レビュー
スマートウォッチは何ができるのか?
~ASUSのAndroid Wear「ZenWatch」レビュー【ハードウェア&基本機能編】
(2014/11/15 06:00)
ASUSのAndroid Wear「ZenWatch」は、同時発表したSIMフリースマートフォン「ZenFone 5」と連携するスマートウォッチだ。11月下旬の発売に先駆けて、製品を試用する機会を得たので、レビューをお届けしたい。
なお、製品は量産試作機であり、量産版では外観や画面などが変更される可能性があることをお断わりしておく。
他社製品とは趣が異なる高級感あるデザイン
Android Wearは、Googleが6月に発表したばかりの新しいプラットフォームで、文字通りスマートウォッチなどのウェアラブル向けとなる。基本的に、Androidスマートフォンやタブレットと組み合わせて利用することで、携帯端末の使い勝手を増したり、新たな機能性を追加しようというものだ。まずはスマートフォン大手である、LG、Samsung、ソニー、Motorola、そしてASUSなど(iOSではAppleも)が参入しており、Motorolaを除いては、国内でもこの年末までに製品が発売となる。
そのため、何となく聞いたことはあるし、気にもなっているが、どういったことができるか詳しくは知らないという人も多いのではなかろうか。かくいう筆者も、スマートウォッチを試すのはこれが初めてなのだが、これがどういうものなのか、順を追って説明しよう。
なお、ZenWatchならZenFoneなど同じメーカーの組み合わせが推奨されるが、Android Wear端末は、Android 4.3以降の携帯端末なら他社製のものとも組み合わせられる。
まずは外観。ある程度の大きさの画面や、基板のスペースなどを確保するためであろう、盤面はやや大きいが、見た目はデジタル腕時計そのものだ。ケースはステンレス製で、縁の部分や裏面はシルバーで、横の部分はローズゴールド。ベルトは革製となっており、やや大人しめとも言えるが高級感がある。どちらかと言うとスポーツ向けという雰囲気を持っている製品が多い中、ZenWatchはビジネスマンが普段使っても違和感がない。やや大きい点を除いて、男性でも女性にもフィットし、受け入れられやすいデザインだろう。バンドは交換可能で22mm幅のバンドと互換性があるので、好きなものに変えてもいい。
ケース部分の大きさは39.8×50.6×7.9~9.4mm(幅×奥行き×高さ)、重量は約50g(内約25gがバンド)。IP55の防水防塵に対応するので、水回りで使ったり、雨に降られたりしても大丈夫だ。
筆者はもう何年も腕時計をしていない。ASUSではこの約50gという重量について、「長時間の装着でも疲労感なし」としているが、今回、久しぶりに装着してみて、確かに疲れると言うことはなかった。ただ、筆者の姿勢だと、会社でキーボードを打つ際に、バンドの留め具が机にあたって違和感を感じた。と言っても、これは慣れで回避できそうだし、腕時計ならほぼ全てそうなるので、製品の問題ではない。
画面は1.63型320×320ドット表示対応のの有機EL。視野角は上下/左右とも178度あるので見やすいが、光沢があるので、外光の反射はそれなりにある。表面のガラスはスマートフォンでおなじみのGorilla Glass 3だが、横から見ると緩やかな曲面を描いているのが分かる。使い勝手を大きく左右する点ではないが、これも高級感の演出に一役買っていると感じる。ASUS自身も強調しているが、PCやスマートフォンも、昨今の同社製品はデザイン性に優れるものが多い。
画素密度は278ppi。いわゆるRetinaに迫る数値だが、画素は肉眼でも識別できる。テキストを表示させた場合、8文字×10行程度の日本語を表示できる。裸眼視力1.5の筆者の場合、難なく読めるし、周囲のスタッフに見せたところ、0.1程度の人でも読めるが、腕に付けるという性質上、顔からの距離は30cm程度になるので、老眼の人はもしかすると厳しいかもとのことだった。
この有機ELの下には、Snapdragon 400(1.2GHzクアッドコア)、メモリ512MB、ストレージ4GB、コンパス、加速度センサー、ジャイロセンサー、心拍数センサー、Bluetooth 4.0といったハードウェアを内蔵している。非常に興味深いのは、プロセッサがZenFone 5と全く同じという点だ。オーバースペックのように思えるが、他社の製品も同じか同等のプロセッサを搭載しており、コンパクト版とは言えAndroidを動かすのに、スマートフォンと同程度のプロセッサが必要なようだ。
