山田祥平のRe:config.sys

ASUSのプレゼンスが実証するPCベンダーというビジネス

 2023年4月18日(火)、ASUSがこの春夏モデルのノートPCを発表した。2020年、コロナ禍が始まったばかりの頃に完成した台湾・台北の新社屋のイベントホールで、その発表会が催され、軽量で高性能なプレミアムシリーズとしての「Zenbook」から、幅広いユーザー層に対応する「Vivobook」、また、プロクリエイターのニーズに的確に応える「ProArt Studiobook」などお馴染みのシリーズでの発表製品は実に31製品74モデルにのぼる。

ASUSの提案するピュアコンシューマ製品

 発表された膨大な製品群を精査すると、いくつかのポイントが見えてくる。本当は、すでに発表済みのゲームレイヤーをターゲットとしたROGシリーズも含めて考えるべきかもしれないが、焦点を明確にするために、今回は、この春夏モデルに限定して考えてみる。今回発表された各製品は、エントリーモデル、カジュアルニーズ、ハイクリエイターがメインターゲットだ。いわゆる法人向けのビジネスPCとも多少セグメントは異なる。

 ASUSは、先日IDCが発表した2023年第1四半期のワールドワイドにおけるPCの出荷台数で5位、世界シェア6.8%のメーカーだ。参考までに書いておくと、トップはレノボで、次にHP、デルテクノロジーズ、アップルに続く企業ということになるわけだ。今回のデータでは、アップルが業績を大きく落としたため、そのシェアの差を0.4%まで縮めている。世界的なシェアがこれくらい高い5社については、その動きは常に注目される。ASUSはその一社だということをしっかりと認識しておこう。

 今回の発表製品における特徴的なポイントとしては、OLEDモデルを積極的に提案していることや、ノートPC内蔵モニターの縦横比率16:10化を推進しようとしている。今、ノートPCは、差別化がとても難しい時期にある。テクニカルスペックを見ていても、プロセッサが何か、メモリの量はどのくらいか、ストレージの容量は、どんなポートがあるかといったことでプラットフォームを判断するしかない。そして、そこにその付加価値としてディスプレイのサイズや種類といったフォームファクタ的な要素が加わる。

 ちなみに、ディスプレイとしてOLEDを採用したモデルは、例外なくディスプレイ表面が光沢仕上げとなっている。これは好みの分かれるところだろうけれど、最近は、スマホの光沢画面に慣れていて、しかもそれがOLEDであることが多く、その発色や質感が基準になってしまっていて、PCもそうでないと見劣りがするという状況に対応したものらしい。昔ながらのザラザラした非光沢画面の使いやすさを重宝している古くからのユーザーとしては複雑な心境だ。

シンプルな極みをめざす

 巨大なベンダーは、各製品の安定した供給を実現するために、昔から「世界最薄」や「最軽量」といったウルトラCを提示することはあまりなかった。それはASUSも同様なのだが、同社は「Less is More(少ないほど豊か)」をコンセプトに、大量生産から想像するイメージとは真逆の製品を提案している。

 発表会に登壇した同社ジョニー・シー会長がいうところの「すべては人から始まる」というモットーからも分かるように、ニーズ、欲求、要望によって、シームレスで愉快なデジタル体験を提供し、(人の)希望を聞いて最高の体験を提供するというのが同社の方針だ。

 だからこそ、2011年以来の薄型軽量機として、今回は、Zenbook S 13 OLEDが薄さ10.9ミリ約1kgのポータビリティを実現した。Zenbookとしては実に12年ぶりだ。冒頭の写真は新旧のZenbookを構成するパーツを新旧比較したものだ。

 また、グラフィックスを強化した14.5型のZenbook Pro 14 OLEDは、Intel CoreのHプロセッサー、NVIDIAの4070 GPUを搭載しながらも重量1.6kgを実現、薄型軽量化へのチャレンジを圧巻のパフォーマンスで上書きした。

 また、業界的には注目される製品ではあるが、価格の高さや、ニーズの希少さで、とうてい多くを販売できる製品ではないようなコンセプトモデルを、堂々と製品化するのもASUSというメーカーだ。今回、ノートPC内蔵モニターのOLED化を積極的に提案するずっと以前から、とても手が出せそうもない価格にしかならないようなOLED搭載製品をきちんと提案してカタログに並べていた。そして今は、OLED搭載ノートPCの出荷台数ではナンバーワンブランドとなっている。

 OLED関連では、2016年のCESで参考出品されたJOLEDのパネルが採用された21.6型4K OLEDの「ASUS ProArt PQ22UC」のことが個人的に強く印象に残っている。

この製品、今も、同社のWebサイトに掲載されているが、今なお、こんなぶっとんだ製品はない。理想的なモバイルモニターとして欲しくてたまらなかったが、2019年9月の発売時で60万円という価格にはさすがに手が出なかった

 でも、こういう製品をちゃんと出すというのがすごい。キャリーバッグなども同梱しながらモバイルを想定していないとは言わせない。

 そういう意味では世界5位で6.8%シェアというポジションは、その上位のベンダーと、その下位のベンダーの両方の特異さを兼ね備えたものだといえそうだ。

 こうしたポジションならではと言えるのかどうか、同社は世界に160以上の販売支社を持ち、1,300以上のサポートセンターを擁してサービスを提供している。特に、「ASUSのあんしん保証」は、メーカー保証となる自然故障のみならず、自損故障にも保証の範囲を拡げられるサービスとして、どんな壊れ方でも絶対サポートするという。スマホでいえば、落下事故などによる割れスマホの修理を保証内でサポートするようなイメージだ。これは大きい。

 無償の保証では、どんな故障であっても部品代金の80%と作業費、検証費、送料をASUSが負担、有償保証の「あんしん保証プレミアム」に加入していれば、全額ASUS負担で修理にかかる費用はゼロ円となる。これは保証と保険を融合させたようなサービスであるといえるだろう。

日本市場とASUS

 今、ASUSは全世界で15,000人以上の従業員を擁し、研究開発エンジニアは5,000人以上いる。発表会が開催された新社屋は、旧社屋の隣の敷地に竣工した建物で、若干の従業員を旧社屋に残し、その多く約6,000人が新社屋に移動した。

 ASUSはコロナ禍においても順調に従業員数を増やしている。これは日本法人においても同様の傾向にあり、先だっても、日本法人は、長く慣れ親しんだ神保町から、東京・九段に東京オフィスを移転し、この春、4月10日から営業を開始した。増えた従業員のワークスペースを確保するためだという。コロナ禍で、オフィススペースを縮小し、自席がないのが新しい当たり前というのとは、ちょっと違う考え方だ。

 米国企業でもなければ中国企業でもない。ASUSの立ち位置はユニークだ。エンドユーザー製品はもちろんゲーマー向けのROG、そして、企業向けPC、また、自作機のためのマザーボードやパーツ類、PCを構成するあらゆる要素を手がけ、さらには、ODMビジネスも併行しながら成功させている。しかも、日本市場を重要なマーケットととらえてくれている。今後、ますます目が離せないベンダーとして、業界の精巧な縮図を構成していきそうだ。