レビュー
ASUSのSIMロックフリーLTEスマートフォン「ZenFone 5」
~格安SIM利用の決定打となるか
(2014/10/28 15:00)
ASUSから、SIMロックフリーでLTEに対応した5型スマートフォン「ZenFone 5」が発表となった。価格は税別で26,800円だ。今回、発売前に実際の製品を入手したので、約1週間の試用レポートをお届けしたい。
なお、試用した製品は製品発売前のモデルであるため、ユーザーが実際の手にする時とは異なる可能性がある。実際、入手後も頻繁にアップデートが行なわれていた。この点予めご了承頂きたい。
低価格に見合わぬ高い質感
それではまずパッケージから見ていくことにしよう。今回入手したのはレッドの16GBモデル(A500KL-RD16)。レッドは今回のプロモーションカラーでもある。先立って海外などで発売されているが、最も人気あるのがレッドのようで、海外でも品薄であるほどだ。レッド以外には、ブラック、ホワイト、ゴールドの3色が用意されている。
パッケージは引き出し式。側面の搭載機能のアイコンの部分は、外箱の部分がくり抜かれていて、内箱にアイコンを印刷するなど、ビジュアルに関してはかなりのこだわりがある。パッケージは製品を手にして一番先に目にするものなので、ここで好印象なのはブランドイメージを引き上げる効果があると言えるだろう。
内容物は本体のほかに、マニュアル、ヘッドセット、ACアダプタ、そしてUSBケーブルと至ってシンプルである。ACアダプタはUSBコネクタの形状をしているが、出力は5.2V/1.35Aと、電圧がUSB規定値よりやや高めだ。本体の方は一般的なUSBコネクタやPCのUSBからの電源供給で充電可能だが、このACアダプタをほかの製品で利用する際は注意したほうがいいだろう。
付属するヘッドセットはインナーイヤータイプで、受話ボタンを備えている。筐体はツヤがあり、質感は十分に高い。接続は一般的な3.5mmミニジャック。気になる音質だが、中域~低音重視な印象で、特に低音はパワフルだが、高音は物足りなく、もう少し刺激があってもいいのではと思える。音の分離についてはそれほど悪くなく、音場も広い。遮音性もそこそこで、“付属品”としては十分な品質だろう。
続いて本体を見ていこう。表面はCorningのゴリラガラス3を採用しており、表面の硬さはよく見かける安価なAndroid機とは一線を画す。光沢があり映り込みはするが、画面が映れば気になるほどではないというのは正直な印象だ。液晶画面との距離も短く、フラットな印象を受ける。
画面の下部には、タッチセンサーながら(左から順に)戻る/ホーム/タスク切り替えボタンを装備。Android 4.0以降は画面にボタンを表示する機種も少なくないが、画面外表示の方が画面を広く使えるという意味ではありがたい。
ただし、コストダウンのためか、このボタンにバックライトLEDなどは搭載されておらず、街灯が少ない路頭や照明を落として寝る時などには、完全に見えなくなる。ボタンの位置は覚えやすいから大した問題にはならないだろうが、見えないボタンを押すのに不安を覚えるのは変わらない。LEDが難しいのであれば、蓄光塗料でアイコン表記すべきだろう。
背面のカバーはプラスチックだが、アルミにアルマイト加工を施したかのような、鮮やかの赤で塗装されている。触らなければこれがプラスチックだと気付くことはないだろう。指紋も目立ちにくく、美しい筐体のまま永く持ち歩ける。
ASUSのプレミアブランドとしての「Zen(禅)」コンセプトは、画面の下金属の部分と、右の電源ボタン/音量ボタンの部分に現れており、細かい同心円のパターンが掘られている。光の当たり具合次第では光が扇状に広がり美しく映える。
背面カバーは爪によるはめ込み方式となっており、内部にアクセスするためには、本体左下の隙間に爪などを入れて力ずくで開ける感じだ。ボタンやコネクタの穴もカバー側についており、USBケーブルやヘッドフォンを装着したままカバーを開けることはできない。ただし本製品はバッテリが交換不能なタイプとなっており、内部にアクセスするのはMicro SIMスロットとmicroSDカードスロットを利用する時のみのため、特に問題はないだろう。
