山田祥平のRe:config.sys

クラムシェルノートパソコンにタッチは必要か

 ノートパソコンはキーボードがあってナンボのデバイスだ。いつでも自在に文字を高速入力できることは、キーボードを持たないほかのデバイスに対する大きなアドバンテージとなる。それならタッチ画面はいらないだろうか。

使いやすい3:2のタッチ対応画面

 HUAWEIのMateBook 14は、14型のタッチ画面を持つノートパソコンだ。いわゆるコンバーチブルタイプではなく液晶を360度折り返すことはできない。それどころか、キーボードと水平になるまで倒すこともできない。だが、タッチ操作に対応し、いろんな場面で重宝する。

 ノートパソコンのヘビーユーザーは、いかにキーボードのホームポジションから手を離さないかにこだわることが多いようだ。だから、スライドパッドよりもGとHキーの間にあるThinkPadの赤いトラックポイントのようなポインティングデバイスが好まれたりもする。

 そういうユーザーからすると、タッチでパソコンを操作するのは邪道に近い行為なのかもしれない。ただ、個人的にはタッチ操作はできたほうがいろいろな場面で重宝すると思っている。

 MateBook 14は、昨年(2020年)末にリリースされた製品で、プロセッサとしてRyzen 7 4800Hを搭載したノートパソコンだ。Intelプロセッサ以外のノートパソコンを使うのは久しぶりだが、とくに不満はないどころか十分な性能があるという印象を持った。

 タッチ対応のパネルは2,160×1,440ピクセルでアスペクト比は3:2だ。メモリは16GB、SSDは512GBと普通に使う分にはまったく問題ないスペックになっている。ラインナップもこれだけなので迷いようがない。パソコンを使うときの基本的人権はしっかり守られていると言ってよさそうだ。

 重量は1.49kgと、昨今のノートパソコンとしてはちょっと重量級だ。それでいてバッテリ駆動時間はJEITA2.0基準で11.2時間と決して長くはない。以前も書いたようにJEITA基準のバッテリ駆動時間は話半分未満と認識しておいたほうがいい。また、モダンスタンバイに対応していない。ただ、スリープからの復帰は高速で、大きなストレスは感じない。

 特筆すべきはスライドパッドの使いやすさだ。かなり広いスペースを占有しているのだが物理的な左右ボタンはない。そこが難儀かなとも思ったのだが、この広さと、表面加工の秀逸さが、ボタンがないことで発生するいろいろなことをリカバリしている。いわゆる2本指でのスクロールや右クリックの代用などが十分に実用になり、誤作動でいらいらすることがほとんどないのだ。

 Windowsでは3本指や4本指でのジェスチャーを定義して操作する機能が提供されているが、一般的なモバイルノートパソコンでこれらのジェスチャーをうまく機能させるのは至難のわざだ。でも、MateBookなら、これらのジェスチャーに慣れ親しんでみようという気になれる。

必要十分なポート類

 ポートについては筐体サイズのわりにはミニマムに近い。左側面にUSB Type-C端子が1つありPD充電とデータ転送、そしてAlternate ModeによるDisplayPort出力に対応する。また、その隣にはイヤフォン端子とHDMI端子が装備されている。右側面はUSB 3.0が2つある。

 必要十分で、これで不自由に感じることはなさそうだが、Type-Cをモバイルディスプレイなどへの出力に使ってしまうと、本体に電源を供給するすべがなくなってしまう。これについてはモバイルディスプレイ側からPDパススルーで電源を供給するといった対処が必要になる。

 初代のMateBookで世のなかを驚かせたポップアップ式のWebカメラも健在だ。中途半端な位置だがF6キーとF7キーの間に、キーのサイズとおなじボタンが装備され、それを軽くプッシュするとカメラがポップアップして顔を出す。そのまま液晶を閉じてもかまわない。液晶を開けば再び元の位置に復帰する。この仕様は難しいところで、液晶を閉じたら格納されてほしいと思うユーザーもいるかもしれない。

 Windows Helloは指紋での認証だ。キーボードの右上にある電源ボタンがセンサーを兼ねていて、それに指で軽くふれることで認証が行なわれる。

キーボード刻字のバグ?

 キーボードは平均的、あるいはそれ以上のレベルだが極上とは言えない。ストロークは浅く底突き感があるフィーリングだが、長時間タイプしていて疲れを感じることはなさそうだ。キーレイアウトについても大きな不満は感じない。

 ただ、ノートパソコンの多くは配置できるキー数を保管するために、一部の機能キーをFnキーによる装飾で実現しているものも多い。MateBookも例外ではないが、HomeとEnd、そしてPage Up、Page Downの刻字がないことに気がついた。これについてはユーザーガイドを見ても記述がない。

 だが、Fnキーを押しながら方向キーを叩くと、上がPage Up、下がPage Down、左がHome、右がEndとして機能することがわかった。慣れているから想像できたが、あまりパソコンに親しんでいないユーザー層のことを考えると早めになんらかの対処をしたほうがいいと思う。

 とくにHomeとEndは、Windowsの標準的なキーアサインとして、行頭、行末、文頭、文末へのカーソル移動に使うので、あるとないでは編集作業の効率が大違いだ。

コストパフォーマンスに優れ、真面目に作られたパソコン

 そしてタッチだ。

 MateBookには、秀逸なスライドパッドがあり、それに加えてコンバーチブルでタブレットスタイルやテントスタイルで使えるわけでもない。オーソドックスなクラムシェルノートパソコンだ。なのにタッチは必要なのだろうか。

 個人的にはあったほうがいいと思う。1.49kgという比較的重量級の筐体は、人差し指先でタッチしても不安定に感じることはない。タッチに対応しなければ200gは軽くなっていただろうにそれをしなかったというのは、ある種のこだわりだとも言える。

 ブラウザやワープロアプリでのひっかくようなスクロール、タスクバーボタンのクリックなどに重宝する。ぼくはタスクバーを画面上部に置いているが、軽量ノートでは液晶の背中を指4本で支え、親指でタップすることが多いし、スクロールもしかりだ。でも、MateBookなら人差し指で突っついても大丈夫だ。

 ピンチ操作で画面を拡大したり縮小したりできるのも便利だ。多くのアプリは[Ctlr]+[+]や[Ctrl]+[-]、[Ctrl]+[0]のキー操作でズームコントロールができるが、それよりもずっと使いやすいし直感的だ。

 文字の入力中にこれらの操作をするときにはキーでの操作がやりやすいのかもしれないが、ノートパソコンでの作業中、ずっとキーボードに指を置いて文字を入力しているわけではない。いわゆる情報の消費中には、直感的に情報を指で操作できたほうがいいに決まっている。

 とくに、これからスマホネイティブの世代がパソコンに慣れ親しむようになることを考えると、ノートパソコンにタッチはいらないというのは、ちょっと乱暴ではないだろうか。

 AMDプロセッサ搭載で、14型3:2の大きくて美しいタッチ対応液晶を持ち、メモリを16GB、SSDを512GB搭載、PDで電力を供給できて、本体だけでもそれなりのサウンド再生ができるノートパソコンとしてコストパフォーマンスの高さを実感できる製品だ。

 米国の大統領が変わったものの、それによってこれから情勢がどのように変化していくのか想像もつかず、少なくとも一般消費者から見たときに、HUAWEIという企業の先行きが不透明だ。このMateBookを見て使ってみる限り、じつに真面目にスマートデバイスに取り組んむ姿勢が感じられるだけに残念だ。この製品については、特別にとんがったところがあるわけではないが、オーソドックスでありながら、基本的なあるべき姿をすべておさえている志の高さを評価したい。