山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ
ASUS「ZenFone 3 Ultra」
~6.8型の大画面、「Xperia Z Ultra」を彷彿とさせるAndroidスマホ
2017年2月9日 06:00
「ZenFone 3 Ultra (ZU680KL)」は、6.8型の大画面を搭載したAndroidスマートフォンだ。新書とほぼ同等サイズのボディで、電子書籍を手軽に閲覧できることが特徴だ。
5.5型のiPhone 6 Plusの登場以降、以前にも増して市民権を得た大型スマートフォンだが、最近では6型を超える、小型タブレットとでも呼ぶべきサイズの製品も増えつつある。このクラスの製品の先駆けとなったのは、2013年に発表されたソニーの6.4型スマートフォン「Xperia Z Ultra」だが、後継製品がリリースされないまま現在に至っており、機種変更したくても受け皿となる製品がない、俗に「ズルトラ難民」と呼ばれる人々を生み出している。
今回紹介する「ZenFone 3 Ultra」はASUSの製品であり、「Xperia Z Ultra」の直系の後継モデルではないが、外観などの特徴が非常に似通っているほか、そのネーミングからも「Xperia Z Ultra」を意識していると見られ、ネットの口コミや掲示板でも本製品が「Xperia Z Ultra」の後継たりうるか、注目しているユーザーは多いようだ。
今回、このモデルをメーカーから借用することができたので、主に電子書籍端末として使用した場合についての評価をお届けする。連載の性質上、スマートフォンとしての性能および機能を網羅したレビューというわけではないので、予めご了承いただきたい。
6.8型の大画面。防水機能およびNFCには非対応
まずは競合製品との比較から。冒頭で述べた「Xperia Z Ultra」に加えて、本稿で昨年(2016年)紹介したファーウェイの6.8型スマートフォン「P8max」とも併せて比較する。
製品 | ZenFone 3 Ultra | P8max | Xperia Z Ultra |
---|---|---|---|
製造元 | ASUS | ファーウェイ | ソニー |
発売年月 | 2016年12月 | 2015年9月 | 2014年1月 |
サイズ(幅×奥行き×高さ) | 93.9×186.4×6.8mm | 93×182.7×6.8mm | 92×179×6.5mm |
重量 | 233g | 228g | 212g |
OS | Android 6.0.1 | Android 5.1→6.0 | Android 4.2→4.4 |
CPU | Qualcomm Snapdragon 652 (1.8GHz、8コア) | Hisilicon Kirin 935 (A53X 2.2GHz+A53 1.5GHz、8コア、64bit) | Qualcomm Snapdragon 800 APQ8074(2.2GHz、4コア) |
RAM | 4GB | 3GB | 2GB |
ストレージ | 32GB | 32GB | 32GB |
画面サイズ/解像度 | 6.8型/1,920×1,080ドット | 6.8型/1,920×1,080ドット | 6.4型/1,920×1,080ドット |
通信方式 | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac | IEEE 802.11a/b/g/n/ac |
メモリカードスロット | microSD | microSD | microSD |
コネクタ | USB Type-C | microUSB | microUSB |
備考 | Nano SIMスロットを2基搭載 | メモリカードスロットはNano SIMと排他利用 | 防水(IPX5/8相当)および防塵(IP5X相当)に対応。海外版はAndroid 5.0へアップデート対応済み |
「Xperia Z Ultra」は海外でのリリースが2013年ということで、ハードウェアとしてはもう4年前の製品だ。それゆえCPUやメモリこそ見劣りするものの、全体的なハードウェアスペックは相応に高い。本製品はその「Xperia Z Ultra」を全体的に底上げしたかのようなスペックとなっており、8コアCPUに加えて4GBのメモリなど、ハイエンドスマートフォンといって良い仕様だ。
画面サイズは6.8型ということで、6.4型の「Xperia Z Ultra」に比べると一回り大きく、その分本体サイズもわずかに増している。7型タブレットとはたった0.2インチしか違わないはずだが、圧倒的にコンパクトに感じるのは、ベゼルが薄い故だろう。
ただ解像度は1,920×1,080ドットと、やや平凡と言って良いスペックだ。画面サイズを考えるとNexus 6Pなどと同じ2,560x1,440ドットくらいあっても良さそうなものだが、このあたりはコストとの兼ね合いということだろう。ちなみにP8maxとは画面サイズ、解像度ともに同じということになる。
