福田昭のセミコン業界最前線

ルネサスの生産リストラ、最終段階への準備完了

 国内最大の半導体専業メーカー、ルネサス エレクトロニクス(以下は「ルネサス」)は2014年2月19日に、国内の生産部門を2014年4月1日付けで子会社2社に再編成すると発表した。ルネサスは現在、数多くの生産子会社と生産支援子会社を抱えている。再編成では、ルネサス本体の生産部門を本体から切り離すとともに、生産子会社と生産支援子会社を吸収分割と吸収合併によって、2社に統合する。

 新しく発足する生産子会社は、半導体製造工程の中で前工程(シリコンウェハの処理工程)を担当する「ルネサス セミコンダクタ マニュファクチャリング株式会社」と、後工程(シリコンウェハをダイに切り離してパッケージングするとともにテストを実施する工程)を担当する「ルネサス セミコンダクタ パッケージ&テスト ソリューションズ株式会社」である。

2014年4月1日に発足する前工程専業会社の概要。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料から。従業員数は筆者の推定(幅があるのは、早期退職制度による退職者が2014年3月31日付けで生じるため)
2014年4月1日に発足する後工程専業会社の概要。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料から。従業員数は筆者の推定(幅があるのは、早期退職制度による退職者が2014年3月31日付けで生じるため)

本社の量産工場と子会社の量産工場の違い

 ルネサスの前身は、日立製作所、三菱電機、NECエレクトロニクスの半導体事業部門であり、半導体事業の関係会社もルネサスのグループ企業となっている。そしてグループ企業の大半は、商号を「ルネサス」に付け替えただけで存在してきた。言い換えると、前身となる企業の組織や関係会社などをそのまま受け継いでおり、一部のグループ企業を除くと本格的な整理・統合はなされず、放置されたままになっていた。

 このため生産部門の組織は複雑に入り組んでおり、外部から見てはもちろんのこと、ルネサスグループの社員から見ても、分かりやすいとは言えない状態が続いていた。例えば生産工場だが、日立と三菱は伝統的に半導体に限らず工場は本社工場であり、子会社になっていないことが多かった。これは日立と三菱、東芝のいわゆる「重電御三家」企業に共通の文化である。これに対してかつて「電々公社御三家」と呼ばれた通信機器の大手メーカー3社、すなわちNECと富士通、沖電気工業は、工場を子会社にすることが多かった。

 このため、ルネサスが発足した2010年4月当時、旧NECエレクトロニクスの生産工場は子会社であったのに対し、旧ルネサス テクノロジ(日立と三菱の半導体統合会社)の生産工場(前工程の生産ライン)は本社組織の一部だった。この組織構造を変えずに発足したルネサスは、本社工場と生産(量産)子会社工場が併存し、これらとは別に、ルネサスの子会社としての生産支援会社が存在するという複雑な構造を残したままになっている。さらに生産子会社でも「前工程の工場だけを有する会社」、「後工程の工場だけ有する会社」、「前工程と後工程の両方の工場を有する会社」という違いがある。

 例えば子会社の「ルネサス関西セミコンダクタ」と「ルネサス那珂セミコンダクタ」はいずれも生産部門の子会社なのだが、前者は半導体の量産工場(前工程ライン)であり、後者は生産支援会社である。この違いを外部の人間が商号から読み取ることは簡単ではない。

ルネサスの生産部門一覧と再編成の手順。「ルネサス エレクトロニクス」の中にある事業所が本社工場。その下に略記で示されたのが生産子会社と生産支援子会社である。実線の矢印は前工程の再編成手順。下の左から2番目に位置する生産子会社「SKS(ルネサス関西セミコンダクタ)」に集約する。破線の矢印は後工程の再編成手順。下の左から3番目に位置する生産子会社「SKY(ルネサスセミコンダクタ九州・山口)」に集約する。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料から
ルネサスの生産子会社および生産支援子会社の略記と正式名称。SKSとSKYを除く、すべての子会社が2014年4月1日付けで消滅する。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料を元に作成

生産工場の集約に生産子会社の整理・統合を絡める

 生産部門の組織を抜本的に再編成することをルネサスが示唆したのは、2013年10月30日のことだ。「ルネサスを変革する」のタイトルで報道機関向けに発表されたスライドの中にルネサスの事業再編成が目指す姿として、それらしき図面が含まれていた。ただし当日に、該当するスライドを説明した作田久男ルネサスCEO(最高経営責任者)は主に販売部門について述べており、生産部門については言及していなかった。

