山田祥平のRe:config.sys

へたったバッテリを自分で交換すれば、古いPCが新品同様に復活

 Dynabookがビジネス向けプレミアムモバイルノートPC「dynabook X83(CHANGER)」を発表した。その最たる特徴は新開発のセルフ交換バッテリの機構を採用していることだ。それでいて目標値800gをめざす13.3型16:10液晶のクラムシェルフォームファクタだ。デバイスのライフサイクルとしての耐用年数を実質的に決めてしまい、さらにそれが使い方によって異なる充電池内蔵という構造だが、サステナ的な観点からも、そろそろ見なおすべきなのか。

バッテリは消耗品、だから自分で交換

 Dynabookは、この構造の採用に際して、

バッテリーが劣化・消耗した際に、PC利用者自身で簡単に新しいバッテリーに交換できます。修理に出す手間や時間をかけずに、購入当時のバッテリー環境がよみがえります

とアピールする。しかも、このバッテリは保守パーツとしてのバッテリのように見えるが、同社では純正の「オプション」として提供し、PS0169NA1BRSといった型番も設定されている。価格はオープンだが1万円では買えないが2万円はしないというあたりが目安だそうだ。

 2本のネジで止められたノートPCの裏カバーを取り外すためのネジ開閉用ドライバーも同梱される。このネジを外すとカバーが外れ、バッテリユニットが顔を出す。そして、簡単に取り外して、新しいものに交換できる。安全を考慮し、バッテリは強度や絶縁性に優れたフィルムで保護した上、視認はできないが表裏をステンレスで覆ってあるという。電子基板を露出させない構造にもぬかりはない。この安全性確保のために、バッテリをはめ殺した構造よりも、重量がずっと増えることは覚悟の上だ。

 バッテリは、Lサイズが56Wh、Sサイズが28Whで、Sサイズ代替にLサイズは使えるが、Lサイズ代替にSサイズは使えない。出荷時スペックがバッテリ容量によって異なり、Sサイズバッテリでは3ポートのThunderbolt等が要求する電力を安定して供給することができなくなってしまう可能性があるからだ。

 この製品は、BIOSで「バッテリー充電モード」を設定することができるが、初期設定のAutoモードでは、AC接続状態や90%以上の電池残量が1週間以上続くと、80%で充電を停止するモードに移行する。そして、いったん半分近くまでバッテリを消費しないと、元のようなフル充電をできなくする仕様だ。いわば、バッテリのいたわり充電が自動的に適用され、劣化を抑える方向に機能する。

 ちなみに、バッテリ残量を100%に維持するためには、消費した分をその場で補い、フル充電に戻すことを繰り返すトリクル充電をしなければならない。だが、それはバッテリにとってはとても過酷な使い方で劣化の原因にもなる。

 ネジを2本はずしてカバーを外し、バッテリを交換して、カバーを戻して、元の状態に復帰させるためにに要する時間は、器用不器用にも依存するが、ほぼ誰にもできる作業で、3分間程度と見積もられている。その点ではユーザー責任での使い方になるが、複数個のバッテリを確保しておいて、とっかえひっかえ使うということもできそうだ。

 ただ、バッテリを交換するためには、本体をシャットダウンする必要がある。AC等を確保できない環境での計測など、継続的にバッテリ運用をするのは難しい。シャットダウンと再起動に要する時間も馬鹿にならない。開いていたアプリを開きなおなど、デスクトップを元の状態に戻す作業にも時間がかかる。

 たとえば、バッテリを交換するときだけ、外部からUSB PDバッテリ等で臨時に電力を供給して稼働状態を維持するといったことができれば便利そうだ。この製品の場合は、出荷前で確定ではないが、バッテリを取り外しても稼働を続けることができるために要求する電力は、現時点では調整中という説明だった。

バッテリが長持ちすると誰が嬉しいのか

 バッテリを長持ちさせるためにエンドユーザーが工夫をする。それが賢い消費者だということになっているのが今の状況だ。バッテリは消耗品であり、一般に新品のときの性能が半分程度になった時点で寿命とされる。ストレートに劣化反映するのがバッテリによる駆動時間で、充電を繰り返すことでそれが減っていく。

