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AMD、新設計の低価格APU Kabini/Temashを正式発表
~Acer製タッチノートPCは499ドルで登場
(2013/5/23 13:01)
米AMDは5月23日(現地時間)、これまで同社がKabini(カビーニ)、Temash(タマシ)の開発コードネームで開発してきたAPUを「AMD Aシリーズ APU」および「AMD Eシリーズ APU」として正式発表した。
同時に、3月に発表した「Richland」のメインストリームノートPC向けに新SKUを追加したことも同時に発表した。
AMDのKabiniおよびTemashは、それぞれIntelの第4世代Coreプロセッサ(Haswell)とAtom Z2760(Clover Trail)に対抗する製品と位置づけられており、KabiniはUltrabook対抗の薄型ノートPC、TemashはWindows 8タブレットを狙った製品となる。
モジュラー化を進め、AMDのビジネスの軸足はカスタム化された半導体へ
AMDは発表に先立って行なった記者説明会において、KabiniおよびTemashの概要とアーキテクチャの詳細に関しての解説を行なった。AMD 上席副社長兼ビジネスユニット事業本部長のリサ・スー氏は「AMDは基礎技術のIP化を進めており、先日SCEが発表したPlayStation 4にもそうした技術が活用され、カスタム化したAPUを供給できるようになった」と述べ、CPUとGPUのモジュラー化を進め、それを元にして各市場に最適なカスタム化されたAPUやSoCを設計していく戦略が成功を収めているとした。
さらに、スー氏は「現時点ではAMDにとってカスタム化された半導体は全体の5%でしかない。しかし今年の末にはそれが20%になり、将来的にはそれが40~50%になるだろう」と述べ、AMDのビジネスにとってSCEのPlayStation 4やMicrosoftのXbox Oneなど特定の顧客に対して供給しているカスタム化された半導体の割合がどんどんと増えていく見通しであることを明らかにした。
「AMDの強みは、他社と比較して強力なCPUやGPUのデザインがあることだ。その強みを利用して設計したのがKabiniとTemashである。これから市場が立ち上がることになる、タブレットや従来のクラムシェルノートPCの中間にあるハイブリッドPCなどのデバイスで、我々はリーダーになるだろう」と述べ、Intelが6月に発表する予定の第4世代Coreプロセッサで立ち上げることを狙っている新しい形のPC(ハイブリッドPCやコンバーチブル、タブレット型のPC)市場において競争していく姿勢を明確にした。
「我々は競合他社の製品に比べて、GPUで明確に勝っている。実際、ダイサイズに占めるGPU部分の割合を比べて見れば、Sandy Bridgeが17%、Ivy Bridgeが27%、Haswellが31%であるのに対して、Richlandは42%だ」と述べ、さらに性能のみならず、Direct3D 11.1やOpenCLのサポートなどをIntelに先駆けて行なっている面などにおいても有利だとアピールした。
x86プロセッサとしては初となるクアッドコアのSoCとなるKabini/Temash
AMD ノートブック製品 担当部長 ケビン・レンシング氏はKabini/Temashの製品の概要と、製品の位置づけについての解説を行なった。レンシング氏によればKabini/Temashは以下のような特徴を備えているという。
1.CPUにJaguar(ジャガー)コアを採用し、標準でクアッドコアのデザインを採用
2.内蔵GPUにはSea Island(シーアイランド)コアを採用
3.従来サウスブリッジとよばれていたCPUの機能をプロセッサに完全に統合したネイティブSoC
AMDが開発したJaguarコアは、Bobcat(ボブキャット)コアの後継となるデザインで、Bobcatに比べて20%ほど性能が向上している。また、CPUのデザインはクアッドコアが基本で、デュアルコア製品はダイ上のコアのうち2つを殺した形で提供されることになる。GPUは、AMDがSea Islandの開発コードネームで開発を続けてきた、いわゆるGCN(Graphics Core Next)製品の改良版となるGPUコアがベースになっている。
