山田祥平のRe:config.sys

大きなディスプレイをつないでわかったコンピュータはこんなに便利

 大きなディスプレイを使うことでパーソナルコンピューティングを変えてみる。いつでもどこでもコンピューティングをいったん保留し、コンピュータのある場所に赴いてディスプレイに向かうことで、世界の見え方を変えてみる。かつての日常が失われてしまっていても、明日を信じてがんばる気になれる。

再確認したWindowsって便利だったこと

 長年続けた24型ディスプレイ数台のマルチディスプレイ環境をいったんやめて、42.5型の大型ディスプレイ1台体制を試し続けている。LGエレクトロニクス・ジャパンの「43UN700-B」だけの環境だ。いろんなことがわかってきた。

 Windowsデスクトップの使い方として、まず、アプリのウィンドウを最大化することがなくなった。42.5型という画面サイズは、幅が約970mmと、1m近い。比べてみようと思って新聞紙を自宅で探したのだが発見できなかった。そういう時代である。仕方がないので、身近な紙としてA4の紙書類をディスプレイ表面に貼りつけてみた。今なおリアルな発表会などがあれば、会場で配布される資料書類などがこのサイズだ。もちろん企業などで使われる書類もA4が多いだろう。

 リアルA4書類を画面に配置すると、縦書類4枚、横書類3枚を並べ、まだ余裕があるのがわかる。右側にTweetDeckのタイムラインが表示できているのがわかるだろうか。紙の書類の文字サイズで普段困っていないのなら、このくらいのサイズ感で42.5型は書類を表示できる。この実力があれば作業効率は大きく高まるに違いない。

 通常のアプリではどうなのか。たとえばブラウザのウィンドウを開いた場合、縦長のウィンドウを3つ並べて表示ができる。そのうちの1つがWordの書類というようなケースもあるだろう。4K解像度の場合、縦横のドット数は3,840×2,160ドットなので、単純に計算すると1,250×2,160の領域を3つ確保してもまだ余る。PC Watchのトップページを横方向のスクロールバーが出ない幅まで拡げても3枚は余裕だ。個々の領域の縦横比は16:30くらいになる。

 これまで16:9より16:10がいいとか、16:10は縦向きで使うといいとか思っていたが、はっきり言ってそんなことはどうでもよくなった。いや、16:9なら、縦方向が抑えられているだけ首の上下運動が抑止できるのでこのほうがよいのだとさえ思うようになる。

 アプリによってはフルスクリーンで使いたいと思うようなものもある。たとえばAdobe Premiereで動画を編集するような場合だ。このアプリは基本的に1つのウィンドウ内を複数のパネルに区切って作業する。基本的な作業は、素材を並べるソースパネル、仕上がりを確認するプログラムパネル、タイムラインパネル、プレビューパネルなど4つ程度が同時に表示できればいい。こうしたアプリでは大きな最大化ウィンドウでの作業が便利だ。動画編集で生計をたてるようなプロならさらに凝った作業でサブディスプレイを使いたくなるかもしれないが、ぼくのような使い方ではこれで十分だ。

 個人的に仕事でよく使うアプリとしてはInDesignも大きな画面に最大化したくなる。DTPの作業では、つねに、仕上がりを実寸表示しながら構成していけるので、最大化すれば大画面のメリットを最大限に活かすことができる。

 だが、こうした一部のプロ向けアプリ以外はどうかというと、全画面をフルに活かせるアプリはそれほど多くない。それよりも適切なサイズのウィンドウを縦横無尽に好きな位置に好きなサイズで配置できるWindowsの柔軟性に改めて感動する。

画面サイズに依存しない画面からの距離

 前回書いたように、画面から瞳までの距離は約80cmだ。実際、この距離は画面のサイズとはあまり関係がない。24型でも同じくらいの距離で使ってきた。なぜなら、画面上に表示されるオブジェクトのサイズは、解像度が異なれば画面サイズに比例するわけではないからだ。

 TVや映画のようなコンテンツを見るときは別だ。一般にこれらのコンテンツを見る場合、画面の高さの3倍が必要とされている。42.5型の場合、縦は約53cmなので約1.5m離れて見る必要がある。80cmの倍近い距離で、ぼくの仕事場の環境ではさすがに難しい。

 それを80cmで使うのだから、つねに画面の左端から右端までをつねに凝視してできるわけではなく、注視して文字入力などの作業をしている中央付近の領域と、その両脇という3つのゾーンに分けての作業になってきた。これは、24型程度のディスプレイを3台並べての作業に近いものがある。だが、必ず画面ごとの仕切りのようなものを意識しなくてはならないマルチディスプレイ環境と比べると、ウィンドウをどこでも好きな場所に好きなサイズで置けるというのが、これほど心地よくストレスの少ない作業環境を提供してくれるのかと改めて感動した。

 「43UN700-B」にかぎったことではないが、各社のディスプレイには専用のユーティリティが提供されていて、画面を複数の領域に区切り、1枚の画面でありながら複数枚のディスプレイであるかのように使うことができる。また、四隅のどこかに領域を確保し、別の入力を表示したりといったこともできる。だが、好きなようにウィンドウを動かせることの心地よさが個人的にはうれしい。だから、この機能は宝の持ち腐れになってしまっている。

