山田祥平のRe:config.sys
晴れときどきモバイル、ところによりちゃっかりマイレージ
2019年5月3日 06:00
働き方改革において当局はテレワークを推進している。通勤ならぬ痛勤で心身疲れ果てるよりも、移動の時間を省略して生産性を高めようというわけだ。確かに在宅勤務ができれば子育ての助けになって少子化問題に貢献できるかもしれない。介護と勤務の両立問題も解決できる可能性がある。労働人口減少抑制には格好のテーマではある。
移動が多いエグゼクティブ
世のなか、いわゆるエグゼクティブはなぜか移動が多かったりもする。その一方で航空会社の多くはマイレージと呼ばれるポイント制度を運用している。簡単に言えば飛行機に乗って移動すればするほどポイントがたまり、それがさまざまな特典に結びつく制度だ。量販店のポイント制度と似ているが、その仕組みはきわめて複雑だ。同じような旅程でもたまるマイルが大きく異なったりするからだ。
たとえば、マイレージは、同じ旅程を飛んでも高い運賃ならたくさんたまる。格安エコノミーより普通のエコノミーはたくさんマイルがたまるし、さらにはビジネスクラスとなればもっとたくさんたまる。航空機運賃は複雑で本当に理解できない。
マイレージの使い道にはいろいろあるが、マイルを使って別の旅程をまかなうというよりも、世のなかのマイラーは、航空会社の上級会員を狙うことをめざしているケースが多い。
上級会員になるとどんないいことがあるかというと、前もってできる座席の指定の選択肢が増えたり、預け入れ荷物を優先的に扱ってもらえて、到着地で最初に出てくるといったことから、出発空港でラウンジが利用できて無償で飲食がまかなえたりといったメリットがある。万が一の遅延やキャンセルの場合の扱いも、ほかの会員とは違う。チェックインや保安検査のさいの長い長い行列とも無縁で、特別窓口でチェックインして別の入り口からスルリと通過できたりする。
だから、もう少しで上級会員に届くマイル数を持っていて、わざわざ用もないのに飛行機に乗る人たちがいる。人はそれを「修行」と呼ぶ。
いつでもどこでも働くこと
航空会社にとって、たくさんマイルを獲得して上級会員の資格を持っている顧客は上得意ということになる。企業の役員などは移動することが多く、場合によっては運賃の高いビジネスクラスを使ったり、直前の予約で高額な正規運賃を使わざるを得ないこともある。必然的にマイルもたまりやすく、上級会員になっている可能性が高い。ある意味で、航空会社の上級会員は、移動にカネと時間を多く費やしている人種だと言ってもよさそうだ。
ちょっとした例外、たとえば、単身赴任で東京と大阪を毎週往復しなければならないような過酷な移動を日常的にしているビジネスマンなどをのぞけば、上級会員は組織のなかで、それなりに地位の高い立場にいる人々と言ってもいいだろう。
そのエグゼクティブらにとって、移動は無駄な時間ではないのだろうか。もしエグゼクティブを移動させて無駄な時間を強いた場合、組織にとっては損失になる。その時間に、企業の利益に直結するほかのことができるなら、そのほうが組織にとって得策だろうからだ。
短い移動でも黒塗りの社用車で移動するエグゼクティブは、贅沢でそれをやっているのではなく、移動に伴う煩雑な時間の無駄を省き、移動しながらでも仕事ができる環境を提供してでも、働いてもらおうという発想がそこにある。ぼぅっとビジネスの将来を考えこんでいるだけでもそれは仕事だ。
たぶん、エグゼクティブはそんなことは百も承知だ。移動は無駄であることをわかっている。それでも移動して現地におもむいたほうがメリットがあることを確信しているからこそ、あえて移動をするのだろう。
だとすれば、その移動の時間をどう使うかは重要な課題になる。このことは、航空会社の上級会員でなくても、普段、日常的に移動を伴わざるをえない一般的な社会人にとっても同じことが言える。
移動時間の有効活用とモバイルテクノロジ
移動は時間を奪い取る。空間と空間のギャップを飛び越えるために必要なその時間をどう使うか。
普段から忙しくてろくに睡眠時間がとれていないというなら、酒でも飲んで寝て過ごすというのも1つの方法だ。
一方、やることが多すぎて寝ているわけにはいかないという強迫観念もある。毎日の通勤に2時間を費やせば1カ月あたり40時間近くになる。その時間を有効に使うことができれば、仕事にしても遊びにしても大いに生産性は上がる。40時間は大きい。まして、飛行機での海外出張なら、往復での移動時間は20時間を超えることもめずらしくない。
モバイルにまつわるテクノロジは、この移動時間の有効活用をいろんなかたちで支援してくれる。さらに近年は移動中に通信ができなくなることが、ほとんどなくなった。海外渡航の飛行機のなかでさえインターネットが使えるようになっているから、移動手段によるデメリットはほぼなくなったと言える。
本を読む、調べ物をする、たまったビデオや映画を見るといった情報を消費する作業はモバイルのテクノロジが徹底的に支援してくれるし、思考に関しては、かえって普段とは違う場所、空気、環境が好影響を与えてくれる。
そして普段は直接の対面なしにつきあっている相手と、実際に会ってのコミュニケーションをすることで、離れたままではできないビジネスを進められる。未知との遭遇体験のために移動の時間を使ってでも現地に赴くのだ。ちなみにそれ以上のエグゼクティブなら、じっとしていても、向こうから人がやってくる。
諸刃の剣としてのテレワーク
とは言うものの、移動しながらの作業はなにかと効率が悪い。普段、日常的に作業している定位置での作業に比べて、さまざまな道具が軽い、小さい、薄いといったモビリティを確保するために制限を受けるからだ。在宅勤務にしても、会社のオフィス相当の環境を整えるのはたいへんだ。住宅そのものの構造も、少なくとも今は、そんなことを想定して作られてはいない。
その落差を回避するために、日常的にいつでもどこでも自宅でもモバイルで仕事をする輩もいる。職業にもよるのだろうけれど、少なくとも、ぼくのまわりには、そういうタイプがたくさんいる。自宅で作業するときも、普段の取材も、出張に行くときも、同じPCを携行し、それを唯一の道具として仕事をするのだ。仕事の効率が落ちないかと聞けば、いい環境とよくない環境を行ったり来たりするときに、よくない環境での効率が落ちるほうが問題だという。それも真だ。
今、国を挙げて推進しようとしているテレワークは、情報通信技術を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方だ(総務省 テレワークの意義・効果へのリンク)。
国ではそのおもな形態として、
雇用型
・在宅勤務
・モバイルワーク
・施設利用型勤務
自営型
・SOHO
・内職副業型勤務
を挙げている。オフィスに固定席を置いて働くのは悪であるかのようにも感じる。
情報通信技術やモバイルテクノロジは、これらの形態のどれにも大きな効果を与えるだろうけれど、そうじゃない面もあることは忘れてはならない。テレワークは選択肢の1つとしてきわめて有意義だ。取り入れない手はない。
でも、テレワークによる損失を回避するべく活用される情報通信技術やモバイルテクノロジが、それを使うことでかえって生産性を下げることもある。いわば諸刃の剣をどう活かすか。令和の時代にはそういうことも考えなくてはなるまい。