従来のBrazos世代では、チップセットを別チップとして提供していたが、Kabini/Temash世代では、チップセットの機能も1つのダイに統合される。Intelの第4世代CoreプロセッサにもSoC版が用意されているが、こちらはCPUとチップセットが2チップで1パッケージ上で統合されており、厳密に言えばSoP(System On a Package)だ。本格的なSoCを成し遂げたx86プロセッサと言えば、IntelのAtomプロセッサがあるが、現状のAtomはデュアルプロセッサまでのため、“クアッドコアのx86プロセッサでSoCを実現した”のはKabini/Temashが最初の製品となる。
TDPは、Kabiniのクアッドコア製品が25/15W、デュアルコア製品が9W、Temashはクアッドコアが8W、デュアルコアが9Wないしは3.9Wとなっている。ただし、チップそのものとしては8ポートのUSB 2.0および2ポートのUSB 3.0を実装できるが、TDPが低いSKUでは6ポートのUSB 2.0に制限される。SATAも同じで、2ポートのSATAが用意されているが、TDPが低いSKUでは1ポートまでの対応となる。これは、SATAやUSBがある程度電力を消費するためだ。
Temashのデュアルコアはファンレスタブレットに搭載可能
AMDはTemashをWindows 8タブレット向けのAtom Z2760、そして低価格なハイブリッドPC向けPentium/Celeron対抗の製品と位置づけているという。レンシング氏によれば、「Atom Z2760はDirect3D 11、OpenCLなどに対応しておらず、GPUの性能も高くない。これに対してTemashは高い3D性能を実現している」と述べ、性能面でAtom Z2760を上回っていることを強調した。ただバッテリ駆動時間に関しては第3世代Coreプロセッサを上回るデータを公開したが、Atom Z2760とのバッテリ駆動時間の比較データは公開しなかった。また、Windows 8のConnected Standbyについても非対応としている。
モデルナンバー | A6-1450 | A4-1250 | A4-1200 |
---|---|---|---|
GPUブランド名 | Radeon HD 8250 | Radeon HD 8210 | Radeon HD 8180 |
TDP | 8W | 9W | 3.9W |
CPUコア | 4 | 2 | 2 |
CPUクロック周波数/ベース周波数 | 1.4GHz/1GHz | 1GHz | 1GHz |
L2キャッシュ | 2MB | 1MB | 1MB |
GPU SP数 | 128 | 128 | 128 |
GPUクロック/ベース | 400MHz/300MHz | 300MHz | 225MHz |
メモリ(最大) | DDR3L-1066 | DDR3L-1333 | DDR3L-1066 |
Temashには表1のようなSKUが用意されている。クアッドコアでTDP 8WがA6-1450、デュアルコアでTDP 9WのA4-1250、デュアルコアでTDP 3.9WのA4-1200という3つの製品が用意されている。Windows 8タブレットではAtom Z2760以上でCore i3未満の市場に、ハイブリッドPC市場ではA6がPentium対抗、A4がCeleron対抗という位置づけになる。
注目すべきはTDP 3.9Wを実現しているA4-1200だ。一般的にSoCのTDPが4Wを切ると、熱設計をパッシブ(空冷ファンを利用しない放熱設計、つまりはファンレス設計)にできると言われているため、A4-1200を利用すると、Windows 8タブレットをファンレスで設計することが可能になる。実際、AMDはそうしたリファレンスデザインのWindows 8タブレットをOEMメーカーに対して提案しており、将来的にそうした製品が登場する可能性がある。
Kabiniに関しては、IntelのUプロセッサ(TDP 15Wおよび28W)に対抗する位置づけになる。Kabiniには、TDP 25W/クアッドコアのA6-5200、TDP 15W/クアッドコアのA4-5000、TDP 15WのE2-3000、TDP 15W/9WのE1-2500とE1-2100という5製品がラインナップされている。
モデルナンバー | A6-5200 | A4-5000 | E2-3000 | E1-2500 | E1-2100 |
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GPUブランド名 | Radeon HD 8400 | Radeon HD 8330 | Radeon HD 8280 | Radeon HD 8240 | Radeon HD 8210 |
