レビュー

MSIの究極のオーバークロック向けマザー「X99S XPOWER AC」

~多機能を求める上級者から殻割りするヘビーOCerまで応える1枚

X99S XPOWER AC

 MSIからオーバークロック向けのマザーボード「X99S XPOWER AC」が発売された。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は5万円前後だ。今回、メディア向けサンプルを入手できたので、試用レポートをお届けしよう。

 同社のオーバークロック向けマザーは、低価格だがオーバークロック向けが充実した「MPOWER」と、高価だがその分非常に多機能で、オーバークロック耐性が非常に高い「XPOWER」の2シリーズで展開されている。今回レビューするX99S XPOWER ACは後者で、非常に豊富な機能と、他社にはないユニークな付属品などが特徴だ。

非常に豪華なパッケージ内容。限界にチャレンジする

 まずはパッケージから見ていこう。シングルプロセッサ対応のマザーボードでありながら5万円することもあり、パッケージは非常に豪華だ。パッケージ本体は黒をベースに金色の「X」が大きくあしらわれており、手にした瞬間から最上位を手にしたという満足感が得られる。

製品パッケージ
パッケージは見開きで、本体が見えるほか、特徴説明となっている

 同梱物は非常に多い。順に追って紹介していこう。まずはマニュアル類だが、クイックインストレーションガイド、ユーザーズガイド、ソフトウェア/アプリケーション解説に加え、今回はIntel X99プラットフォームに特化したオーバークロッキングガイドが付属。表記は英語だが、このクラスを手にする上級ユーザーであれば苦労せずに読める内容だ。Haswell-Eの電圧ドメインの解説や、容易に到達できそうなクロックの設定方法など一通り解説されており、Haswell-Eを初めて扱うユーザーの参考になる。

 続いてはストレージ関連のケーブル類だが、ストレートのSATAケーブルが3本、片方がL字型となったSATAケーブルが3本付属するほか、拡張スロットからSATAと電源を引き出して、eSATA経由で外からバルクのHDDやSSDが接続できるブラケット/eSATA→SATAケーブル/電源ケーブルが付属する。基本はバラック状態で使うマザーボードではあるが、ケースに組み入れてオーバークロックするハイエンドユーザーにも便利な付属品となっている。

 本製品は最大4基のビデオカードで3way/4way-SLIなどの構成が可能で、NVIDIA SLI用のケーブルが4本付属している。長短異なるケーブルが2本ずつ添付されており、ユーザー好みのスロットでSLIが構築できるようになっている。なお、CrossFireX用ケーブルは付属しないが、これはRadeon R9 290Xなどではケーブルが不要になったためと思われる。

 付属するバックパネルはバリが少ないスムーズなもので質感は良く、背面はブラックのシールが貼られ、黄色でアイコンなどを印字し、本体のイメージカラーと一致するものとなっている。また、電源スイッチやLEDのケーブルをまとめて抜き差しできる「Mコネクタ」や、無線LANのアンテナが2本付属している。

 オマケとして、「液体窒素を買いに出かけてます」といったジョーク交じりのドアノブに引っ掛けるプレート、好きな場所に貼れるロゴプレート、そしてUSBメモリが付属している。

 この中でもっとも評価したいのはこのUSBメモリだ。Team製のUSB 3.0接続/8GBモデルで、リードが比較的高速な上に、DVDにも収録されているドライバとユーティリティ群をすべて収録している。つまり、光学ドライブやネットワーク環境がないPCでも、ドライバとユーティリティのインストールが可能になるわけだ。これは他社にも見習って欲しいところである。

付属のマニュアルやドライバ/ユーティリティのDVDなど
Haswell-E向けのオーバークロックガイドが付属する
SATAケーブルは6本。eSATAブラケットや電源ケーブルが付属する
eSATAは2系統だが、付属するeSATAケーブルは1本のみとなっている
SLIケーブルは長短異なるものが2本ずつ、合計4本付属する
バックパネルの質感は良い
無線LANアンテナ
Mコネクタ
ドアプレートやシール式のロゴプレート、ドライバやユーティリティを収録したUSB 3.0メモリも付属する

 さて、オーバークロックをウリとしている製品だが、それに応じた付属品もある。XPOWERシリーズにはテスターで電圧をチェックできる「V-チェックポイント」を備えているが、この端子の間隔は比較的狭く、複数のテスターを接続する時にペン先が干渉する。そこで、引き出して接続できるケーブルが6本付属し、干渉を避ける仕組みが用意されている。

