山田祥平のRe:config.sys
上を下へと右往左往のモニター考
2022年4月23日 06:23
目の前に拡がる矩形。それを机上に見立てて作業するのが現代のパソコンの使い方だ。手の平サイズから50型近い大画面までを組み合わせる。縦に伸ばしたり、横に伸ばしたりで拡張する。モニターの枚数をとるか、広い1画面をとるか。組み合わせはよりどりみどりだ。
アグレッシブなLGのモニター戦略
今、LGのモニターソリューションの提案が実にアグレッシブだ。ここのところ、立て続けに興味深い製品をリリースしている。
先日、都内のイベントスペースで開催された同社の発表会では、Intelの第12世代Coreを搭載してリフレッシュされた新型ノートPCのgramがデビューしたが、それと同時に、年初から春にかけて発表された新型モニターが順次発売されることが明らかになり、実際に、実機を体験することができた。
中でも興味深いのは、28MQ780-Bで、画面比率16:18の縦長27.6型モニターだ。
解像度は2,560×2,880ドットで、聞き慣れない縦横比だが、早い話が21.5型の16:9パネルを縦に2枚積み重ねたと考えればイメージしやすい。
【お詫びと訂正】初出時に28MQ780-Bの解像度を2,560×1,440ドットとしておりましたが、2,560×2,880ドットの誤りです。お詫びして訂正させていただきます。
画面サイズと解像度を計算すると、150%(正確には145%)拡大したときに、Windowsの想定解像度のほぼ96dpi相当になる。ちなみに、このモニターを2枚横に並べると、16:9WQHDを4枚分、42.5型相当の5Kモニターとなる。
このモニターは、基本的にアームを使って設置し、上下方向に高さを調節して使いやすい位置に固定することが想定されている。ただ、あまり高い位置まで上げてしまうと、パネルの上辺あたりを眺めるときに、見上げるような姿勢になり、首への負担が大きくなってしまう。
つまり、LGとしては、モニターの縦方向の高さは、このくらいが限度と考えているように思う。実際の製品ラインナップを見ても、画面の高さという点では42.5型4Kモニターの43UN700-Bが同社製品の上限に近く、それも長年更新されていない。
技術的には23~23.8型を2段重ねというのも難しくなさそうだが、それでは上辺に注目するときの姿勢に無理が出ると判断したのだろう。数mの距離で眺めるTV画面とは異なり、PCのモニターは、一般的に1メートル以内の距離で眺められるので、大画面になればなるほど、作業時の姿勢や視野を考慮する必要がある。
その一方で、左右方向の視線移動については上下方向よりも容易だと考えられているようだ。21:9の縦横比のモニターも一般的になってきているし、16:9のモニターを2枚横に並べたかたちになる32:9の縦横比の49WL95C-WEのような製品もある。
大きなモニターを小さく区切る
1枚のパネルをどのように使うかの自由度も高い。49WL95C-WEの場合、16:18の一画面として使うのはもちろん、PCから2系統の映像を入力し、それを並べて、あたかも2枚のモニターを物理的に積み重ねたようにして使うこともできる。いわゆるPBP(ピクチャ・バイ・ピクチャ)の合わせ技で、1枚のパネルを使いつつも、実際には2枚のパネルを並べて使うマルチモニター環境だ。
どちらが使いやすいと感じるかは、ユーザー次第だと思うが、個人的には1枚パネルで使って領域分割については、PowerToysのFancyZonesのようなユーティリティを使う方が自由度が高くなると思う。
いずれにしても、モニターは、その解像度によらず、20型よりも大きくなるあたりから、フルスクリーンで使うのに無理が出てくる。もちろん、アプリにもよるし、そのアプリでどのようなデータを作成/閲覧するかでも違ってくるのだが、どうしても、画面を複数の領域に分割して、領域ごとに役割を割り当てるような使い方に収束していく。それなら大画面よりも、複数の中小パネルの組み合わせの方が小回りが利くという考え方もある。
そういう意味では一息ついた感もあるモバイルモニターカテゴリでも、今回のLGは新製品として、16型モバイルモニター「gram +view(16MQ70)」をデビューさせる。16:10 WQXGA(2,560×1,600)という解像度は縦にしても使いやすいところに注目したい。
モニターの両脇にUSB Type-Cポートが装備されているので、縦位置で使う場合、上か下にケーブルが生えることになり、ちょっとみっともないイメージもあるので、本当なら長辺と短辺にポートが装備されていた方が使いやすかったかもしれない。
その軽さといい、映像の品位といい、かなり魅力的なモニターだ。gram 16との組み合わせを想定した製品で、この2機を並べると、32:10縦横比の28.5型モニター相当となる。もちろん、ほかのノートPCとの組み合わせ、あるいは、デスクトップでの据置モニターとの組み合わせでも便利に使えそうだ。ただし、入力はUSB Type-Cだけだ。
あの手この手で拡張されるモニター空間
モニターは、PCでの作業空間として、とても重要な役割を果たす。そして、ユーザー自身に高いスキルがなくても、広くて使いやすい空間があるだけで、仕事がはかどる。そこに注目するのは大事だ。
もちろん、サイズの大きなモニターを設置できない事情もあれば、電気代等のランニングコストもあるし、当然、導入するにも予算が必要だ。PCよりもずっと寿命が長いと言っても、なかなか、そこに踏み切れない事情もあれこれあるに違いない。
だから、誰もがはいそうですかと、広大な作業空間を手に入れられるわけでもない。特に、組織からあてがわれる環境をそのまま使うしかない立場ではそうだ。
それでも、LGのような大手のベンダーが、あの手この手で多彩なモニター空間の拡張を提案するのはとても大事なことだ。このあたり、HPやデル、レノボといったベンダーも熱心なのはうれしい。
LGやサムスンのようなシェアの高いベンダーからバリエーションに富んだパネルが外販されるようになれば、他ベンダーのエンドユーザー向け最終製品のバリエーション拡張にもつながっていく。色々な提案ができるに違いない。
誤解を怖れずに言えば、個人的には、ヘッドマウントディスプレイなどを使ったモニター空間が、日常的なPC作業のために、一般的に使われるようになるとはあまり考えていない。
もしそうなるとしても、ずっと先のことになるだろう。エンドユーザーの負担という点では至近距離での視認や、頭に覆い被さるマウント方式などは、決して長時間の利用には向いていないし、何よりも、日常から隔離される没入感が、本当に生産性に貢献するのかどうかというのは作業内容に強く依存するようにも思う。それこそ、タブレット登場時に云々された、情報の消費と生産のような議論を含めて慎重に考える必要がある。
コロナ禍によって、働く空間のコンセプトにも変化が生じている今、ただ映ればいいというのではなく、モニターによる視覚の拡張について、もっと真剣に考える必要がありそうだ。