■山田祥平のRe:config.sys■
携帯電話のSIMフリー化の流れにともない、日本国内でもいろいろと興味深い動きが起こっている。今回は、海外用携帯電話レンタル事業者の取り組みとして、株式会社インターコミュニケーションズの例を紹介しよう。
●4月1日からの正規料金は高額すぎて使えないドコモの海外パケ・ホーダイ現在、IDFの取材で北京に滞在中だ。会期中に仕入れたネタは、短時間で咀嚼するにはちょっと時間が足りない。なんだか、今年は、とんでもないことが起こりそうな気がしているのだが、もやもやとしていて考えの整理がつかない。自分なりに考えをまとめているところなので、もうちょっとだけお待ちいただきたい。
さて、今回の訪中に際して、グローバルデータの海外用モバイルデータ通信レンタルサービスを訪ね、話を聞いてきた。ここのところのSIMフリートレンドの中で、SIMそのものをレンタルするなど、新しいビジネスの可能性がないのか確かめたかったからだ。
というのも、例えば、SIMフリー化に熱心なドコモだが、同社は、これまで海外特定事業者を使用する場合、海外パケ・ホーダイのサービスとして、定額上限1,480円で提供してきた。ところがこの価格はキャンペーン期間中のもので、この4月1日からは予定通り2,980円になってしまった。実際には2段階定額で、20万パケットまでは1,980円なのだが、1日あたり約25MBはおそらく簡単に超えてしまう。だから2,980円固定と考えておいたほうがいい。
正直なところ、この金額は、到底払えるものではない。5泊7日で米国に行くような典型的な出張なら、2万円を超える出費になってしまう。いくらパケットの使用量上限なしだといってもぼくのような零細事業者には無理というものだ。
だったら、グローバルデータの海外用モバイルデータ通信レンタルサービスで、USBタイプの端末を借りて、そのSIMを拝借してみたらどうかと思いついたのだ。物理的には可能なことはわかっているし、規約的にも大丈夫なようなら心強い。手元のスマートフォンに装着して、海外でのデータ通信をまかなえれば実に便利で安上がりだ。実際、今回、別の事業者からルーターをレンタルした同業者がいたのだが、SIMスロットにシールで封印があり、それをはがすと契約違反になると記されていた。できるはずだができないという状況だ。SIMロックならぬ、SIMスロットロックというわけだ。
グローバルデータのサービスについては、ちょうど1年前に使ってみたことがある。そのときは、3G無線ルーターをレンタルしたのだが、今回は、ハードウェアについては、自前のものを使いたい。実際に、そんなことをしてもいいのかどうか、あるいは、今後、SIMのみのサービスが始まる予定があるんじゃないか。そうしたら、割安でインターネット接続手段を確保できる。そう思って、グローバルデータに連絡を入れてみた。
話をきくと、同サービスの現状では、約6~7割がルーターレンタルで残りがUSB端末の割合になっているそうだ。そして、すでに、スキルの高いユーザーが、SIMレンタルを希望してきているという。同サービスとしては、正規にSIMレンタルを謳っているわけではないが、問い合わせられた場合は、USB端末のレンタルを奨めているそうだ。サポートもきちんとするという。ただし、価格はUSB端末利用と同額になる。渡航先1カ国だけの使用ができるカントリータイプが世界33カ国で同額だ。
●USB端末から手持ちのスマートフォンにSIMを差し替え今回の訪中では、実際にサービスを使ってみた。Webで申し込み、利用期間を指定すると、渡航の前日に宅配便でUSB端末が送られてくる。空港で受け取ることもできるが、空港での受け取り手数料と送料が同じなので、宅配便の方が簡単だ。
届いた宅配便には黒いポーチが入っていて、その中に指定した国で使えるSIMを装着したUSB端末が入っていた。また、各国キャリアのAPNを記載した一覧表も入っていた。万が一、端末がAPNを自動設定できなくても、これがあれば手動で設定できる。それに、ユーザー名とパスワードは不要だ。
同サービスによれば、これを正式なパッケージにすることは考えてはいるものの、実現するにはまだ時間がかかるという。SIMのような紛失しやすいチップをきちんと梱包して送るためのパッケージングを考案中とのことだ。
