山田祥平のRe:config.sys

聴くメガネ

 遠くを、あるいは、近くを、さらには両方を見やすくするのがメガネだ。いわゆるスマートグラスが近い将来の視覚空間をいろんなかたちで提案している。その先にあるのは数百インチのモバイルディスプレイの持ち運びにも通じるものなのだが、その前に、現実的なテーマとして、聴覚の拡張に期待が集まる。

サウンドを再生するスピーカー付きメガネ

 Ankerがプレス向けのイベント「Anker Power Conference -’22 Spring」を開催した。今後展開する各種の新製品が紹介されたのだが、個人的に興味を持ったのが「Soundcore Frames」だ。CafeバージョンとLandmarkバージョンが用意され、どちらも価格は1万9,900円。発売は6月1日と少し先になる。

 Cafeバージョンはブルーライトを20%カットするレンズつきの透明メガネだ。また、Landmarkバージョンは、紫外線を99%カットする偏光レンズのサングラスだ。

 一般的なメガネと同じ構造だが、フロントフレームとオーディオテンプル×2というパーツに分かれている。いわゆるメガネのツルの部分を着脱する構造だ。

 CafeとLandmarkバージョンの違いは、フロントフレーム部分とレンズだけで、デバイスとしてのオーディオテンプルは同じもののようだ。Ankerからはアナウンスがないが、フロントフレームだけを別売りしたり、サードパーティからユニークなデザインのフロントフレームが登場する可能性があればおもしろくなりそうだ。

 オーディオフレームには、左右それぞれに2基のスピーカーユニット、充電用の端子が装備されている。じっくり観察しないとよくわからない微細なものだ。

 また、右側のオーディオフレームには2つのマイクユニットの存在を確認できる。スマホやPCとはBluetooth 5.2で通信する。対応コーデックはSBCとAAC、また、IPX4の防水規格に対応する。

 充電は、同梱の専用のUSBケーブルで行なう。片側がUSB-Aの標準プラグのケーブルで、もう片側に2つの磁気吸着端子が装備されたものだ。このケーブルを左右のオーディオテンプルに装着すると、緑のランプが点灯して充電が始まり、満充電で消灯する。

 このケーブルをなくしたら最後、デバイスのバッテリ切れと同時にスピーカーとしては機能しなくなる。カタログスペックでは、再生可能時間は最大5.5時間となっている。旅や出張にはケーブルの持参は必須だろう。ここは1つ、左右別になってもいいからType-Cポートなどで汎用的な充電手段をサポートして欲しかったところだ。サイズや重量、防水などの点で難しかったのだろうか。

 電源スイッチはない。顔に装着するとセンサーで自動的に電源がオンになり、顔から外すと再生中の音楽が停止し、2分後にオフとなる。

 もちろん、オーディオ再生以外に、スマホでの音声通話にも対応、また、オンライン会議でのコミュニケーションにも使える。

音はダダ漏れ、注意が必要

 露出したスピーカーが耳元で鳴るというシンプルな構造だ。つまり、音漏れどころか、再生中のサウンドは周辺にダダ漏れだ。ただ、耳に近いだけに、そんなにボリュームを上げる必要はないので迷惑レベルはそれなりにコントロールできそうだ。

 また、Ankerのサウンド関連デバイスの統合アプリである「Ssoundcore」を使えば、イコライジングやオープンサラウンド、音声コントロールを有効にできるほか、プライバシーモードを設定し、音漏れをさらに抑制することができる。このモードでは高域と低域を抑えての再生になり、シャカポコという音漏れ特有の不快な周波数帯域をキャンセルしているようだ。

 音楽の再生はもちろんだが、音声通話やオンライン会議での相手の声が周辺に漏れてしまうのはなんとも気まずいものだし、内容によってはセキュリティ的な問題もある。とにかく自分で装着して音声等を自分が聞きやすいボリュームで再生した状態で、誰かに装着してもらい、どのくらいの漏れがあるかを確認したほうがいいだろう。自室、カフェなどの騒がしいパブリックスペース、図書館などの静かなパブリックスペース、電車の中、飛行機の中など、いろいろなシーンで試して、音漏れ状況を確認しておくことをお勧めする。環境音が普通に聞こえるだけに、耳元で大きな音を出しているという自覚を持ちにくくもある。