全体的な外観の仕上がりとしては、2万円台のスマートフォンとは思えず、いわゆる格安スマートフォンとは一線を画す完成度である。この価格でこの品質のSIMロックフリースマートフォンが入手できるようになるとは、実に良い時代である。
必要十分な性能
続いて性能面や使い勝手について見ていこう。SoCにはQualcommのSnapdragon 400(MSM8926)を搭載。1.2GHz駆動のCortex-A7コアを4基搭載するほか、GPUにAdreno 305を内包する。メモリはLPDDR3で、容量は2GB。内蔵ストレージは16GBまたは32GBだ。
Cortex-A7は、実装面積が小さく性能もそこそこ高いため、最近のミドルレンジ以下のスマートフォンで特に採用例が多い。駆動周波数は300MHz~1.2GHzと低めだが、4コア内蔵しているので、マルチコアに対応していれば必要十分な性能を得られる。
容量2GBのメモリは低価格モデルとしては十分な容量だ。現時点ではAndroidが64bitに対応しておらず、ハイエンドモデルでも3GB程度なので、問題ないだろう。内蔵ストレージも16GBモデルでも10GB以上は開いているし、microSDカードによる拡張も可能なので、困ることはまずないだろう。
今回参考としてAnTuTu Benchmark v5.1.5の結果と、3DMarkの結果を掲載する。いずれのスコアも今となってはエントリークラスの域を出ず、6万円以上のハイエンドスマートフォンと比較しようがないのだが、実際の操作感は2年前のSnapdragon S2搭載機と比較すると比較にならないぐらいスムーズであり、現代のハイエンドモデルに勝るとも劣らない。当時のスマートフォンを未だに使っていて、バッテリの持ちや動作のもっさり感に不満を持っているのなら、本機は良き乗り換え先になるだろう。
ディスプレイにはIPSパネルで1,280×720ドット表示に対応した5型ワイド液晶が採用されている。上下/左右ともに視野角は申し分なく、チラツキやドットの粗さとも無縁で美しい。近年はスマートフォンのディスプレイの高解像度化が進んでいるのだが、このクラスが画面サイズやコストとちょうどいいバランスだ。
タッチは軽快で、指すべりが良く誤動作も少ない。後述するが、オプションで「手袋モード」をオンにすると、特別スマートフォンのために作られた手袋でなくとも反応するようになる。これからの季節には嬉しい機能だ。この機能は、強度が高いゴリラガラス3の採用によって、ガラス自体が薄型化し、タッチセンサーの性能が向上したため実現できたのだという。
ただ、普段iPhone 5sを使い慣れた筆者からすると、最も明るく設定した状態ではiPhoneより暗く、最も暗く設定した状態でもiPhoneより明るい、つまり明るさの調節範囲が狭いのが気になった。自動光量調節をオンにして自動設定される輝度を最大にしても、特に、電車内では「もう少し明るくてもいいんじゃないかな」、暗い部屋では「もう少し暗いほうがいいな」と思うようなシーンが多い。“慣れ”と言われればそれまでだが、筆者がこれまで使ってきたAndroid端末はここまで暗くなかったので、気になった点ではある。
カメラは背面が800万画素、内側が200万画素。特に採用センサーや大きさは謳われていない。気になる画質だが、パッと数枚撮影してみたところ、解像感は高くシャープな像が得られる一方で、ダイナミックレンジが狭く、暗いところではノイズや偽色も多い印象だ。ソフトウェアによる処理の改善で可能なレベルではあると思うので、今後のアップデートに期待したい。
一方機能は多彩で、特にGIFアニメーションを撮影するというマニアックな機能もある。後述する「Story」と合わせて、カメラでいろいろ楽しめそうだ。
