山田祥平のRe:config.sys
三種のPixel ~ Foldというスタイルのデビュー
2023年7月29日 06:42
Googleのフォルダブルスマートフォン「Pixel Fold」の販売が始まった。5月の開発者向け会議Google I/Oで発表されていた製品だ。着実に実績を積み重ねて評価が高まっているPixelシリーズのスマートフォンだが、満を持して登場した初の折りたたみフォームファクタとなる。
数字で見るGoogle Pixelシリーズ
Pixelシリーズは、お馴染みのシリーズとなった無印、Pro、aのスマートフォンに加え、先行して発売されたPixel Tabletと、そのラインナップを充実させてきた。そして、直近のPixel Foldがデビューしたことで、過去において、ガラケー時代を含め、我々のスマートライフを支えてきたデバイスの代表的な3つのフォームファクタが勢揃いしたことになる。
つまり、スマホ、フォルダブル、タブレットだ。ここでのフォルダブルは2つ折りの3Gガラケーやクラムシェルノートなども十把一絡げに同じ範疇に入れて考えている。
揃ったGoogle Pixelデバイスの寸法周りを整理してみると、以下の表のようになる。
製品ライン | 製品名 | 重量 | スクリーンサイズ | 縦横比 |
---|---|---|---|---|
無印スマホ | Google Pixel 7 | 197g | 6.3型 | 9:20 |
Proスマホ | Google Pixel 7 Pro | 212g | 6.7型 | 9:19.5 |
aスマホ | Google Pixel 7a | 193.5g | 6.1型 | 9:20 |
フォルダブルスマホ | Google Pixel Fold | 283g | 外側5.8型+内側7.6型 | 9:17.4+6:5 |
タブレット | Google Pixel Tablet | 493g | 10.95型 | 16:10 |
すべてのフォームファクタがGoogle Tensor G2という同一のプロセッサで駆動する。製品によってメモリ容量が8GBのものと12GBのものがあるが、同一のプロセッサで異なるフォームファクタを試せるというのは貴重な体験だ。そして、どのフォームファクタでも力不足は感じないし、ストレスもない。
また、上記デバイスのどれを使うにも、そのすべてで同じシェル(ホームアプリとしてのPixel Launcher)と対話でき、UI、UXはもちろん、設定項目などについても混乱することがない。デバイスをとっかえひっかえ使っても、まさにシームレスに操作ができ、ピュアGoogle体験とはこういうものなのだと実感できる。
Googleが提案する3種のPixel
ざっくりした勘定で恐縮だが、ここで我々はGoogleから200g、300g、500gという選択肢を提案されている。肌身離さず持ち歩いて使うという点では、200g前後の重さで6型前後のスクリーンというのが限界だろう。
重量は1gでも軽い方がうれしいが、Pixelスマホの現行機種では最軽量の7aでも193.5gとちょっとヘビーだ。過去には151gで6型のPixel 5のような製品もあったのだが、大画面化の波には逆らえないようだ。172gで6.1型のiPhone 14のようなポジションの製品を望む声もありそうだ。
21世紀に生きる現代人としては、スマホを常時携帯するのは常識と考えていいだろう。そのスマホではできないことをできるようにするためのデバイスを求めるときに、真っ先に思いつくのがPCだ。でも、PCは大げさだと思うユーザーも少なくない。そこそこでいいから、小さなスマホより使いやすいデバイスをというわけで、そんなユーザーはスマホよりも大きな画面のタブレットを欲しいと思う。
そういうユーザーにとってタブレットは、
- 大きな画面のスマホがほしい
- 小さなボディのPCがほしい
という両面、あるいはどちらかでとらえられる。どちらも、PCは大げさだから携行するのは無理という思惑がある。手慣れたスマホと同じように使える大画面のスマホ、まるでPCのように使える大画面のスマホ、それがタブレットの立ち位置だ。背に腹は代えられないということだが、使い勝手はPCが上だと思う一方、そうじゃない説も根強い。
そのタブレットだが、493gで10.95型は、ポケットには入らないし、女性のハンドバックなどの中でもかなりの存在感だ。それを使って音声通話をするのもマヌケだし、手ぶらで出かけるときに持ち出されることもない。
そこまでサイズが大きくなくても、スマホの感覚で携行できるスマートデバイスはないか。普段はスマホ、必要なときだけタブレットになるような端末。そこに浮上してきたのがフォルダブル端末だ。スマホに比べればズシリと重いが、タブレットほど重くはなく、それなりに大きな画面も享受できる。
何といってもその大きな画面を2つ折りにしておけるので、必要がないときにはコンパクトになってポケットにも入る。これなら多少の重ささえガマンすれば、スマホの代替になりそうだといったところだろうか。
つまり、フォルダブル端末は、PCとタブレットとスマホの代替をかなえるスーパーデバイスであることを、ずいぶん勝手に期待されてしまうフォームファクタだ。
縦を開けば横になり、横を廻せば縦になる。それでも見かけはほぼ正方形
Google Pixel Foldは、2つ折りにした状態で外側5.8型のスクリーンを使って、一般的なストレートスマホと同様の操作ができる。画面の縦横比は9:17.4で、9:20に近い一般的なスマホほど細長くは感じない。
そして、それを本のように開くと折りたたまれていた7.6型のスクリーンが露出する。こちらの縦横比は6:5、つまりほんの少し横長ということになる。この状態を左右どちらかに90度回転させると、見た感じはあまり変わらない5:6の縦横比となる。こちらはほんの少し縦長だ。見かけはどちらもほぼ正方形だが、縦世界と横世界が支配を牛耳る。
