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インテル、“2-in-1”やUltrabookによる「本気でICT」を訴求

インテル常務執行役員クラウド・コンピューティング事業本部 事業本部長の平野浩介氏
6月27日 開催

 インテル株式会社は27日、報道関係者向けに法人向けビジネスの戦略や事例を紹介する説明会を開催。実際にUltrabookや2-in-1タブレットを導入している企業の担当者も登壇し、導入までの課題や経緯を紹介した。

 冒頭で挨拶に立ったインテル常務執行役員クラウド・コンピューティング事業本部 事業本部長の平野浩介氏は、日本のGDPが下降傾向にあることや、2012年のFortune Global 500のランクイン企業数が中国に追い抜かれていることを挙げ、「ICTの利活用が叫ばれて久しいが、もっと本気で活用していかないと、今後、企業や経済が伸びていかないのではないか」と警鐘を鳴らした。

 また、ガートナーの調査による企業のCIO(最高情報責任者)が重視するポイントの、日本と世界の違いも挙げている。これによると、世界的には“企業成長を加速させる”、“業務で成果を上げる”といった企業戦略的な面が上位にくるのに対し、日本では“新商品やサービスの開発”、“企業コスト削減”といった項目が上位に来ている。

 一方では、政府CIO室の設置や、“世界最先端IT国家創造宣言”など国家としてICTを利活用する流れも生まれている。平野氏は「国がICT利活用の動きを加速させている。この流れにのって、企業戦略として本気のICT利活用を考えて欲しい」と呼びかけた。

日米中のGDP推移。米中のGDPが上昇傾向にあるのに対して、日本は下降傾向にある
CIOが重視する戦略として“企業成長加速”や“オペレーションで成果を上げる”といった戦略的な点が日本では下位になる
企業のICT活用に対するIntelからの提言
インテルクラウド・コンピューティング事業本部の坂本尊志氏

 続いて登壇したインテルクラウド・コンピューティング事業本部の坂本尊志氏は、より具体的なIntelの企業向けテクノロジ/ソリューションを紹介。「防御なくして攻めはなし」と、まずはセキュリティ対策について説明を行なった。

 Intelでは2006年から「vPro」と呼ばれる企業向けの管理/セキュリティソリューションを提供している。これまでにアップデートを重ね、昨今はPCやワーステーションだけではなく、POSやサイネージなど無人運用が前提のデバイスに対しても適用範囲を広げようとしている。

 このvProだが、これまで導入してきたのは多くが中~大規模の企業で、最近は万単位の導入例が増えているという。サーバーを立て、クライアントにエージェントを配布するといったことが、専任管理者やアウトソーシングによる管理を行なっている企業では当たり前に行なわれている。

 しかし、日本は8割以上が中小企業であり、会社にそれほど台数がない場合にvProの導入が負担に見合うか疑問がある。実際、ノークリサーチの調査では、年商5億円未満の企業においては65.5%が“兼任情シス”、24%が“ひとり情シス”という結果が出ているという。かといって、扱うデータの重要性は中小企業でも変わらず、セキュリティを軽んじていいわけではない。

 そこでIntelが提供を開始しているのが「インテル・スモール・ビジネス・アドバンテージ」(Intel SBA:Small Business Advantage)である。これはサーバーを立てずに、個々のクライアントPCが自立的に管理を行なう機能を持たせたアプリケーションだ。例えば、決められた曜日/時刻に電源をオンにし、Windows Updateやパターンファイルの更新、ウイルススキャンやデータバックアップを行なって、電源をオフにする、といったことを、vPro対応PCの上で自動的に行なわせることができる。そのほか、USBデバイスの接続制限機能やソフトウェアの監視機能などを備えている。

 このIntel SBAは、Ivy Bridge世代以降のPCが対応しており、主に法人向けPCなどにプリインストールして提供される。国内ではエプソンダイレクトやサードウェーブ(ドスパラ)の製品で導入が始まっているほか、24日に発表されたASUSの「BU400」にもプリインストール。NECキャピタルソリューションが、BU400にプリインストールされたIntel SBAのサポートを無償で行なうことを発表するなど、利用の動きが広がっている。

