山田祥平のRe:config.sys
普通のPCが普通に買えない
2018年11月23日 06:00
「こあいさんかごで、はちじー」
親戚から電話があった。80歳超の女性である。
どうやらPCの調子がおかしく、起動して使えるようになるまで30分もかかるという。もはや限界と思って買い換えを決めたという。
話をきくと、近所のパソコン教室では、出張サービスで調子の悪いPCのメンテナンスを引き受けてくれるところがあるらしい。通っているわけでもないが、チラシを見てそのサービスを依頼して見てもらったところ、やはりそろそろということだったそうだ。有料のサービスではあるが、これまでもちょくちょく利用していたらしい。
現行機は、10年近く前の液晶一体型PCだ。ノートPCも考えたが、やはり大きな画面で使える一体型がよいということで、そのサービス氏に相談したところ「こあいさんかごで、はちじー」なら何でもいいんじゃないかというアドバイスがあったそうだ。
サービス氏のアドバイスはそこまでで、結局、ぼくのところにSOSが入った。量販店で「こあいさんかごで、はちじー」と言えばわかるかと訊くので、最初は何のことかと思ったのだが、「Core i3かCore i5で8GBメモリ」ということのようだ。じつに的確なアドバイスだと思う。
そのスペックなら不満を感じることはないだろうし、それなりに長く使えるはずだ。ストレージはいくらなんでも1TB以下の製品はないだろう。
そして、それがプロセッサとメモリ容量のことだと伝えたのだが、当然、うまく理解できない。それはどこで買えるのかと聞かれる。
とりあえず、「身長と体重のようなもので、170cm/65kgの体格の持ち主がいっぱいいるように、その仕様を持つPCは、どのメーカーでもたくさんある」と答えた。
とにかく買うから何を買えばいいのかを教えてくれというので、調べるための時間をもらって電話を切った。
店頭モデルのバリエーションが乏しい
現行機はNECの一体型VALUESTARだ。ということは、同じNEC機か富士通機がよかろうと判断して、Webで製品を調べ始めた。店頭モデルの型番を調べて伝えれば、量販店でそれを告げるだけで買えるはずだ。
ところがないのだ、普通のPCが。
サービス氏が言うところの、「Core i3かCore i5で8GBメモリ」のベーシックなPCがない。メモリが4GBしかなかったり、8GBあるかと思えば地デジTVチューナー搭載やら4K液晶やらのプレミアムPCだ。
オーソドックスなPCが店頭モデルとしてラインアップされていないのだ。そもそも富士通(FCCL)は、店頭モデルを同社Webで探すことができない。
両社ともに、ダイレクト販売であれば、カスタマイズして希望のスペックのPCが手に入る。だが、それはさすがに知識のない高齢者には荷が重い。
さらに、クレジットカードがないという。ご主人の家族カードを使っていたが、ご主人が亡くなって以来、クレジットカードとは縁なく過ごしているという。新たに申し込もうにも、70歳超の新規入会は審査が通らないそうだ。
代わりに購入するというわけにもいかず、フルカスタマイズではなく、某社直販専用モデルの型番を伝え、それにOfficeをつけるということで、フリーダイアルの電話注文をしてもらい、代引きでの決済で無事に購入が完了した。
納品は12月上旬で、まだしばらく先だが、楽しみにしているということだった。届いたら届いたで、いろいろトラブルも出るだろうが、先のサービス氏がセッティングなどを引き受けてくれるらしく、サポートの心配はなさそうだ。
シルバー世代にはつらい、PC購入のハードル
「Core i3かCore i5で8GBメモリ」はいくらくらいなのかと聞かれ、8万円前後で買えるだろうと返事をしたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
この価格では、富士通やNEC PCは難しいので、今回は日本HPの製品を選んだ。HPのプリンタを使っているらしく、インクの交換でダイレクト販売を使ったこともあり、親近感があるようだったからだ。
それでも、Microsoft Office Personal 2016を追加するために16,000円+税が必要で、合計金額は税込99,144円と、ちょっと予算オーバーだ。
前のPCにはOfficeがプリインストールされていたので、ちょっとした作業にExcelやWordを使っていたらしい。だからOfficeは必要だ。よくよく考えてみればスーパー80歳ともいえる。
決めた製品は、Core i3-8100T、8GBメモリに1TB HDD、タッチ対応21.5型フルHD IPSディスプレイの一体型ということで、サービス氏のアドバイスにも合致する。また有線LANポートもあるので、現行機との置き換えに際して、新たにWi-Fiを整備する必要もない。既存のルーターとケーブルで接続するだけだ。
PCでTVを見れる必要がなく、BDドライブなどもいらない。Wi-Fiすら不用。年齢のことを考えると、PCを買うのはこれが最後になるかもしれないと言われて、「そんなこと言わないで長生きしてくださいよ」と言いながら、こうした状況はちょっとまずいのではないかとも思ったのだ。
この年代のコンシューマにとって、PCという買い物は、とてつもなくハードルが高い。それに著しく高価という先入観もある。
だからこそ、オールインワンの悩まずに済むベーシックな製品がほしいし、そのほうがわかりやすい。量販店に行って、これくださいと言って、それで終わりの製品だ。
いくらなんでも、調子の悪いPCで、各社のダイレクト販売サイトを調べ、望みのスペックを指定して買い物をするというのは無理だろう。だからこそ店頭モデルに頼りたいのだ。
10年前の一体型PCといえば、NECなら19型程度の液晶でCore 2 Duo、メモリ4GB、500GB HDD、OfficeつきのWindows Vista搭載で20万円程度といったところだろうか。
彼女同様に、以来10年間使い続けてきたPCを新たに買い替えたいというようなシルバー世代は少なからずいるんじゃないか。かなり確実な潜在需要だ。スマートフォンにも置き去りにされ、一通り使えるPCだけが頼りだからだ。
そういう人たちに、あまり難しいことを考えずに、リーズナブルな価格で、リーズナブルな環境がオールインワンで手に入るような施策を、各社ともに考えた方がいいと思う。
そうでなくては買い換えをあきらめるシルバー世代の続出だ。