山口真弘の電子書籍タッチアンドトライ

ASUS「ZenPad 3 8.0」

~電子書籍に適した縦横比4:3の7.9型SIMフリーAndroidタブレット

ASUS「ZenPad 3 8.0」

 ASUS「ZenPad 3 8.0」は、7.9型のSIMフリーAndroidタブレットだ。iPad miniシリーズと同じ画面サイズ、かつ同じ縦横比率により、電子書籍のページを少ない余白で表示できることが特徴だ。

 今や百花繚乱といったAndroidタブレットだが、違いと言えば画面サイズの大小とスペックの高低、LTE対応の有無くらいで、それ以外は各社横並びといった印象が強い。もちろん各社ともに差別化要因を打ち出そうとはしているが、実際のところは画面サイズを決めた上で、CPUやメモリ、解像度といったスペックと価格のバランスで選ばれてしまっているのが実情だろう。

 しかし今回紹介する「ZenPad 3 8.0」は、現行のAndroidタブレットではあまり見受けられない、電子書籍の閲覧に向いた特徴を備えている。それは画面サイズの比率が「4:3」であるということだ。

 Androidタブレットは画面比率が「16:10」または「16:9」の、いわゆるワイド比率がほとんどで、コミックなどの固定レイアウトのページを表示した場合、縦横どちらの向きでも大きな余白ができてしまう。しかし今回紹介する「ZenPad 3 8.0」は画面比率が紙の本とほぼ等しい「4:3」であるため、単ページ表示でも、また見開き表示にした場合でも、余白の少ない表示が可能というわけだ。

 また本製品はSIMフリーながら実売3万円台後半と、コストパフォーマンスの高さも大きな特徴で、昨年(2016年)9月の発売以来、各種ランキングの上位につける人気商品となっている。今回はこの「ZenPad 3 8.0」について、入手した市販品を2カ月ほど試用したので、電子書籍を中心とした用途についてのレビューをお届けする。

iPad miniシリーズを意識したスペック。microSD対応は利点

 まずは本製品の直接の競合となるiPad mini 4と、仕様を比較してみよう。なお外観写真については既に写真レビューが出ているので、そちらも参考にしていただきたい。

ZenPad 3 8.0(Z581KL)iPad mini 4
発売年月2016年9月2015年9月
サイズ(幅×奥行き×高さ、最厚部)136.4×205.4×7.57mm134.8×203.2×6.1mm
重量約320g298.8g
CPUQualcomm Snapdragon 650(1.8GHz、6コア)64bitアーキテクチャ搭載第2世代A8チップ、M8モーションコプロセッサ
RAM4GB2GB
画面サイズ/解像度7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi)7.9型/2,048×1,536ドット(326ppi)
通信方式802.11a/b/g/n/ac802.11a/b/g/n/ac
内蔵ストレージ32GB32GB
128GB
microSDカードスロットあり-
バッテリ持続時間(メーカー公称値)約11時間(Wi-Fi通信時)最大10時間(Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生)
LTE対応(SIMフリー)対応
コネクタUSB Type-CLighitning
価格(2017/1/9現在)39,744円56,800円(32GB)
66,800円(128GB)

 こうして比較すると一目瞭然だが、画面のサイズ、解像度、縦横比についてはiPad mini 4とまったく同じだ。容量はiPad mini 4が32/128GBモデルの2ラインナップであるのに対して、本製品は32GBモデルのみだが、本製品はmicroSDで容量を増やせるというアドバンテージがある。メモリはiPad mini 4の2倍となる4GBを搭載しているが、OSの違いなどにも影響される部分なので、これについては参考程度としておきたい。

 重量は本製品の方がわずかに重いが、両者を持ち比べてようやく分かる程度でしかない。ただし厚みについては約1.47mmという実際の差以上に、本製品の方が厚く感じられる。背面に滑り止めの加工を施していることが主な要因と考えられるが、とは言え同クラスのタブレットの中では薄い部類であり、iPad mini 4とわざわざ持ち比べなければ、そう気になるものではない。

コネクタはUSB Type-Cを採用。中央ではなくやや右寄りに配置されている

 充電コネクタはUSB Type-Cを採用している。スマートフォンでは採用例が増えつつあるUSB Type-Cだが、タブレットではまだそれほど数は多くないだけに、本製品の特徴の1つと言える。また電源ボタンは、本体を縦持ちした際に上に来る面ではなく、音量ボタンとともに右側面にレイアウトされている。