 もう1つ注目したいのは、ファンを自由な場所に固定できる「OC Fan Stand」。液体窒素やドライアイスでオーバークロックする際に天敵となるのは結露だ。冷却ポッドに注がれた液体窒素は、CPUの熱で沸騰して気体となるが、温度が低いため空気中に放たれた瞬間、空気中の水分が凝固し、それがマザーボードの結露の原因となって、ショートなどの思わぬトラブルを引き起こす。そこでCPUの冷却ポッドをタオルなどで養生するとともに、冷たい気体が降りないようファンで強制的に上昇気流を作って逃がす手法が一般的だ。OC Fan Standを使えば、マザーボードの固定穴にファンを固定できるため、設置に困ることがなくなる。

 そして、XPOWER“だけ”の特典として、ヒートスプレッダを外した状態=いわゆる殻割りした状態でも、CPUの固定とクーラー圧着からの保護を可能とし、冷却装置とCPUのダイが直接触れる状態を作り出せる「殻割りダイ・ガード」と、専用のバックプレートが付属する。

 ご存知のように、Haswell-Eはメインストリーム向けのHaswellなどとは異なり、CPUのヒートスプレッダとダイの接合に、グリスではなくソルダリング(ハンダ付け)を採用している。グリスを採用しているHaswellと比較して熱伝導性が良く、本来殻割りを必要とせずとも十分な冷却が可能なはずだが、MSIのエンジニアはそもそもヒートスプレッダの存在が熱伝導のボトルネックだと考えているようだ。

 Haswellの殻割りは、表面実装部品に注意すれば歯が薄いカッターやカミソリ1つでできるが、Haswell-EのようにヒートスプレッダがソルダリングされたCPUの殻割りは、ヒートガンで暖めてから熱いうちに剥がすといった、上級者向けの工具やスキルが要求される。本製品の殻割りダイ・ガードには、ご丁寧にも殻割りの方法が図解で解説されたガイドが付属しているが、失敗すれば十数万円のCPUが無駄になるので、一般ユーザーは手が出しにくい。

 かなりリスクが高いとは言え、殻割りダイ・ガードを利用するオーバークロッカーにとってみれば、これぐらいのチャレンジがなければ世界記録を目指せない。オーバークロッカーとしての成功の裏には、こうしたチャレンジは欠かせないのだ。なお、当然のことながら殻割りしたCPUの利用はインテルおよびMSIの保証外となる。

V-チェックポイント用の延長ケーブル
OC Fan Standにより、マザーボード固定穴にファンを設置できる
殻割りダイ・ガード用のバックプレート
バックプレートはLOTES製だ
「Haswell-Eはグリスではないか」という噂も流れる原因となった殻割りダイ・ガード

豊富なインターフェイスと機能。PCI Expressのレーンには要注意

 続いて本体を見ていこう。これまでのMPOWER/XPOWERシリーズと同様に、本製品も黒を基調とし、黄色をアクセントとしたLEDやヒートシンクのデザインを採用している。MSIによれば、黄色はチャレンジといった意味が込められており、それがシリーズ一環のアクセントイメージカラーとなったようだ。

 CPUソケットはLGA2011-v3で、メモリスロットはDDR4が8本と、特に変わった構成ではない。PCI Expressスロットはx16形状が5本、x1形状が1本。ただしx1形状はエッジフリーとなっており、x16のビデオカードも装着できるようになっている。これはオーバークロッカーからの要望だそうで、CPUから出ている高性能なPCI Express 3.0 x16を敢えて使わず、X99チップセットから出ているPCI Express 2.0を使うことでCPUへの負荷を減らし、より高いCPUクロックを目指せるという。

 なお、下位のCore i7-5820Kを除き、上位2モデルは40レーンのPCI Expressを内包しているが(5820Kは28レーン)、この2モデルにおいて複数のビデオカードを利用する時にどのスロットに挿せば良いかはスロット付近にシルク印刷がされており、一目瞭然となっている。また、ビデオカードを接続するスロット(3基目を除く)に関しては、ディップスイッチで有効/無効を切り替えられ、ビデオカードにまつわるトラブルの原因を容易に判断/回避できるようになっている。

