レビュー
ここが変わったAndroid 5.0。ゲストモードなどが追加
~本日配信開始のNVIDIA「SHIELD」用OTA2.0を試す
(2014/11/18 23:00)
米NVIDIAは18日(現地時間)、Androidタブレット「SHIELD」のOTA(On-The-Air)アップデート2.0(以降、OTA2.0)の配信を開始した。ユーザーには順次提供される。
OTA2.0については、13日(同)に11月後半からの提供を行なうことが表明されていたが、それからあまり間を開けずの公開となった。同社はNexusシリーズを除く初のAndroid 5.0の提供としている。これに対してLGが同社製品へのアップデートで先んじているようだが、いずれにせよかなり迅速な対応であることは間違いない。
最大の変更点としては、OSがLollipopことAndroid 5.0に更新される。これに伴い、性能の改善や新機能の追加などがなされている。一般配信開始に先立ち、OTA2.0を評価する機会を得たので、ここに紹介する。SHIELD特有の部分以外は、他機種のユーザーにも参考になるだろう。
なお、OTA2.0と併せて、SHIELDゲームコントローラのファームウェアアップデートもあったが、こちらの更新内容は不明だ。
かゆい所にまで手が届く通知機能
Android 5.0は、発売済みのNexus 9に標準搭載され、Nexus 7へのOTAも開始済みであることもあり、詳細はここでは割愛し、主立ったものを取り上げる。「マテリアルデザイン」と呼ばれる新しいデザインが適用されたことで、見栄えや挙動が変わっているが、中でも大きく変わったのは、通知周り、ゲストモード、SDカードへのアクセス権などだろう。
Android 4.xでは、画面上部の左側を下にスワイプすると通知が、右側を下にスワイプするとクイック設定がプルダウン表示された。これがAndroid 5.0では、どの部分でも上から下にスワイプすると、まず通知が表示され、その通知をさらに下にスワイプするとクイック設定が表示されるようになった。つまり、一度にクイック設定を出すことができなくなったわけだが、個人的には、Android 4.xだと通知を開くつもりがクイック設定が開いてやり直すことも少なくなかったので、この方式の方が失敗していらいらしないという点で性に合っている。ちなみに、一度でクイック設定を開きたい場合は、通知に表示されるタイプのクイック設定拡張アプリを別途インストールすればいい。
通知は機能面でも変更されている。まず、ロック画面にも通知を表示できるようになった。メッセージへの返信など、通知からアクションを取れるものであれば、そこから即座に返事を出したりできる(PINやパスワードロックをかけている場合は、そこで解除する必要がある)。もちろんオフにもできるし、プライベートな通知内容だったらロック画面には表示しないという設定もある。どのアプリの通知がプライベートなのかということはアプリごとに設定でき、任意のアプリからの設定を切ったり、優先度をつけることもできる。加えて、通知設定は通知のサウンドとも連動するようになり、音量ボタンを押した際に、表示するものを「なし」、「重要」、「すべて」へと変更できる。なしを選ぶと、アラームを含め無音になり、通知音が鳴らなくなる。
また、通知の割り込み設定というものもあり、「予定とリマインダー」、「メッセージ」の通知については、通知を割り込まして表示もさせられ、さらにメッセージでは、連絡先のみ、あるいはスター付き連絡先のみを割り込ませることも可能となっているので、多数の通知が溜まっていても、重要なものを見逃す可能性が減る。逆に、曜日と時間帯を指定して、例えば寝ている間は通知をオフにすることもできるなど、通知についてはかなり練り込まれており、設定の柔軟性も高い。
一時的に第三者に使わせるためのゲストモード
Android 4.xでは、マルチユーザー機能が追加され、1台のタブレットに複数のアカウントを登録することで、それぞれ自分専用の環境で同じマシンを共有できるようになった。この機能は、Android 5.0でも踏襲されているが、これとは別にゲストモードというのが追加された。
ゲストアカウントは標準で登録されており、クイックアクセスの右上のユーザーアイコンをタップすると、ゲストを選択できる。初めてゲストでログインすると、購入直後のまっさらの状態で開始される。いつでも、同様の方法で元のユーザーに戻れるし、再度ゲストでログインすると、前のセッションを続行するかどうかのダイアログが出るので、「次へ進む」をタップすると、前回の状態から進められる。
一方、「最初から再生」をタップすると、ゲストモードの内容は完全に初期化され、またまっさらの状態からログインできるようになる。つまり、通常のマルチユーザーが家族向けの機能とすると、ゲストモードは一時的に知人に利用させる友人向け機能と言えるだろう。あるいは、利用した痕跡を消せるという点で、ブラウザのプライベートモードにも似ている。ゲストモードでもGoogleアカウントにログインできるが、知人がちょっと検索したい、YouTubeで動画を観たいといった場合や、人前でなんらかのデモで使いたい場合などに好適な機能だろう。
アプリ
