山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ASUS「ZenPad 3S 10 LTE」

~縦横比4:3、電子書籍に適した9.7型SIMフリーAndroidタブレット

ASUS「ZenPad 3S 10 LTE」

 ASUSの「ZenPad 3S 10 LTE(Z500KL)」は、9.7型のAndroidタブレットだ。iPadシリーズと同様の4:3比率の画面を持ち、さらにSIMフリーであることが特徴だ。

 本製品は、前回紹介した7.9型モデル「ZenPad 3 8.0」と同様、画面比率が紙の書籍とほぼ同じ4:3であることから、コミックなど固定レイアウトの電子書籍の表示に向いた製品だ。画面サイズが9.7型ということで、見開き表示でもサイズに余裕があるほか、縦向きにすることで雑誌などの大判ページの表示にも対応できるのは、7.9型の「ZenPad 3 8.0」には難しい、本製品ならではの利点と言える。

 そもそも9~10型クラスのAndroidタブレット自体、選択肢がそう豊富にあるわけではないのだが、SIMフリーともなると数えるほどしかない(直近の製品で言うと、Lenovo TAB3 10 Businessか、Lenovo YOGA Tab 3 Plusくらいだろう)。

 これら条件に合致し、かつ画面比率4:3の本製品は、ハマるユーザーにとってはピンポイントでハマる存在と言って良いだろう。今回はメーカーから製品を借用できたので、電子書籍用途を中心に、それらの特徴についてチェックしていく。

 ちなみにWi-Fiモデルの「ZenPad 3S 10(Z500M)」にラインナップを追加する形で発表された本製品だが、CPUがWi-FiモデルではMediaTek MT8176(6コア、2.1GHz+1.7GHz)であるのに対し、本製品はSnapdragon 650(6コア、1.8GHz)を採用するなど、通信回線以外にも相違点がいくつかある。Wi-Fiモデルについては既にレビューが掲載されているので、そちらを参考にしていただきたい。

iPad Pro 9.7インチと同じ画面比率、サイズ、解像度

 本製品の競合となるのは、言うまでもなくiPad Pro 9.7インチだろう。まずは仕様を比較してみよう。参考までに、前回紹介した7.9型モデル「ZenPad 3 8.0」も掲載しておく。

製品ZenPad 3S 10 LTE(Z500KL)iPad Pro 9.7インチ Wi-Fi+CellularモデルZenPad 3 8.0(Z581KL)
発売年月2016年12月2016年3月2016年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)164.2×242.3×6.75mm169.5×240×6.1mm136.4×205.4×7.57mm
重量490g約437g320g
OSAndroid 6.0iOS 10Android 6.0
CPUQualcomm Snapdragon 650(6コア)64bitアーキテクチャ搭載A9Xチップ、M9コプロセッサQualcomm Snapdragon 650(6コア)
RAM4GB2GB4GB
画面サイズ/解像度9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)9.7型/2,048×1,536ドット(264ppi)7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi)
通信方式IEEE 802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ32GB32GB/128GB/256GB32GB
microSDカードスロットあり-あり
バッテリー持続時間(メーカー公称値)約16時間(Wi-Fi通信時)最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生)約11時間(Wi-Fi通信時)
LTE対応(SIMフリー)対応対応(SIMフリー)
コネクタUSB Type-CLighitningUSB Type-C
価格(2017/1/24現在)48,384円66,800円(32GB)/84,800円(128GB)/102,800円(256GB)39,744円
備考Wi-Fiモデル(Z500M)はCPUがMediaTek MT8176(6コア)--

 7.9型の「ZenPad 3 8.0」の仕様が、同サイズのiPad mini 4とそっくりだったように、本製品もまた、同サイズのiPad Pro 9.7インチと仕様が酷似している。特に画面周りは、画面比率4:3の9.7型、解像度は2,048×1,536ドットと、まったく同一だ。