そのためか、バッテリの容量自体が369mAhと少ないとは言え、駆動時間は1日以上と、時計としてみると短めになっている。実際、試してみたところ、8時間使って約3割減ったので、毎日の充電が必要だろう。スマートフォンも、そこそこ使うユーザーならほぼ毎日充電しているだろうし、ZenWatchの場合、ほぼ常時画面が表示されており、それで1日以上というのは、バッテリは持っている方とも言えるが、充電にあたっては付属の専用クレードルが必要であるため、別途用意しない限り、自宅以外では充電ができないこともあり、充電についてはスマートフォンよりも気を遣う必要がありそうだ。
もう1つ充電については、クレードルが机などに付くように置くようなデザインなのだが、バンドに切れ目がなく、常に輪っかになった状態なので、クレードルを本体にはめると平らに置くことができず据わりが悪い。一応バンドは、長さを固定するピンから外したり、バンド自体を本体から外せば、平らに置けるが、充電の度にそうするのはやや面倒。このあたりはもう一工夫欲しかった。
音声操作に対応する標準機能。多少の言い換えも許容
続いて基本機能を見てみよう。まずは初期設定方法から紹介する。ちなみに、冒頭でもお断わりしたが、検証中にもAndroid Wearアプリが更新され、機能が追加になるなどしており、製品版では画面や手順が異なっている可能性がある。なお、Android Wearはアプリを指す場合と端末を指す場合があるので、区別して記述する。
ZenWatchの電源を入れたら、スマートフォンのように、まず言語を選択。次にスマートフォンにAndroid Wearアプリをインストールするよう促されるので指示に従う。スマートフォンで、接続するデバイスとしてZenFoneを選択して、Bluetoothのペアリングを行なう。これで準備完了だ。
ちなみに、ZenFoneはスマートフォンと接続しなくても、時計のほか、タイマー、ストップウォッチ、アラーム、コンパスなどの機能を単体でも使える。しかし、言うまでもないが、スマートフォンと繋いでこそ真価を発揮する。
Android Wear端末の機能は、大きく分けて、端末上でのアプリの実行とスマートフォンのプッシュ通知受信の2つがある。時計の機能もアプリであり、前者に入る。通常、何もしていない時は、時計の画面が表示されている。盤面のデザインは標準で18種類あり、いくつかは歩数計やバッテリ残量などの表示/非表示を切り替えられる。Playストアには無償のものだけでも、無数の盤面が用意されているので、その日の洋服や、気分に合わせて変えるのもいいだろう。
時計を表示している間は、時計こそ表示されているが、表示は簡易化され、輝度は最低になっており、スマートフォンのスリープ(待ち受け)状態に近い。ここで、時計を見るように腕を顔に近づけると、センサーが検知してアクティブ状態になり、時計の色や輝度が変わり、対応盤面なら歩数計アイコンなども表示される。
この状態で、盤面をタップするか「オーケー、グーグル」と発声すると、音声検索待ち受けになる。検索と言っても、実行しても、Android Wear端末で表示できるのは、検索結果までで、そのページを実際に開くにはスマートフォンが必要となる。その意味では、音声による検索は、おまけに過ぎない。本領を発揮するのは、音声認識技術を使った、本体操作の場面だ。
Android Wear端末はタッチ操作ができるが、基本的に文字入力はタッチではできないので、音声で行なうことになる。日本人にとって、音声操作は人前ではためらわれるが、使いこなすと非常に便利だと分かる。音声操作に対応するコマンド(アプリ)は、「メモを入力」、「通知を設定」、「歩数計を表示」、「心拍数を表示」、「SMSを送信」、「メールを送信」、「予定リスト」、「ナビを開始」、「タイマー設定」、「ストップウォッチ」、「アラーム設定」、「音楽を再生」、「設定」といったものが用意されている。
このコマンドは、「歩数計」ではなく(こうすると歩数計で検索を行なってしまう)、「歩数計を表示」とその通り発声する必要があるが、SMSやメールなど一部のコマンドは、違う表現をしても認識される。例えば、SMSを送信の場合、や「ショートメールを送って」と言ってもいいし、「通知を設定は」、「~~をリマインドして」と言ってもよく、コマンドを暗唱できなくても、おおまかな口語調で通じるのだ。
メールを誰かに送りたいのなら、「高橋さんに、明日の予定は大丈夫です、とメール送信」と言ってもいいし、「明日の予定は大丈夫です、と高橋にメールを送って」と言ってもいい。この時、宛先となる人物は、スマートフォンの連絡先と照合しているようだ。メールを送った際は、話した内容は件名に記され、本文には自動的に「音声により送信」と書かれる。音声入力では、入力はできるが、手動変換はできないので、同音異義語が多い日本語だと、誤変換が起こる可能性はかなり高い。実際「明日検証する」と話したつもりが、「明日懸賞する」と入力されていた。音声を認識してから、自動変換が行なわれた後は、送信も自動的に行なわれる、キャンセルボタンをタップするとキャンセルできるが、猶予時間は数秒しかないので、誤字だらけのメールが相手に届く可能性も高く、「音声により送信」の文字は、多少なりとも免罪符になるようにとの配慮ではと思われる。