 今回試せたのはサングラスのLandmarkバージョンで、屋内を含む幅広いシチュエーションで使えそうなCafeバージョンも試してみたいと思った。自室でのオンライン会議などには最高のデバイスになりそうだ。

 もちろん、日常的にメガネをかけている人もいれば、メガネを使わない人もいる。メガネを日常的にかけている人にとっては度のない透明メガネでは実用性に乏しい。また、メガネをかけていない人にとっては顔に何かを装着しなければならないという時点でうっとうしさを感じる可能性がある。耳穴につっこむイヤフォンと比べてもどっちもどっちといったところか。

いっそのこと、レンズのないメガネでもよいのでは

 もはやレンズは必要なく、素通しのフレームがあればと思うかもしれない。その方がオンライン会議で自分のメガネレンズが光らなくて都合がよかったりもする。そういうデバイスがあってもいい。ちょっとWikiで調べてみたら、現在のようにつるを耳にかける形のメガネフレームは、1727年にイギリスの眼鏡屋エドワード・スカーレットが開発したものだそうで、以降、現代も、その構造等は変わっていない。そのくらい長い歴史を持つカタチなのだから、きっと優れているのだろう。それをサウンド対応させることはごく自然な流れだ。

 パーソナル空間の仮想音場を構築するためには、いろいろな方法がある。密閉型、オープン型のオーバーイヤーのヘッドフォンや、カナル型のインイヤーヘッドフォンなどが使われてきた。加えてアクティブノイズキャンセルの有無も使用感に影響する。

 さらに、昨今は、バーチャル音場とリアル音場を混在させて両立する耳穴を塞がないタイプのイヤフォンや、ネックスピーカー、そして、骨伝導イヤフォンなどのソリューションが台頭してきた。

 これらのデバイスは、環境音としてのリアル音場は日常通りに存在し、そこにバーチャル音場をミックスさせる。というか勝手に混ざってリアル音場の音源のひとつになる。在宅勤務で会議中にも、家族とのコミュニケーション、赤ん坊の泣き声、ペットのご機嫌取り、そして、宅配便などのドアベルなど、リアル音場に注意を払わなければならないニーズに応えてくれる。

 どれも、長時間の装着による不快感を極限まで抑えるための工夫がこらされているのだが、耳元にスピーカーが至近距離で置かれていて、そこからの音を聴くことができるというのは実際に体験してみればわかるがとてもいい。

 骨伝導は優れたソリューションだが、音によって振動するアクチュエイターが頭蓋骨にふれている必要があり、音量をあげると、その振動が不快に感じる場合もあった。また、頭蓋骨に密接させるために圧迫感のようなものも多少はある。

 でも、メガネのツルにスピーカーが実装されていればその心配はない。不快に感じるのは、自分ではなく音漏れを聴くことになるまわりにいる他人かもしれないという可能性は常に意識する必要はあるが、とても現実的な方法だと思う。

 ちなみにこの製品(Landmarkバージョン)の重量は実測で45gあった。一方、個人的に使っているメガネは重い方だと思うが35グラムだ。10gの違いだが、メガネに慣れている個人としては、それほど気になる違いではないと感じた。

 もっとも、コロナ禍では、マスクをしている時間が長いので、メガネをかけると呼吸でレンズが曇ってしまうために、メガネをかけないで過ごす時間が多くなっている。まあ、老眼も進んでいて、PCの画面を見るようなときにはメガネがない方がピントが合いやすかったりもする。おそらくは、この2年間で、視力もまったく別次元になってしまっているように思う。そろそろ、遠近距離、遠中距離、中近距離などに対応できるメガネを作らなければなと思っていたが、ヘッドマウントディスプレイのような大げさではない普通のメガネでこういうことをするのが新しい当たり前になるのなら、もうちょっと様子を見てみるか……。