ちなみに、サービス料は1日あたり1,280円だが、出発3日前の15:00までに申し込めば980円になる。全日この割引があるので、実質的には980円のサービスと考えていい。格安とはいわないまでも、ドコモの海外パケ・ホーダイでパケット通信をした場合に比べて約3分の1の価格ですむ。同サービスとしては、将来的にはこの価格をワンコイン、つまり、500円程度まで持って行きたいとのことだ。
届いたUSB端末からSIMを取り出し、手元のSIMフリー端末に装着しておく。今回は、日本通信のSIMフリー端末、タブレットのLight Tabで試してみた。もちろん日本にいるときに装着しても通信はできない。北京の空港に到着したところで、SIM装着済みのLight tabに電源を入れると、APNが自動設定され、ユーザー名やパスワードの入力の必要もなく、現地のキャリアであるChina Unicomに接続、すぐにタブレットでのブラウズやメールチェックができるようになった。到着した、その瞬間から、いつものようにいつもの機器でいつものことができるというのはうれしい。それに、Light tabはテザリングができるのでルーターにもなる。だから、PCやiPod touch、iPad等の通信もまかなえる。
ただし、このSIMでは音声通話はできず、データ通信専用となる。それと、中国特有の現象として、TwitterやFacebookへのアクセスが制限されている。
北京市内での使用状況は、特に問題なかった。地下鉄車内でも、GSMに減速されるもののとりあえずは使える。滞在中のホテルでは、常時HSPAで繋がっていた。スピード自体は大きな不満はないが、震災の影響なのかどうか、日本サイトへのアクセスが特に重く感じることはあった。
また、Light tabは、それなりに大きなバッテリを搭載しているので、テザリングをオンにしたままで1日使っても、バッテリ切れの心配がないのは助かる。ルーターはコンパクトだが、その分バッテリが小さいのでこういう使い方は難しい。使っても使わなくてもテザリングをオンにしておくことで、端末は常に電波を捕捉し続けるし、他デバイスを使うときもすぐに接続する。
●現地SIM入手はエネルギーが必要グローバルデータの話では、ドコモのような大手キャリアが、海外パケ・ホーダイのキャンペーン期間を延長しなかったのは、やはり、海外でのローミングによるデータ通信事業は、それほど儲かる商売ではないのではないか、ということだった。そうなると今後の値下げも絶望的だ。あったとしてもきっと時間がかかるだろう。
グローバルデータの利用者は法人が6割、残りが個人だそうだが、音声に関するニーズはほとんどないという。音声はどうしても従量制になってしまうため、明細を出して請求するためのコストが発生してしまう。それに、音声用海外携帯電話レンタルビジネスでの経験則では、2割のユーザーの通話によって、残り8割のユーザーの価格が高止まりする可能性もあり、音声サポートに関しては様子見だということだ。ただ、スマートフォンの普及でニーズは高まる可能性もある。
なお、今回は、日本出国時に、日本の携帯電話への着信をモバイルIPフォンに転送するように設定しておいた。こちらでは問題なく日本からの電話を着信できたので、場合によってはこういう使い方もありだろう。ローミングでの着信に比べれば格安ですむ。
海外で現地のSIMを調達すればもっと安上がりだというのも正論だ。国にもよるが、コストも格安ですむ。ただ、そのSIMを買い求めるためのエネルギーが馬鹿にならない。降りた空港の自動販売機ですぐに購入できる香港のようなところならともかく、時間に限りのある渡航中の時間は大事に使いたい。
そういうユーザーにとって、SIMレンタルというのは、結構いい選択肢になるんじゃないだろうか。ぜひ、きちんとしたサービスとして、提供するようにしてほしい。遊びであれ、仕事であれ、海外旅行にでかけるときに、なんらかのインターネット接続手段があるとないでは、旅行のクオリティは大きく変わる。これからSIMフリーのスマートフォンユーザーが増えていくのは明らかで、観光旅行に行くときにでも、渡航先でいつものスマートフォンを使いたいというニーズは高まっていくだろう。2,980円は無理でも980円なら出してもいいというユーザーもいるはずだ。もっと安いにこしたことはないが、現時点ではリーズナブルなサービスといえるだろう。SIMフリーの恩恵は、こうしたスキマビジネスから少しずつ広がっていくだろう。