ルネサスの事業再編成が目指す姿。生産部門を「前工程会社」と「後工程会社」に統合することが示唆されていた。2013年10月30日に「ルネサスを変革する」のタイトルでルネサスが発表したスライドから

 その後、2013年12月19日にルネサス経営陣はルネサスの労働組合と、前工程と後工程の新会社設立に向けた協議を開始した。この時、新会社の具体的な内容が初めてルネサスの従業員に示されたとみられる。すでにルネサスは個々の生産工場について今後の行方(主力として強化するか、縮小して生産を維持するか、閉鎖あるいは売却するか、など)を表明しており、しかも2013年8月2日には甲府工場と鶴岡工場の閉鎖(この時点までは生産継続対象)という方針変更を公表していた。甲府工場と鶴岡工場の従業員および関係会社では動揺がまだ収まらない時期であっただけに、12月19日の申し出はさらに大きな動揺を呼び起こしたようだ。

生産部門のリストラクチャリングにおける基本方針。ルネサスが2013年8月2日に発表したスライドから
前工程量産工場の方向性。那珂工場と川尻工場(熊本)、西条工場(愛媛)を除く、すべての工場は譲渡や生産縮小、閉鎖などのネガティブな方向が打ち出されている。ルネサスが2013年8月2日に発表したスライドから
ルネサスの前工程(量産)工場の概要。今後も主力の生産拠点となる工場。旧日立製作所、旧三菱電機、旧NECエレクトロニクスの工場が1つずつ選ばれている。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成
ルネサスの前工程(量産)工場の概要(続き)。今後の生産縮小や集約(閉鎖)などを予定している工場。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成
ルネサスの前工程(量産)工場の概要(続き)。今後の生産縮小や集約(閉鎖)などを予定している工場。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成
前工程関連の生産支援会社の概要。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成
後工程量産工場の方向性。米沢工場(山形)と大分工場だけが国内の主力拠点として残る。海外の後工程量産工場を拡大していく。ルネサスが2013年8月2日に発表したスライドから
ルネサスの後工程(量産)工場の概要。今後も主力の生産拠点となる工場。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成。
ルネサスの後工程(量産)工場の概要(続き)。今後の生産縮小や集約(閉鎖)などを予定している工場。ルネサスと生産子会社の公表資料を元に作成

生産部門を対象に早期退職優遇制度を実施

 生産子会社の再編成によって移籍する従業員の総数は、1万名に及ぶとされる。内訳はルネサス本体からの移籍が約3,000名、ルネサス子会社からの移籍が約7,000名である。前工程会社の本社所在地は茨城県ひたちなか市の那珂工場、後工程会社の本社所在地は群馬県高崎市の高崎工場なので、東京都千代田区大手町の本店勤務者にとっては、転勤を強いられることになる。そのほかにも、移籍あるいは異動に伴う転勤が発生する場合があるだろう。

 このため、ルネサスは同じ2月19日に早期退職優遇制度を公表した。対象となるのは生産子会社および生産部門の再編成によって転勤や移籍などの影響を受ける従業員である。応募者の想定人数は設けていない。応募した従業員は、3月31日付けで退職する。

生産部門を再編成した後の生産体制。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料から
早期退職優遇制度(第四回早期退職優遇制度)の概要。ルネサスが2014年2月19日に発表した資料を元に作成

 今回の生産子会社集約と本体工場の子会社化は、生産組織を簡素にするという意味では理解できる。分からないのは、新会社の本社所在地が東京ではないことと、2カ所に分かれたことだ。現在の本店所在地である東京都千代田区大手町の日本ビルに置く、あるいは、設計開発拠点の武蔵事業所(東京都小平市)に置く、といった選択肢もあったはずである。前工程と後工程の連携、設計と生産の連携、本社と生産部門の連携、新会社の運営が最初は手探りになる(経験がない)、といった観点からは、組織は別でも所在地は同じであることが望ましい。

 特に不思議なのが、後工程会社の本社所在地が高崎工場であることだ。高崎工場には後工程ラインが存在しない。つまり、後工程会社の本社機構だけを新しく高崎に設立する、という意味だ。後工程ラインのある米沢工場でもなく、大分工場でもない。後工程ラインのない拠点に本社を置くのであれば高崎ではなく、前工程会社と同じ那珂工場に後工程会社の本社を設立すれば、前工程と後工程の連携が取りやすくなるだろう。わざわざ高崎工場を本社に選ぶ意味は何なのだろうか。しばらくすれば、答えが見えてくるのかもしれない。

(福田 昭)