山田祥平のRe:config.sys
これはもう自分の知っているパソコンではない
2021年1月16日 09:50
富士通クライアントコンピューティング(FCCL)のノートパソコン「FMV LIFEBOOK UH」シリーズの新モデルUH-X/E3は、先代モデルの698gに対して1割近くとなる64gものダイエットに成功し、重量634gを実現した。13.3型モバイルノートとして世界最軽量。その使い勝手を体験すると、パソコンが未知の領域に足を踏み入れた感が強い。
その軽さは未知の領域
大げさなようだが笑ってしまうくらいに軽い。試しにスケールに載せてみたところ、627gだった。公表値の634gより、さらに7g軽いが、キッチンスケールなので誤差かもしれない。出荷前のインタビュー時にデモ機をさわらせてもらったときも同じことを感じたのだが、製品の正式なパッケージから実機を取り出すときに、改めてこれはすごいことが起こっていると実感した。
製品を軽くするにはたいへんな努力が必要だ。ただ、簡単で効果の高い方法もある。たとえば内蔵バッテリの容量を少なくする方法もその1つだ。新UH-Xは25Whのバッテリを搭載している。かなり容量が小さく、一般的なノートパソコンの半分くらいだと思っていい。
ダイレクトモデルでは、その倍のバッテリ容量の50Whにカスタマイズできるが、当然、重量は重くなる。確認するとカタログスペックは845gだった。じつに211gの差だ。それでも十分に軽いと言えば軽いのだが、25Whの最軽量モデルはその次元が違う。ここまで軽いと、デバイスとして別の可能性が見いだせるような気がしてもくる。
たとえばコピー用紙で換算してみよう。手元で常用しているコピー用紙は1枚あたり4gだ。それを160枚の束にすると640gになってUH-Xより重くなる。日常の生活で、160枚もの書類を持ち歩くことは考えにくくなっているが、ほとんど負担にならないということはわかってもらえると思う。
バッテリ駆動時間のカタログスペックは話半分
今、この原稿は、その実機を使ってバッテリ駆動で執筆している。とくに省電力のことは考えず、現環境の明るさで十分な視認性を確保できる7割ほどの輝度にして、Outlookはひっきりなしに届くメールが受信トレイをスクロールさせ、Chromeブラウザでアプリ設定したTweetDeckのウィンドウが、それなりの頻度でスクロールしていく。そしてWordでバッテリ消費経過のメモをとりつつ、それをOneDriveに自動保存、さらに秀丸エディタを使ってこの原稿を書くという作業を続けている。
Windows 10の電源プランはデフォルトで設定されている「FUJITSU(推奨)」のままで、このプランではバッテリ駆動時に「より良いバッテリー」となって多少はバッテリの消費を抑えるようになっている。
外出先でのノートパソコン利用は、リアルのミーティングに出て1~2時間くらいブレーンストーミングをしたり、セミナーに参加して半日から丸1日そのメモをとったり、また、カフェなどのスペースで急ぎの原稿を書いたりといったことが多い。電車内などで、スマートフォンで書くには億劫なくらいのちょっと長めのメールを書いたりするときにもノートパソコンを開くが、たかだか数分の作業だ。
Wi-Fiに接続して、ブラウザとメールアプリ、エディタとワープロを行ったり来たりし、キーボードとスライドパッドの操作を繰り返してはいるが、間断なく文字を入力し続けているということはまずない。トータルでのバッテリ駆動時間が3時間では不安なシーンもあるが、そうでないシーンも少なくない。
カタログスペックのバッテリ駆動時間は11時間でも、それは話半分と思ったほうがいい。実際に、先に書いたような使い方では2時間でバッテリがほぼ半分になる。実質的に4時間は使える計算になるが、残り容量が20%を切るとちょっと不安になるので、実稼働は3時間くらいといったところだろうか。
バッテリ不足を外部で補う
もし、その日はバッテリに頼るのは確実だと予想されるなら、モバイルバッテリで電源供給ができるように準備しておく。しかも、バッテリの残り容量が不安になってからモバイルバッテリを接続するのではなく、満充電に近い状態のときからモバイルバッテリを使う。
バッテリをバッテリで充電するのは効率が悪い。だからできるだけモバイルバッテリでの電力供給を優先して使う。つまり、モバイルバッテリを充電よりも駆動に使う。本体内蔵のバッテリの消費を最小限に抑えて温存するのだ。そのことで持てるトータルの容量をより有効に活かすことができる。
たとえば36Wh(10,000mA)のPD対応モバイルバッテリを満充電状態のUH-Xに接続して使うと、本体内蔵バッテリだけで使うのに比べてほぼ倍の時間の運用ができるようだ。そのモバイルバッテリの重量を計ると約200gで、倍容量のバッテリを内蔵したモデルとケーブルを入れても、倍の時間使えることを考えれば追加の重量は妥当だ。
もっと長時間の運用が必要ならより大きなバッテリを、ちょっと不安という程度なら、その半分と、その日の作業に応じてモバイルバッテリを使い分ければいい。もちろん出先で3時間も使わないというのならモバイルバッテリを携行する必要はない。
