■平澤寿康の周辺機器レビュー■
インテル「Intel 335」 |
インテルは、同社のメインストリーム向けSSDとして人気の「Intel 330」シリーズ(以下330)の後継モデルとなる「Intel 335」シリーズ(以下335)を発表した。発表を前に、秋葉原などのパーツショップではすでに販売が始まっており、330シリーズ同様、コストパフォーマンスに優れるモデルとなっている。現時点では、容量は240GBのみ用意しており、実売価格は15,000円前後だ。
●製造プロセス20nmの最新NANDフラッシュメモリチップを採用
インテルのコンシューマ向けSSDシリーズの中で、メインストリーム向けとして位置付けられている330。今年春以降、販売価格が大きく下落したことも手伝い、現在でも高い人気を誇るシリーズだが、その人気SSDの後継モデルとなるのが、今回取り上げる335となる。
335は、基本仕様は従来モデルの330とほぼ同等となっている。利用されているコントローラは、従来モデル同様、SandForce製の「SF-2281」で、NANDフラッシュメモリチップも、インテル製のMLC仕様のNANDフラッシュメモリチップを採用する。ただし、このNANDフラッシュメモリチップは、従来モデルでは製造プロセス25nmのものを採用していたのに対し、335では製造プロセス20nmの最新チップが採用されている。
335では、製造プロセスが20nmで、平面セル構造と呼ばれる新しいセル構造を採用した、最新のNANDフラッシュメモリを採用している |
この20nmプロセスのNANDフラッシュメモリは、インテルとIM Flash Technologies(IMFT)により共同開発されたもので、“平面セル構造”と呼ばれる新しいセル構造を採用するとともに、NANDフラッシュメモリとして初めてHigh-Kメタルゲートを採用する点が特徴とされている(詳しくは、こちらの記事を参照)。
一般的な、フローティングゲート構造のNANDフラッシュメモリのセルは、基板となるシリコンの上に、トンネル酸化膜、フローティングゲート、絶縁膜、制御ゲートを積み重ねるように配置することで実現しているが、微細化を進めることによって隣接するセル間が狭まり、電気的な干渉が増えたり、リーク電流が増大するといった問題がある。それに対し平面セル構造では、絶縁膜にリーク電流を低減できるHigh-Kメタルゲートを採用する新たなセル構造を採用することによって、フローティングゲート構造の微細化による問題を克服し、20nmの微細化を実現しつつ、25nmプロセス世代のフローティングゲート構造のNANDフラッシュメモリと同等の性能と信頼性を実現したとしている。
SSDとしてのパフォーマンスは、シーケンシャルリードが500MB/sec、シーケンシャルライトが450MB/sec、4Kランダムリードが42,000IOPS、4Kランダムライトが52,000IOPSとされており、数値的には従来の330と同じとなっている。ただ、NANDフラッシュメモリが変わったことによって実際のパフォーマンスが異なる可能性も十分考えられるため、この点は後ほど検証したいと思う。
また、330との大きな違いとしては、消費電力が大きく低下しているという部分が挙げられる。330の消費電力は、動作時850mW、アイドル時600mWとなっているのに対し、335は動作時350mW、アイドル時275mWと半分以下に低下している。これによって、ノートPCなどに搭載した場合には、バッテリ駆動時間が伸びることになるはずだ。
保証期間は330と同様に3年間となっている。
●基板構造は従来モデルとほぼ同じ
335の本体形状は、従来モデルとほぼ同じだ。サイズは2.5インチHDDサイズで、高さは約9mm。インテル製SSDでは、厚さ7mmの本体に2.5mmのスペーサーが取り付けられているものが多いのに対し、335は330同様、スペーサーなしで厚さが9mmとなっている。そのため、Ultrabookなどの、厚さ7mmの2.5インチドライブに対応する薄型ノートPCでは利用できない。
接続インターフェイスは、SATA 6Gbpsと、こちらも従来モデル同様だ。製品パッケージには、SSD本体のほかに、SATAケーブルと電源ケーブル、ユーティリティなどが含まれるCD-ROM、3.5インチベイに取り付けるためのマウンタなども付属する。容量は、現時点では今回試用した240GBモデルのみが発表されており、今後他の容量のモデルも拡充されていくものと思われる。
内部の基板を見ると、コントローラは従来モデル同様、SandForce製の「SF-2281VB1-SDC」を搭載していることがわかる。また、NANDフラッシュメモリチップは、Intel製の128Gbitチップ「29F16B08CCMF2」を基板表に8個、基板裏に8個の計16個搭載している。
●Intel 520に匹敵するパフォーマンスを確認
では、速度をチェックしていこう。今回は、ベンチマークソフトとしてCrystalDiskMark v3.0.1b、HD Tune Pro 5.00、AS SSD Benchmark 1.6.4237.30508、Iometer 2008.06.28の4種類を利用した。また、比較用として従来モデルの330の160GBモデルと、上位モデルとなる520の240GBの結果も掲載する。テスト環境は下に示すとおりだ。
【ベンチマークテスト環境】
CPU:Core i7-2700K
マザーボード:ASUS P8Z68V PRO/GEN3
メモリ:PC3-10600 DDR3 SDRAM 4GB×2
グラフィックカード:Radeon HD 5770(MSI R5770 Hawk)
HDD:Western Digital WD3200AAKS(OS導入用)
