山田祥平のRe:config.sys

【IDF特別編】
Oak Trailタブレットが提案するコンパニオンデバイスという考え方




 タブレットの市場が急速に立ち上がろうとしている。先日開催されたIDF 2011 Beijingでも、Oak Trailプラットフォームが正式に発表され、Intelもまた、その流れをさらに加速しようとしている。ここでは、このタブレットトレンドについて、いくつかの考察をしてみよう。

●Oak Trail登場

 Renee J. James氏(Senior Vice President, General Manager, Software and Services Group)は、IDF 2011 Beijingの基調講演において、コンピューター的なデバイスにおける複数の異なるセグメントに単一のアーキテクチャを提供できるIntelの優位性を強くアピールした。そして、その1つの要素として、今回のIDFではOak Trailプラットフォームが発表されている。このプラットフォームのために用意された新しいプロセッサがAtom Z670だ。

 Intelでは、このプラットフォームを使うことで、ファンレスで1日バッテリ駆動できるデバイスが実現可能であるという。正式に対応するOSはWindows 7、Android、MeeGoの3つだ。

 この領域について考えるときに気になるのが、果たして、フルサイズのWindows 7がここに入り、本当に快適な環境が得られるかどうかだ。この5月以降は、各社からOak Trailを採用したデバイスが各種発売される予定だが、それらに対して、どのようなOSが実装されて世に出てくるのかは、これからのタブレットが、世の中でどのように使われていくかを占う重要なポイントになりそうだ。

 Intelはタブレットはコンパニオンデバイスだとする。デスクトップPCから始まり、家電等の組み込みデバイスに至るIntelのコンピュート・コンティニュアムの中で、ネットブックとスマートフォンの間にくるカテゴリで、かつて、Intelは、このカテゴリをモバイル・インターネット・デバイス(MID)と呼んでいた。

 Douglas L. Davis氏(Vice President, General Manager, Netbook and Tablet Group)は、現在はコンパニオンコンピューティングの黎明期にあるとし、今後は、ムーアの法則を超える速度でのプロセスルールの微細化を進め、低消費電力とパフォーマンス向上の両立を実現していく姿勢を示した。

●Oak TrailでWindowsを使う意味

 Intelは、単一アーキテクチャを複数のプラットフォームに提供できることの優位性をアピールする。ただ、Core iプロセッサとAtomプロセッサでは、その処理性能に大きな差がある。処理性能を犠牲にして、消費電力を下げているのだから、これは仕方がないことだ。

 異なる処理性能で、同じ環境を構築すると、そこでは、使い勝手に影響が出てくるのは自明だ。例えば、Core iシリーズ搭載のPCでWindowsを稼働させたときと、Atom搭載のタブレットでWindowsを稼働させたときでは、その快適度はまったく違う。ユーザー体験のリッチさはまるで別物だ。

 OSのカーネルレベルではそれなりに動いていたとしても、ユーザーにとっての快適さとは、シェルの軽快さであり、アプリの実用度だ。それがWindowsである限り、ユーザーは、デスクトップPCと同じ使い勝手を求めるのは当然だし、デスクトップPCで使っているのと同じアプリが同じように動くことを期待する。同じアーキテクチャが異なるプラットフォームに提供されることでユーザーが得られる恩恵はそこにつきる。でも、「動く」と「快適に使える」は違う。その違いをどこまでガマンできるかだ。

 WindowsとAndroidの双方が同じデバイスで動くなら、たぶん、Andoroidの方が機敏だろう。ただし、AndroidではWindows用アプリは使えない。ユーザーにとっては、目の前のデバイスがIntelアーキテクチャであることよりも、そこで稼働しているOSの方が重要だ。Andoroidでよいのなら、特にIntelアーキテクチャのデバイスを選ぶ必要はないと判断するかもしれない。

 だから、これからどんどん出てくるタブレットデバイスの多くは、Windowsを搭載してくることになるだろう。

●なぜタブレットなのか

 その一方で、なぜ、タブレットなのかを考えてみた。

 個人的にAndroidタブレットを使うようになって、結果として普段の荷物が1つ増えた。日常の生活では、やはりPCがなければならないシーンが多いからだ。ただ、持ち歩いてはいても、カバンから出してモバイルPCを使わなければならないシーンが少なくなったのも事実だ。

 Androidタブレットでは、使おうという気になって、デバイスを手にとってから、1秒未満でロック解除のパターンを入力でき、2秒後には、もうシェルを使ってアプリを起動している。そのクイックさが捨てがたい。

 でも、モバイルPCではそうはいかない。手元のLet'snote J9は、スリープからの復帰は速い部類に入るが、それでも手にとって液晶ディスプレイを起こしてスリープから復帰させ、パスワードを入力できる状態になるまでは3秒程度かかる。たかが数秒の違いだが、その使い勝手の差は大きい。

 だったらと思って、J9に電源を入れっぱなしで持ち歩いてみたことがある。WiMAXをつなぎっぱなしにし、メーラーに一定間隔でメールをチェックさせ、Twitterのタイムラインを常時取得させている状態で1日持ち歩いた。たまに開いてメールを読み書きしたり、Twitterのタイムラインを確認したり、ちょっとした調べ物をブラウザでこなしたりと、Androidタブレットのような使い方をしてみた。標準電圧版のCore i7で稼働するWindowsなので、パフォーマンスにも不満はない。当たり前のことだが、重いアプリを使わなければならないときがあってもストレスはない。

 これでほぼ8時間稼働できた。朝、フル充電で使い始めても、夕方にはバッテリが心配になる近頃のスマートフォンに比べても遜色はない。

 このことで実感できたのは、手にとって瞬時に使えるデバイスは、用事が終わったらすぐに片付けるという実に当たり前のことだった。この手のデバイスで、大きな電力を消費するのは液晶ディスプレイだ。その駆動時間が短ければ、ノートPCのような高処理性能機でもバッテリは持つ。

 Androidタブレットを持ち歩いている時間が8時間あったとして、実際に操作している時間は1時間程度だろうか。そして、ノートPCであってもそれは同じだということがわかった。

 つまり、手にとって使うまでに手間と時間がかかるから、いったん使い始めたデバイスを、ずっと使い続けてしまう。だから、バッテリも消費する。PCを持ち運びながらも、気軽にすぐに使えるタブレットが欲しくなる背景には、こうしたこともあるんじゃないだろうか。

●IAであることの必然性とは

 例えAtomが、ムーアの法則を超えて進化したとしても、その処理性能では同時点のCore iプロセッサにかなわない。モバイルは常に妥協の世界であり、電力消費を抑制するために、処理性能を抑制しなければならないからだ。

 そして、Windowsが稼働する限り、使い勝手もモバイルPCと変わらない。だったらAndroidでいいし、それなら、IAであることの必然性は低くなる。メリットを得られるのは、開発環境を統一できるデベロッパーであり、ユーザーは、開発効率向上の結果が出るのをおとなしく待つ以外にない。

 かくして、ユーザーは、スマートフォンとタブレット、そしてモバイルPCという3つの荷物を常に身につけ、必要に応じて使い分ける。本当にそれでいいのか。Intelのコンピュート・コンティニュアムがもたらす恩恵は、毎日の荷物にタブレット分の重量を増やすだけだとすれば、本当に受け入れられるのかどうか。新Atom搭載の新型タブレットは、それに対する試金石となるだろう。