森山和道の「ヒトと機械の境界面」
ロボットで弁当盛り付け、コンビニのお使い、プラント内点検も
~2020年ロボットオリンピックが競う内容が見えてきた
2016年9月8日 06:00
山形大学で、「第34回 日本ロボット学会 学術講演会」が9月7日から3日間の日程で開催されている。研究者による研究発表が行なわれる学会だが、「オープンフォーラム」は一般公開とされており、会員資格がなくても聴講できる。7日には、国際ロボット競技大会実行委員会によって「2020年 ロボット国際競技会は何を競うのか?」と題したセッションが行なわれ、現時点での競技内容のイメージが公開された。あくまで、現時点での各委員による「こんな競技をやりたい」という意見表明とのことだが、レポートしておきたい。
「ロボット国際競技大会(仮称)」概要
まず、「ロボット国際競技大会(仮称)」の事務局を担う、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)ロボットAI部 原大周氏が概要を述べた。
ロボット国際競技大会(仮称)は、2014年6月、安倍総理が「2020年には、世界中のロボットを集めてロボットの性能を競う、ロボットのオリンピックを目指していきたい」と発言したことから始まった。その後、2015年2月10日に、日本経済再生本部により決定された日本再興戦略のアクションプラン「ロボット新戦略」の中に、「ロボットオリンピック(仮称)」の実施が盛り込まれた。
それを踏まえて、経済産業省とNEDOによる共催として、ロボット国際競技大会が準備中という経緯だ。具体的なスケジュールは、2016年に具体的な開催形式と競技種目の決定、2018年にプレ大会を実施、2020年に本大会を実施となっている。
「ロボット新戦略」では、社会的課題として、生産年齢人口の減少、社会保障費増大、災害対策が挙げられており、5つの分野にロボット活用と実装を促進するべきとされている。ロボット国際競技大会は、それらをものづくり、サービス、災害対応の3つに分けて競技化し実施する。
原氏は、目指すところ、「思い」として、競技形式により技術レベルを飛躍的に加速すること、競技大会の最高峰を目指す、世界トップレベルのロボット関係者ネットワークの加速によるイノベーションの推進、真に社会が欲する課題へのソリューションの提供などを挙げた。
なお、以前もこの大会については第1回実行委員会諮問会議が経済産業省で開催された時にレポートしているので合わせてご覧いただきたい(2020年「国際ロボット競技大会」は“インスパイアされる大会”になるか)。
では、具体的にどんな競技があり得るのか。実行委員会委員長の、東京大学フューチャーセンター推進機構 佐藤知正氏は、「公的説明」と「個人の思い」とがあると断って、話を始めた。ロボットオリンピックは、これまでに2015年度にサブワーキンググループが、2016年度には実行委員会が設立された。基本原則は6つ。技術飛躍加速力、社会実装加速力、国際性、社会訴求力・発信力、継続性、人材育成性である。
それらはどんな意味を持っているのか。佐藤氏は「ここからは個人としての思い」と断って話を続けた。佐藤氏によれば、「ロボットコンテストの意味合いが変わってきている」という。1973年に開発された、白線を認識して走行する、アーム付き知能ロボットの動画を示した後、2004年にはDARPAグランドチャレンジが行なわれたという話題を紹介。DARPAチャレンジは最初はダメだったが、2005年には5チームが完走した。2007年にはアーバンチャレンジが行なわれ、その後、この成果は自動運転車開発へと繋がった。さらに「DARPAロボティクスチャレンジ」が行なわれたことは記憶にも新しい。
佐藤氏は、「ロボットコンテストは、科学技術イノベーションのツールボックスの1つだ」と語った。適切な目標、場、競争と顕彰が、イノベーションを生む。
展示については、これまでのオリンピックでセイコーが精密な時計を作ったこと、エプソンが小型プリンタを作ったことを挙げ、世の中でロボットが使われる姿を見せることが大事だと述べた。ロボット活用コミュニティの創出が、ロボットイノベーションだとし、そのためには、多様性を内包した地域の役割が重要だと語った。オリンピックの度に、ロボットの技術開発・社会実装を推し進める活動のきっかけとなればと考えているという。
