山田祥平のRe:config.sys
先端テクノロジと働く空間、訪れる空間。でも暮らしの空間は……
2025年8月23日 06:00

東京・高輪ゲートウェイに本社を移転したKDDIが、国内外において、通信・ロボット・AIなどのテクノロジを起点に働く空間づくり、そして訪れる空間づくりを支援する「KDDI Smart Space Design」の提供を開始した。これらの空間に通信/ロボット/AIなどのテクノロジを組み込む際にコンセプトの策定から、設計、構築/施工、保守/運用を一気通貫で支援するビジネスだという。だが、こうしたビジネスが成立する一方で、マンションや注文住宅などはどうだろう。
30年を迎えたマンションの生い立ち
今、ぼくが住んでいるマンションは今年で築30年を迎えた。ローンを抱え込んで購入した当時、内装などについては自分たちで指定し、好きなようにできるというのがセールスポイントだった。日本人はこういう自由が苦手で、いわゆるオーダーメイドよりもレディメイドが好まれるとも聞くが、それはそもそも望みの仕様が既製品として用意されていればの話だ。
このマンションでは、たとえばコンセントの位置、数などは自由に指定できた。すべて倍の数のコンセントをつけてもらった。仕事場にいたっては4倍の数にしてもらった。今から考えると、机の高さを想定したコンセント位置や出窓の内側のコンセントなども考えるべきだったと反省している。なんなら部屋を仕切る壁すら撤去できたし、開閉の方向も、ドアか引き戸かなども自由に指定できた。
また、移動式書棚の設置場所の床については補強の処理を依頼した。さらに、仕事場に想定した部屋からほかの各部屋へのLANケーブル配線もお願いした。こうしておけば仕事場に設置したルーターから各部屋に有線LANを配線できる。Wi-Fiが支配することは分かっていたが、有線LANがあればいろんなことができると考えた。
これらのオタッキーな設備は、デベロッパーやゼネコンからの提案は一切なく、自分で考えて依頼するしかなかった。できあがったオーダーを内見した時に、工事を担当した大手の総合設備工事会社から聞いた話では、一般マンションの設備でLAN配線が依頼されたのは、同社としては初めての経験だったという。ケーブルの選択を含めてさまざまな試行錯誤があって勉強になったと礼を言なわれた。それが30年前の話だ。
今は、新築マンションのデフォルト設備は、かなり改善され、あるべきところにコンセントがないといった悲劇はほぼなくなっているそうだ。だが、Wi-Fiのためのメッシュネットワークをどのように構築しておくのか、どこに置かれるのか未定の書斎デスク設置に伴う電化製品の配線、電力供給などの汎用インフラを、何があってもいいように最適化しておくにはどうすればいいかといったノウハウをきちんと提供してくれるような話はあまりきかない。インテリアや動線についてはかなりのチカラを入れて考えられていても、暮らしの空間に必要な設備については満足できるソリューションがなかなか見当たらない。
スマートな空間とは
今、建物にはスマートビルであることが求められるようになっている。KDDIの取り組みは、そのための方法論を求める企業に一気通貫で提供しようというものだ。まさにB2Bビジネスそのものである。
物理的な建物においてビルディングOSが稼働し、各種アプリが実行される。ビルそのものがコンピュータなのだ。それをうまくやっていくためには、デジタルと建築、そして通信のすべてに精通する集団が必要だ。それを机上の空論ではなくできるのは、今のところ、通信事業者しかないといってもいい。デジタル空間の構築から、移動体通信基地局の建設、敷設、そしてサービスの提供までを事業として網羅するKDDIもそんな事業者の1つだ。
B2Bについてはいい。今回のKDDIのような動きは、今後、さらに拡がっていくだろう。働く空間としてのオフィス、倉庫、工場など、また、訪れる空間としての商業施設、店舗、スタジアムなどについては、さまざまな知見が反映される道筋ができあがりつつある。これらはカネを生む空間であるだけに、そこに投資しなければ、ビジネスが成立しないともいえる。
だが、暮らしの空間はどうだろう。ワークライフバランスが云々されることが多い今日この頃だが、そのうちライフの部分、つまり、仕事以外の生活の舞台となる住宅は、オフィスほど恵まれた環境にあるだろうか。
もちろん、増築、改築などが自由にできる注文住宅などでは、数十年を経過してもその改造ができるかもしれない。だが、再設計や再工事には相応のコストが必要だ。働く空間や訪れる空間のように、最高の空間を設計できれば、それだけの見返りを期待できるのなら、そこへの投資をためらうハードルは低くなるはずだ。
でも、暮らしの空間をリッチなものに改造することにはなかなか踏み切れない。一般の市井に生きる人々なら、それができるのは、家を新築したり、マンションを購入したりといった一世一代のイベント時だけだかもしれない。ちょっと先の未来のことや運用を反映させただけで暮らしの空間は一気に質の高いものになるはずなのにだ。
暮らしの空間をもっと快適に
家庭内のデジタルや電気配線事情、バリアフリーにいたるまで、暮らしの空間で考えるべきことは少なくない。この20年は機器としてのデバイスが一気に普及した。暮らしの空間のいたるところにこれらのデバイスが散在する。暮らしの空間なのに家族が使うデバイスを全部あわせれば100個を超えてしまうなんてことも珍しくない。
当然、電気を使うこれらのデバイスは充電や電力供給のために家庭用電気を使う。その供給口としての家庭用コンセントの数は足りているだろうか。その位置にしても足下ばかりに集中していないだろうか。必然的にテーブルタップや延長ケーブルなどを使ったたこ足配線があちこちに生まれる。
白物家電は部屋の四隅のどこかに置くものという当たり前は、すでに別の新しい当たり前に塗り替えられてもいるのだ。床上1mの高さにあるコンセントとか、オフィスでは当たり前の床にあるコンセント、部屋の四隅であったとしても天井近くにあるコンセントなどがあってもいい。
エアコンの配管が露出しているとか、デスク周りの電力供給事情とか、たいてい家具を置くのでその分のシフトが想定されるのに、部屋の中央に照明があることを前提とした天井のシーリングライト位置とか、ベランダに水道がないとか……。こうしたことを、その空間で暮らす前に1つ1つ解決していくのは素人には難しいし、思いついたとしても相応のコストがかかる。
あとで必要になるかどうかは分からない。でも、こうしておけばあとでほしくなったときに有効にすることできるようにしておける汎用性。そういうことを提案してくれるビジネスが当たり前になればいいと思う。
残念ながら、今のところKDDIではそんなB2Cビジネスには興味がないようだ。ローソンのようなコンビニを街のハブとして、さまざまな人々の暮らしへの介入を想定し、豊かな暮らしを提供しようとしているだけに、ちょっと意外ではある。









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