クライアント/サーバー型のvProは、これまでは中~大規模企業の導入が多かった。これに対し、1台からでも導入できるソリューションとして提供するのがIntel SBAとなる
ノークリサーチの調査では、年商5億円未満の企業では約90%が兼任またはひとり情シスで運用している現状であることが分かる
Intel SBAは、PCを自立的に動かして最適化するヘルスセンターを始め、クライアントPCが独立して安全に保つ機能を備える

タブレット/2-in-1 Ultrabookの導入事例

2012年12月の導入事例紹介では、Ultrabookの導入事例が中心

 Intel製プロセッサ搭載製品の導入事例にも変化が生まれている。2012年12月に紹介したプレゼンテーションでは、Ultrabookが企業に導入され始めていることがメインだった。しかし、2013年に入ってからはタブレット、コンバーチブルや液晶着脱式などのいわゆる“2-in-1”タイプのUltrabookの事例が生まれている。これらをいち早く“基幹業務”へ導入している事例として、2社の担当者が登壇した。

 1社目は製造の現場における例として、ツネイシホールディングズ株式会社(常石) 情報システム部 部長/CIOの和田義幸氏が登壇。常石は造船/海運事業などを手がけており、特に造船の現場における例を紹介した。

 同社では2010年から3カ年のPCリプレース計画を立て実行した。しかし、B5モバイルノートのセグメントで、2011年にArrandaleのCore i7を導入したあと、2012年にCore i5製品を導入したことで性能が低下。また2011年導入のB5製品も性能こそ高いものの、それ以外の面で従業員の不満は大きかったという。

 そこで、2012年導入のB5モバイルノート調達基準に“Ultrabook準拠”を明記。これはIntelがモバイルPCとしてのトータル性能を保証しているという安心感もあってか、「はずれがない」と従業員からの評判も良いという。そのため、2011年には10%程度であった社内のB5モバイルノートの台数比率が、2012年には20%以上へ増加。少し前にB5モバイルノートをリプレースした従業員からも乗り換え希望が届いているが、それを断わるほどの状況になっている。また、社内のPC台数もやや増加したものの、消費電力は全体として低下した。

 タブレットの導入も始まっている。これは2010年にグループウェアをLotus NotesからMicrosoft SharePointへ切り替えたことで、Windows以外のデバイスからも稟議承認などが行なえるようになったことがきっかけで、まず役員にiPadを導入した。しかし役員からはExcelの再現性、PowerPointのレイアウトが崩れるなどの不満が上がったという。

 一方、設計や現場を行なう部門では、造船向けCADのデータや電子図面を見られるビューワがWindows以外対応しないことや、iPadでは工場/屋外での使用に不安があることで導入が進まなかった。かといって、Windowsタブレットを最初に検討したのは、Oak TrailコアのAtomを搭載したタブレットが登場した時期で、要求は満たせなかったという。

 だが、2013年1月に発売されたパナソニックの「TOUGHPAD FZ-G1」は、現場の要件を満たす耐久性/堅牢性を備え、かつWindows 8が動作することでテスト導入。また、役員や営業、現場での電子図面確認用にはレノボ・ジャパンの「ThinkPad Tablet 2」のテスト導入が行なわれている。こちらは性能面で問題なく、ペンが使えることでグローブをはめたままで使えることから現場での評判も良いそうだ。

 将来的にもUltrabookをメインに据えるものの、コンバーチブルタイプなどの現場導入が進んだり、Bay Trailの登場でもっと性能の良いものがあれば採用の可能性もあるとし、製品開発に対しての期待を寄せている。

ツネイシホールディングズ株式会社 情報システム部 部長/CIOの和田義幸氏
同社では2010年からPCリプレース計画を立案。現場から屋内業務などセグメント別に移行計画を遂行した
2012年に導入を開始したUltrabookは従業員の評判が良く、一気に台数比率が増している
造船の現場における状況。iPadでは不安だが、クラムシェルでは持って操作できず、置き場も確実にあるとは限らない状況という
現場に採用されたパナソニックの「TOUGHPAD FZ-G1」
役員や屋内業務、現場での電子図面確認用に採用されるレノボ・ジャパンの「ThinkPad Tablet 2」

