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x86サーバー事業のアクセルを踏み込むLenovo
~サーバー事業担当副社長が市場シェアNo.1を目指すと明言、新戦略も披露
(2015/9/1 06:00)
昨年(2014年)、IBMからx86サーバー事業(System x部門)を買収したLenovoは、既にエンタープライズビジネス事業本部(以下:EBG)を立ち上げ、自社の事業への統合を終えている。エンタープライズシステム事業を担当するマイケル・ゲベル副社長は、米国本社があるラーレイで日本の記者団とのグループインタビューに応じ、現在x86サーバー市場で市場シェア3位の同社は、より上位にあるHP、Dellなど競合他社を追い抜き市場シェア1位を狙うと宣言した。
その上でゲベル氏は「IBMから事業を買収した後、IBMが強かったハイエンドのx86サーバー市場に引き続き注力してやってきた。今後もその市場を重要視していくのはもちろんだが、それに加えてボリュームゾーンのサーバー市場、さらにはハイパースケール市場など、これまでIBMが重視していなかった市場にも力を入れていく」と述べ、ラーレイの研究開発施設の充実など、投資や事業、ラインナップの強化を行なっていくと説明した。それにより、x86サーバー市場で出荷ボリュームを増やし、シェア1位を目指す。
IBMから移ってきた従業員がそのまま運営しているLenovoのサーバー事業
LenovoによるIBMのSystem x部門の買収から、約1年が経過した。買収完了後、以前はラーレイのIBM事業所内にあったオフィスは、Lenovoが新しく開いた事業所(Building 7/8)へと引越し、新たにLenovoのEBGとして再スタートを切ることになった。今回日本の記者とのグループインタビューに応じたマイケル・ゲベル氏も、IBMのSystem x部門から移ってきた1人だ。
この1年間、ゲベル氏を始めとしたEBGの幹部は、IBMのSystem x事業と、Lenovoのサーバー事業(ThinkServer)の統合に時間を使ってきたという。「System xは、特にハイエンドサーバーで大きな市場を持っており、ハイエンドだけに限ればトップシェアだ。これに対して、Lenovoが持っていたThinkServerはメインストリーム向けが多く、重なり合う部分はさほど多くなかった。ただ、重複製品もあったので、ポートフォリオの再評価を行ない、どちらの製品を残すのかを決めてきた」と説明する。
現在は、System xとThinkServerという2つのブランドを使っているが、それも将来的には何らかの形(System xを残すのか、ThinkServerを残すのか、あるいは全く新しいブランド名にするのか)で統合する可能性もあるとも述べた。
現在もIBMの一部門だった時代と、基本的なやり方や考え方は変わっていないという。ただ、「Lenovoになって迅速な決断を求められることが増えた」とし、ほかの事業部との調整などに時間をかけるのではなく、できるだけ迅速に判断し、それをどんどん実行していくようになったのがIBM時代との最大の違いだという。
System x部門がLenovoに移動したことの最大のメリットは、スマートフォンやタブレットなどのモバイル機器から、PC、サーバーまで全ての製品群を揃えていることで、エンドツーエンドでソリューションを提供できることだという。「IBM時代、我々はサーバーしか提供できなかった。しかし、Lenovoになり、スマートフォンやPCとセットで提供できるようになっている。特に現在は、スマートフォン10台のために、1台のサーバーが売れる時代であり、このことは非常に重要だ」と述べ、サーバーのビジネスにもいい影響を与えていると強調した。
サーバー市場でシェア1位を目指すと表明、そのために普及価格帯製品の充実を目指す
そうしたLenovoに移ったSystem x部門の目標は「市場でナンバーワンになること」だと明快に説明する。IBMのSystem xは、(調査会社により違いはあるものの、概ね)PCサーバー市場で市場シェア3位となっており、その上にHPとDellの2社がいる状況。Lenovoに移動してから1年が経っているが、その状況は基本的に変化がない。