新UH-Xは7.5Wでの充電もできるとされている。ただ、USB Type-C Currentによるものではなく、あくまでもPDが必要のようだ。古いタイプのモバイルバッテリにUSB Type-A to Cケーブルを使っての充電はできなかった。もっとも、PD対応バッテリのほとんどは18W超なのでこのことが問題になることはなさそうだ。
そもそも、多くの場所ではAC電源が使える。だから本体内蔵のバッテリを最小限にして軽量化を追求し、柔軟に外部モバイルバッテリに頼るような考え方は十分にありだ。
それにバッテリは消耗品だ。これだけの駆動時間を得られるのは最初のうちだけだろう。時がたつにつれて短くなっていく。交換するには数万円のコストと作業に要する時間が必要になる。そういうことを考えても任意の容量を調達できるというのは悪くない。
ちなみにスマートフォンでよく使われる極小タイプの18W PDアダプタを接続して、稼働させながら一晩放置したところ、翌朝になってもバッテリは90%台を保持していた。万が一のときにはスマートフォン用のACアダプタやモバイルバッテリが使える安心感は大きい。
最軽量がパソコンを使う億劫さも減量
おそらく機が熟してくれば、2つのUSB Type-A端子、有線LAN端子、HDMI端子、SDメモリーカードスロットがUH-Xから撤廃される日もやってくるのだろう。
現時点では、それはまだ早いという判断での634gだと想像する。これらを撤廃することで筐体の剛性はさらに高まり、そして重量も500gを切るところまで視野に入っているに違いない。FCCLにはそんな次元の製品作りを続けてほしいと思う。
仕様的には申し分ないと思う。ちょっとだけ不満を言うなら量販店で買えるカタログモデルではストレージが1TBでメモリが8GBとなっていることを挙げておきたい。これをそれぞれ512GBと16GBの組み合わせにしたほうがユーザーベネフィットは高かったんじゃないか。
現時点でのメモリ8GBはWindowsで何らかの作業をする場合の、基本的人権と言ってもいいくらいに必要最低限の容量だ。1年先は大丈夫かもしれないが、その先のことを考えるとちょっとした不安を感じる。
新UH-Xの軽量化のためのバッテリの割り切りは、Evoプラットフォーム非対応という仕様にも影響を与えている。Evoは、Intelによるニューノーマルパソコンのプラットフォームだが、その要件とされるもののうち、Thunderbolt 4や、細かいところではキーボードバックライトなどが省略されている。WANはEvoのオプションだがそれも非対応だ。安定駆動に十分な電力が実質的に確保できないことによるもので、Evo準拠を名乗るのは無理だ。
それでも2つのUSB Type-C端子が同一仕様となり、両方がAlternate ModeによるDisplayPort接続とPD給電に対応し、使い方の柔軟性は先代機に比べて飛躍的に高まっている。願わくばType-C端子をできれば両サイドにほしかったことくらいだ。また、指紋認証はマスク着用時には便利だが、本当は顔認証も残しておいてほしかった。
バッテリを筆頭に、軽量化のためのしわ寄せはさまざまな要素に影響してはいるものの、クラムシェルノートパソコンとしての実用度は群を抜いている。世界最軽量という勲章にふさわしい仕上がりだ。
というよりも、クラムシェルノートパソコンの概念を変えたと言ってもいい。今回の64gのダイエットは、おそらくパソコンを使う時間を2倍にするだろう。900g前後のノートパソコンからの乗り換えならもっとだろう。なぜなら、使いたいときに取り出すときの億劫さが著しく減量されているからだ。
モダンスタンバイへの対応で、液晶を開けば、まるでずっと電源が入っていたかのように瞬時に作業を再開することができるようになったのも大きい。
必要だから使うというのではなく、とくに理由もなく手慰みに近い感覚で開くという、まるでスマートフォンのような存在感だ。もっと言えば、すでに自分自身が持っているノートパソコンとは違う何かのようだ。
個人的には、自宅内でノートパソコンを使うことは、あまりなかったのだが、634gという軽量さは、そのしきい値を取っ払ってしまったようで、いつでもどこでも傍らに置いておき、何かにつけて開くようになってしまった。なにしろiPadにキーボードを外付けしたよりもずっと軽いのだ。手に取って使いはじめるときの覚悟がまるで違う。
パソコンはこれまでいろいろな提案をしてきた。でも、それは使ったときに得られるものばかりで、使わせようとする提案ではなかったように思う。だが、UH-Xはとにかく使いはじめるためのハードルを低くした。
ということで、この原稿を書きはじめて3時間30分。バッテリが20%となり節約モードに移行した。
心配はない。枕元、リビングのソファ、ダイニングテーブルなどの周りにあるコンセントのほとんどにPDアダプタが装着されていて、そこから生えたType-Cケーブルがいたるところの足もとに横たわっている。だからいつでもチャージできる。60W給電なら小一時間でフル充電だ。
パソコンを使うという行為が新しい領域に突入した。UH-Xはその最前線にいる。