一番感心したのは「通知を設定」で、これはリマインダーを登録するものだが、コマンド通りの文法で話すなら「7時にジョギングに行くと通知を設定」となるが、「2時間後に洗濯物を取り込むことをリマインド」や、「家に着いたらゴミ出しをする取りマインドして」という言い方もできるのだ。
「通知」の代わりに「リマインド」という言葉を使えるだけでなく、「2時間後」という言い方や、「家に着いたら」という条件を指定できるのは面白い。「家に着いたら」や「職場に着いたら」という条件は、Googleマップに自宅や職場の住所を登録してある、あるいはGoogle Nowによって推定されている必要があると思われるが、「家に帰ったら、あれをしないと」ということは日常的にあるので、これはかなり便利だ。
また、「2時間後」という指定は「アラーム設定」にも使える。なお、このアラームはスマートフォンとは連動せず、音も鳴らず、バイブレーションが振動するだけだが、一定の時間だけ仮眠したい場合、ミーティングを思い出させて欲しい場合など、相対的な時間の指定は、いちいち分まで入力するより遙かに楽なので、重宝するだろう(バイブレーションだけで起きられるかは、別問題だが)。
音声操作はiOSのSiriやWindows PhoneのCortanaでも実装されており、Android Wearの専売特許ではないが、初めて使うと、未来がやってきたと感じるだろう。
なお、これらのコマンドの内、心拍数の測定など、(メモの入力を除く)文字入力を伴わないコマンドは、音声入力の待ち受け画面から、下にスワイプして表示される各コマンドのアイコンをタップして、タッチ操作でも実行できる。
通知
ここまでの機能は、Android Wear端末に対して主体的に操作を行なうもの。Android Wear端末がスマートフォンあるいはタブレットのコンパニオンとして役立つのは通知の同期だ。
Android端末はさまざまな通知を表示するが、このうちプッシュ通知されるものは、Android Wear端末にも同期される。具体的には、カレンダーのリマインダーや、Google Now、メールなどの受信などだ。一方、スクリーンショットの撮影は、スマートフォンで行なうと、通知が表示されるがプッシュではないので、Android Wear端末には同期されない。
通知がくると、Android Wear端末のバイブレーションが振動する。スマートフォンは移動中、鞄などに入れていることもあるだろうし、タブレットではバイブ機能がないものもあり、リアルタイムで通知に気付かないことがあるが、Android Wear端末は腕に付けているので、ほぼ100%通知に気付く。特に仕事をしている場合、うまくミーティングのリマインダーを15分前とかに設定しておけば、時間を忘れて作業していても、思い出させてくれるので重宝する。
通知を受信して、ZenWatchを顔に近づける、あるいは画面をタップすると、アクティブ画面になり、画面の下にアプリのアイコンや件名などが表示されるので、上にスワイプすると、通知が1画面のカード状に表示される。複数の通知がある場合は、さらに上にスワイプすると、スクロールして次の通知に切り替わる。
ここからの挙動はアプリや、通知の未読件数などによって若干異なるが、例としてGmailでメールを受信した場合、カードをタップすると、上下にスクロールできるようになるので、長文でも全文を読むことができる。また、一部のアプリは左にスワイプすると追加のアクションを取れるようになっており、Gmailだと、アーカイブする、返信する、端末(スマートフォン・タブレット)で開くという行動を取れる。逆に右にスワイプすると、通知を削除する。削除すると、スマートフォン側の通知も消える。
通知が同期されると、ほぼ同じタイミングでスマートフォンとAndroid Wear端末が振動するので、スマートフォンをポケットに入れている場合はやや鬱陶しくもあるが、その場合は、Android Wearアプリの設定で「接続している携帯端末をミュート」させると、時計に接続している間、携帯端末上の通知がミュートされる。また、時計側では任意のアプリの通知をブロックすることもできるようになっている。
LINEやFacebook Messengerのようなメッセージングアプリの場合、通知には最後に受信したメッセージのみが表示され、Android Wear端末で履歴は見られない。ただし、Android Wear端末単体でも、左にスワイプして、返信をタップすると、音声入力で返信できる。人前では時計に話しかけるのはためらわれるが、車を運転している時などは、簡単な要件なら手を使わずに返信できるのは非常に便利だろう。
ここまで、ハードウェアと基本機能について見てきた。後編では、各アプリの詳細を紹介し、より詳細な機能について見ていくことにする。