ものづくり分野は製品組み立て、倉庫内ピッキング、弁当詰めを競う
このあとは、各分野競技の委員が登壇し、現時点での競技内容イメージを紹介した。ものづくり分野を担当する、独立行政法人 産業技術総合研究所の横井一仁氏は、「生産年齢人口の減少、労働力不足、産業構造のシフトによって、ものづくり、農林水産業、食品産業分野の担い手人口はますます減る」という前提の確認から話を始めた。一方、ロボットの物体認識技術は向上しており、日用品、農林水産物の認識もできるようになりつつある。農作物が扱えるハンドの開発も進んでいる。ものづくり現場で盛んなオフラインティーチングに加えて、自動的なロボットの動作生成機能が加わり、短時間のレイアウト変更にも柔軟に対応できるようになる可能性がある。
さらに2030年くらいには、大半の作業で活用できるエンドエフェクタ開発、人に対するのと同程度の指示でロボットの動作を生成できる技術、自分の技能を高度化できるロボットが登場するように、ロボット研究者が努力するべきなのではないかと語った。これらのロボットができれば、ものづくり、食品産業などの業種でロボット導入が進むと考えられる。
種目としては、製品分解・組み立て、物流、食品産業種目が想定されている。SIerやベンチャー、大学、研究機関などの混合チームや、海外からの参加を歓迎するという。それぞれ、組み立て、倉庫内ピッキング、弁当詰めを競う。
まず、製品分解・組み立て種目では、セル生産に導入できる、多能工ロボットの実用化を促進するために、ばら積み、工具の使用、柔軟物体の認識・操作、簡易ティーチングなどをロボットで行なえるようにする。具体的には、仮想的な製品をロボットで早く組み立てるタスクを考える。
2018年には、あらかじめ提供された3種類の製品から、指定された1つの製品と当日追加された製品の合計2種類を組み立てさせる。2020年には、より組み立て工数が多い工業製品を組み立てる。ロボット単体で、治具なしで、検査も同時に行なうような競技を行なえないかと考えているという。対象物としては、メーカーから実製品をデータ含めて提供してもらいたいと考えているが、具体的には決まってないとのこと。実際には難しい場合もあるので、その場合は「Yale-CMU-Berkeley.(YCB) Object and Model set」などを活用して、仮想製品を技能五輪のように組み立てる作業を行なうことを想定している。
組み立て手順、部品3Dデータ、ルールブック、周辺機器の有無そのほかは事前に提供される。ロボットは参加チームが用意し、準備時間は4時間、競技時間は1時間を想定し、2チームずつ実施することを想定する。競技開始後は人は介入しない。組み立てを人が手伝う場合は、ロボットが一時停止して、人がロボットに替わって行なう。2020年には、組み立てを人が手伝うことは認めず、作業がスタックした場合は、人がネットワーク越しにエラーリカバリすることを想定する。
評価は、スピード、サイクルタイム、歩留まり、準備時間などで行なう。量、質、外乱への対応、ネジがきちんとしまっているかなども評価対象になる。
プラットフォームは、市販されている産業用ロボット、あるいは独自のロボットを用い、エンドエフェクタはチームで開発する。ロボットメーカーからハードウェアを提供してもらうことも検討する。ネジしめ機など周辺装置は提供する。使用ロボットの台数制限は、競技エリア内に収まれば行なわない。
物流種目は、BtoB在庫型物流センターへのロボット導入をイメージ。形状、サイズ、重量などが大きく異なる物の認識/把持/操作を想定する。コンビニに物を出荷するための物流センターをイメージしており、50~100種類程度の定番商品と、20種程度の新規物品から、要求に応じた種類、個数の物品を通常の棚から配送箱へ整列して収納する。
2020年は、さらに種類を増やして色々なものに対応する。棚は普通の棚として、人間が棚へ物品を格納するフェーズと、ロボットが収集するフェーズは別として行なう。ロボットは移動マニピュレータ1台だが、その上に搭載したアームは1台とはしない。サイズは通路幅で規定する。2018年は、物品は各チームが収納し、2020年は運営側が収納する。間違った物がおいてあったら、正しい物を入れる。