スピーカーの出力については音量/音圧ともにオマケ程度で、着信音を鳴らすのであれば十分だが、音楽を楽しむのには物足りない。別途Bluetoothスピーカーなどを用意したほうが良いだろう。ヘッドフォンの出力については、筆者が長年使っているEtimotic Researchの「ER-4S」で聞くと、高音~中域、低音については申し分ないが、なぜか中低域だけ抑えられている印象だ。音もやや乾いており、iPhone 5sと比較すると温かみがない。加えて解像感も少し物足りない印象を受ける。
本機にはオーディオイコライザーアプリ「Audio Wizard」が用意されており、用途に合わせて6つの音のプリセットが用意されている。デフォルトでは「音楽」となっているが、これは低域と高域がそれぞれ上下に少し伸びる印象。一方「省電力」がおそらく何も処理を加えない“素”の音だと思うのだが、いずれに設定しても、中低域だけはパワーが足りない印象だった。
ディスプレイの明るさやカメラ、音声出力など、細かいところを気にするとキリはないのだが、製品価格からして致し方ない部分でもある。しかしこれが3万円を切るハードウェアだということを考えれば、不満に思うところはまずないと言っていい。
通信やGPSの精度、電池の持ちに満足
せっかくのSIMロックフリースマートフォンなので、IIJmio(NTTドコモ回線を利用したMVNO)のミニマムスタートプランで契約している格安のSIMを挿して、この1週間実際に持ち運んでスマートフォンとして利用した。
キャリア向けの端末ではそのキャリア向けのAPNしか用意されていないため、自らセットアップしなければならないことも多々あるのだが、本製品はIIJmioのAPNが予めプリセットされており、SIMを挿すだけで利用できた。加えてIIJmioのみならずBIGLOBE LTEやb-mobile、So-net LTE、楽天ブロードバンドなどのAPNもプリセットされており、MVNOキャリア向けに出荷されることを見越してセットアップされていることが分かる。日本向のローカライズの度合いはかなり高いと言えるだろう。
他機種の場合、SMS非対応SIMを利用した時にアンテナピクトが立たず、場合によってはバッテリを異常消耗してしまうことがあるのだが、本機に関して言えばSMS非対応SIMでもアンテナピクトが表示され、バッテリの持ちも特に影響はないようである。
Speedtest.netの通信速度測定アプリで計測すると、筆者が通勤で利用する新小岩~市ヶ谷間は概ね上り/下りともに5Mbps程度。本機の対応通信最大速度は謳われていないのだが、混雑した都心のNTTドコモの回線の状況から察するにこの程度が妥当だろう。
通信に関しては特に不満なく、どのホームページも快適に閲覧できる。加えてjazzradio.comのような常時ストリーミングを流すようなアプリでも途切れることなく快適に使える。以前の機種では同じSIMや通信環境でも途切れることが多かったので、アンテナの感度や通信アルゴリズムはその時代から進化しているということだろう。
マップやYahoo! カーナビ、Ingressなども使ってみたのだが、GPSの反応や衛星信号を掴むまでの早さ、精度は良い。筆者はこれまでAndroid端末のGPSにあまり好印象を持てなかったのだが、この端末ではその考えを改めなければならないようだ。
バッテリの駆動時間も良好で、通勤中や昼休みなどにWebブラウジングからソーシャルネットワークのチェック、3Dゲームまで結構な頻度で使っていたのだが、約1日半は充電しなくても良い感じだった。バッテリの消費を見ると、3Dゲームよりも通信系のほうが電力を消費する傾向にあり、ほぼSoC全体の特性と一致すると言えるだろう。
豊富に用意された独自のソフトウェア
ハードウェア面を主に見てきたのだが、最後にソフトウェア面を見ていくことにする。本製品は同社のほかの“Zen”シリーズのAndroid端末と同様、独自の「Zen UI」が採用されており、ランチャーや通知バーのプルダウンメニュー、アプリのアイコンなどは標準とは異なる。ただ操作性としては一般的なAndroid端末と大差がなく、ほかの端末から乗り換えた場合でも違和感なく操作できる。
