第9世代)」レビュー【前編】
~7型に大型化、見開き表示も実用的な防水対応電子ペーパー端末
2017年11月6日 06:00
「Kindle Oasis(第9世代)」は、Amazon.co.jpが販売するE Ink電子ペーパー搭載の電子書籍端末「Kindle」シリーズの最上位モデルだ。ディスプレイ部が薄い従来モデルの形状を踏襲しつつ、Kindleシリーズとしては初となる7型ディスプレイを搭載し、かつ防水機能をも備えることが特徴だ。
従来の「Kindle Oasis」は、着脱可能なバッテリ内蔵カバーにより、装着時は長時間駆動、取り外すと131gの軽量ボディという特徴を備えた製品だったが、今回のモデルではバッテリ内蔵カバーは廃止され、面影を留めるのはグリップ部に比べてスクリーン部が薄いという独特の形状、そしてページめくりが行なえる物理ボタンのみだ。
ただし本製品には従来モデルになかった2つの大きな特徴を備える。1つは7型という、従来の6型よりもひとまわり大きい画面を搭載していること。もう1つは、Kindleシリーズとして初となる防水機能を搭載したことだ。大画面かつ防水機能を備えたE Ink端末をラインナップする楽天Koboシリーズを強く意識した仕様と言える。
今回はまず前編として、基本的なスペックや外観のチェック、画面サイズの大型化による画質のチェック、さらに画面の大型化で可能になった見開き表示の実用性などをチェックしていく。なおAmazonの表記ルールではOasisとして2代目に当たる本製品はKindle Oasisの「第9世代」、初代に当たる従来モデルは「第8世代」とされているが、本稿では前者を本製品、後者を従来モデルと表記する。
従来モデルと見た目は似ているがまったくの別物
まずは従来モデル、および競合に相当する「Kobo Aura H2O Edition 2」との比較から。
Kindle Oasis(第9世代) | Kobo Aura H2O Edition 2 | Kindle Oasis(第8世代) | |
---|---|---|---|
発売月 | 2017年10月 | 2017年5月 | 2016年4月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 159×141×8.3 mm | 172×129×8.8mm | 143×122×3.4~8.5mm |
重量 | 約194g | 約207g | 約131g+カバー約107g |
画面サイズ/解像度 | 7型/1,264×1,680ドット(300ppi) | 6.8型/1,080×1,440ドット(265ppi) | 6型/1,072×1,448ドット(300ppi) |
ディスプレイ | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) | モノクロ16階調 E Ink電子ペーパー(Carta) |
通信方式 | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n | IEEE 802.11b/g/n |
内蔵ストレージ | 約8GB(ユーザー使用可能領域:約6GB) 約32GB(ユーザー使用可能領域:約27GB) | 約8GB | 約4GB(ユーザー使用可能領域:約3GB) |
フロントライト | 内蔵(自動調整) | 内蔵(自動調整) | 内蔵(手動調整) |
ページめくり | タップ、スワイプ、ボタン | タップ、スワイプ | タップ、スワイプ、ボタン |
防水・防塵機能 | あり(IPX8規格準拠) | あり(IPX8規格準拠) | なし |
バッテリ持続時間の目安 | 数週間 明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、一日30分使用時 | 数週間 | 数カ月 バッテリー内蔵カバー装着時、明るさ設定10、ワイヤレス接続オフ、一日30分使用時 |
発売時価格(税込) | 33,980円(8GB、キャンペーン情報つき) 35,980円(8GB、キャンペーン情報なし) 36,980円(32GB、キャンペーン情報つき) 38,980円(32GB、キャンペーン情報なし) | 19,980円 | 35,980円(キャンペーン情報つき) 37,980円(キャンペーン情報なし) |
備考 | 3Gモデルも存在 | - | 3Gモデルも存在 |