 新品の時には8時間駆動できたものが4時間しか使えなくなったら寿命とみなし、新品のバッテリに交換するのが望ましい。そこまで達するには、毎日駆使する使い方で3年といったところだろうか。でも、なかなかそう合理的な判断をするわけにもいかず、不満を感じながらも使い続けられることも多い。

 オフィスが入居しているビルから持ち出さない、持ち出しても自宅とオフィスの往復のみなど、そもそもバッテリに依存しない使い方も少なくない。そういうユーザーにとっての内蔵バッテリは、コンセントからプラグが抜けたときの非常電源くらいのイメージだ。毎日バッテリを駆使するのではなく、バッテリ運用をほとんどしないというケースだ。購入後、1度も外に持ち出されたことがないノートPCも少なくないそうだ。

 今回のdynabookのようなプレミアムモバイルノートPCがビルの外に持ち出されないということはまれだとは思うが、ユーザーそれぞれで持ち出し頻度は異なり、バッテリ駆動時間に対する期待度も異なる。そして、ACアダプタにつなぎっぱなしで「使われないバッテリ」の方が、早期に寿命を迎えたりもする。いざ持ち出そうとしたら、フル充電のはずなのに、数分で強制シャットダウンといった憂き目にあったりする。実に理不尽だ。バッテリが健全な状態をキープするのは本当に難しい。これはもう、エンドユーザーの仕事じゃないと思う。

 適当に使って、そろそろダメと思ったら、手っ取り早く交換したいところだが、バッテリ内蔵デバイスの多くはエンドユーザーによるバッテリの交換を想定していない。ほとんどの場合、交換修理として扱われ、メーカー指定のサービスを使い、そのメーカーの純正部品に交換する必要がある。相応のサービス料の支払いも伴えば、場合によっては数泊の時間も要する。当然、その間、PCは使えない。いわゆるダウンタイムが発生する。

 デメリットだらけのバッテリ内蔵だが、本体の薄軽化や安全、堅牢性、また、防水防塵といった付加価値も生むから話はややこしい。

 このあたり、各社、いろいろと妙案はないかと模索が続く。

 たとえば、GoogleのPixelスマートフォンやタブレットは、ゆっくりと充電して、充電時間を長くすることでバッテリの寿命を長くするアダプティブ充電機能が提供され、一晩中、ACアダプタにつないでおいても、スマホの持ち主がバッテリ運用する時間を日常の充電パターンから学習し、朝になってACアダプタを取り外すであろう1時間前に満充電になるように機能する。学習には2週間程度の利用が必要だという。

 一方、パナソニックのレッツノートは、バッテリそのものにインテリジェンスを持たせ、充電が可能な総容量をダイナミックに変更する。これによって、ACアダプタをつなぎっぱなしで100%充電が続いているように見えても、劣化が最小限に抑えられる。いわば「なんちゃって満充電」だ。ユーザーからは100%に見える充電量だが、実際には、もう少し少ないところで充電が停止されている。この対策はうまく機能しているようで、以前は80%で充電を停止するように設定するユーティリティが添付されてたが、今はその添付をやめてしまっている。

 ユーザーの工夫によって、バッテリは延命できる。ただ、その工夫をユーザーに委ねるのではなく、パソコンの側で、いろいろと対策をするケースもあるわけだ。方針は本当に各社各様で、充電式バッテリという機構の複雑さが21世紀が四半世紀終わろうとしている今も続いているのは悩ましい。

 リチウム系のバッテリは、その登場前の20年間、ニッケル系で経験してきたバッテリの充電学習による性能低下やそもそもの重量から我々を解放した。それまでは今以上に大変だったのだ。この先、内蔵バッテリはどうなるのか。消耗品であり続ける以上、これからのことを考えなければならない。そのために犠牲になるもの、得られるものを考えなければならない。バッテリを新品に交換するだけで新品時に戻るレッツノートはリセールバリューも高いという。今回のdynabook X83(CHANGER)でも同様の恩恵を得られるはずだ。その経験は、畑が異なるEVの運用などにも役にたつ可能性がある。さて、他社はどうする……。