対象物はコンビニで扱われているような物品で、幅広い種類のものを考えたいという。最大は2リットルペットボトル×6本の箱くらいで、最小は消しゴム1個、おにぎりやパン、袋菓子も含める。なお、物流分野においては自動倉庫がはやっているが、この競技では、自動倉庫ではなく通常の棚を使った倉庫を想定する。
技術要素としては、新規物品即応能力、データベース化、あるいは認識や把持計画をどうするのかといった事柄がある。また、配送箱にどう安定して積み込んでいくのか、といった計画能力なども問われる。重い物や、潰れやすい物なども混ざっている物品を、どう積み上げるかも評価ポイントになる。また、新規物品のピッキングは、定番商品よりも高評価になる。
共通ロボットは現時点ではなし。ロボットは1台の移動台車の上に、マニピュレータを1台以上搭載したものとし、外部コンピュータや、ロボットに搭載された以外のセンサーはなし。棚にカメラを付けたり事前計算はさせない。
食品産業種目では、物体認識や不定形物体操作、食品用エンドエフェクタなどの技術の高度化を図ることになる。競技としては、多様な特性の食材が高密度に配置されており、美的装飾性が高いことなどから、「弁当を作る」というものを考えているという。
2018年は、食品サンプルを詰める。難易度別に、3種類用意した弁当の中から1種類を選ぶ。食品サンプルがコンベアーで運ばれてきて、弁当箱の中に入れる。これを10個30分以内でやるといったイメージだ。
2020年は、10種類の弁当に増やす。競技者が選択した3種類を、実食品も用いて行なう。レシピは事前に公開する。競技内容を伝えたあと、1日の調整時間を与え、弁当盛り付けレイアウトももちろん評価対象になる。
詰めるおかずはハンバーグや唐揚げ、ソーセージなどで、見た目だけではなくて、食品サンプルの重量や柔らかさも、なるべく実食品に似せる。また、
2020年での実施の際は、弁当のデザインも公募すると面白いのではないかという。
ロボットが盛り付けられないサンプルの場合は、人が盛り付けても可とするが、作業速度、正確さ、ロボットのみで盛り付けたサンプル数などが加点の対象となる。ロボットには食品を扱えるエンドエフェクタが必須となるが、今回は洗浄可能かどうかは問わない。ただし、洗浄できるものがあれば参加を推奨するという。
サービス分野は家庭と店舗裏、バーチャルで
サービス分野の競技については、玉川大学の岡田浩之氏が解説した。テクノロジとソリューション、両方を考えたような競技にしていきたいと考えており、人と協働、協調がコンセプトで、両方がともに上手く働かないと、高得点が取れないようなものになるという。
競技としては、以下の3種類が想定されている。
- 我が家の1日を競う
- 2店舗における各種業務自動化
- 公共の場でのサービス
それと別途、人財育成を目的にした「ジュニア種目」も想定されている。
「我が家の1日を競う」のは、「ロボカップ@home」のような競技。モデルルームのような空間で、掃除をしたり、注文に応じて物を持ってきたりするといったものだ。できるだけ、実際の家と同じようなものを競技会場に作って実施したいと考えているという。
キッチンやテーブル、棚、ドアなどを用意し、ロボットはその中を移動しながら人を認識し、命令を受けて動く。散らかった部屋の中の物品を、それぞれ所定の場所に置き直したり、廃棄したりして片付けるような、家庭の中の何気ないことを競技として行なう。なお、全チームが同じハードウェアを使うことを想定している。スタンダードプラットフォームとして、ロボットを公募する。
2番目は、店舗における各種業務自動化。コンビニのような店舗において、品出し、入れ替えのような各種業務の自動化を対象としている。身近でかつ実用的な課題に即した競技を設定することで、サービスロボットの実用化を目指す。ものづくり分野の競技の一部と共通している。