冒頭にも記したように、本製品はKindleシリーズでは実質初の試みとなる仕様を2つ盛り込んでいる。1つは7型という画面サイズだ。従来のKindleは、かつて存在していた「Kindle DX」を除き、すべて6型という画面サイズを採用していた。これは文庫本と同等のサイズで、テキストコンテンツを読むには十分だが、コミックを読むには絶対的なサイズが不足していた。
本製品では従来より画面サイズをひとまわり大きくすることで、よりコミックが読みやすい仕様に改められている。ライバルとなる楽天Koboは、防水機能を持つE Ink端末として6.8型の「Kobo Aura H2O Edition 2」、7.8型の「Kobo Aura ONE」の2製品をラインナップしており、サイズ的には前者がライバルと言えそうだ。
重量は、さすがに従来モデルの131gにはかなわないが、200gを切っており十分に軽量だ。Kindleシリーズのなかで比較した場合もKindle Paperwhite(205g)よりも軽く、画面の大型化によって筐体自体が大きくなっていることを感じさせない。
筐体サイズは、やや縦長のKobo Aura H2O Edition 2に対し、ボタン配置の関係もあって正方形に近いサイズであることが特徴だ。厚みについては、本製品はスクリーン部わずか3.4mm(公称値)という薄型設計であり、インパクトでは本製品が圧倒している。
Kindleシリーズ初となる防水機能については、Kobo Aura H2O Edition 2と同じ「IPX8」等級に準拠している。これは風呂場やプールサイドでの利用を想定したもので、水以外の液体をかけたり、あるいは水中で長時間使えるわけではないが、生活防水などに比べるとはるかに上だ。防水機能については次回の後編で詳しくチェックする。
バッテリの持続時間は「数週間」とあるが、製品ページには「一度充電すれば、最大6週間読書をお楽しみいただけます」と、より具体的な時間が記されている。本製品は従来モデルと違ってバッテリ内蔵カバーは用意されないが、筐体がひとまわり大きくなったことで本体グリップ部の容積は増えており、バッテリの搭載量そのものに不安はないと見られる。
8GB/32GBという、容量の異なる2モデルが用意されるのも興味深い。ほかのKindleシリーズが4GBなので、容量が少ないほうでも単純に倍になっている計算だ。また32GBモデルは現行モデルではKindle Paperwhiteマンガモデルのみの仕様で、コミックを多数保存して持ち歩くにはもってこいだ。
以上のように、ページめくりボタン、さらに上下どちらでも使えるデザインや通信まわりの仕様は従来モデルを踏襲しているが、最大の特徴である7型、防水機能は本製品独自のもので、また従来なかった32GBモデルも追加されている。同じOasisという名前を冠してはいるものの、製品としてはまったく別物と考えたほうがよさそうだ。
操作のきびきび感が大幅に向上、メニュー周りのもっさり感も解消
従来モデルに同梱されていたバッテリ内蔵カバーがなくなったことで、やや特殊だったパッケージの仕様はほかのKindleシリーズに近い仕様に改められている。同梱品などは違いは見られない。またセットアップの手順および画面についても「Kindle Unlimited」の広告が挟まるようになったくらいで、従来モデルと大きな変化はない。
ホーム画面のデザインや操作方法は従来を踏襲しており、使っていて戸惑うことはないのだが、コミックなどのシリーズをまとめて管理できる機能が加わったことで、新しい操作も若干見られる。こちらについては本記事の後編で詳しく紹介する。
さて、しばらく使って感じるのが、動作がひじょうにきびきびしていることだ。Kindleシリーズは新しいモデルが出るたびにレスポンスが向上しており、数年前の製品と比較するとあまりの違いに驚かされるが、従来のOasisだけはメニュー周りがかなりもっさりした印象があった。その点、本製品のきびきびした動きは際立っている。6ページめくるたびに行なわれるリフレッシュも、ほとんど気にならないほどだ。
E Inkはその特性上、ページが切り替わるさいには、現在のページと次のページが入り交じるような表示になるわけだが、本製品はその入り混じった状態を表示する時間が短縮されており、小気味よくスパッと切り替わる。一見すると気づかないレベルだが、従来モデルを使い込んでいる人であれば間違いなく気づく変化だ。以下の動画で(目を凝らして)チェックしてみてほしい。
