山田祥平のRe:config.sys

「フル」に背を向けたXperia Aの肌身離さず感

 携帯電話各社から2013年夏モデルが一通り発表された。各社ともに機種を絞り込んできている印象がある。特に、NTTドコモのツートップ施策は興味深い。今回は、そのツートップのうちの1機種、「Xperia A SO-04E」をしばらく使うことができたので、そのインプレッションをお届けしたい。

自分仕様にしないと見えないスマートフォンの素性

 ドコモのXperia Aは、個人的にスマートフォンに要求する要素のほとんどが凝縮されている端末だ。バッテリが交換できること、ストラップホールがあること、Android OSのバージョンが4.1以上であることなど、ほとんど不満がない。ちょっと気になるとしたら端末単体の留守番電話機能がない点くらいだろうか。

 実際に手にした感じも悪くない。Xperiaシリーズは、Zをしばらく使ってみたが、サイズ的にちょっと手に余る感じがあって購入には至らなかった。だが、Aのサイズ感はかなり手に馴染む。4.55型の画面は、フルがつかないHD(1,280×720ドット)だが、それは特に問題だとは思わない。同じ処理性能で駆動するとして、フルHDよりHDの方がサクサク感が高いのなら、そっちの方がいいくらいだ。実際、ソニーモバイルコミュニケーションズでも、そう説明している。

 実際、操作をしてみてもひっかかりをほとんど感じることがない。スマートフォンの評価は、実際に自分のアカウントを登録し、常用しているアプリを全部入れて、数日間使ってみないとなかなか素性が分かってこないのだが、少なくとも、手元で丸3日間使ってみた限り、問題を見つけることはできなかった。これは、ショールームなどで相当じっくりさわってみても分からない。まさか、ショールームやショップの展示実機に、自分のアカウントを登録して、つぶやいたりするわけにもいかないので、スマートフォン選びはなかなか難しいんじゃないだろうか。

 分かりきったことで蛇足かもしれないが、念のためにドコモMVNOのSIMを装着してみたところ、単体でのデータ通信は普通にできたが、テザリングはエラーになった。このドコモ端末の仕様は今も昔も変わらないようだ。

仮想キーと物理キー

 予備のバッテリを携行できる安心感に加えて、バッテリの保ちも悪くない。かなりガンガン使っても10時間で残り容量が20%といったところだろうか。節電のことなど何も考えず、Wi-FiもGPSもオンにしっぱなし、LTE通信をしながら都心をウロウロという1日での運用でこれは悪くない成績だ。Twitterクライアントだって30分に1回自動更新をしているし、Facebookの通知もオン状態、Skypeも待機している。まあ、これはキャリア謹製の常駐アプリをほとんど動かしていないからかもしれない。逆に、そういうことができるようになってきている最近の端末は、ちょっと嬉しい。

 この機種が気に入った理由の1つは、手に持ったときの手頃感だ。今使っている「GALAXY S III」と比べても一回り小さい。だからパンツのポケットの中での座りがいい。ただし、解像度は同じだが4.8型とわずかに大きな画面を持つGALAXY S IIIは、それに加えてホームボタンが物理ボタンで、その両脇に戻るとメニューボタンがある。これらのボタンが画面を圧迫していない分、さらにより多くの情報を表示できる。Xperia Aは、これらのキーが画面上に表示される仮想キーなので、その分、縦方向の表示領域が圧迫されるのだ。

 手元には、GALAXYシリーズとしてS IIIとNoteがあるのだが、このシリーズに慣れてしまうと他の端末を使うときに戸惑ってしまうことがある。というのも、戻るボタンの位置関係が、Google標準と逆だからだ。GALAXYシリーズでは、戻るボタンはホームボタンの右にある。端末を右片手で操作する際に、ちょうど親指で戻るボタンが押せるのはいい。Google標準はホームボタンの左に戻るボタンが配置されているため、端末の横幅によっては片手操作が難しいことも多い。

