山田祥平のRe:config.sys

コロナに負けないパーソナルBCP

 パソコンはスマートな暮らしのために欠かせない存在だ。ある日突然、もし、頼もしいパートナーとしてのパソコンが逝ってしまったらどうなるのか。そんな憂き目にあわないように、パーソナルBCPを考えておこう。

唯一無二のオールマイティパソコンはありか

 ほぼ毎日、何かしらの用事があって、ミーティングやイベントなどで外出していたころは、その日の用事に応じて複数台のモバイルノートパソコンを使い分けていた。出張は出張でちょっと大がかりなモバイルモニターなどを加えた装備も工夫した。

 そして、自分の仕事場での作業ではノートパソコンではなく、処理能力が高いデスクトップパソコンを使う。もちろん大画面のディスプレイを接続しているので作業に使えるデスクトップも広々だし、マウスやキーボードも持ち運びのことは考えないで使いやすいものを常用できる。当然その方が効率がいい。効率がよければ短い時間で作業が完了するので、ほかのことをするための余裕もできる。

 とまあ、そんな感じで複数台のパソコンを連携させるパソコンライフを満喫していた。複数台のパソコンを併行して使うには、いろいろなノウハウが必要になるが、クラウドのおかげでそのハードルは著しく低くなった。

 ただ、モバイルノートパソコンは毎日使わないにしても、日常的にずっと稼働させておかないと、いざ持ち出して使おうというときに、クラウドとの同期やらWindowsのアップデートやらで出鼻をくじかれる。しかも、それがバッテリーに大きな負担を強いる。その結果、まだまだ処理性能には不満がないのにバッテリーの寿命がパソコンの寿命を左右するようなことが起こる。これが数台となると、けっこうめんどうくさくもある。

 だったら唯一無二のオールマイティなパソコンをあらゆるシーンで使った方が合理的なんじゃないだろうかとも思う。

 USBやBluetoothは、あらゆる機器の拡張をかなえてくれるので、画面、そしてマウスやキーボードなどのヒューマンインターフェイスについては、TPOに応じたすげ替えもカンタンだ。これらをリッチなものにすれば、モバイルノートパソコンで強いられてきた妥協を、自宅のような場所でまで受け入れる必要もなくなる。

 でも、本当にそれでいいのか……。

早い話が転ばぬ先の杖

 それでもパソコンは少なくとも2台は手元で運用したほうがいい。ノートとデスクトップでもいいし、ノート2台でもいい。なぜなら、パソコンは急に壊れてしまうことがあるからだ。ソフトウェア的なトラブルかもしれないし、ハードウェア的な故障かもしれないが、機械である以上は壊れて使えなくなる可能性をゼロにはできない。パソコンがないと話にならないくらいの日常を過ごしていたら、これはもうかなり困るにちがいない。まさに万事休すだ。

 パソコンが2台あって、ほぼほぼ同じ環境にセッティングしておけば、OSの調子がおかしかったり、特定のアプリの動きが不審なときにも、もう1台での様子を見て原因をつきとめることができるかもしれない。あるいは、正常に稼働しているパソコンでトラブル内容を検索し、なんらかの対処ができる可能性もある。

 ハードウェア等が本当に逝ってしまった場合にも、パソコンがもう1台あれば代替して作業を続行することができる。だが、1台しかなければ、早急に代替機を調達しなければならなくなる。修理するにしても今日の明日というわけにはいかない。それにコスト的に買い換えの方がリーズナブルであることも少なくない。

 なにしろ背に腹は代えられないので、例年なら、数カ月後にはプロセッサの世代が変わり、魅力的な新製品が出ることがわかっていても、とにかく今すぐパソコンが必要なのだ。一カ月ガマンしようなどということは言っていられない。

 冷蔵庫や洗濯機、掃除機、エアコンなどにも同じことがいえるのだが、こうしたコモディティは壊れたら買い換えるというのが普通じゃないだろうか。進化の速度もパソコンほどではない。それに壊れる予兆がある。異音がするとか、冷えが悪くなるとかだ。クルマなどでは壊れなくても車検のタイミングといった要素も買い替えのサイクルを左右する。

 でも、パソコンは回転する部分が少なくなってきていて、壊れる寸前まで正常に動いているように見えるからやっかいだ。S.M.A.R.T.情報などでストレージの状態をチェックすることもできるが裏切られることもある。

 正常に動いているかぎり、ほかと比べたりすることはめったにないので、そんなものかと思い込んで使い続ける。今どきのパソコンがどんなものなのかを知らないまま、古い世代のパソコンを使い続ける。そしてある日突然壊れる……。

 2台以上のパソコンを調達するのはコスト的にもたいへんだ。でも、今、役立っているパソコンが元気なうちに、もう1台のパソコンを入手し、併行して使いはじめることを考えよう。それがパーソナルBCPにつながる。壊れてから次を買うというのを繰り返すのは、はっきりいって得策ではない。

 パソコンは欲しいときが買い時というのは正論だが、やはり、いい買い物をするタイミングというものがある。そのタイミングを自分でコントロールするためにも、一度、自分で決めた買い替えサイクルとは関係なく、自分が欲しいと感じたカンを信じて最新のベストバイパソコンを手に入れてみよう。そうすることで、世代の異なるパソコンの違いを実感することができるだろうし、それが買い替えサイクルの見直しにもつながり、その次のパソコンの購入に功を奏する可能性もある。

どうせ買うなら欲しいパソコン

 サステナビリティは、環境、社会、経済の観点で、世の中を持続可能にしていこうという考え方だ。企業においては社会的責任という名目でサステナビリティに注力することが求められる。個人においても同様だ。でも、それ以前に、パーソナルBCP、つまり、個人がスマートな暮らしを持続することも考えたい。

 先日、JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)が「2020年度パーソナルコンピュータ国内出荷実績」として、2020年12月のデータを追加し、コロナ禍と重なる4月から12月の3四半期分の出荷実績が明らかになった。調査対象に日本HPやデルが入っていないがある程度のトレンドはわかる。

 Windows 7のサポート終了で、絶好調だった2019年よりさらに増えている。パソコンの出荷台数は前年比113%となり、ノートパソコンは前年比137%となっている。びっくりするのはモバイルノートの前年比が300%を超えていることだ。まさに特需だ。JEITAでのモバイルノートは画面サイズが14型以下および重量が1.5kg以下のものと定義されているそうだが、8月以降の前年比の数字はすざまじい。もっとも出荷金額を見ると前年比140%なので、3倍の台数が売れたが金額は1.5倍だったということになる。パソコン全体の統計でも、台数は113%に増えたが、金額は91%に減っている。

 こうした統計を見ていると、GIGAスクール構想で廉価なパソコンが大量に出荷されたこともあるのだろうけれど、2020年に新しいパソコンを手に入れたユーザーは、本当に欲しいパソコンを手に入れたのだろうかと心配にもなる。市場在庫が枯渇し、背に腹は代えられないと即納パソコンを買わざるを得なかった可能性もある。

 コロナ禍は、じつに多くのことを教えてくれる。