画面サイズの大型化により見開き表示が実用レベルに
本製品は従来モデルに比べて画面サイズがひとまわり大きく、解像度は300ppiをキープしているため、細部の表現力は従来モデルなどと同等、かつ画面そのものが大きいので目に優しい。従来モデルと比較した画像は以下のとおりで、十分過ぎるクオリティだ。
比較写真での各製品の並び順は以下のとおり。なおサンプルは、テキストは太宰治著「グッド・バイ」、コミックはうめ著「大東京トイボックス 1巻」を用いている。
- 上段左: 本製品(7型/1,264×1,680ドット/300ppi)
- 上段右: 第8世代Kindle Oasis(6型/1,072×1,448ドット/300ppi)
- 下段左: Kobo Aura H2O Edition 2(6.8型/1,080×1,440ドット/265ppi)
- 下段右: iPad mini 4(7.9型/1,536×2,048ドット/326ppi)
さて、画面サイズが7型に大型化したことによって、実用レベルへと変貌を遂げた機能が1つある。それは画面を横向きにしてのコミックの見開き表示だ。
これまでのKindleシリーズも機能自体は搭載されていたが、6型での見開きはさすがにサイズ的に現実的ではなく、コミックの表示には事実上使えなかった。本製品は見開き表示にしても、1ページの表示サイズは5.5型スマートフォンと同等レベル、つまりiPhoneのPlusシリーズと同程度のページサイズを維持しているので、十分、とまでは言わないものの、実用レベルで見開きでの読書が行なえる。
ただし、使い勝手はまだまだ改善の余地がある。1つは、画面を横向きに設定した場合も、ホーム画面などは縦向きのままであること。さらに向きの変更がコンテンツのオプション画面から切り替える仕組みなので、ひんぱんに切り替えるのがかなり面倒なことだ。Androidのクイック設定パネルやiOSのコントロールセンターのように、どの画面からでも切り替えが行なえるのがベターだろう。
もう1つは、右綴じの書籍を表示したさい、ボタンの役割とページの進行方向が逆になるということだ。通常の持ち方では、上ボタンが次ページ、下ボタンが前ページへの移動に割り当てられている。しかし見開き表示を行なうために端末を90度回転させた場合も、この役割がそのまま維持されるので、画面に向かって左側のボタンを押すと、ページがめくられずに逆に戻る格好になる。画面の左側をタップするとページがめくられるので、画面タップとボタンで、真逆の動きをすることになる。
もちろん設定画面で2つのボタンの役割を入れ替えることもできるのだが、そうすると通常時もボタンの役割が入れ替わった状態で使わざるをえないので悩ましい。もっとも望ましいのは、画面を横向きに表示する場合は、コンテンツが右綴じだと自動的にボタンの役割が入れ替わる、というギミックだろう。
以上のように、まだまだブラッシュアップの余地はあるものの、大きな画面を持ちながら横向きにしても単ページ表示しかできない楽天Koboと比べた場合の、大きなアドバンテージと言える。コミックにおける見開き表示には確実にニーズはあるはずなので、今後の進化に期待したいところだ。できれば画面自体がさらにもうひとまわり大きくなってくれると、筆者個人としては言うことなしだ。
従来モデルと異なり万人受けする製品。防水機能は次回チェック
以上、ファーストインプレッションをお届けしたが、個人的には200gを切りつつ見開き表示が可能な端末が出てきたことがひじょうに喜ばしい。筆者自身、コミックを読むにあたって、既存のKindleシリーズの画面サイズでは実質的に見開き表示が使い物にならないため、結果として7~8型クラスで解像度が十分にある軽量タブレット、すなわちiPad mini 4に頼らざるを得なかったのだが、今後は本製品の出番が増えそうだ。
また、動きが全体的にきびきびしており、使っていてもストレスがたまらないのは好印象だ。見開き表示のような特定の機能は、興味がない人にとってはメリットになり得ないが、端末自体のレスポンスがよいのは誰もが恩恵を受けられるポイントであり、画面が大きく見やすいことと併せて、万人受けする製品であることは間違いない。従来モデルがどちらかというと特定のユーザーにしか受けない作りだったのとは好対照だ。
次回の後編では、本製品のもう1つのセールスポイントである防水機能や、コミックのシリーズ管理など、今回ふれられなかった新機能についてチェックしていきたい。