山田祥平のRe:config.sys
引き算でできたPCとしてのSurface Go
2018年10月12日 06:00
モバイルPCに求められる要素の1つとなる機動性を追求したSurface Go。10型の画面がもたらす世界は、正真正銘のWindowsで慣れ親しんだいつものあれの相似形だ。タブレットでもなく、ノートでもないもう1つのなにかとしてのSurface Goを使ってみた。
800g以下のPCが支えるニッチなニーズ
外国のファストフード店のカウンターで食べ物を注文すると、必ず「Here or to go?」と聞かれる。つまり、そこで食べるか、テイクアウトするかを尋ねられるわけだ。そこで食べるならトレイに載せてすぐに食べられる状態で供されるし、持って帰るなら袋につめてもらえる。
その「to go」を追求したのがSurface Goだ。いつでもどこでも使えるPCをコンセプトとし、軽量化、省フットプリントを追求した。
軽量といっても、タイプカバーをつけた状態のSurface Goは手元で実測すると765gある。本体のみなら521gだが、ピュアタブレットとしてこの製品を考えるべきではない。やはりキーボードあってのPCだし、そもそもWindows 10のデスクトップメタファはタッチのみで使うにはまだ成熟していない。
いま、世のなかにあるPCで、Surface Goに重量が近いものというと、FCCLの「LIFEBOOK UHシリーズ」(748g)と、NECPCの「LAVIE Hybrid ZERO」(769g)があり、これらは13.3型画面だ。
さらに、NECPのLAVIE Hybrid ZEROには11.6型画面のキーボード分離タイプもあって、こちらは本体のみが410gで、キーボード装着時は798gになる。ただ、この製品は市場在庫のみですでに終息となっていて、後継機の見通しはなさそうだ。
また、愛用のパナソニックの「レッツノートRZシリーズ」は10.1型画面で780gだ。
つまり、700gから800gの間にあるモバイルノートが直接のライバルになると考えていい。ただ、10型前後の画面はきわめてニッチな領域で、突出した支持を受けているわけではない。
フットプリントも重要な要素
PCを持ち出して使うときの重量は、カバンに入れて持ち運ぶときの負担はもちろん、取り回しのよさにも大きく影響する。とくに、こういう仕事をしていると、机のない場所で椅子に座った状態で、PCとカメラをとっかえひっかえしながら作業することがけっこう多く、本体を手にしたときに慣性を感じないほうがありがたいのだ。
もちろん重量が同じくらいなら大きいほうがいいというユーザー層もいるだろう。そういう意味ではLIFEBOOK UHシリーズやLAVIE Hybrid ZEROは13.3型画面でこの重量を実現しているのだから驚異的だ。まさに「軽さは正義」を地で行く日本が誇るPCといっていい。
ただ、この両機は、一定の場所で落ち着いて使ういわゆる「点のモバイル」には向いているが、移動しながらも使う「線のモバイル」的には絶対的なフットプリントが大きすぎる。たとえば、電車のなかで膝の上に載せて使うにはちょっと幅が広すぎる。このサイズでは両脇の人に迷惑をかけかねない。
Surface Goの登場以前は、こうしたモビリティを持った製品としてレッツノートRZシリーズが唯一の選択肢と言ってもよかったが、Surface Goは、RZシリーズの目指している世界に加わったライバル的存在だと言える。
個人的にレッツノートRZ5を今なお現役で使い、日常的な持ち出しの機会はいちばん多いのだが不満もある。4コアのUプロセッサが当たり前のようになってきているいま、Yプロセッサが遅く感じられるようになってきていることもそうだが、USB Type-C端子を持たないことやPD充電ができないことなどが、ちょっとした使い勝手を下げはじめている。スマートデバイスを取り巻く環境が大きく変わろうとしているからだ。逆に言うと不満はそのくらいで、あまり大きな不便を感じてはいない。だからこそRZ5は自分的にはバリバリの現役だ。
手元のSurface Goは、評価用に貸し出された機材で、届いたときには、Windows 10 Homeがプリインストールされていた。製品として売られているものは、SモードのWindows 10なので、評価機のプリンストール状態が実際の製品とはちょっと違う点については了承いただきたい。また搭載物理メモリは8GBで、ストレージは128GBだ。手元に届いた時点で「回復」で初期状態に戻し、Windows Updateしたところ、取り下げられる前のWindows 10 October 2018 Update (version 1809)が配信され、それを適用した状態で評価を開始した。
PCとしてSurface Goを見たときに、その搭載プロセッサのPentium Gold Processor 4415Yのクロックは1.6GHzだ。ターボ・ブーストなどはサポートされていない。そのことが功を奏しているのか、操作にひっかかり感を感じることがなく、ストレスをあまり感じないのだ。最初は大きな期待をしていなかっただけに、いい意味で期待を裏切ってくれている。
また、バッテリ駆動時間にも不満はない。Wi-Fiをオンにしてインターネットに接続し、Outlookでメールなどを更新させながら、エディタで文字を入力し、ブラウザで調べ物をするといった普通の使い方をしていて1時間に消費するのは10%以下だ。