 「43UN700-B」の入力はHDMI×4、DisplayPort×1、Type-C×1と、合計6系統もある。実際に、Fire TV Stick 4Kやビデオレコーダなどをつないで、大画面でのコンテンツ鑑賞を楽しんだりもしてみたが、やはり、部屋そのものが狭すぎて距離がとれないのが悩みだ。こうなると、各入力を単にウィンドウ表示するだけのWindowsアプリがあって、好きな位置に好きなサイズでデスクトップ上に各入力ソースの映像を置いておけるようになっていればいいのにといったことを考えてしまう。

欲しいのはやまやまだが

 大画面4Kディスプレイを使うことで、とにかく、自分のパーソナルコンピューティングは大きな行動変容を起こしたように感じている。ただ、「43UN700-B」を今後も使い続けるために購入にいたったかというと、まだ、決意することができない。

 理由は2つある。1つは、設置面からの高さだ。画面の下端までの10cmというのが高すぎて、上部を見るのがつらい。首の上下運動はもう少し抑えたい。ただ、ディスプレイアームを使ったりすることで改善できるかもしれないが、同梱のスタンドでは無理だ。この理由がもっとも大きい。机面ギリギリまで高さを下げられるのならすでに購入していたと思う。

 もう1つは、十分に画面の表示品質は良好だと思うが、よく見るとベゼル4辺の内周数mmの色が少し違い、内側ベゼルのような状態になっている点だ。評価機特有の不具合かと思って、これについてはLGエレクトロニクス・ジャパンに問い合わせてみたところ、先代機よりはかなり改善されてはいるものの、若干の色違いは残っているとのことで仕様であると判明した。言われなければ気がつかない程度のものだし、実用面ではまったく問題はないが、ちょっと残念だ。

 また、色温度について暖色、中間、寒色の3段階しかなく、暖色にしてもまだ色温度が高く感じる。これまた一般的な作業をしたり、TVやビデオコンテンツを楽しむ分には問題がないが、もう少し細かく色温度を設定できるようになっていればよかった。今後、もう1台くらいはディスプレイを復活させて2台体制にしたくなることも可能性はゼロではない。そのときの色合わせも、色温度の調整範囲が広いと楽だ。

 その一方で、リモコンの便利さは圧倒的だ。各入力の切り替えはもちろん、ボリュームや明るさなどを離れたところから調整できる。今までPCディスプレイにリモコンなんて必要なのかと思っていたが、PCディスプレイが、PCのみならず、それ以外のデバイスからの映像を束ねるハブであると考えると、このリモコンの存在感は大きい。

 こうした使い勝手や細かい画質については数日間使っただけではなかなか気がつかないだけに、機種選びのさいには注意が必要だ。外出自粛で量販店などでの物色がしにくい状況がはがゆい。

大きな画面で広がる社会的視野

 外出自粛で自宅にいる時間が長くなり、仕事をする以外の時間もPCディスプレイに向かう時間は長くなる一方だ。Twitterのタイムラインを眺め、気が向いたらFacebookで知り合いの活動を観察し、NHK+でニュースを見る。

 そして、さらに時間に余裕があれば、Amazonのプライムビデオで映画などを楽しむ。仕事をしているときも、ジャケット写真を表示させた状態でAmazon Musicを再生していることが多くなった。そんなときはNHK+は音声をミュートして字幕表示にしておいたりする。Zoomなどを使ってミーティングやオンライン飲み会をやっているときも、話をするのと同時に、Webを見たり、Twitterを確認したりといろいろなことを、まさにマルチタスクでこなせる。

 これまでモバイルデバイスを使って、1つ1つ逐次的にこなしてきたことの多くを1つのディスプレイで同時並行的に行なえるのだ。複数台のマルチディスプレイ環境でもできていたことではあるが、それが1つの画面に集約されたことで、なにやら、柵が取っ払われ、確実に自分のソーシャルビューが広くなったという実感をもつ。

 これまでずっとWindowsを100%表示できる46型4Kディスプレイの登場を待ちたいという気持ちは強かったが、実際に42.5型を使ってみて、首の負担を考えるとたぶんこのくらいが限度ではないかとも感じた。とは言え実際に46型に対峙すれば、また別の印象を持つかもしれない。少なくとも言えることは、設置に無理がない限界まで大きなディスプレイを選ぼうということだ。A4用紙を横に置けるだけの幅があればおそらく設置できる。

 在宅勤務が続くなかで、外付けディスプレイを物色されている読者も少なくないだろう。悪いことはいわない。できるだけ大きなディスプレイを選んでみよう。高価、高性能なものでなくてもいい。それでもきっと何かが変わるはずだ。少なくとも、PCやWindowsは、こんなに便利だったのかと再確認できるに違いない。モバイルノートPCは妥協の産物であり、がまんを強いられてきたことを、ついうっかり忘れるところだった。