製品パッケージ。本体はブラックのみでカラーバリエーションはない
同梱品一式。USBケーブル、USB-ACアダプタ、各種取説と必要最小限の構成
本体外観。ロゴの向きからして主に縦向き利用を想定しているようだ
iPad mini 4との比較(サンプルはうめ著「大東京トイボックス 1巻」、以下同じ)。どちらも画面比率4:3の7.9型で、本体サイズもほぼ等しい
iPad mini 4との比較(背面)。滑り止め防止加工が施された本製品との違いがよく分かる
iPad mini 4と厚みを比較したところ。数値以上に差があるように感じられる
電源ボタンと音量ボタンは並んで配置されている
SIMカードスロットとmicroSDスロットは電源/音量ボタンとは反対側の面、カバーの中にある。ちなみにSIMカードはNano SIMではなくMicro SIM

スピーカーの配置はプラス要因。指紋認証がないなど気になる点も

 セットアップの流れはAndroidの標準的な手順に加えて、ASUSならではの設定項目が随所に存在しており、やや時間がかかる。またプリインストールアプリも海外メーカーの製品にしては多めで、個人的には煩わしく感じられた。

 これらの中には通知機能があらかじめオンになっているアプリも多く、使い始めてしばらくの間は、これらをオフにするだけで一苦労だ。アンインストールできないアプリも多く、神経質な人は気になるだろう。「人気アプリ」がプリインストールではなく選択制になっている点だけは、かろうじて評価できるポイントと言える。

デフォルト状態のホーム画面。一部はフォルダにまとめられてはいるものの、ASUSの独自アプリが多く目につく
後述の「人気アプリ」を含めずにセットアップした場合のアプリ一覧。電子書籍系ではeBookJapanとKindleがプリインストールされている。ちなみにGoogle Playブックスはない
セットアップ中に「人気アプリ」をインストールするよう勧められる。プリインストールされていないだけ良心的と見るべきだろうか
前述の「人気アプリ」は複数にデフォルトチェックが入っており、スキップしてもうっかりインストールしそうになるので注意
SIMカードのAPNは充実しており、手動で情報を入力する必要はまずない。今回はIIJmioをチョイス

 筆者は普段からiPad mini 4をプライベートで使用しているが、本製品の方が優秀だと感じる点はいくつかある。例えば、本体を横向きにした際にスピーカーが左右にレイアウトされること。動画や音楽の鑑賞などにおいては、本体の右側からのみ、かつ正面にではなく横向きに音が出るiPad miniに比べて、画面の左右から正面向きに音が出る本製品の方が優秀だ。

 一方のマイナスポイントとして顕著なのは、指紋認証のようなロック解除の方法がなく、毎回パスワードやPIN、パターンを入力しなくてはいけないことだ。iPadのTouch IDや、Androidスマートフォンの指紋認証を当たり前のように使っていると、これらがおそろしく面倒に感じる。長期的にストレスになる可能性があるので、指紋認証にすっかり慣れてしまっている人は要注意だ。充電LEDがないのも気になる点だ。

 またこれはiPad miniもそうなのだが、グレア調のギラギラした画面は外光を反射するので見づらく感じられる。個人差はあるだろうが、そのままでは指紋がつきやすいこともあり、非光沢タイプの保護シートを用意した方が望ましいと感じる。

 もう1つ、本製品は音量の最大値がやや大きめに設定されているのか、音量を1段階変えただけでかなりダイナミックに音量が変化する。その影響もあり、音量を最小値にしてもまだ音はそこそこ大きく、かといって一段階下げるとミュートになってしまうため、音量を控えめにして音楽や動画を楽しみたい場合に困ることがある。

 これは音量の段階が少ないAndroid端末にはよくある話なのだが、本製品はかなり顕著に感じられるので、アプリ「ExtraVolumeSimple」を導入して、全体の音量を下げるとともに、擬似的に段階を増やしてやるとよい。1%単位で音量調節ができるiOSと同等とまではいかないが、かなり思い通りの音量に近づけられるはずだ。

アプリ「ExtraVolumeSimple」で、「調整」にチェックを入れ、このスクリーンショットのように値を-10から-5程度にしておくと、最小音量を通常よりも小さくできる