X99S XPOWER AC本体
拡張スロットは合計6基備えている
40レーンのCPU利用時のマルチビデオカード構成用のスロットもシルク印刷で表記されている
PCI Express x1スロットはエッジフリーで、ビデオカードを装着可能
X99のヒートシンク。黄色がアクセントとなっている
LEDを内蔵しており、電源投入時はXPOWERのロゴが黄色に光る。一方、ヒートパイプは飾りだ
VRMに装着されるヒートシンクも黄色がアクセント
こちらのヒートパイプは放熱面積を高める意味がある
DrMOS4全体と密着しており、放熱効果は高いそうだ

 SATAポートは6Gbps対応が10ポートとなっている。うち2ポートはSATA Expressと共用となっている。SATA ExpressはSATAプロトコルに加え、PCI Express 2.0 x2プロトコルでの利用も可能だ。SATA Expressを含む8ポートはボードに対して水平に出ており、2ポートは垂直に出ている。

 ややこしいのはM.2スロットである。マニュアルにも掲載されているPCI Expressバンド幅の表を転載する形となるが、40レーンの上位CPUと28レーンの下位CPUで挙動が異なる上、挿すビデオカードの枚数によっても構成が変わる。同じPCI Express接続でも、場合によってはCPUの3.0 x4とX99の2.0 x2で切り替わるので、注意されたい。

【表】PCI Expressバス幅の変化
1-way2-way3-way4-way
CPUタイプ40レーン28レーン40レーン28レーン40レーン28レーン40レーン28レーン
PCI_E13.0 x163.0 x163.0 x163.0 x163.0 x163.0 x83.0 x83.0 x8
PCI_E2-----3.0 x83.0 x83.0 x8
PCI_E3--------
PCI_E4--3.0 x163.0 x83.0 x163.0 x83.0 x163.0 x8
PCI_E6----3.0 x8-3.0 x83.0 x4
M.23.0 x43.0 x43.0 x43.0 x42.0 x2-3.0 x42.0 x2-2.0 x2-
SATA Express2.0 x22.0 x22.0 x22.0 x2-2.0 x22.0 x2-2.0 x2-2.0 x2

 USB 3.0は、X99提供によるものが6基。ASMedia「ASM1042AE」によって2基となり、Hubコントローラ「ASM1074」によってさらに4基ずつに分岐、合計14基の構成となっている。なお、マニュアルのブロックダイアグラムでは、ASM1074がX99のPCI Express直結となっているが、ASMediaのサイトにもある通り純粋なHubコントローラであるため、このブロックダイアグラムは誤記だろう。

SATAは水平タイプが8ポート。うち2ポートはSATA Express兼用だ
水平にもSATAポートを2基装備。この付近には垂直なUSB 2.0ポートや、前面パネル用のUSB 3.0ピンヘッダ(電源オフ時充電機能付き)も備えられている
背面のインターフェイス。USB 3.0が10基、USB 2.0が2基、Gigabit Ethernetが2基。また、無線LANアンテナ、音声入出力、PS/2、そしてCMOSクリアボタンを備えている

 ネットワーク関連は、X99内蔵の論理層を使い物理層にIntel「I218-V」を採用したGigabit Ethernetが1基、論理層/物理層を両方内包したIntel「I210-AT」によるGigabit Ethernetが1基、そしてM.2接続のIntel「7260NGW」によるIEEE 802.11ac対応無線LAN+Bluetooth 4.0を備えている。つまりすべてIntel製であり、この辺りは信頼性重視の構成と言える。

 オーディオコーデックはお馴染みのRealtek「ALC1150」による出力。アナログ回路をほかの信号線と独立させ、コーデックチップをシールドする「Audio Boost」技術を用いるなど、音質向上が図られている。なお、前面パネルのヘッドフォン出力向けにはオペアンプが採用されているが、背面パネル出力はオーソドックスな作りである。

 機能面では、5万円のマザーボードとしては満足行くものであり、価格に見合うだけの実装はされていると言えるだろう。

Pricom Semiconductor製のPCI Expressマルチプレクサ「P13PCIE 3415ZHE」を搭載し、レーンを切り替える
NGFFインターフェイスレシーバ「ASM1467」。SATA Express用だろう
ASMedia製USB 3.0コントローラ「ASM1042AE」。PCI Express x2接続で、USB 3.0ポートを2基出力できる
こちらはUSB 3.0 Hubとなる「ASM1074」。2基備えており、ASM1042AEを2ポートを4ポートずつに分岐する(計8ポート)
ASMediaのUSB 3.0リピータ「ASM1464」。本機は背面パネル付近にUSB 3.0コントローラの実装が集中しており、基板の中を長い配線が通って前面パネルで出力しているため不可欠だ
Intel I210-ATによるGigabit Ethernet
こちらは物理層のみの「I218-V」
無線LANとBluetoothはIntelの7260NGWを採用。独自コネクタでバックパネルに実装している
オーディオ回路はALC1150を中心としたオーソドックスな構成