 フットプリントは本製品の方がわずかに幅が広いものの、高さはむしろ本製品の方が短くなっており、面積はほぼ同一。厚みは本製品の方が0.65mm厚いが、両者を持ち比べでもしない限り、ほとんど分からない。

 内蔵ストレージについては本製品が32GBのみ、iPad Pro 9.7インチは32/128/256GBと差があるが、本製品は7.9型モデルと同様にmicroSDスロットを搭載していることから、これを活用することで容量的には遜色のない使い方ができる。

本体外観。7.9型の「ZenPad 3 8.0」と異なり、前面にはメーカーロゴはないが、デザインそのものは縦向きに持つことを前提としているようだ
ホームボタンは物理ボタンを採用しており、本体表面よりわずかに出っ張っている。コネクタはUSB Type-Cで、本体下部の中央に配置され、その両側にスピーカーが配置されるというレイアウトだ
背面のカメラは若干出っ張っている。側面には音量ボタンと電源ボタンが並ぶ
背面は滑り止め防止加工はなく、iPadなどと同様の金属感がある。中央にはモールド成形のロゴがある
SIMカードとmicroSDは1つのトレイに乗せて挿入する仕組み。一度取り付けたら外さないことを想定しているようだ
本製品(左)とiPad Pro 9.7インチ(右)の比較(サンプルはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、以下同じ)。サイズは同等、画面の縦横比率も同じ4:3であることから、表示内容もほぼそっくりに見える
背面の比較。カメラの配置なども酷似していることが分かる。7.9型の「ZenPad 3 8.0」と異なり、背面に滑り止め加工はない
厚みの比較。本製品の方がわずかに厚いが、実際に両手で持ち比べなければ分からないレベルだ

薄さを強調したデザイン。指紋認証が省略されている点に注意

 セットアップの手順は、前回紹介した「ZenPad 3 8.0」とほぼ同じで、Android標準のセットアップ手順をベースとしながらも、途中でASUSならではの項目が割り込むフローになっており、それゆえステップ数はかなり多い。

 また人気アプリやお役立ちアプリ、お楽しみアプリを選択するプロセスもあるほか、それらを選択しなくても、ZenPadシリーズ向けの独自アプリが数多くプリインストールされており、その中にはアンインストールできないアプリもある。Nexusシリーズなど、素のAndroidに近い仕様に慣れたユーザーからすると、多少の気持ち悪さはある。ユーザーの好き嫌いが出やすい部分だろう。

デフォルト状態のホーム画面。電話アプリがないことを除けば、7.9型の「ZenPad 3 8.0」とおおむね同じアイコンの配置だ
プリインストールアプリの一覧。ASUSの独自アプリが多く目につく。電子書籍系ではeBookJapanとKindleがプリインストールされている
セットアップ中に「人気アプリ」をインストールするよう勧められる。スキップすることも可能だが、一部には既にチェックが入っているので、手動で外す必要がある
画面の上端から下に向かってスワイプすると通知領域が表示される。「自動起動マネージャ」と「自動回転」「自動同期」のアイコンは、もう少し直感的に見分けられるデザインを望みたい
SIMカードのAPNは充実しており、手動で情報を入力する必要はまずない

 さて、本製品は、同時期にリリースされた7.9型の「ZenPad 3 8.0」とは、画面比率が4:3であることを除けば、仕様は大きく異なっている。型番を見れば分かるように、元々シリーズ自体が別なのだが、外観からしてもそのことは一目瞭然だ。

 まずボディのデザイン。全体的に丸みを帯びていた「ZenPad 3 8.0」と異なり、本製品は全体的に角張ったデザインで、背面はカメラの出っ張りや中央の埋め込みロゴを除けば、ほぼフルフラットなデザインであるため、より薄さが強調されている。全体のデザインの印象としてはXperiaシリーズに近い。