4:3の画面比率はコミックの表示に最適

 さて、冒頭でも述べたように、本製品がほかのAndroidタブレットに比べて電子書籍の閲覧に有利な理由として、画面比率が4:3であることが挙げられる。4:3という縦横比は紙の本のページの比率に近く、コミックなどの固定レイアウトのページを表示した際、無駄な余白が生まれにくいためだ。

 特に画面を横向きにして見開きで表示した場合、画面比率が16:10だと画面の高さに合わせて無理に縮小され、全体が小さくなることに加えて、左右に巨大な余白ができてしまう。その点、画面比率4:3だと、ほぼ画面とページがジャストフィットの状態となる。横向き(見開き)、そして縦向き(単ページ)どちらの場合も、本製品が有利だと言えるだろう。

画面比率16:10のタブレット(第6世代Fire HD 8、解像度1280×800ドット)との比較。本製品(左)と比べると左右の余白が大きく、また天地が狭いぶん全体が縮小されてしまっている
こちらは縦向きでの比較。見開きではなく単ページで表示した場合も、やはり無駄な余白が発生する。公称サイズは本製品(左)が7.9型、第6世代Fire HD 8(右)が8型なのだが、比率の関係で表示サイズは逆転してしまう

 一方、テキストコンテンツについては、リフローされることもあって余白は発生しないため、そう神経質になる必要もない。ただし横画面については、16:10比率で横向きに画面を表示すると、1行あたりの文字数が少なく、紙の本に近い4:3比率に比べてアンバランスさを感じる。縦画面はこうした問題もなく、16:10は新書に近い比率であることから、とくに読みにくさは感じない。横向きだと画面比率4:3が有利、縦向きだとどちらでも問題なし、という評価になるだろう。

横向きの場合、16:10比率(下)だと1行あたりの文字数が少なく、改行が多すぎて読みづらい印象だ。4:3比率では特にそうした違和感はない
縦向きの場合は、1行あたりの文字数と行数のバランスはどちらも問題なく感じられる

 なおコミックの見開き表示については、7.9型だと小さいと感じる人もいれば、筆者のように十分だと感じる人もおり、電子書籍ユーザの間でも意見が分かれがちだ。ただし本製品は解像度が高い(2,048×1,536ドット)ことに加えて、画素密度も326ppiと高いため、見開き表示にしても細かい文字がしっかり読み取れる。上で紹介しているFire HD 8(1,280×800ドット)のように、縦向き(単ページ)表示では読み取れていた文字が横向き(見開き)にすると潰れて読み取れないといったことはまずないので、その点は安心してよいだろう。

コミックの次巻がスムーズに購入可能なのはAndroidならでは

 もう1つ、Androidタブレットである本製品をiPad miniと比べた場合の利点として、コミックなどのシリーズもので、読み終えた後すぐに次の巻を購入できることが挙げられる。これは本製品の特性ではなくOSの違いによるもので、iOSとAndroidで同じ電子書籍ストアを使い比べた経験のある人はご存知のはずだが、一方しか知らないとそのフローが両者共通のものと思ってしまいがちだ。ここではKindleを例に、両者の違いを改めて紹介しておく。

 Kindleアプリの場合、コミックを読み終えるとその著者の作品が表示され、その中には次の巻が含まれている(稀にない場合もあるが)。そこから次の巻に進んで購入を行うわけだが、iOS版とAndroid版とではフローが大きく異なる。

 iOS版のKindleアプリの場合、選択肢は「サンプルを試す」、「詳細はこちら」の2択で、直接購入するボタンはない。「詳細はこちら」をクリックするとBook Browserなる画面が表示されるので、「ほしい物リストに追加する」をクリックして次の巻をほしい物リストに入れる。その後ブラウザを起動してAmazonのサイトを開き、ほしい物リストを表示して次の巻のページを立ち上げ、そこで「1-Clickで今すぐ買う」をタップして購入を行う、という流れになる。