重量は233gと、平均的な7型タブレットが250g前後であることを考えると、可もなく不可もなくといったところだ。読書端末と比較した場合は、6型のKindleが160~210g前後に分布しているので、こちらもおおむね想定の範囲内である。
なお上の表にはないが、「Xperia Z Ultra」にあって本製品にない特徴として、防水機能およびNFC対応が挙げられる。これらの機能をポイントと考える人も多いはずで、それゆえ本製品は「Xperia Z Ultra」の完全な上位互換とは言い難い。同製品からの買い替えを検討する際、注意が必要だ。
物理ホームボタンによる指紋認証に対応。2つのNano SIMスロットを搭載
ではセットアップから見ていこう。手順は前回までに紹介した同社のZenPadシリーズと同じく、Android標準のセットアップ手順をベースに、途中でASUS独自の設定項目が割り込むフローだ。同社ならではのプリインストールアプリも見られるが、タブレットのZenPadシリーズに比べると数は少なく、大人しい印象を受ける。
本製品は指紋認証に対応しているため、セットアップ途中に指紋を登録するフローがある。指紋認証のセンサーはホームボタンと一体化しており、物理ボタンの表面をなぞるようにして登録を行なう。ボタン部が出っ張っているか否かの相違はあるが、iPhoneのTouch IDとは操作感も含めて非常に良く似ており、解除まで一拍置くことなく瞬時に反応するので、ストレスは全くない。余談だが、指紋認証センサーがあるのは背面ではなく前面のホームボタンなので、間違えないようにしたい。
前回紹介したASUS製タブレット「ZenPad 3S 10 LTE」では、物理ホームボタンの左右に配置された「戻る」ボタン、およびマルチタスクボタンにバックライトが用意されておらず、暗い部屋では全く見えなくなってしまう問題があった。本製品ではこれらのボタンはバックライトを搭載していることから、暗所での視認性も高い。というよりも、これが本来あるべき当たり前の仕様だろう。
本製品は2基のSIMカードスロットを搭載しており、一方はNano SIM専用、もう一方はNano SIMとmicroSDの共用となる。つまり同時に2枚のNano SIMを挿入できるわけだが、この場合は利用するSIMはどちらか一方を優先することになる。良く似た仕様のP8maxでは、一方のスロットがNano SIM、もう一方がMicro SIMだったのだが、本製品はどちらもNano SIMということで、手持ちのSIMカードのサイズが合わない場合は交換が必要になる。
ベンチマークの結果は以下の通りで、Nexus 6Pには及ばないが、同じ6.8型のP8maxとは比較にならず、サクサク快適である。本製品のあとにP8maxを使うと、遅くて耐えられないほどだ。また同じASUSの8型タブレット「ZenPad 3 8.0」と比較しても高速だ。
製品 | ZenFone 3 Ultra | P8max | Nexus 6P | ZenPad 3 8.0 |
---|---|---|---|---|
Score | 906 | 52 | 1486 | 842 |
Graphics Score | 792 | 41 | 1610 | 776 |
Physics Score | 1825 | 962 | 1170 | 1203 |
Graphics test 1 | 5.9FPS | 0.1FPS | 9.2FPS | 5.6FPS |
Graphics test 2 | 2.4FPS | 0.9FPS | 5.7FPS | 2.4FPS |
Physics section 1 | 28.6FPS | 15.1FPS | 30FPS | 23.8FPS |
Physics section 2 | 20.9FPS | 11FPS | 10.8FPS | 13.4FPS |
Physics section 3 | 10FPS | 5.3FPS | 6.1FPS | 6.3FPS |
OS | 6.0.1 | 6.0.0 | 7.1.1 | 6.0.1 |
電子書籍はテキスト本に最適。コミックはコンテンツに依存
本製品は新書サイズということで、片手に持って読書するには手頃なサイズだ。ただしあらゆる電子書籍に万能というわけではなく、コンテンツによってかなり極端な向き不向きがあるというのが筆者の評価だ。具体的な使い勝手を見ていこう。
まずテキストコンテンツについてだが、新書サイズであることから、判型、および縦横の比率とも違和感が少ない。周囲の余白をギリギリまで切り詰めて表示できるBOOK WALKERなどでは、新書より一回り小さいサイズながら、新書よりも1ページあたりの行列を増やして表示できる。