 またもう1つ、「ZenPad 3 8.0」ではホームボタンはタッチ式だったのに対して、本製品ではホームボタンは物理ボタンとなっているのが大きな相違点だ。タッチ式ではないため、手袋などをしていても押せるのはメリットなのだが、Wi-Fiモデルに搭載されている指紋認証は、本モデルではなぜか省略されてしまっている。おそらくコストの問題だと考えられるが、日々の使い勝手に与える影響は、CPUの違いよりもむしろこちらの方が大きいはずで、やや疑問が残る仕様だ。

本製品(左)と7.9型の「ZenPad 3 8.0」(右)の比較。サイズは二回りほど異なっている。ただし同じ4:3比率ということもあり、ページに余白ができにくい利点は変わらない
背面。右の「ZenPad 3 8.0」と異なり金属の質感が強い。メーカーロゴを隠した状態でと見比べると、同一メーカーの極めて近いシリーズの製品とは思わないはずだ
厚みの比較。背面の滑り止め加工がないぶん、本製品(左)の方が薄い
ホームボタンは物理ボタンだが、Wi-Fiモデルと違ってこのSIMフリーモデルは指紋認証に対応しない点に注意。ちなみに設定画面にも、Wi-Fiモデルにはある「指紋」の項目がない

コミックの見開きから雑誌の単ページ表示まで幅広く対応

 次に電子書籍用途について見ていこう。

 画面比率が4:3で、それ故コミックなど固定レイアウトのコンテンツを表示するのに向いているのは既に述べた通りだが、7.9型より二回りは大きい9.7型ということで、サイズ的にもかなりの余裕がある。解像度そのものは7.9型モデルと同じ(2,048×1,536ドット)なので、細部のディテールが向上するわけではないが、7.9型では表示が細かすぎて目が疲れると感じていた人にとって、本製品は見やすく感じられるだろう。

 一方、画面サイズが大きい代償として、7.9型に比べると170gほど重いわけだが、寝転がって仰向けに本を読むという使い方においても、そう無理なく対応できる。実際の重量はiPad Pro 9.7インチと比べるとわずかに重いのだが、体感的にはあまりそう感じず、ベッドの上で姿勢を変えながら、本体を持ち上げたまま本を読むのも、十分に可能なレベルだ。

iPad Pro 9.7インチ(下)との比較。縦横比、画面サイズ、解像度は同一であるため、こうして並べても見え方の差はほとんどない
こちらは7.9型の「ZenPad 3 8.0」(下)との比較。解像度は同じ2,048×1,536ドットだが、サイズは二回りほど異なる
見開き状態で手に持ったところ。1ページあたりの大きさは文庫本と変わらないが、十分に読めるサイズだ
こちらは7.9型の「ZenPad 3 8.0」で同じ持ち方をしたところ。コンパクトで持ち歩きやすい反面、こうして比べるとやはり絶対的なサイズの小ささを感じる

 また本製品は縦向きにすることで、雑誌などを単ページ表示するのにも向いている。ワイド比率のタブレットだと、雑誌のページを表示するとなると横幅が圧迫され、かつページ上下には大きな余白ができてしまうが、本製品のように4:3比率だとそれもない。さすがに雑誌のページを原寸大で表示するには大きさが足りないが、実用レベルには達している。7.9型モデルと比較した場合の、本製品の大きなメリットと言えそうだ。

「DOS/V POWER REPORT」2017年2月号を表示したところ。原寸、とはいかないまでも、細かい文字も問題なく読めるレベルの大きさだ

 そんなわけで、電子書籍に向いた仕様であることには疑いの余地はないのだが、一方で動画の視聴については、あまり積極的にお勧めしない。1つは、ワイド比率が多い動画コンテンツを表示すると、画面比率が4:3であることが災いして、上下に大きな黒帯ができてしまうからだ。動画中心の用途であれば、ワイド比率のタブレットを選んだ方が、違和感が少なくて済むだろう。