オーバークロックに特化したパーツ

 続いて、オーバークロックをする際の要となる部品を順次見ていくことにしよう。本製品は独自の「OCサーティファイド」基準を満たした設計を採用しているが、これはCPUをオーバークロックした状態で、Prime95を24時間稼働させた、いわゆるバーンインテストをクリアしたものだけが出荷されている。このため部品1つ1つの選定にこだわって設計されている。

 まずはPCB(基板)だが、8層というマザーボードとしてはほぼ最多となるものを採用。これにより高い効率とノイズ低減を実現。さらに従来より細かい編み目のグラス層を採用し、耐湿性と静電耐性を高めたという。

ヒートシンクをすべて取り払ったところ。黄色のアクセントがなくなり、シックな印象
Intel X99チップセット
本体背面
8層PCB基板の証

 続いては電源回路。「DigitALL Power」と名付けられたCPU周りの電源回路は、Intersilの6フェーズPWMコントローラ「ISL6388」を中心に、1フェーズをさらに2つに分岐させた12フェーズ構成を採用。このISL6388は“最小の”6フェーズ電源コントローラと謳われており、IntelのVR12.5/VR12規格に準拠。1.5MHzのSVIDバスに対応しており、CPUの電圧要求に非常に高速に応答できるのが特徴だ。

 スイッチング回路には「DrMOS4」が採用されている。MSIはこれまで同社とルネサス/Intelと共同開発した製品が用いられていたが、X99 XPOWER ACではFairchild製の「FDMF5823DC」に置き換わった。1フェーズあたり55Aという大電流に対応でき、対応動作温度範囲も-40℃~125℃と非常に広い。仮にCPUの入力電圧を2.4Vに設定し、12フェーズすべてに55Aの電流が流れた場合、実に1,584Wもの電力をCPUに供給することになる。正直液体窒素でも冷やせる気がしないのだが、これならオーバークロック用途においても十分だろう。

 DrMOS4は高密度でドライバとMOSFETを統合しているため、分離した一般的なタイプと比較するとピンピッチが細かい。極冷時にヒートシンクを外すのが面倒だからと言ってDrMOS4を養生しないと、結露によってショートして引火する危険性があるため、注意されたい。

 このほか、CPU周りにはタンタルコンデンサ“Hi-C CAP”、高耐久でコイル鳴きしないという「SFC(スーパーフェライトチョーク)」、PCBの色と一体感を高めた固体コンデンサ「ダークCAP」などを採用する。

CPUソケット周辺
12フェーズのPWM電源回路
Intersilの6フェーズPWMコントローラ「ISL6388」。非常にコンパクトだ
Fairchild製のDrMOS「FDMF5823DC」
CPU付近にはタンタルコンデンサを採用し、耐久性と高レスポンスを実現
IDTのPCI Expressクロックジェネレータ「9DBV0831」
オーバークロック時に操作するボタンは1カ所にまとまっており、戸惑うことなく操作できる

 続いてはオーバークロックをボタンなどで操作する部分をクローズアップしよう。本機はオーバークロックする際に必要なボタンを、メモリの手前/ATX24ピン付近にすべて集中させており、バラック状態で容易に操作できるようになっている。

 電源やリセットボタン、すべての設定をクリアするという「Discharge Button」を備えているほか、ベースクロックとCPU倍率を変更するボタンが用意されている。このうちベースクロック変更ボタンはディップスイッチにより、増減するクロックを1MHz単位か、0.1MHz単位かを切り替えられる。

 本製品はIDT製の「9DBV0831」PCI Expressクロックジェネレータを備えており、CPUのベースクロックとは独立してPCI Expressクロックを生成できるため、ビデオカードのベースクロック耐性に影響しないオーバークロックが可能になる。クロックの生成精度もZ97搭載モデルよりも高まったとしており、よりシビアなオーバークロックに対応できるようになったという。

 このほか、2つのBIOS ROMを切り替えるスイッチや、自動オーバークロック機能「OC Genie」のオン/オフスイッチ、OC Genieで設定されるクロックを2段階に切り替えるディップスイッチ、そしてWindows起動時にいったんクロックを落とし、起動後にBIOSで設定したクロックに戻す「Slow Mode Booting Switch」を備えている。