OS:Windows 7 Professional SP1 64bit
まず、CrystalDiskMarkの結果を見ると、容量が異なるとはいえ、従来モデルの330の結果よりもリード、ライトともに優れていることがわかる。特にライト速度の向上度合いが大きく、シーケンシャル、ランダムともに大きく向上している。また、上位モデルとなる520との比較でも、シーケンシャル速度や512Kランダムアクセス速度は同等または若干凌駕する結果となっている。4Kランダム速度に関しては、520の方が上回っている部分があるものの、その差は小さく、実利用時の快適度に関しても、520と大きな差はないものと考えられる。この結果を見る限り、SSD 355のポテンシャルの高さはかなりのものと言って良さそうだ。NANDフラッシュメモリが変わっただけで、ここまで性能が向上するというのは考えにくく、ファームウェアも含め大きく改良されているものと思われる。
ちなみに、SandForce製コントローラを採用していることもあり、データの圧縮の効きによって速度が変化するのは従来通り。CrystalDiskMarkのテストデータを「0Fill」に設定した場合の結果は、標準のランダム設定時に比べて大きく速度が向上していることがわかる。
この傾向は、AS SSD BenchmarkやHD Tune Proでもほぼ同等となっている。そして、AS SSD BenchmarkのCompression Benchmarkや、HD Tune ProのFile Benchmarkの結果を見ると、335は330に比べて、データ圧縮が効きにくいデータにアクセスする場合でも、速度の低下が少なくなっていることがわかる。335のパフォーマンスの高さは、この点が大きく影響してのものだろう。
HD Tune Pro 335 1MBリード | HD Tune Pro 330 1MBリード |
HD Tune Pro 335 1MBライト | HD Tune Pro 330 1MBライト |
最後に、IOmeterの結果だ。こちらでは、「File Server Access Pattern」を利用したランダムアクセス速度をチェックしているが、こちらも330の結果を上回っている。ただし、520との比較では、Queue Depthを32に設定した場合の結果が若干劣っている。335と520との性能差は、このランダム性能の差が中心になると考えて良さそうだ。
【表】IOmeter結果Iometer 2008.06.28 Windows 7 Professional 64bit | Intel SSD 335 240GB | Intel SSD 330 160GB | Intel SSD 520 240GB | ||||
Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | Queue Depth:1 | Queue Depth:32 | ||
File Server Access Pattern | Read IOPS | 3274.002926 | 21060.690139 | 3051.959115 | 19151.969105 | 2732.625374 | 22557.268014 |
Write IOPS | 818.05239 | 5260.868655 | 761.647284 | 4789.547241 | 684.657207 | 5639.862849 | |
Read MB/s | 35.479022 | 227.723092 | 32.975141 | 207.171862 | 29.661371 | 243.960157 | |
Write MB/s | 8.828814 | 56.933009 | 8.206768 | 51.755826 | 7.422751 | 60.954622 | |
Average Read Response Time | 0.244815 | 1.224596 | 0.262579 | 1.349571 | 0.293527 | 1.141611 | |
Average Write Response Time | 0.238327 | 1.177968 | 0.256204 | 1.282097 | 0.284175 | 1.104272 | |
Maximum Read Response Time | 11.851029 | 17.555212 | 46.95677 | 54.823286 | 43.233803 | 48.061698 | |
Maximum Write Response Time | 2.299928 | 17.893771 | 8.301601 | 55.4138 | 6.293818 | 51.212252 |
以上のように、335は、インテル製SSDの中でメインストリームモデルに位置付けられているにもかかわらず、上位モデルの520に匹敵する性能が実現されており、性能面で非常に優れる製品と言っていいだろう。ランダムアクセス性能に若干の差があることと、520の5年保証に対し335は3年保証となっていることを考えると、製品としてのランク付けは当然520の方が上だ。とはいえ、ベンチマークテストの結果を見る限りでは、通常利用の範囲内で520と335の動作に体感差はほとんど感じられないだろう。
しかも、まだ発売直後ではあるが、実売価格は15,000円前後と、登場直後ながら既にかなり安価となっており、コストパフォーマンスにも優れる。惜しむらくは、まだ容量240GBモデルしか用意されていないことだが、これも今後の製品展開で解消されるだろう。以上から、335はSSDの定番モデルとして大いにおすすめできる製品と言える。
(2012年 11月 9日)