山田祥平のRe:config.sys
【IDF特別編】45分間で分かる2-in-1 PCの作り方
(2014/9/17 06:00)
Intelは現在の2-in-1 PCが、完全なものであるとは思っていないようだ。いいとこ取りはどっちつかずでもあるということを、Intel自身がもっともよく自覚しているとも言える。ここでは、IDFの技術セッションから、PC設計のツボを紹介したコマを見ていく。
タブレット設計の留意点を公開
今回のIDFは、基調講演が分野ごとにMega Sessionとして分散されたことで、一般の技術セッションを丹念に聴講することができた。技術セッションは45分間のコンパクトなセッションだが、中でも興味を惹いたのは「Designing Thin and Fanless 2 in 1 Detachable Systems Using Intel Core M Processor」、と「Design Challenges for 2 in 1 Detachable Intel Core Processor Based Systems」 だ。双方ともに、PDFでセッションスライドが公開されているので、興味があればご覧いただきたい。
Intelによれば、デザインのイノベーションアプローチとして、2-in-1は旧来的ななクラムシェルの使い方を踏襲したものに過ぎないと言う。2-in-1 PCは、デタッチャブル(着脱)式、スライダ式、フォルダ式(液晶360度回転スタイル)に分類できるが、タブレットであり、ラップトップでもあるにせよ、タブレットとして使う際には、それがスタンドアロンのシステムとして稼働する必要がある。
強調されたのは片手操作だ。いずれの場合も、ラップトップとタブレットを遷移する際には片手での操作がラクにできることが求められる。また、着脱式の場合は脱着が容易でなければならない。
着脱式の特徴としては、メインコンポーネントがタブレット側にあり、薄いタブレット側では特に熱設計に注意を払う必要がある。また、無線アンテナとハイスピードコンポーネントが近接するため、干渉を回避するために必ずシールドで覆うことが求められる。さらに、バッテリをタブレット側とキーボードの両側に持つケースに備え、バッテリサブシステムの考慮が必要だ。
薄型タブレットの場合、コンポーネントの配置として、バッテリを両脇に分散させて置くことも提案されている。そうでないと手で支えたときのバランスが悪くなってしまうからだ。全体が軽量である場合、そししたところにも気をつけないとならないという。また、プロセッサは背面向きに、ストレージとWi-Fiモジュールは液晶面向きに配置することで、熱の分散を図るようだ。背面パネルについては、薄いダイキャストアルミパネルを供給する中国のベンダーまで紹介されていた。
メモリはできるだけSoCのそばに置く。それによってボードのサイズを節約できるとしている。また、SoCがほかの熱源と重ならないようにすることも留意するべきだと言う。
装置が熱くなることについては、さまざまな調査において、手で支えるには、金属で41℃、プラスチックで50℃、ガラスで43℃に抑えることができれば、さほど熱いとは感じられないという。テーブルトップを想定する場合は、手で支えることがないので、もっと温度が高くても大丈夫だ。特に、指で触ることになる液晶表面は熱くなり過ぎないことが求められる。そのためにも、熱源としてのSoCは、背面に熱を逃がすように配置することが推奨されている。画面中央あたりにSoCを配置することで、さわる頻度の高い両脇の温度を下げることにも貢献できるようだ。
着脱式2-in-1では特別な配慮が必要
着脱式2-in-1の場合、タブレット部分とベース部分に分けて考える必要がある。両者はドッキングコネクターで接続され、ベース部分は、セカンドバッテリ、USB Hub、追加のオーディオジャックやスピーカーなどを配置する。それ以外のものは、全てタブレット側が受け持つ。
このように、着脱式を含めた2-in-1 PCを設計するために知っておかなければならない勘所をセッションにまとめて紹介することで、装置設計技術的に優位性を持たないベンダーでも、2-in-1の市場に参入できるようにするという気配りだ。セッションが終わったあとには、講師のところに駆け寄って、細々とした質問をする受講者の姿も目立った。
また、Intelは、一般向けのセッションに加えて、プレス向けにCore Mプロセッサのベンチマークに関するデモセッションを用意した。
そこでは、Core Mプロセッサを搭載した同じ構成のタブレットを用意し、1つは金、1つは銅、1つはアルミのバックパネルを装備して性能を比較するデモが披露された。普通に考えれば、重くはなるが銅の熱伝導率が高いため、もっとも性能を発揮できるのは銅の背面パネルだと考える。だが、結果はどれも同じだ。すなわち、普通の使い方をする分にはCore Mの発熱量は背面パネルの素材の影響を受けないくらいに小さいということがこのデモで分かる。
もはや誰でも作れるLlama Mountain
いずれにしても、Intelは今の2-in-1フォームファクタを絶対的なものであるとは考えていないようだ。だからこそ広く、製品設計の勘所を細かくレクチャーし、参入しようとしているベンダーが、その製品設計において単純なミスを犯さないように配慮することで、これまで誰も発想しなかったような新たなフォームファクタの登場を誘っているわけだ。
極端な話、この2つのセッションを聴けば、真っ当なベンダーであれば、すぐに製品設計に取りかかり、大手ベンダーに負けないレベルの製品がとりあえず作れるだろう。そのくらいレクチャーは細かいところまでフォローしていた。
Intelは新しいプラットフォームのためにリファレンスデザインを提供するが、その開発段階で培われた技術的な問題をクリアするための方法論を、こうした場で、惜しげもなく情報開示することで、PCビジネスの活性化を目論んでいると言ういうこともできる。
Core Mプロセッサ搭載のリファレンスデザインとしては、厚み6.9mmの「Llama Mountain」がお馴染みだが、10型液晶で6.8mmの薄さで550g未満というスペックが実現されている。詰まるところ、それが誰でも作れるようになるだけの情報を開示する用意があるということだ。
タブレット部分の重量が軽いとはいっても、それを支えるベース部分の重量が軽すぎては、タブレットを支えることが難しくなってしまうというジレンマもある。せっかくタブレットが軽いのに、キーボード部分が重くなってしまい、全体の重量が1kgを超えてしまうような2-in-1がほとんどというのも、現在の問題点だ。これらの問題を解決するには、より広い層のベンダーが、製品作りに取り組むことが功を奏するかもしれない。そのような取り組みから、今まで誰も想像しなかったようなカラクリが創出され、2-in-1シーンを一変させる可能性もある。
モバイル分野のみならず、Intelはポータブルの液晶一体型PCの市場にも注目している。片手で持てる24型程度の画面を持つ据え置きタブレットだ。「MUMT」、つまりマルチユーザー、マルチタッチのユーザー体験までが想定され、プレミアムコンテンツを楽しめるようにするために、今後は200%スケーリングされた4Kスクリーンや、HDCP 2.2への対応、HEVC(H.265)/10bitデコードといった要素が必要になるとしている。つまり、Intelでは、液晶一体型PCをプレミアムPCのカテゴリとして稼げる土壌に育てたがっているわけだ。
こうしたマーケティングが、直接のエンドユーザーを持たないIntelのような企業にはどうしても必要だ。そういう意味でもIDFは重要なコミュニケーションの場だといえる。OEMのビジネスがうまくいってこそ、Intelのビジネスが成立するのだという事実がここにある。