具体的には弁当やおにぎりなど、複数種類の商品の品出し、入れ替えを競う。商品棚への陳列・補充のほか、接客、トイレ作業なども想定しているという。ロボットは未知環境の地図を作り、どの棚に何があるか覚えて、人の指示を受けてサービスを行なう。来客に聞かれた物を取ってくる作業のほか、コンビニで起こるだろうことを競技にしたいと考えているという。ロボットについては特に決めず、「店舗の棚自体をロボット化するといったアイデアでも良いのではないか」と考えているとのこと。
3つ目は公共の場でのサービス。移動カートの自動配置・運行、空港や駅での迷子の案内や道案内だ。これはシミュレーションリーグして行なう。シミュレータには、国立情報学研究所の稲邑哲也氏らが開発しているロボット環境シミュレータ「SIGverse」を用いる。ロボットとユーザーがそれぞれログインして、サービスを提供したりされたりするという競技を考えているという。競技内容としてはモバイル・マニピュレーションとヒューマン・ロボット・インタラクションだ。2018年は、シミュレーションだけで競技することになるが、2020年には、実機と連動した競技も想定する。駅や博物館、ショッピングモールなどに状況が変わる可能性もある。
岡田氏は、「プレ大会までにも何度か検討するための準備大会を行ない、参加者の意向も取り入れながら、競技内容を固めていきたい」と述べた。
プラント災害予防、トンネル事故災害対応復旧、災害対応規定競技
災害対策分野の競技については東北大学の田所諭氏が解説した。田所氏は「ロボット競技会は、ロボット導入・普及における、基盤を築いてきている」と述べた。「特に未成熟なマーケットにおいて、何ができるかを見せることで投資家の意識改革を行なえる」として、DARPA グランドチャレンジ、アーバンチャレンジによる、自動運転の本格的展開などを例に挙げた。「もしアーバンチャレンジがなかったら、仮に技術はあっても、社会が技術を受け入れる素地がなかったのではないか」という。だが、競技会が「パンドラの匣」を開けたので、大きな革命が起きた。ロボット競技会はオープンイノベーションの方法論の1つだと考えられると語った。
インフラ・災害分野では、現実的ソリューションの種を育てる。実装するために社会的コンセンサスを涵養(かんよう)すること、導入障壁を下げることを目的とする。具体的には、プラント災害予防、トンネル事故災害対応復旧、災害対応規定競技の3種目を想定している。
プラント災害予防では、石油化学コンビナートのプラントを想定し、点検・メンテナンス、災害対雨を自動化・遠隔化する技術を競う。福島のロボット試験フィールドにプラントモックアップを作り、内部を移動して、点検を行なったり、メーターを読んだり、バルブを回したり、救助を求めている人を捜索するといった競技を想定する。地上の移動ロボットだけではなく、飛行ロボットの活用も考える。10個程度の競技を行なわせ、加点式で得点を競う。プラント専門家と話をしながら競技内容を決めているという。
トンネル事故災害対応復旧では、実機とシミュレーションで行なう。2015年に行なわれた「JVRC(Japan Virtual Robotics Challenge)」という競技を発展させる。中大型のプラットフォームロボットを開発し、2018年にはシミュレーションで行なう。2020年には実機を使って行なう。新規に開発検討中のヒューマノイドのほか、革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の中で開発中の、双腕ロボットなどを想定している。
災害対応規定競技では、標準評価法を使った規定競技を行ない、性能評価試験を開発して、それに基づいた競技を実施する。ロボットの耐久性能や評価試験を行なう。標準化することで、ロボット性能のカタログ化が可能になる。出場チームは競技1と2に出たチームの参加を想定している。田所氏は、再度DARPAチャレンジについて触れ、「DARPAチャレンジが自動運転のイノベーションを起こしたように、日本が先導してイノベーションを起こしたい」と語り、ハードルとしては世界中のチームの参加、実用に近い作業ができるレベルの高い競技内容、10年後には使われる社会実装の3つを挙げた。
なお、今回の発表はあくまで各委員からの提案であり、確定したものではない。積極的な提案を期待するとのことだった。