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ルネサス、最終黒字まで残り1カ月

 国内最大の半導体専業メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)が初めて、四半期の業績で最終黒字を達成しそうだ。2013年10月30日にルネサスが公表した四半期業績の見通しによると、2013会計年度第3四半期(2013年10月~12月期)の収支は営業損益が160億円の黒字、純損益(最終損益)が240億円の黒字となる。純損益が黒字化するのは、2010年4月1日にルネサスが発足して以降、初めてのことだ。

 営業損益はすでに、3四半期連続で黒字になっている。2013会計年度第2四半期(2013年7月~9月期)の営業利益は109億円。第3回の早期退職優遇制度の実施に伴う特別損失を計上したことなどが響いて純損益は88億円の赤字だったものの、円安による為替差益などもあり、収支は確実に上向いてきた。

 同年度第3四半期(2013年10月~12月期)は売り上げが第2四半期に比べて減少するものの、構造改革による費用削減が収支を改善するため、営業利益は大幅に増える見通しだ。さらに、営業外収支ではルネサスモバイルの海外子会社(ヨーロッパ社とインド社)と次世代モデム半導体の一部資産を売却(関連記事参照)したことによる譲渡益(特別利益145億円)が発生し、営業利益よりも純利益が増える。

2013年10月~12月期の連結業績予想。2013年10月30日にルネサスが開催した業績説明会の資料から
2013年10月~12月期の純損益見通し。2013年10月30日にルネサスが開催した業績説明会の資料から

四半期収支の損益分岐点を大幅に下げる

 ルネサスの四半期業績を発足当時から見ていくと、発足初年度の2010会計年度は、2,700~2,900億円の売上高に対し、最大で約100億円の営業利益を上げていた。そして2011会計年度に東日本大震災の影響で四半期の売上高が2,000~2,400億円と大幅に減少すると、全ての四半期で営業損失を計上した。粗く見積もると、2,500億円を超える売り上げがないと、営業利益を出せない状況だったと言える。

 ところが2012会計年度第4四半期(2013年1月~3月期)以降は、売り上げが2,000億円に満たないにも関わらず、営業利益を計上できるようになった。固定費が大幅に削減されていることが見て取れる。損益分岐点は1,000億円ほど、下がったようだ。

ルネサスの四半期売上高と四半期営業損益の推移。ルネサスの公表資料を基に作成
ルネサスの四半期営業損益と四半期純損益の推移。ルネサスの公表資料を基に作成

わずか1年で従業員数を約3分の2に削減

 もちろん、固定費を下げるために支払った犠牲は小さくない。その最たるものは、従業員の削減だろう。発足当初の2010年6月30日に約48,000名を超えていた従業員数(連結ベース)は、2013年10月1日の時点では約28,500名にまで減ってしまった。この間にルネサス社員は40%も減少したことになる。

 特に凄まじかったのは、この1年余りの変化だ。2012年9月30日時点で約41,900名の社員を、約28,500名に減らした。社員数はこの間に約3分の2に減っている。言い換えると、2010年4月から2012年9月までの2年半に社員数は、あまり減っていない。だからこそ、営業利益を出すための損益分岐点が高い水準に留まっていたと推察できる。

 ルネサスは2010年の発足以降、2013年10月までに3回の早期退職制度を実施し、人員を削減してきた。3回の早期退職による人件費の削減額は単純合計で年間840億円、四半期ベースで210億円に上る。早期退職制度を利用して退職したルネサス社員の数は累計で11,240名に達する。

ルネサスの従業員数(連結ベース)の推移。ルネサスの公表資料を基に作成
過去3回の早期退職制度による費用の削減効果。ルネサスの公表資料を基に作成

限界に達した早期退職優遇制度

 過去3回の早期退職優遇制度の実施結果を振り返ると、各回ごとに様相が大きく異なっていることが分かる。2011年3月31日を退職日とした第1回は、応募想定人員が1,200名と少なく、また実際の応募者数は1,487名で想定を順当に上回った。東日本大震災の前に募集されたこともあり、余裕を感じさせる一方で、切迫さを感じさせない早期退職だった。

第1回早期退職制度の実施結果。ルネサスの公表資料を基に作成。一部の数値は筆者の推定

 2012年10月31日を退職日とした第2回は、募集人員の5,000名強を大きく上回る、7,446名が早期退職に応募した。2011年3月11日の東日本大震災で生産ラインに大きな痛手を被ったルネサスは、2011年4月以降、営業赤字を7四半期連続で計上する。募集期間が9月18日~9月26日と10日間に満たないにも関わらず想定を大幅に超える応募があったことは、ルネサスの将来に大きな不安を抱いている社員が少なからず存在していることを伺わせた。

第2回早期退職制度の実施結果。ルネサスの公表資料を基に作成。一部の数値は筆者の推定

 そして2013年8月の第3回早期退職制度では応募者があまり集まらず、募集期間を延長するとともに追加募集をかけることになった。それでも最終的な応募者数は募集を下回った。第3回の募集で明らかになったのは、ルネサスを退社する意志のある社員のほとんどは第2回の早期退職募集で出て行ってしまったということだ。

第3回早期退職制度の実施結果。ルネサスの公表資料を基に作成。一部の数値は筆者の推定

 なお以前の本コラムで「また公表はしていないものの、9月30日付けの退職となる早期退職制度の募集が8月1日には始まったようだ」(関連記事参照)、「募集に入ったとされる8月1日が過ぎても、ルネサスは早期退職者の募集に入った事実を公表しなかった。募集期間を公表したのは、早期退職制度の実施結果の発表日である9月27日のことだ」(関連記事参照)と記述したが、誤りだった。厳密には、2013年8月2日にルネサスが公表した決算短信(PDF)で、8月1日に早期退職の募集を開始したことを明らかにしていた。ここに謹んで訂正したい。

ルネサスが2013年8月2日に公表した決算短信の一部。早期退職の募集期間を当初は、8月1日~8月7日の7日間と考えていたことが分かる。実際には、この目論見は大きく外れてしまった

 第3回目の早期退職優遇制度を通して浮かんできたのは、人員削減策として早期退職優遇制度を活用することは、もはや難しいということだ。当面は、約28,500名の社員数を前提にルネサスは進まざるを得ない。それどころか、現在の陣容でこれまでの売り上げを維持できるかどうか、いささか不安が残る。行方を冷静に見守りたい。

(福田 昭)