 2つ目は医療/看護の例として、訪問看護などを手がける名古屋市療養サービス事業団の担当者が登壇した。

 課題先進国といわれる日本が抱える課題の中でも、少子高齢化社会における医療/看護の問題はとりわけ深刻なものと言われるが、同事業団 在宅療養部 訪問看護課長の近藤佳子氏は「多死時代を迎え、看取りの場所が不足するのは確実視されている。訪問看護が増えれば看取り場所が増えることにもなるが、圧倒的に人材が不足している。そこで効率的な情報交換や記録入力が重要になる」と述べる。

 そうした業務の効率化に向けて同事業団では、SCS21(Smart Care System 21)と名付けられた専用システムを開発し、運用している。このシステムは、看護師それぞれの訪問予定などが登録され、訪問記録の作成、法廷記録のフォーマットに則った印刷機能、勤怠管理までを統合したシステムだ。

 このシステムの開発段階である2011年頃にデバイスを検討した際には、ネットブックでは性能が不足。記録作成のためにキーボードが必須と考えWindowsタブレットも不採用。そして、Windows必須であることからキーボード着脱式のAndroid端末も使えないと判断された。そこで、最初の世代のUltrabookであるASUSの「Zenbook UX21E」を採用。薄く、軽く、性能も良く、アンチ・セフト・テクノロジによる盗難対策も行なえることが決め手となった。

 しかし、訪問看護という現場では、立ちながら記録することが難しく、そもそも現場で入力する項目は限られていることからキーボードが不要ではないかという声が上がったほか、広い家ばかりではないことから置き場所に困ることもあった。

 さらに深刻なのが“電子カルテ問題”と呼ばれる問題だ。これは医療現場に電子カルテが出始めたころ、患者側から「医者が患者を見ず(診ず)、PCばかり見ている」との苦情が増えた問題で、人対人の関係がより強い訪問看護では、より重視すべき課題となる。しかしUltrabook導入後、入力に不慣れなために、こうした問題が起きてしまったのだという。

 その後、2011年から2013年でデバイスの情勢は大きく変わり、とくに2013年はコンバーチブル/着脱型のUltrabookも増えている。こうしたデバイスに対し、看護記録など膨大な文書の作成と訪問看護の現場という両方の要求を満たすことのデバイスとして、「まるで訪問看護のために生まれてきたデバイスではないかと思った。真の“看護師が使えるモバイルデバイス”と言え、今後の展開に期待している」(同事業団IT統括本部 主任の篠田和紀氏)と評価した。

名古屋市療養サービス事業団 在宅療養部 訪問看護課長の近藤佳子氏
名古屋市療養サービス事業団 IT統括本部 主任の篠田和紀氏
同事業団で利用している業務支援システムの概要。看護の記録から勤怠管理まで、全てを統合したシステムとなっている
最初に訪問看護の現場で使うデバイスを検討した2011年は、タブレット、ネットブックともに要求を満たせず、第1世代のクラムシェル型Ultrabookが採用された
結果としてクラムシェルにも課題が生まれたが、2013年には2-in-1型のさまざまなタイプが生まれており、“訪問先でタブレット、事務所での文書作成にキーボード使用”、というスタイルを1つのデバイスで行なえる

 この名古屋市療養サービス事業団での取り組みに対し、インテルの坂本氏は「篠田さんから“うちが早かったのでしょうか、Intelが遅かったのでしょうか”と問いかけられた。ユーザーを待たせてしまったが、我々もやっと期待に追いつきかけているところだと思っている」とコメント。

 タブレットなどを導入することを検討しても、既存アプリケーションの多くがWindows用アプリケーションという医療の現場では、Windowsであることが前提になる。官民一体となって2019年までに1人1台のタブレット導入を目指す教育現場においても、ほとんどはWindowsのアプリケーションで、「利用者はもちろん、開発側もこれまでの開発環境が使えるWindowsであることのメリットが大きい」と、Intel製プロセッサ+Windows環境の優位性をアピールした。

医療系システムへの取り組みを進めており、院内で使われるシステムのタブレットでの検証が進められている
教育現場へのタブレット導入が推進される中、Windowsであることの優位性を強調した

(多和田 新也)