 アプリ内課金を採用しているiBooksやBOOK☆WALKERなど一部を除き、iOS版の電子書籍ストアアプリのほとんどはこのように購入ボタンが直接押せない仕様となっている。ほしい物リストを使って次巻の情報を受け渡せるKindleストアや、メール経由で次巻の情報を送ってブラウザを開かせるBookLiveはまだスムーズなほうで、次巻の案内がまったくなく、ブラウザ上でストアを開いて自力で検索しなくてはいけないケースもしばしばだ。

iOS版のKindleアプリで、コミックを読み終えたあとに表示される次の巻をタップすると、「サンプルを試す」「詳細はこちら」という2択が表示される。直接購入するボタンはない
「詳細はこちら」をタップするとBook Browserが起動するので、「ほしい物リストに追加する」をタップし、画面を閉じる
ブラウザに切り替えてAmazonにアクセスし、「ほしい物リスト」を開く
さきほど保存したコンテンツが表示されているので「1-Clickで今すぐ買う」をタップ。これでようやく購入が完了する。続きを読むには再びKindleアプリに切り替える必要がある

 しかしAndroid版のKindleアプリでは、読み終えた後のページに表示されているタイトルにはそれぞれ「***円で購入する」のボタンが用意されており、クリックするだけで次の巻をすぐに購入できる。まとめ買いの機能を使わず、シリーズものの作品を1冊ずつ購入しながら読む場合は、Androidの方が圧倒的にスムーズということになる。

iOS版のKindleアプリで、コミックを読み終えた後に表示される次の巻をタップすると、「***円で購入する」というボタンが表示される。これをタップするとすぐさま決済が行なわれ、ダウンロードが開始される

 これは電子書籍に限らずiOSの仕様、というよりもAppleの施策によるものだが、このことは電子書籍をスムーズに買い進めるには、iOSよりもAndroidの方がユーザーフレンドリー、という根拠になっている。本製品とiPad mini 4は画面サイズや解像度、端末そのものの重量がほぼ横並びであるため、両者どちらが電子書籍を扱うのに適するか、という問いに対しては、こうした使い勝手の差が、評価に大きく影響するというわけだ。

 もっとも、電子書籍を端末上で買うことはなく、購入は常にPCから、という人もいることだろう。上に述べたフローの違いはあくまでタブレット上での続巻の購入に限った話なので、PCで購入するという人にとっては、こうしたフローの違いはそれほど大きな問題にはならない。またBOOK WALKERのように、iOS上ではアプリ内課金を採用することで、Android版とフローが等しくなるよう工夫しているストアもある。こうしたストアを主に使っているのであれば、本製品の優位性はやや弱くなる。

本製品(上)、iPad mini 4(下)の比較。表示サイズや解像度などでは差はない

Nexus 7シリーズを彷彿とさせる、1つの到達点にあるモデル

 以上ざっと使ってみたが、こと電子書籍ユースに限ると、画面サイズや比率、解像度などについてはiPad mini 4と互角だが、上記の購入フローなど、iPad mini 4に勝る部分も多い。本体の厚みおよび重量の差も許容範囲だろう。指紋認証システムがないためロック解除が面倒なこと、および充電LEDがないことが、長期的にストレスになる可能性がある、というくらいだろうか。

 価格的にはどうだろうか。32GBモデルで両者を比較した場合、iPad mini 4の42,800円に対して本製品はSIMフリーながら3万円台後半と数千円安く、加えてmicroSDを使って保存容量を増やすこともできる。外出先で通信できることを条件に、比較対象のiPad mini 4をWi-Fi+Celllarモデル(56,800円)に置き換えて考えると、別途SIMカードを調達しなくてはいけないとは言え、本体の価格差は2万円近くに広がる。

 2カ月ほど使った限りでは、センサーによる画面の明るさの変化がいささか急激すぎたり、タッチの精度がそこまで高くなかったりと、全体の完成度から言ってiPad miniから買い替えるのはおすすめしないが、電子書籍に適したタブレットを探しており、かつSIMフリーを条件にするならば、本製品が強力な候補となることは間違いない。SIMフリー以外ならほかにも選択肢はあるが、画面比率や解像度など、どこかで妥協が必要になる。発売以来人気を博していることも納得で、かつてのNexus 7シリーズのように、1つの到達点にあるモデルだと感じる。

 なお本製品の後にリリースされた9.7型モデル「ZenPad 3S 10」も、本製品と同じく画面比率4:3で、大画面を求めるニーズには適しているが、指紋認証の搭載など本製品とは根本的に設計が異なっており、聞くところによると製品特性もまったく異なるようだ。本稿で紹介した特徴があてはまらない点も多々あるようなので、候補の1つとして検討する場合は、別物として考えることをおすすめする。