一方、コミックについては、一長一短といったところだ。ワイドサイズの画面を縦に使った本製品では、通常のコミックのページを表示すると左右が圧迫され、ページ上下に大きな余白ができてしまう。その結果、1ページのサイズは、以前紹介した画面比率4:3の8型端末「ZenPad 3 8.0」で見開きした際のページサイズと、ほとんど差がないところまで縮小されてしまう。
さらに見開き表示になると、5型スマートフォンで単ページ表示を行なった際のサイズよりも1ページの面積が小さく、にもかかわらず左右には巨大な余白ができるなど、かなりバランスが悪くなる。見開きでコミックを読むことを前提に候補を探しているのであれば、本製品は除外したほうがよいだろう。
以上をまとめると、本製品と電子書籍コンテンツの相性は、テキストは◎、コミック(単ページ)は○、コミック(見開き)は×となり、どちらかというとテキストコンテンツに向いた端末と見なした方が良さそうだ。ただし、Webコミックに見られる縦スクロールタイプのレイアウトであれば、片手で保持できる本製品は、その威力を発揮することだろう。
背面中央の音量調節ボタンが他製品にない快適なページめくりを実現
このように、電子書籍端末としては、コンテンツの種類によってかなり向き不向きがあるわけだが、実は本製品を電子書籍端末として使うにあたり、他の端末には見られない、大変便利な機能がある。それは背面中央にレイアウトされた音量調節ボタンだ。
電子書籍ビューアアプリの中には、音量調節ボタンをページめくりキーとして使える機能を備えたものがある。それらを本製品と組み合わせると、アクセスしやすい背面中央にこのボタンがレイアウトされていることにより、片手で快適なページめくりが行なえるのだ。
この機能自体は、ほかのAndroidスマートフォンでも使えるわけだが、ほとんどの製品は音量調節ボタンが側面にあるため、背面から鷲掴みするように持たなくてはいけない。またボタンが右側面にある場合は左手で、左側面にある場合は右手でといった具合に、持つ手まで制限されてしまう。
しかし、本製品では左右どちらの手で握った場合も、ちょうど人差し指が来る位置にこの音量調節ボタンがあるため、無理なくページめくりが行なえる。なぜこの位置に音量調節ボタンをレイアウトしたのかは不明だが(ちなみに姉妹製品であるZenFone 3では同じ位置に指紋認証センサーがある)、本製品を電子書籍端末として使う場合、特殊ともいえるこのキー配置は大きな強みとなる。
これを踏まえて、本製品と組み合わせるのにふさわしい電子書籍ストアを挙げるならば、アプリが音量調節ボタンによるページめくりに対応しているストア、すなわちKindleやBOOK WALKERが適しているということになる。実際、これらアプリを使った後に、他事業者のアプリを使うと、使いにくくてたまったものではない。ボタン配置1つでここまで使い勝手が変わるものかと驚かされるだろう。
もっとも、ボタンはやや硬めで、もう少し軽いほうがページめくりには適しているのだが……と思わなくもないが、本体の安定した保持と誤クリックの防止を両立させるには、現状の硬さがベターだろう。KindleやBOOK WALKERを常用しているユーザー、同ストアで大量の積読本があるユーザーには、うってつけの製品と言える。
完成度の高い「名機」。5.5型スマートフォンや7型タブレットを探すユーザにもお勧め
以上見てきたように、新書とほぼ同サイズであることからハンドリングもよく、また背面の音量調節ボタンを活用してのページめくりなど、ほかの製品にはない使い勝手の良さも評価できる。さすがに見開き表示には対応できないが、サイズおよび画面比率からしてそれを求めるのは酷だろう。
使っていてややネックだと感じたのは、電子書籍ユースではなく音楽・動画の再生だ。画面を横向きにするとスピーカーが右側のみとなってしまうのは、多くのスマートフォンに共通する欠点なので致し方ないとしても、音量調節ボタンが背面にあるのが災いし、本製品をスタンドなどに立て掛けたままだと瞬時の音量調節が難しいのは大きなネックだ。
この解決策としては、VLCなど、画面の上下スワイプで音量を調節できるアプリを使う方法が挙げられる。これならわざわざ本体の表裏をひっくり返さなくとも、画面上で音量の調節が瞬時に行なえる。もっとも、これは手持ちの動画を再生する場合には有効だが、利用できるプレーヤーが決まっている動画配信サービスなどでは使えないので、難しいところだ。
と、音量調節ボタンが背面にあることがメリットでもあり、またデメリットになっている部分も見受けられるが、ハードウェアそのものの完成度は極めて高く、容量4,600mAhとあってバッテリーの持ちも良いなど、かなりの「名機」という印象だ。これだけサイズが大きいと堅牢性も気になるが、使っていて全く不安を感じないのも高評価だ。現在6万円台半ばで推移している価格がもう少し下がれば、5.5型クラスのスマートフォンを探しているユーザや、既存の7型タブレットのユーザをも取り込めそうだ。