 これだけなら気にしなければ構わないレベルの問題ではあるのだが、もう1つ大きな問題として、本体を横向きにした際に、スピーカーが右側にのみ来てしまうことが挙げられる。iPad Pro 9.7インチであれば、本体を横向きにした際、スピーカーは左側面と右側面の両側に来るわけだが、本製品はかつてのiPadシリーズと同様、片方からのみ音が出る構造になっているため、ステレオがモノラルになってしまうわけだ。

 内蔵スピーカーを使わず、外部のヘッドフォンやイヤフォンを使えば解決できるが、腰を据えて長い動画を観る場合ならいざ知らず、ネットを見ながらカジュアルに動画を視聴する際、その都度ヘッドフォンやイヤフォンを着けるというのは、あまり現実的ではない。次期モデルでは改善を望みたいポイントだ。

しばらく使い続けていると気になる点も

 用途別の使い勝手はここまで見てきた通りなのだが、しばらく使い続けていると「おや?」と疑問を抱くポイントがいくつかある。ざっと使っただけでは気付きにくい点も含まれるため、ここでまとめておこう。

 1つは、ホームボタンの両側にある「戻る」ボタン、およびマルチタスクボタンに、バックライトが用意されていないことだ。明るい場所ではなんら問題はないのだが、暗い部屋で本製品を使おうとすると、ボタンが全く見えなくなってしまう。ボタンの位置は固定なので、押す場所が分からないわけではないのだが、バックライトが消灯しているように見えることから、今押せない状態だと勘違いしてしまうのだ。

ホームボタン左右の「戻る」ボタンとマルチタスクボタンは、バックライトのギミックがないため、上段のように明るい場所ではまだしも、下段のように照明を暗くするとまったく見えなくなってしまう
7.9型の「ZenPad 3 8.0」では、これらボタンはホームボタンも含めてスクリーン上に表示されているので、暗い場所で見えないといった問題もなく、画面の内容に合わせて適切に表示される

 また、その間に配置されているホームボタンは、前述のように指紋認証機構が省かれ、単なる物理ホームボタンとしてしか利用できない。同じASUSの「Zenfone 3 Ultra」の場合、指紋認証に対応しつつ、しかも前述の「戻る」ボタンとマルチタスクボタンはバックライトがきちんと用意されているだけに、非常に不可解だ。このホームボタンは周囲より出っ張っているため、本製品をバッグの中などに入れた際、周囲から押されて誤操作を誘発しやすいのも困りものだ。

 このほか、7.9型モデルと共通する特徴として、充電LEDがなく、ケーブルを挿した状態できちんと充電が行なえているか、直感的に判断できないのもネックだ。前述のスピーカーの配置も含めて、他製品では当たり前すぎて特徴としてわざわざ明記されていない点が、本製品では非対応だったり省かれていたりすることが多い……というのが、全体を通じた印象だ。

デザインや性能に問題はないのだが……

 以上ざっと見てきたが、指紋認証が省かれたホームボタンまわりの仕様や、縦向きを前提にしたスピーカーの配置など、使い込んでいくと違和感を感じる箇所は少なからずある。本体の薄さやスタイリッシュなデザイン、また性能についても特に問題は感じないだけに、少々もったいない印象だ。

 画面比率が4:3のAndroidタブレットは、元々本シリーズ以外にはほぼ皆無といっていい状況であり、なおかつ10型前後の画面サイズ、かつSIMフリーという条件を加味すると、本製品に行き着く可能性は高いと考えられるが、このような特徴が許容できるかが、購入にあたっての1つの判断基準になるだろう。

 なお、もしSIMフリーが必須でないということであれば、指紋認証を搭載したWi-Fiモデルを選ぶ手もあるだろうし、画面比率4:3でさえあればAndroidでなくても構わないのなら、iPadという選択肢もある。4万円台前半という価格設定は、iPad Pro 9.7インチに比べると安価ではあるものの、タブレットとしてはそこそこの価格であるだけに、よく吟味して判断することをおすすめしたい。