SHIELD独自のアプリである、ペイントアプリの「Dabbler」と、ゲーム関連のポータルアプリ「SHIELD Hub」は大きな変更が加わった。
Dabblerは、GPU支援に対応するペイントソフトで、2次元的なペイントを行なうが、内部的には3D処理されており、水彩している時にタブレットを傾けると、そちらに絵の具が垂れるという手の込んだものだ。
このアプリはバージョン2.0になり、UIをマテリアルデザインに刷新。今までは、絵の具のパレットなどがグラフィカルに表示されており、やや入門者向けな雰囲気があったが、新デザインは画面全体がキャンバスになったほか、新たにレイヤー機能がサポートされ、本格志向になった。また、ペイントしている画面を直接Twitchへと配信する機能も搭載した。
SHIELD Hubについては、NVIDIA独自のストリーミングゲームサービスである「GRIDクラウドゲーミング」に対応した。これまでも、SHIELDシリーズは、GeForce GTXシリーズが搭載されたPCにインストールしたゲームをストリーミングでプレイできたが、新たにクラウドからのストリーミングプレイができるようになった。
メニューの一番下にある「GRIDゲーム」を選択できるとプレイできる。GRIDクラウドゲーミングでは、高性能なサーバーでゲームが実行され、SHIELDにはその画面が動画として送られてくる。そして、ゲームコントローラなどで操作すると、その情報がクラウドに送られ、ゲームとインタラクションできるという具合だ。
筆者のアカウントはNVIDIAのテスターとして登録されているため、このGRIDゲームのメニューが表示されるが、年内のサービスエリアは欧米諸国であり、アジアは2015年以降となっている。このアジアに日本が含まれるのかも未定だが、こういった事情から、もしかすると日本のユーザーの場合は、メニューにこの「GRIDゲーム」自体が表示されない可能性もある。いずれにせよ、早い段階での日本への展開を希望したいところだ。
やや蛇足ではあるが、Dabbler 2.0とSHIELD Hubは、アプリ上で表示される漢字が中国語フォントになっている。この点は早急に改善して欲しい。システムが表示するフォントについては問題ない。
実はNVIDIAの資料にも記載されていないが、OTA2.0を適用すると、自動的にファイラーアプリの「ESファイルエクスプローラ」が標準アプリとしてプリインストールされる。無効にはできるが、アンインストールはできない。このアプリは、バックグラウンドでBaiduのサーバーと通信を行なっているということで、セキュリティ的に話題になった。結果的に特に問題があったわけではないようだが、後述するSDカードのアクセス権のことも含め、ユーザーによってはなぜこのアプリが入ったのか、気になるところだ。
性能
このほかの更新点として、性能の向上、より効率的なメモリの利用、充電器の互換性の改善、GPU機能の最適化、コンソールモード時の4K出力、USB Y字ケーブルを使った充電しながらのEthernetの利用などがある。
性能については、いくつかのベンチマークを利用してみたが、有意な向上は見受けられなかった。若干の違いはあるが、いずれもほぼ誤差の範囲だ。このあたり、アプリがAndroid 5.0への最適化を進めると変わってくるのかも知れない。
AnTuTu Benchmark | Android 5.0 | Android 4.4 |
---|---|---|
バージョン | 5.2 | 5.1 |
総合 | 53536 | 52921 |
UX Multitask | 7217 | 7121 |
UX Dalvik | 4024 | 3066 |
RAM Operation | 2575 | 2563 |
RAM Speed | 3139 | 3566 |
CPU (Multi thread) integer | 4187 | 4194 |
CPU (Multi thread) float-point | 4480 | 4438 |
CPU (Single thread) integer | 2085 | 2087 |
CPU (Single thread) float-point | 2309 | 2302 |
GPU 2D graphics | 1647 | 1649 |
GPU 3D graphics | 19829 | 19672 |
IO Storage I/O | 1349 | 1566 |
IO Database I/O | 695 | 693 |
Ice Storm Unlimited | Android 5.0 | Android 4.4 |
---|---|---|
Ice Storm score | 28288 | 30644 |
Graphics score | 32919 | 35917 |
Physics score | 18955 | 20261 |
Graphics test 1(FPS) | 189.2 | 208.5 |
Graphics test 2(FPS) | 115.1 | 124.8 |
Physics test(FPS) | 60.2 | 64.3 |
GFXBench | Android 5.0 | Android 4.4 |