TDP | 25W | 15W | 15W | 15W | 9W |
CPUコア | 4 | 4 | 2 | 2 | 2 |
CPUクロック周波数/ベース周波数 | 2GHz | 1.5GHz | 1.65GHz | 1.4GHz | 1GHz |
L2キャッシュ | 2MB | 2MB | 1MB | 1MB | 1MB |
GPU SP数 | 128 | 128 | 128 | 128 | 128 |
GPUクロック/ベース | 600MHz | 500MHz | 450MHz | 400MHz | 300MHz |
メモリ(最大) | DDR3L-1600 | DDR3L-1600 | DDR3L-1600 | DDR3L-1333 | DDR3L-1333 |
レンシング氏はA6-5200とA6-5000とSandy BridgeベースのCore i3/Pentium/Celeronとの比較データを示し、3Dベンチマークやバッテリ駆動時間などでそれらを上回っていると説明した。具体的には、A6シリーズがCore i3対抗、A4シリーズがPentium対抗、E2シリーズがCeleron対抗という位置づけになっている。
また、レンシング氏は、3月にAMDが発表した(別記事参照)Trinityの改良版ダイに追加のソフトウェアを組み合わせたRichland(リッチランド、開発コードネーム)こと、AMD AシリーズAPU 5000番台の追加SKUも併せて発表した。
モデルナンバー | A10-5757M | A10-5557M | A8-5357M | A10-5745M | A8-5545M | A6-5345M | A4-5145M |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Radeon HD | 8650G | 8550G | 8450G | 8610G | 8510G | 8410G | 8310G |
TDP | 35W | 35W | 35W | 25W | 19W | 17W | 17W |
CPUコア | 4 | 4 | 2 | 4 | 4 | 2 | 2 |
CPU TurboCOREクロック | 3.5GHz | 3.1GHz | 3.5GHz | 2.9GHz | 2.7GHz | 2.8GHz | 2.6GHz |
CPUベースクロック | 2.5GHz | 2.1GHz | 2.9GHz | 2.1GHz | 1.9GHz | 2.2GHz | 2GHz |
L2キャッシュ | 4MB | 4MB | 1MB | 4MB | 4MB | 1MB | 1MB |
GPU SP数 | 384 | 256 | 192 | 384 | 384 | 192 | 128 |
GPU最大クロック | 720MHz | 720MHz | 720MHz | 626MHz | 554MHz | 600MHz | 554MHz |
GPUベースクロック | 600MHz | 554MHz | 533MHz | 533MHz | 450MHz | 450MHz | 424MHz |
メモリ(最大) | DDR3/DDR3L-1600 | DDR3/DDR3L-1333 |
Temashが先行して出荷され、AcerのAspire V5-122Pに搭載され499ドルから
AMDのスー氏によれば「我々はKabini/Temashを予定通りOEMメーカーに対して出荷しており、AcerがTemashを搭載したノートPCを499ドルという低価格で提供する予定だ」と述べ、Temashに関してはKabiniに先立ってOEMメーカーへの出荷が行なわれたため、先行して製品が登場することになりそうだ。
AMDの記者説明会では、いくつかのKabini、Temash搭載製品が展示されていたが、いずれの製品もAMDのリファレンスプラットフォームないしはODMメーカーの製品で、実際にエンドユーザーに向けて発表される予定の製品はAcerの「Aspire V5-122P」のみとなっていた。Aspire V5-122Pは、A6-1450を搭載しており、10点マルチタッチ対応11.6型HD(1,366×768ドット)ディスプレイ、6GBのDDR3メモリ、500GB HDDというスペックで499ドルが予定されており、クアッドコアのタッチ対応薄型ノートPCとしてはかなりお買い得な価格設定になっている。日本市場への投入は記事執筆時点では明らかにはなっていないが、投入されれば5万円前後の価格が想定されるだけに、期待したいところだ。