プリインストールアプリは多め。USBケーブルでPCと接続してPC上に専用アプリをインストールすることでPC上から本機を操作できる「PC Link」、本機をBluetooth接続のタッチパッドやプレゼンターとして利用できる「Remote Link」、パーティーに集まった人たちとグループを作ってWi-Fi経由で写真などをすぐ共有できる「Party Link」、デバイス間でのファイルの送受信を容易にする「Share Link」などツール群が豊富だ。
これらはいずれも他機種では使えない可能性がある上、将来に渡ってエコシステムが生まれるとも思えない……もとより、そもそも使う必要性があまりないため、正直なところあまり積極的に使う気になれないのが残念だが、ハードウェアを活せるASUSをアピールする意味での“技術デモ”としては面白い。
ただ、手書きノートアプリ「SuperNote」、複数の写真を1枚の画像にまとめる「Story」、天気とGoogleカレンダーなどに登録したスケジュール、特定の連絡先からの不在着信などを1つにまとめて、ガジェットやロック画面でも表示できる「What's Next」など、実用性の高いツールも収録されている。
個人的に気に入ったのは「Splendid」で、これは画面の色温度や色拡張、色相や彩度を自由に変更できるツールだ。新しい端末を購入してみたら、元々使っていた機種より「なんとなく黄色っぽい」、「なんとなく青っぽい」というのは多いと思うし、パネルの個体差やロットによる色の傾向の違いはあるので、こういった違和感を簡単に補正できるのは良い。
日本語入力としてATOKがプリインストールされているのも見逃せないポイントだと言えるだろう。ただ文節の切り替えが切りたいところのタップでできなかったり、Shiftキーを押しながら入力した英字以降をそのまま英字と入力を確定する機能がないなど、PCの一般的なIMEやiPhoneのIMEを使い慣れたユーザーからするとやや違和感があるのは確かである。正直、無理にほかのOSに合わせる必要はないのだが、互換性を持たせてユーザーの移行をしやすくする意味でも、今後の機能改善に期待したいところだ。
余談だが、筆者はiPhoneのような小さい画面でのスクリーンキーボードでの入力に慣れてしまったためか、ATOKのキーボードが大きく感じられ、ミスタイプが頻発した。こういった場合ATOKなら、上のバーをドラッグするだけで左右のマージンや上下の高さを変更して、サイズを自由に設定できるのでありがたい。これならフリック入力において右手だけで操作するといった場合でも、親指が届く範囲内に収めることができる。
ソフトウェア面で気になった点は、同様の機能があるアプリが複数個プリインストールされていることだ。例えばAndroid標準の「Playミュージック」と「音楽」。前者は本来購入済みの音楽をほかのデバイスでも聴けるようにするアプリなのだが、現時点では日本向けに提供されていない機能なので、ユーザーからすれば紛らわしいだけである。「Gmail」と「メール」も同じで、メールにはGmailのアカウントを追加できるが、するとGmailとメール両方のアプリにメールが届くことになる。Gmailアカウントをメールに追加しなければ良いが、管理も煩雑になるだけだ。「ブラウザ」と「Chrome」も然りである。どちらか無効にすれば良いのだが、Windowsみたいに「デフォルトで開くアプリケーション」という概念を取り入れて貰いたいところである。
SIMロックフリー機の決定打になるか
やや辛口のレビューとなったが、細かい点に目を瞑れば、3万円を切るSIMロックフリーのスマートフォンとしては十二分に満足が行く仕上がりである。この1週間普段使っているiPhone 5sと同時に持ち歩いて使ったが、iPhoneの方を使う回数の方が減るほど快適である。
唯一、画面の明るさに関してはやはり後一歩頑張って欲しかったところだが、それは次期モデルに期待するとしよう。本機は3万円を切るSIMロックフリーのスマートフォンとしての完成度は非常に高く、ブームとなっている格安SIMと組み合わせてることでさらに魅力が高まる。「Nexus 7(2012)」のような、日本におけるAndroid端末のシェアを高める決定打で、SIMロックフリーを推める重要な一歩となりそうだ。