ちなみに公称のバッテリ駆動時間は「最大9時間の長持ちバッテリで、ローカルでの長時間のビデオ再生が可能。 これは2018年6月にIntel Pentium Gold 4415Y Processor、128GB、8GB RAM搭載の発売前デバイスを使用してMicrosoftが実施したテストで実証されました。このテストでは、ビデオの再生によるバッテリの完全消耗について確認が行なわれています。このテストは、2点(Wi-Fiをネットワークに接続、明るさ自動調整を無効)を除き、すべて初期設定のままで実施されました。バッテリの寿命は、設定、使用法、その他の要因により、大きく変動します」とされているので、ほぼそれに近いか、それ以上のスタミナだと言える。
従来のSurface同様に、専用の電源アダプタが添付され、それをSurface Connectポートに接続して電力を供給する。同梱アダプタの仕様は15V/1.6Aなので24Wだ。それ以外では唯一の拡張用ポートともいえるUSB Type-C端子がPD充電をサポートしている。手元のアダプタで試してみたところCheero USB-C PD Chargerのように最大9V/2A、18W程度のコンパクトなアダプタでもそれなりに充電をしてくれる。大容量のモバイルバッテリなら20Vで充電するし、PD対応のモバイルバッテリでも大丈夫だった。
使いながらの充電でも本体内蔵バッテリを消費するようなことはなさそうだ。スマートフォンを急速充電できて、PCも充電できるという汎用性を負担なく持ち歩けるというのはうれしい。当然、ケーブルも兼用できる。
いただけないタイプカバー
Surface GoはSurfaceのいいところも悪いところも兼ね備えている。アスペクト比3:2の画面は縦にしても横にしても使いやすい。もっともキーボードあってのPCなので、タイプカバーをつけて縦で使おうという機会はあまりない。ちなみに10型画面のデフォルトスケーリングは150%だが、個人的にちょっと小さく感じて175%に設定している。
サウンドも意外にしっかりしている。また、キックスタンドの使い勝手も上々だ。これらはSurfaceのいいところとしてきちんと踏襲されている。
ただ、オプションのタイプカバーはいただけない。タッチパッドの滑り等に不満はないのだが、問題はキートップのレイアウトだ。現行のSurface Pro等用のタイプカバーとスペースキーの長さがほぼ同じなのだ。小さいから長さが短くなるのは当たり前なのに、Surface Goのほうが2mmほど長い。具体的にはCキーの中央からMキーの中央までだ。Surface ProのタイプカバーはCキーの右端にほんの少しかかるところから、Mキーの左側にちょっと食い込むくらいの相対位置だ。
このスペースキーの長さのしわよせを受けて本来ならMキーの真下あたりにあってほしい変換キーを右に追いやっている。その結果、変換キーを叩きたくてタッチタイピング時に右手親指を降ろすと間違いなくスペースキーを叩いてしまう。これは、LAVIE Hybrid ZEROのキーボードや新Realforceキーボードと同じで、変換キーを日常的に使っているユーザーにとっては気になるところだ。半角/全角キーが遠いので、変換キーをIMEのオン/オフに使っている身としてはつらい。
一般的にスペースキーは長いほうが好まれるそうだが、だからといって、何十年も使われてきたキーの相対位置を変えてしまうのはどうかと思う。
さらに、Surfaceのタイプカバーは従来どおりマグネットで吸着する仕組みになっている。かなり強力なものだが、どうしてもなにかの拍子に外れてしまうことがある。たとえば膝の上で使っていたり、椅子の片側についた小さなテーブルなどの上で使っているとき、支えているキックスタンドがそこからはみだしたとたんにガタンと向こう側に倒れてしまい、その勢いで外れてしまう。これはタイプカバーの宿命だ。
電車の中や記者会見の会場で、Surfaceの本体を床に落下させた現場を何度見てきたことか。いっそのこと、強力な接着剤でくっつけてしまおうかと思うくらいだ。ただ、Surface Proと比べて軽量な分、ドキッとしても外れないで踏ん張ってくれることも少なくないのが救いか。
いつもの環境の相似形をもってGo!
USB Type-C端子が1つでも、デルの「P2419HC」のようなPDに対応したディスプレイを自宅やオフィスに置いておけば、外ではSurface Goをそのまま使い、戻ったら、ケーブル1本を接続するだけで充電と映像出力が同時にできる。Surface Goは、こうした使い方をすればさらに有効に活用できるだろう。
唯一無二のPCがSurface Goだとしても、拡張の方法はたくさんあって、働き方改革時代の強力なサポーターとして機能してくれるはずだ。それがPCのエコシステムというものだ。Type-C端子1つでも申し分のない拡張はできる。なにもないけれども拡張の先にはすべてがある。そういう意味ではSurface Goは引き算でできたPCだといえる。
もっとも8GBのメモリとSSDは必須と考えたい。4GBメモリと64GBのeMMCドライブの下位モデルもあるが、もし購入を考えるのでえあれば、できれば上位モデルを選んでほしい。下位モデルでは選んだことを後悔する場面が頻出しそうだ。
10型画面がもたらす世界観は、サイズ的にはiPadなどのピュアタブレットと比較されがちだが、めざす境地はまったく異なるものだと考えたい。持ち出して外で使いたいのは、いつもの環境の相似形であり、PCそのものであってほしい。
Microsoftがこのサイズ感の提案に乗り出したことは素直に喜びたい。これに刺激を受けたほかのベンダーが追従することを願いたい。