事業部ごとLenovoへ移動してきてから、これまでは事業を安定させることを目標としてきた。まずはIBM時代の顧客に安心してもらうべく、製品のラインナップやサービスなどをIBM時代と大きく変わらないメニューを提供した。「Lenovoに買収され会社は変わったが、製品を作っている人間、製品を売っている人間、サポートしている人間はIBM時代と同じ体制でやっている。そこには大きな変化はなく、まずは安定が大事だとこの1年間取り組んできた」と説明した。
この体制は今後も同じように維持していくが、同時に新しい戦略も打ち出していくという。「これまでのSystem xの強みは(4ソケット以上の)ハイエンドサーバーで、その市場では市場シェア1位だった。そこは変わらないが、新たにこれまでIBMが得意としてこなかった1ソケット、2ソケットの市場にしっかりと取り組んでいきたい」と述べ、メインストリーム向け市場にも積極的に取り組んでいきたい意向を明らかにした。
ゲベル氏は「Lenovoになったことで、Lenovoが持つPC向けのチャネルを利用できるようになる。それらも活用して、市場の拡大を目指したい」と述べ、それによってPCサーバー市場でのシェア第1位を目指すとした。
また、IBM時代にはSystem x事業はx86サーバーに集中していたが、Lenovoになったことで、ARMなどほかのアーキテクチャも検討する可能性があると認めた。「ARMがサーバーの世界に来るかは、来るかどうかが争点ではなく、それがいつになるかだと思っている。ただし、現時点ではx86が市場を席巻しており、その市場に集中して投資を行なっている。あくまで将来へ向けての投資は怠らないという意味だ」とした。ARMアーキテクチャのサーバーに関しても検討を行なっている段階で、将来的には市場のそれなりの部分をARMが占めると考えているが、少なくともそれは今ではないと考えているようだ。
ラーレイ事業所ではサーバー関連の研究開発が行なわれている
そうした新戦略を実行に移す意味でも、Lenovoは同社のEBGの施設の拡張を続けている。同社がノースカロライナ州ラーレイに設置している事業所は、2つの建屋(Building7、Building8)から構成されている。1つは以前はソニーエリクソン(ソニーモバイルの前身)が利用していた建屋で、サーバー事業に適合するように改良して利用している。
それらの建屋には、複数の研究開発施設とオフィスなどが用意されている。例えば、熱設計研究室(Thermal Lab)では、サーバーの熱設計が行なわれている。一般的にサーバーの設計は、出荷の約2~3年前にIntelから新しいCPUの資料が提供され、約1年前にCPUのエンジニアリングサンプルが渡されというスケジュールの中で行なう。そのため、資料の熱設計のデータ(CPUのTDPや表面温度など)を元に先行開発が行なわれる。Lenovoの施設では、小型の風洞を利用して空気の流れなどを研究し、より効率の良い熱設計を日々研究しているという。また、現在サーバーの世界では、水冷も徐々に普及しつつあり、水冷システムの研究をサーバー単位ではなく、ラック単位でも研究したりしているという。
また、性能研究室(Performance Labs)では、Lenovoが公表する性能数値の計測や、ファームウェアの調整による性能向上などの研究を行なっている。例えばTPC-C/H、SPEC-jbなどの業界標準なベンチマーク、SAP HANAなどのアプリケーションベンチマークなどさまざまな計測、研究している。Lenovoはこの性能研究所用に、専用のデータセンターをラーレイ事業所の中に設置しており、実環境を利用したテストをしている。
現在、もう1つの建屋(Building 6)が新規に建設中で、将来的にEMC(電磁環境適合性)を試験する10m規模のEMC試験室、電波暗室、パッケージやメカ分析室、試験製造ラインなどが用意される予定だ。現状の施設にも、EMC試験室、電波暗室などの施設があるが、新しい建屋ではそれが拡張されることになる。