---|---|---|
High-Level Tests | ||
Manhattan | 1795 | 1831 |
1080p Manhattan Offscreen | 1870 | 1924 |
T-Rex | 3099 | 3108 |
1080p T-Rex Offscreen | 3436 | 3590 |
Low-Level Tests | ||
ALU | 1795 | 1796 |
1080p ALU Offscreen | 15069 | 15517 |
Alpha Blending | 4036 | 3717 |
1080p Alpha Blending Offscreen | 4249 | 4256 |
Driver Overhead | 1700 | 1462 |
1080p Driver Overhead Offscreen | 3697 | 3134 |
Fill | 5098 | 4360 |
1080p Fill Offscreen | 5765 | 5850 |
Low-Level Tests | ||
Renderr Quality | 4467 | 4467 |
Renderr Quality (high precision) | 4467 | 4467 |
Basemark X | Android 5.0 | Android 4.4 |
---|---|---|
Midium Quality | 36274 | 36238 |
High Quality | 26688 | 27872 |
USB Y字ケーブルというのは、PCからのストリーミングゲームを行なう時、充電しながらレイテンシが低く、高速な有線LANを使いたいという要望に応えたものだ。
Android 5.0では、実行エンジンがDalvikからARTへと変更された。これにより、性能が上がるとされているが、互換性に問題が出る場合もある。実際、電子書籍系アプリでは、互換性の問題がやや目立っているようだ。
ただし、筆者が個人的に入れているアプリでは、全く互換性の問題は見られなかった。むしろ、これまではスフィアモードが動作しなかったGoogle純正カメラアプリで、スフィアモードが動作するようになった。
SDカード
これは、OS全体に関することだが、Android 5.0ではSDカードに対するアクセス権限が変更された。Androidは4.4から、セキュリティを理由にSDカードへのアクセスをかなり制限した。これによって、基本的にアプリからSDカードへの書き込みができなくなった。
OSや、標準搭載されているアプリには特権が認められているので、アプリをSDカードにインストールしたり、標準のカメラアプリでSDカードに保存したりはできるが、それ以外のアプリでは、内部ストレージを利用せざるを得なかった。
これについてかなり反発もあったのか、Android 5.0では新しいAPIが用意され、アプリは、ユーザーの承認を得ることで、ドキュメントを生成、更新、削除といったSDカードへの変更が再度できるようになった。この承認は再起動をかけるまで有効となる。
これについて、いくつかのアプリで試してみたところ、現時点ではまだSDカードへの書き込みはできなかった。アプリが新APIに対応するまでは、OSが変わっても状況は変わらないようだ。
ただ1つ疑問なのは、標準インストールになったESファイルエクスプローラでもSDカードへの書き込みができないということだ。それができるのであれば有用なのだが、できないにも関わらずプリインストールから外せないというのは改善してもらいたいところだ。
総評
AndroidのOSアップデートは、時間差こそあるが、最終的にはほとんどのユーザーが適用するものだ。そのため、インストールすべきかどうかという議論はあまり意味がないのだが、アプリの互換性の問題があるため、その点についてはネットで情報を集め、動かなくなると困るアプリがちゃんと動くかは確認してから適用した方がいい。
性能面ではベンチマークでは改善がみられなかったが、画面のスクロールやタッチへの追随性は改善されていると感じる。いわゆる“ぬるさく”な状態になっている。その点は期待して良いし、Android 5.0は多くの点で磨きがかかっているので、SHIELDユーザーは多くの人より早く新プラットフォームを体験できることを歓迎していいだろう。
もう1つ期待したいのが、先にも述べたGRIDクラウドゲーミングへの対応だ。将来的(2015年7月以降)には有料となるものの、タブレットでもハイエンドなPCゲームがほぼそのままのクオリティで遊べるようになる。大型TVに映し出せば、ゲームコンソールを超えるゲーム環境も夢ではない。
しかし、レイテンシの問題を考えると、サーバーをなるべく近くに置く必要がある。NVIDIAが日本のユーザーのためだけにサーバーを設置するかというと、可能性はやや低そうだ。ただ、SHIELDはアジアでは日本と韓国で発売されており、PCゲームが盛んな韓国にサーバーが設置される可能性は高いと観ていいだろう。このサーバーへのアクセスができるならば、日本のユーザーも格闘ゲームは無理でも、アクションゲームなどなら比較的スムーズに遊べると思われるので、そうなることを願いたい。