 ちなみにCore i7-5820KでOC Genieを利用した結果だが、標準設定では最大クロックが少し控えめの3.8GHzに設定され、DDR4-2133で駆動していたメモリが自動的にXMPのDDR4-2400動作となった。マニュアルによると、2段階目は水冷クーラーを必要としているため今回は試せなかったが、おそらく4GHz超えを狙ってくるだろう。

 利便性を高める装備としては、垂直でマザーボードに挿せるUSBポート「Direct USB」や、背面パネルに備えられたCMOSクリアボタン、押すだけで起動してBIOS設定画面に入れる「GO2BIOS」ボタンなどを備えており、バラック状態で使うための装備が整っている。

あらゆる“設定したい”に応えるBIOS

 最後にソフトウェア面を見ていこう。まずはUEFI BIOSから。本製品もMSIお馴染みとなった「Click BIOS 4」が採用されているが、オーバークロック向け製品ということもあり、BIOSの設定項目はとにかく充実している。CPUやメモリのクロック、タイミング、電圧は当然のことながら、電源フェーズに関する温度や電流保護機能も細かく設定できるようになっており、超上級なオーバークロッカーの細かいニーズにも応えるようになっている。

 以前MSIのオーバークロック大会「MOA」に参加したことがあったのだが、筆者が見たところところここまで細かく切り詰めるオーバークロッカーはいなかった。大体自動値で最適な設定が得られるからだ。もしかしたら持参する時に最適値をセットしていたのかもしれないが、いずれにしてもニッチなニーズに応える項目が多い。

 画面構成などは従来とあまり変わりがないが、ベースクロックやCPU倍率などはプルダウンメニューではなく、テンキーなどによる直接入力でしか変更できない。正直それは「Click BIOS」と呼んでいいのか疑問が残るところだが、それはボード上のボタンやWindowsのユーティリティなどで変更できるので、基本的にはそちらで設定して下さい、ということだろう。

 従来と異なる点は、新たにDDR4のオーバークロック用プリセットが用意された点と、ファンの回転速度をBIOS上からグラフをドラッグすることで変更できるコントロール機能が付いた点だ。ちなみにDDR4メモリプリセットは今のところMicronとHynix用の2種類が用意されている。

非常に豊富で細かな設定が可能なBIOS。ただIntel VT-DやLimit CPUID Maximumなど、本来オーバークロック設定になくても(気にするユーザーはオフにするかもしれないが、本来はここではない)良い設定もある
Windows 8.1向けに起動を高速化する機能を備えている
グラフで直感的に操作できるファンコントロール
現在使用中のスロットやポートをグラフィカルに表示する「Board Explorer」
バックパネルで使用されているポートもポップアップで表示する
日本語も備えているが、完全ではない
こちらは機能の設定画面
OC Genieはオンボードボダンか、BIOS画面のボタンかを切り替えられる

 Windows用ソフトウェアとして、「Command Center」と「Eco Center」が用意されている。前者はオーバークロックの設定、後者は一部機能をオフにすることで省電力を図るユーティリティだ。いずれもグラフィカルで容易に理解して利用できる。

Command Center。従来と比較するとかなりグラフィカルとなり、ボタンも大きくなった
左右にスクロールして設定画面を切り替える。ここまで大きければタッチ画面でも操作できるだろう
Z97向けの内蔵グラフィックス設定が残されているのは、やや残念か
OC Genieに関する説明
USBやファンをオフにすることで省電力化を図るEco Center

上級者が求めるすべてに応える1枚

 というわけで、一通りX99S XPOWER ACを見てきたが、付属している豊富なアクセサリ、搭載されている多くの機能、実装された高性能な部品、豊富なBIOS設定やユーティリティなど、ヘビーなPC自作ユーザーとオーバークロッカーの要求に応えられるだけのものは装備されており、5万円という価格に見合う……いや、正直それ以上の価値を提供しているように思われる。このマザーを髄までレビューするのは筆者では手に余るほどだ。

 今回はCore i7-5820Kで構成したのだが、10万円超えのCore i7-5960Xを購入して利用したいユーザーからしてみれば、3万円台よりも、むしろこの価格帯のマザーボードの方が相応しいパートナーとなるだろう。オーバークロックした状態でPrime95を24時間連続稼働させたテストをクリアしている本製品は、オーバークロックで常用するユーザーにとって何よりの安心感となる。世界一速いPCを自作したいユーザーには是非手に取ってもらいたい1枚だ。

(劉 尭)