 それにしても、Google標準の戻るボタンといい、iPhoneの画面左上の戻るボタンといい、シリコンバレーの人たちは、左手か両手でスマートフォンを操作することを前提にUIを作っているんだろうか。それに対して右下に戻るボタンを配するGALAXYはアジアということなんだろう。その背景には、深い理由があるような気がする。ちなみに、Google I/Oで発表されたリードデバイス準拠の「GALAXY S 4」も、戻るボタンはホームボタンの右側のままだそうだ。どっちに指を慣れさせるのが賢明なのか、判断がなかなか難しいところだ。

協調の時代に入ったモバイルデバイス

 気に入ったからといって、買って1年にも満たない手元の端末を放棄して買い替えるというのは、なかなか勇気がいるものだ。個人的には端末購入は一括支払いで済ませてきているが、月々サポートの額などを考えればかなり損をしてしまう。2つの契約をうまく回してこなしていても、なかなかタイミングをあわせるのは難しい。ツートップデバイスは、サポート金額でかなりの優遇があるそうだが、それでも結構悩む金額ではある。

 しかも、ドコモは今後のOSアップデートの予定を発表していて、GALAXY S IIIは4.1に移行できるはずだということも頭にある。4.0から4.1へのアップデートは、コンマ1の違いでも、ICSからJBへとコードネームが変わるくらいで、その違いは大きい。今、手元のS IIIは、ちょっともたつく感じがしているが、4.1にアップデートされれば、まだいけるんじゃないかとも思う。実際、海外出張の際に使っている「GALAXY Nexus」や、国際版の「GALAXY Note」は、過去において4.1にアップデートされたときに、一挙に快適になった。それが期待できるのなら、もう少し使い続けてもいいかなとも思うのだ。

 もし、ポケットの中にスマートフォン1台だけを携帯し、ほかには何のデバイスも持たないというのであれば、Xperia Aは選ばないかもしれない。今、使っているGALAXY S IIIよりも画面サイズが小さく、さらに仮想キーの占有するわずかな情報量の差が、Webを見たり地図を見たりする際の使い勝手を抑制してしまうからだ。

 1台だけを持ち歩くというなら、初代GALAXY Noteの5.3型のサイズ感は絶大だ。ちょっと重いし、横幅は手に余るが、ポケットに入らなくもない。1,280×800ドットという縦横比は縦位置でも横位置でも、Webを見るにも地図を見るにも実用的だ。そして、これなら7型画面のタブレットがなくても我慢ができる。それに対して、Xperia Aは、手頃ではあっても、それだけですべてをまかなうには不安で、タブレットを一緒に持ち出そうという気を起こさせてしまうのだ。その代わりに、肌身離さず持ち歩いてもいいと思わせる手頃感がある。それが重要だ。

 今、スマートフォンハードウェアの差別化は難しい。ハードウェア的なスペックも今はほとんど横並びになってきてしまっている。そんな中で、Xperia Aは、いわば素手の延長としての存在感をうまく演出できている。素手ではできないことを、その延長としてのスマートフォンでこなす感覚だ。それ以上大きなサイズでは素手の延長ではなく、独立した道具、あるいは持ち物、携行品になってしまう。

 Xperia Aは、手の延長と道具の狭間というギリギリのところを、うまく攻めた意欲的なデバイスだと思う。もう少し薄ければよかったとか、もう少し軽ければよかったといった欲は出てくるが、スマートフォンに機種変更して失敗したというガラケーからのユーザーにも納得して受けいれられる魅力も持っていれば、初期のスマートフォンからの買い替えユーザーにも受け入れられそうだ。

 1台の端末に全てを委ねるのか、タブレットやノートPCなど複数台の端末に用途を分散させて協調させるのか。そこが決め手となりそうだ。スマートフォンもようやくそういう時代に入ってきたようだ。

(山田 祥平)