開いたときに、ほとんど正方形に近いスクリーンが出現する。その折れ目が縦だと横長スクリーン、回転させて横にすると縦長のスクリーンになる。でも、見た目の感覚はほとんど変わらない。
この設計は微妙にすごい。なぜなら、横長画面では横長非対応のアプリが縦長表示されて余白(というより余黒)ができるが、回転させて縦長画面にするとフルスクリーンで表示され、横長画面非対応のアプリでも問題がなくなる。
画面に複数のアプリを表示させるようなときも同様で、そのときの画面が縦長なのか横長なのかで微妙にアプリの振るまいが異なるが、ユーザーからの見た目はほとんど同じ正方形という絶妙な縦横比だ。複数のアプリを並べて表示し、相互に連携させるような場合も分かりやすい。縦長の画面も分割すれば横長になるからだ。
縦でも横でも雰囲気は変わらないが、実は違うというところが絶妙に過渡期の使い勝手をキープしている。未対応のアプリが多い過渡期だからこそ、うまく機能しているといえるし、狙ったものであればすごい。
ごろ寝などで不用意に画面が回転しないように、普段スマホでは自動回転はオフにしてあって、必要なときに手動回転ボタンで画面を回転させているが、Google Pixel Foldは自動回転するように設定して使った方がよさそうだ。2つ折り状態を開くときには、書籍を開くように横方向に開いて横長スクリーンを露出することが多いのだが、アプリが非対応の場合には、画面を回転させるだけでフルスクリーンになるほうが便利だ。
個人的には、外出時のほとんどは日常的にノートPCを携行しているので、画面を分割して複数のアプリを併行して使って何らかの作業をしたいと思ったときには、間違いなくカバンからノートPCを取り出す。そのため、画面分割の機能をスマホやタブレットで多用することはないし、なくても困らないのだが、PCが手元にないことを前提にすれば、あっても邪魔にはならない機能だ。そして、それを真っ先に求める層もある。
画面が大きいと何がうれしいのか
2つ折りが目指すのは、日常的には必要がない広さを隠蔽し、必要になったときに露出するということだ。どんなときにその広さが必要になるのか。
アプリでいえば、その筆頭はブラウザだ。こればかりは表示面が広い方が一覧性が高まる。今、Webの表示やUIを測るのに個人的に頼りにしていてベンチマークサイトのように重宝しているのは「デジタル庁」のサイトだ。レスポンシブデザインで、ウィンドウサイズ、そして縦長、横長といった多様なスクリーンにきちんと対応し、最適化された表示が得られる。
Google Pixel FoldでこのWebサイトを開いて、画面を回転させたり、外側、内側のスクリーンに切り替えたりと、いろいろやってみると、そのデザインがとても優れていることを実感できる。そして、スクリーンの広さも有効に活かせる。ちなみに、新しいトップページの試行版が公開中だが、今の方がずっと視認性に優れているようにも感じる。しかし、まだ発展途上なので先のことは分からない。
また、Googleマップのようなアプリで地図を見るときにも大きな画面がいい。タブレットやPCはWANが非対応のものや、リアルタイムで現在地が反映されるナビゲーション機能を使うためのGPSが非搭載なものが多いが、Google Pixel Foldならその心配はない。あくまでもこのデバイスはスマホだ。広い画面に広い範囲を表示し、GPSから現在地をリアルタイムで受け取りながら、地図アプリとしての機能を最大限に享受できる。スマホの6型前後の縦長スクリーンでは、なかなかそうはいかない。
そのほかには、フォト系アプリや、メール、スケジュールアプリなどでは大きな画面がありがたい。サムネイルを表示したり、項目を確認したりするには、その一覧が多く表示されているほうが使いやすいからだ。週間予定表の確認もこれなら実用的だ。
大画面といってもたかだか7.6型なのだが、それでもずいぶん使い勝手は変わる。スマホにセカンドモニターを接続したような世界観だが、100g未満で得られるセカンドモニターは見つかりそうにない。
映画を見るなら普通のスマホでいいかも
意外に、16:9縦横比を中心とした動画コンテンツなどは、内側の大きなスクリーンを活かすのが難しい。ほぼ正方形に近い縦横比のスクリーンに横長な16:9のコンテンツを表示しても、上下の半分近くが無駄になる。これなら外側のスクリーンでもいいと思うくらいだ。
YouTubeのようなアプリでは、仮想的に上下に画面が分割され、上半分に動画を表示し、下半分にコメントを表示するといったスタイルができる。これが便利だ。でも、普通に動画だけにスクリーンを独占させて楽しむのには向いていない。
画面の縦横比はともかく、フォームファクタとしての可能性は、いろいろな方法で本体を自立させることができる点に注目すると明るく拓けていく。半開きにして外側スクリーン表示を見るテント表示や、屏風のように立てて使ったり、L字に開いて折れ目で仕切られた手前と奥の2つのスクリーンを別の目的で使うなどのバリエーションに未来が見える。
こうしたフォームファクタの特性を得るために、今よりも70gより重くなるボディを日常的に持ち歩く気になれるかどうか。先日、Samsungは第5世代目となる「Galaxy Z Fold5」を発表したが、その重量は253gだ。先代の263gから10gダイエットしてきた。ちなみに、ほぼ3年前に登場した「Galaxy Z Fold2」が282gだったので、Google Pixel Foldとほぼ同じだったことになる。
Google Pixel Foldは、Googleとしては第1世代となるフォルダブルフォームファクタであり、283gからのスタートというのは石橋を叩いた結果なのだろう。今後、競合が増えていくのも間違いない中で、さらなるダイエットが進んでいくのだろう。フォームファクタの可能性としては、期待に満ちている。本命が登場するには、まだ少し時間がかかりそうだが、今から慣れ親しんでおくのがよさそうだ。